7-143-152 リオチヨ


【From】仲沢利央
【Sub】今日のお昼は
【本文】学食でハンバーグ定食を食べたよ
    弁当は2時間目終わって平らげた
って早弁はいつものことか
千代は今日昼なに食べたの?
午後は生物と数学 今からもう眠い
千代の夢を見たいな

「なんかさあ、篠岡って見るたびケータイいじってんだけど、気のせい?」
「野暮だな、水谷。仲沢だろ?たぶん」
「阿部もそう思う?花井は?」
「遠距離・・・みたいなもんだから、まあマメになるわな、男は」


【From】篠岡千代
【Sub】わたしはパンだよ
【本文】クリームパンとポテトサンド
    って寝ちゃだめだよ!起きて!
    これから美術室に移動だよー
    ジャージに着替えて、エプロンつけて油絵です
    午後も頑張ろうね!

「おい利央、古典のノート貸して、っておまえまたメールかよ」
「・・・エプロン姿、かわいいんだろうなあ」
「おい!利央!古典のノート!」
「あ、迅。いい夢見れそう、若妻の千代・・・」
「・・・だめだこりゃ」


利央からのメールは毎日5件届く。
モーニングコール、昼休み、部活前、帰宅後、おやすみメール。
何か特別なことが学校であるとさらに増えるし、帰宅後に電話で話すことも多い。
利央からのメールに千代は必ず返信する。急いでいて短い文になってしまっても。
利央のメールは毎度思わず赤面してしまうような文面で、千代は面喰いながらも、
照れながらも、精一杯の想いを込めて返信する。

写メールのときは千代も写メールで返すようにしている。
利央からクラスメイトの写メを送ってほしい、というメールが届いたことがあった。
水谷と阿部と花井と4人で撮った写メがあることを思い出し、それを送ったらすぐに電話がかかってきて
男と撮った写真は送るな、男と一緒に写真撮るな、と一方的にまくし立てられ少し口論になり、
お互い落ち込んで、反省して、仲直りしたということがあった。

ふたりは会えなくとも『恋愛』の然るべき順序と醍醐味を少しずつ知り、楽しんでいた。


145 名前:リオチヨ[sage] 投稿日:2007/12/21(金) 20:43:09 ID:f9+9UYQV
図書館のデートの日から、付き合ってから2ヶ月が経った。
お互い次に会えるのは期末考査の試験週間と考えていたが、今回は試験日程が合わず会えなかった。

「クリスマスとお正月は一緒に過ごしたいなぁ」
「わたしもクリスマスはケーキ作るから、利央くんに食べてもらいたいな」
千代は自室の窓を開けた。凍てつく外気が鋭く部屋に切り込んでくる。
12月の晴れた夜空の遠くに冬の大三角形が瞬く。
息を吸い込む。肺が冷たくてきれいな空気でいっぱいになる。吐息は白い。
だが電話越しの利央の甘い声で、受話器を当てている右耳はじんじんと熱い。

「こっちは24日、部活休みなんだ。監督が家族サービスするらしいよ」
「え?あの監督さんが?」
夏大で見た眼光鋭い桐青の監督を千代は思い出した。
「監督、小さいお子さんのためにサンタクロースの格好をするってウワサがあってさ」
電話の向こう側で利央は堪らず吹き出している。
「練習や試合でお家にいない時間が多いから、その分張り切ってらっしゃるのかもね」
千代は雷親父風サンタクロース想像しようとするが、どうしてもナマハゲになってしまう。
風呂上りの体が湯冷めするのを感じて、千代は窓を静かに閉めた。
濡れた髪が氷のように冷えている。

「わたしも部活、休みだよ」
「え!?ホントに!!?」
「うん。みんな三橋くんのお家でパーティーするって騒いでたよ」
西浦の面々は練習の休憩中に買出しなどの予定を楽しそうに立てていた。
「・・・ねえ、千代もソレ誘われた?」
「ううん、誘われてないよ」

半分真実で、半分嘘だった。
皆が予定を立てているときに、千代は田島に声を掛けられた。
「なー!しのーかもクリスマス一緒に、もがっ!ふがっ!」
慌てて泉が田島の口を塞いで、栄口から
「し、篠岡、何でもないから、気にしないで!」
と早口で言われた。
他の部員たちは雑談を続けていたが、意識は千代の方にぐっと集まった。
利央のことで気を遣われていることを千代は察知し、申し訳ない気持ちになり、
何も言わず、曖昧な笑みだけを返した。


「よかった・・・あの、クリスマスさ、またオレんち来ない?」
千代の回想が止まった。
「あのさ、クリスマス、ウチの両親はホテルのディナー予約してて、兄ちゃんも部活で帰ってこないから」

一拍おいて、
「誰も家にいないんだよ」
と利央は言った。緊張して声が少し上擦ってしまった。
「夜に近くの教会でクリスマス礼拝があるから、一緒に行こう」
千代の脳裏に、利央の胸元で鈍く光る十字架がふと浮かんだ。
千代の反応がなかったので、利央はにわかに不安になり
「・・・ダメ、かな?」
と低い声で呟いた。
「え、あ、もちろん大丈夫!・・・楽しみ。 待ちきれないよ・・・」
千代は続けて囁いた。
「・・・早く、会いたい」

電話を切った後、利央は自室の窓を開けた。血が上った頭と火照った体を冷やすために。
自分に早く会いたい、と言った千代の声はとても切実なものだった。今でも耳に残る。
あの日見た、十分潤って艶やかな千代の口元が利央の頭を離れない。
胸に抱いた華奢な千代の感触はおぼろげで、日毎遠くなりつつある。
見上げた夜空高くに、オリオンが堂々と胸を張っていた。


クリスマス・イヴ当日。

改札から出てきた千代を挨拶もなくさらうように利央は強く抱きしめた。

ネクタイを締めジャケットを着た186cmの利央と千鳥格子のワンピースを着た154cmの
千代。
高校生なりに精一杯のおしゃれをしたふたりの抱擁に、駅を行き交う人々は思わず目を惹かれた。
32cmの身長差というのは、利央の力強い抱擁で千代の足が地面を離れる程であった。

千代は人目の恥ずかしさと胸に顔を埋めた息苦しさとで、利央の中でもがいた。
やっと開放されたと思ったら、利央に唇を奪われていた。
迫るようなキス。
舌まで吸われそうになったところで千代は利央の胸を押しのけた。
囃し立てられるような口笛を耳の端で捉えた千代は、恥ずかしさで失神しそうになった。
「会いたかった」
お構いなしに利央は畳み掛ける。
戸惑いつつも、利央の真摯な眼差しに千代はぐっと胸が詰まり、
「わたしも」
利央の手を優しく握った。


利央は自室に入るなり、身に着けている服をぽんぽんと脱ぎ捨てていった。
ボクサーパンツ一枚になったところで、唖然と立ちすくむ千代の手から
コートとバッグと、千代が自信作と言っていた手作りケーキの箱を取り椅子の上に置き、
千代の両肩を掴み、屈んで額にキスをひとつ落とした。
「て、展開が、速い、よ」
やっとの思いで千代は口を開いた。
「そう? だって、オレ我慢できないもん。もう言葉とか、もどかしいし」
屈んだまま、千代の潤んだ瞳を利央は覗き込んだ。
千代の瞳に自分しか映っていないことに、利央は心から満足した。

千代は頬を赤らめ、目を伏せ、利央の首からかかるクロスに目をとめた。
「あ、ばあちゃん、ちょっとごめん」
クロスを首から外し、軽くキスをして、机の上の陶器製のオルゴールケースの中に閉まった。
オルゴールの澄んだ柔らかい音が短く鳴る。
(あれ、これクリスマスの・・・なんだっけ?)
そのオルゴールの曲の題名を千代は思い出そうとしたが、利央に抱きかかえられて思考が途絶えた。
そのまま利央は千代をベッドに優しく横たえ、上から覆いかぶさった。


利央からくすぐるようなキスの雨が髪、顔、首、胸元に落とされる。
千代はぎゅうっと目を瞑り、利央の手が背中に回ってワンピースのチャックが下ろされるのを
身を硬くして待つ。やがて、するっとワンピースが足から抜き取られた。
「・・・ああ、きれい」
キャミソール姿の千代を上から見下ろして、利央は思わず感嘆の声を漏らした。
千代は堪らず顔を両手で覆ったが、利央にそっと解かれた。
間を置かずにそのまま利央は千代の両手首をしっかり掴み、口を口で塞ぐ。
舌を入れ、たっぷり口腔をなぞり回った後、おずおずと千代の舌がそれに応えだし、
千代の手から抵抗する力が抜けたところで、千代の両手首を放した。

利央の手が千代のキャミソールの下に伸びた。ホックが手際良く外され、腕から下着が抜き取られる。
キャミソールに透けて二点が高鳴りを告げていた。
親指の腹でそっと押さえつけると
「あああ・・・ん」
千代が小さい声で喘いだ。顔は横に背けられた。
利央はキャミソールをたくし上げ、露わになった山の裾野から峰に向けて舌を這わせた。
もうひとつの山は手で包み、親指で山の尾根を撫で、人差し指で峰を捏ねた。
千代の表情を盗み見る。上気した顔で、目はとろんと僅かに開いていた。

「・・・やらしい顔してるよ」
利央は微笑んで囁くと、指を千代の中心にあてがった。
「っやだ・・・!」
千代は弾かれたように身を起し、利央の腕にしがみついた。
「・・・止めないよ」
利央は乱れた千代の後ろ髪を優しく撫ぜながら
「好きだから、止めない」
と千代の耳の背を舌でなぞった。千代の全身に甘い震えが駆け抜けた。

「全部見せて」
「え・・・?」
「あの日見た、千代のカラダ、全部見せて」
「・・・」
頬を赤くするだけで拒否も抵抗もしない千代をベッドにゆっくり押し戻した。
キャミソールを脱がし、最後の下着にも手をかけた。


千代が身をくねらせ、手で体を覆ってしまうのを利央は必死で阻止しつつ、
記憶が薄くなりかけていた千代の輪郭を目でなぞり、細部まで視覚を働かせた。
千代は利央からの熱い視線を受け、中心に溜まっていた出水がいよいよ溢れ出てくるのを感じていた。
恥ずかしい!はしたない!
一方で、
我慢できない!触って!
相反する二つの矛盾した思いに翻弄される。

臀部の谷にまで注がれた出水を、利央が人差し指で伝い、掬いあげた。
千代から嬌声が漏れた。
利央は幾度も繰り返し、中心周辺の隆起部、割れ目にまで注意深く出水で濡れた指を進めた。
千代の声がどんどん深みを帯びる。
中心を捕らえ、恐る恐る指を沈めていくと、第二関節辺りでぐっと締まり進入を拒まれた。
「痛かったら、言ってね」
人差し指で小さく円を描いた。
「んんん!」
千代が応えて更なる進入が許された。
焦らない。
指の付け根まで入ったところで、中指も足した。
焦らない。
言い聞かせるように、千代の呼吸に合わせながら利央は指を中で往復させた。
千代は眉を顰めたり口を歪ませたりすることはあっても、痛いとは言わなかった。
千代のこの表情にさえ欲をかきたてられた利央は、限界まで反り返った自身に装着した。
指の刺激に敏感に反応する頃、小さい呻き声が、次第に喘ぎ声になる。
「入るよ」
短く言って、利央は千代の中に入った。


「っつ!!!ああああ!!!」
千代の腰が沈み、下腹部に力が入った。利央の動きが止まる。
利央は再び向こうの山ふたつに手と舌を伸ばした。
千代の意識がそちらにずれて、下腹部の力がふと緩んだのを利央は見逃さず、一気に貫いた。
何かが裂ける。
声が上がる。
利央は初めて襲われる恍惚感の波に呑まれた。
めくるめく快楽に押し流されそうになり、何度も踏みとどまる。
千代の目じりから涙がこぼれる。歯を食いしばり、息も上がっている。
涙を吸い、千代の頬に優しく手をそえる。
痛いんだろうな。
初めてだもんな。
僅かに残る理性が訴える。それでも、利央は動きを止めなかった。
千代、と何度も名前を呼び、好きだ、と何度も呟いた。

利央が最後に手に入れた快感の渦は、千代への狂おしいまでの愛しさだった。


利央に案内された教会には立派なもみの木があり、昔ながらの柔らかく灯る黄色い電飾と、
たくさんのオーナメントがその光を受け、教会に集う人々に温かさを与えていた。

ふたりはエントランスで歌が載っている式次第と火が点された蝋燭を受け取り、中に入った。
冴えた月光が教会のステンドグラスをほのかに彩る。
照明は暗く落とされ、集う人々の蝋燭の小さな炎が教会内部をぼんやり照らす。
聖夜に相応しく幻想的で、荘厳な空間であった。

年季の入った木製のチャーチチェアに二人は腰を下ろした。
千代は腹部に手をそっと置いた。
「大丈夫?」
利央がその上に手を重ね、優しく聞いた。コトの後、何度も心配されている。
「大丈夫。ありがとう」
本当はずきずき痛んだが、千代は聞かれる度笑顔で返した。利央も微笑んだ。

蝋燭の弱い光を受けた利央は、やはりどことなく日本人離れした面立ちだ。
利央の場所をわきまえない無邪気で大胆な言動や、最中の甘い囁きなどは
クオーターの血のせいかもしれない、と千代は思い、今日あった様々なことを思い返して、
また頬を染めた。利央がニッと笑う。
「あ、今なに考えたのぉ、イ~ケないんだぞ、もがっ」
千代は咄嗟に利央の口を塞ぎ、もう片方の手で口に人差し指を立てた。

そのとき、パイプオルガンの音とともに、扉からちびっ子聖歌隊が歌いながら入場してきた。
『もーろびとー、こぞーりーてー』
千代の顔がほころんだ。
利央の部屋で響いたオルゴールの曲はこの歌だった。
利央は一緒になって歌いだした。
千代も式次第を開き、歌いだす。

諸人こぞりて むかえまつれ
久しく待ちにし 主は来ませり
主は来ませり 主は 主は 来ませり・・・


毎年一緒にクリスマスを祝うことができますように。

ふたりが心から祈った願いは毎年変わることなく、この場で静かに更新される。


(終わる)
最終更新:2008年01月30日 22:53