7-126-128 タジチヨ 阿部の誕生日を祝う・タジチヨ
「今日阿部くんの誕生日なんだよ。知ってた?」
いつもの昼休み。田島と一緒に弁当を食べていた千代がそう言うと、
田島は食べかけのおにぎりを持ったまま、ぴたりと動きを止めた。
「やっべ、忘れてた。つーか知らなかった!しのーかよく知ってんな!」
「だって元マネジだもん。ねえ、田島くん、お返しはちゃんと用意したの?
誕生日に、阿部くんからもプレゼント貰ったって言ってたでしょ?」
「あー…。」
当然そんなもん用意してるはずがなかった。
だって阿部の誕生日知らなかったし。
でも阿部に貰ったプレゼント、あれは良かった。非常に世話になった…。
田島は頭を抱えて考え出す。
しばらく腕を組んだまま俯いていた田島が、パッと顔を上げて千代を見た。
「そうだよな、ちゃんとお返ししないとダメだよな。篠岡、教えてくれてサンキュ。
阿部にプレゼントすっから、放課後付き合って!」
田島がそう言ってニッと笑う。
いったい何をプレゼントするのだろうか?
田島の笑顔につられて千代も笑った。
「あーべー!!」
放課後、花井と並んで歩く阿部を見つけて、田島は駆け出した。
千代も慌ててその後を追う。
息を弾ませた田島の声に、阿部は足を止めて振り返った。
「なんだよ、もう帰んの?」
「?帰るよ。なんで?」
「いや、お前誕生日じゃん?だからさ。」
田島が横目でチラリと、阿部の隣に立つ花井を見た。
「プレゼントをさ、でも、うーん、花井は違うんだけどなぁ。」
ブツブツと独り言のように喋り続ける田島を、3人が不思議そうに見つめる。
「いいや!花井の次の誕生日もついでに祝ってやるよ!」
「「「はああ?」」」
ワケがわからないと言った表情の3人を無視して、田島が阿部に向き直る。
「一瞬だからな!」
「だから、何が…、」
阿部が言い終わるのを待たずに、田島の手が千代のスカートを豪快に捲り上げた。
すらりと伸びた真っ白な太腿の付け根に、淡いブルーのショーツ。
ローライズなそれの上は、さらに白い平らな腹。
「阿部、誕生日おめでとー!」
一瞬。確かに一瞬だった。
「阿部から貰ったDVD、かなり良かったからな。お返しだ!
でもアレだぞ、篠岡はオレんだからな。抜くのはゲンミツに1回までな!」
呆然として固まる阿部。
いち早く空気を読んで蒼褪める花井。
赤い顔のまま声もない千代。
満足げな田島。
静寂、そして。
「田島くん!!!!」
ビンタを喰らった田島が、千代に引きずられて退場していくのを、阿部と花井はいつまでも見つめていた。
「なに、あれ…。」
先に口を開いたのは花井だった。
阿部はまだ、田島達のいた方を見つめたままでぼそりと呟く。
「田島の誕生日にやったプレゼントのお返し…らしい。」
「はぁ?何やったんだよ?」
「エロDVD…。」
…来年は彼女に祝ってもらえるといいな、と呟いた花井に、お前もな、と阿部は返し、
2人は自転車置き場へ向かった。
背後から小さく聞こえる田島の、ごめんなさいの声は聞かなかったことにして。
終わり。
全くお祝いにならなかった。
最終更新:2008年01月30日 22:52