7-95-101 イズチヨ(白衣)
篠岡はケータイ片手に少し不安になっていた。泉と連絡がつかない。
学生で賑わう昼休みのキャンパスをのろのろ歩く。
午後の講義が休講になったので、篠岡は思いつきで泉が通う理系キャンパスに来てしまった。
不意打ちで驚かそうと悪戯心半分、泉の部活以外の大学生活を知りたいという好奇心が半分。
部活が休みの今日、会う約束はしていない。
泉から渡されている時間割によると、三限目は泉は空き時間のはずだ。
四限目が始まるまで一緒にいて、泉の講義が終わったら泉の部屋で夕食を作ろうと
篠岡は漠然と思い描いていた。
しかし泉がつかまらないのでは元も子もない。
とりあえず泉が根城としている研究室に行ってみようと思い、
初夏の昼下がりの射るような日差しの中、篠岡は初見のキャンパスを彷徨い歩いた。
泉から電話もメールの返信もないまま、キャンパス敷地内にある校舎の案内図を頼りに
ようやく研究室棟まで辿り着いたときには、昼休みがとうに終わっていた。
入口にある部屋の案内図で場所を確認し、泉の所属する研究室のドアの前に立つ。
中から話し声が聞こえた。篠岡はほうっと安堵のため息をついてドアをノックした。
「はあい」と中から間延びした返事が聞こえて、ドアが開いた。僅かに緊張が走る。
「うおっと、オンナかよ!」
ドアから出てきたのは白衣姿の男、肌蹴た白衣の下はトランクス一枚だった。
「きゃっ・・・!」
思わず篠岡は後ずさりする。
部屋にいた白衣姿の男衆がなんだなんだとわらわらとドアに群がる。
揃いも揃って白衣の下はトランクス一枚という変態集団であった。
「!!!!」
突然の色とりどりのトランクス襲撃に、篠岡は手で顔を覆うことも忘れ、廊下の壁に手をついた。
「・・・篠岡!?」
男衆の中に泉がいた。赤いトランクスだった。
「オレんとこのゼミはヤローしかいなくてさー、最近研究室の冷房が壊れちゃって
暑くて我慢できねーって」
慌てて着衣した泉は、その男衆の好奇の目に晒されている篠岡を校舎外に連れ出し
木陰になっているベンチに今もなお混乱している篠岡を座らせた。
「実験多いし、なんかあのカッコが定着されてるっつーか、でも実験中は薬品も使うし
危ないから服着てるんだけど」
「・・・あの格好で外、出歩いてないよね?」
泉の抗弁をぴしゃりと切って篠岡は鋭く聞いた。
「ったりめーだ」
短く答えて泉もベンチに腰を下ろした。
実のところ、購買への買い出し程度は白衣の前を留めてそのまま行ってしまうのだが、
事態が急速に悪化しそうなので黙っていた。
「つーかなんでここにいんの?学校、今日あるだろ」
「午後休講になったの・・・電話もメールもしたけど、連絡ないんだもん」
「あ、ごめん。朝からロッカーの鞄の中だ、ケータイ」
「・・・わたしも突然きちゃって、ごめんなさい。あの、会いたくて・・・」
篠岡は顔を上げて、泉の瞳を覗き込んだ。
泉は衝動的に篠岡を抱きしめたくなったが、ぐっと堪えて手だけ握った。
この素直で可愛らしい彼女を独り占めしたい、という衝動が公衆の面前で湧き上がるときは
泉は決まって篠岡の手をぎゅっと握ることにしていた。
「オレ四限あるから、先、部屋行ってて。合鍵持ってるだろ?」
篠岡の手が一瞬ぐっと強張った。
「鍵もらってから使うの、今日がはじめて」
頬が赤くなり、篠岡は泉から視線を外した。
「夕飯の買い出しは一緒に行こうな」
泉は握った手を解き、篠岡の頭を撫でて立ち上がった。
「気をつけて帰れよ」
校舎に戻る泉の後ろ姿は凛としていたが、顔は耳まで赤く、見送る篠岡の頬もさらに赤く染まった。
篠岡はきょろきょろ辺りを確認し、素早く鍵を開けて泉の部屋に入った。
部屋はむんむんと蒸し暑く、泉の匂いがした。
ヴェランダに続く窓を開けると、夏の風がゆっくり入ってくる。
1Kの部屋を見渡す。相変わらず物が少なく小ざっぱりと片付いている。
机の上には参考書が開きっぱなしで飲みかけのグラスがある。
フローリングの上に直に積まれた参考書、雑誌。
ベッドは朝起きたままの姿だった。取り込んだままの洗濯物がベッドの壁際に追いやられている。
キッチンは自炊している気配がなくきれいだった。
冷蔵庫の中にはペットボトルのウーロン茶と缶ビールが5本、マヨネーズ等の調味料のみ。
喉の渇きを覚え、少し迷って缶ビールを手に取った。
篠岡はベッドに腰を下ろすと、ぷしっと缶ビールを開けて、飲みながら洗濯物を畳みはじめた。
タオル、下着、靴下、野球の練習着・・・全部一緒に洗っていたらちょっといやだな、と思い
ふと手を止めた。白衣が出てきた。
ハンガーに吊るしてみる。先ほどの泉の白衣姿を思い出す。
白衣の肌蹴た隙間から見えた、厚い胸板と見事に割れている腹筋。割れ目をつたう汗。
白衣と相俟って背徳的な独特の色気があった。
篠岡の下半身が疼く。
ハンガーから白衣を取り、そっと胸に抱いてベッドに横になる。
白衣からは薬品の匂いはせず、洗剤のいい香りと泉の匂いが鼻腔をくすぐった。
中心が熱く湿ってきて、篠岡はそこに右手を伸ばそうとしたが途中で止めた。
「・・・早く帰ってこないかなあ・・・」
ビールの酔いもあってか、篠岡は目を閉じると静かに寝息を立てはじめた。
「ただいま」
玄関から声が聞こえた。
篠岡が目を覚ますと、風にそよぐレースのカーテンから強烈な西日が射していた。
泉は鞄を椅子の上に置き、ベッドに横たわる篠岡を見下ろし、眩しそうに目を細めた。
「あ、おかえりなさい」
むくっと篠岡は身を起した。頭がぼうっとして、寝汗をたくさん掻いていた。
「すげー汗だな。ビール飲んだんだ」
泉は床に置かれた空の缶を手に取った。
「冷房つけなかったのか」
缶を机の上に置き、ベッドに腰掛け、汗で額に張り付いた篠岡の前髪を掬い上げた。
「洗濯物畳んでて、そのまま寝ちゃったみたい」
「オレの白衣を抱き枕にして?」
篠岡が目を落とすと傍らには皺くちゃの白衣があった。
「あ、これは・・・」
篠岡が慌てて言いかけた途端、泉はTシャツとジーパンを手早く脱ぎ捨てた。
トランクス一枚で篠岡を胸に抱き寄せ、ベッドにごろんと横になった。
篠岡の下腹部に泉の硬いモノが当たる。
「なあ。なんかソーゾーした?」
「・・・」
泉は意地悪そうな笑みを浮かべて耳元で囁いた。
びくんと篠岡が反応した。
「・・・なんか、昼間見たとき、お医者さんに見えた」
一呼吸おいて泉が吹き出した。
「下、ハダカだったぜ」
泉は篠岡のうなじに唇を落とした。背筋にぴりっと快感が走った。
「うん、変態医師」
泉はひとしきり笑ったあとで、優しく聞いた。
「で、思い出して、ひとりでやった?」
「・・・してないよ。・・・待ってた」
その答えに泉の体中の血が一点に集まり、ますます硬さを増した。
泉は立ち上がって、皺くちゃの白衣を羽織り、トランクスも脱ぎ捨てた。
篠岡に覆い被さり、右手で篠岡が既にたっぷり濡れているのを確かめた。
「じゃ、診察してやるよ」
とニッと笑い、そのまま深く口付けた。
舌がお互いの口腔を激しく弄り合った。
篠岡は泉から与えられるまま快楽に溺れ、それに負けじと応えるのに夢中で
泉の舌が篠岡の口を離れたときにはじめて、篠岡はすっかり服も下着も脱がされていた
ことに気付いた。
泉は舌で篠岡の唇を丁寧になぞり、そのまま陸続きと言わんばかりに顎、首、鎖骨にまで
舌を這わせた。
泉の舌は篠岡の右の丘の頂に達し、緩急つけて舐め上げた。
泉の左手は篠岡の左の丘を揉みしだき、中指と薬指の第二関節でその頂を捏ねまわした。
泉の右手は篠岡の中心にあり、親指の腹でぬるぬると粒の肥大化を誘い、中指で柔らかく
篠岡の中を掻きまぜた。ぎゅうぎゅうと泉の指を締め付け、篠岡が敏感に応える。
押し寄せる幾度の快感に、篠岡は背中を仰け反らせ、立てた両膝をがくがく震わせ、
直ぐにでも手放したい理性に必死にしがみついた。
篠岡は泉自身を両手で包み込んだ。
泉の動きが止まった隙を突いて身を起し、泉をゆっくり押し倒し、それを口に咥えた。
白衣姿の泉を西日が照らしている。
吐息が漏れ、顔を歪ませている色っぽい泉を上目遣いに見やり、篠岡は満足した。
どくどくと泉のモノが波打ち、口の中で蠢く。
迸る先走りを丁寧に舌で舐め押さえたところで、篠岡は口を離した。
「・・・ねえ、つけていい?」
泉は少し驚いて目を見開き、篠岡をじっと見つめた。
仰向けのままベットの敷布団の下から小さな袋を取り出し篠岡に手渡した。
篠岡はピっと袋を破き、こんな感じだったかなと泉に装着した。
そして躊躇なく、泉に腰を沈めた。
篠岡は深く深くゆっくり腰を落とす。
最奥まで到達して小刻みに腰を動かす。激しく打ち付ける。
そして、そろそろと腰を浮かして亀頭のところで止めては、また深くゆっくり貫く。
繰り返し、繰り返し。
泉は下から篠岡の顔を仰ぎ見る。
喘いでいる。髪が汗で首筋に張り付き、形のよい双丘が上下に揺れる。
ただただ快楽に身を委ね、翻弄される篠岡は鬼気迫る美しさがあった。
迫りくる抗えない波にどっぷり呑まれ、動きが加速し、双方いよいよ耐え難くなったとき
泉は呻いた。
「名前、呼んで・・・千代」
「・・・孝介、わ、わたし、もう」
泉は両手で篠岡の腰をがしっと押さえて、篠岡の最奥へとねじ込んだ。
篠岡は仰け反り、体を駆け抜けた余韻を噛み締め、泉の胸へと崩れた。
汗で揉みくちゃになった白衣とシーツを洗濯機の中に放り込み、篠岡はバスタブに身を沈めた。
先に湯に浸かっていた泉が目を開けた。
「今日、激しかったな」
泉はバスタブに頬杖をついて、にやっと笑った。
「そういうこと言わないでって、いつも言ってるでしょう!」
篠岡は茹蛸のように真っ赤になった。
「なに、あれ、白衣効果?」
「・・・」
「上に乗られるの、はじめてだよなあ」
「・・・」
「これからもいろいろな体位、試していいか?」
「もう、出る!!」
篠岡が怒り心頭といった面持ちで立ち上がろうとした。
泉は咄嗟に篠岡の手首を掴み、体を自分の胸元に手繰り寄せた。
湯が盛大にこぼれた。
「おい、こら、ユニットなんだから気をつけろよ」
「後で拭いておきます!」
篠岡は泉に背を向けた。泉は後ろから篠岡を抱きしめた。両脚で体を挟む。
「わりいわりい、からかい過ぎた」
篠岡は肩を竦めて、背を向けたまま泉に聞いた。
「・・・なんで、名前で呼んでくれないの?」
「は?さっき呼んだぜ」
「・・・ああいうときしか言ってくれないもん」
「なんつーか、篠岡呼びに慣れちゃったんだよな。いきなり変えらんねえんだよ」
ふふっと篠岡が笑った。水面が揺れた。
「わたしも意識しないと泉くんって言っちゃう」
「だろー?まあ、自然と呼べるようになるよ、いつか」
篠岡は顔だけ泉に向けた。
「そういえば、診察結果は?」
「あー、異常なし。あ、うそ、異常あった。篠岡の体、異常な反応示してたぜ」
「今度こそ、お風呂出る!!」
(終わる)
最終更新:2008年01月30日 22:49