7-301-304 レンルリ

レンレンは明日、この家を出て行く。
正確には出て行く、のではなくて自分の家に帰る、になるのだけど、
中学三年間ずっとこの家はレンレンの帰るところ。
一番落ち着ける場所だと密やかに信じて疑うことのなかった私にとっては
それは裏切りに近い行為に思えた。
だけど本当は、知っていて知らない振りをずっとしていた私のほうが先に、
レンレンを裏切っていたのかもしれない。


「レンレン、起きてる?」
「ル……リ?」

ノックと一緒にドアを開けたら意味がないとわかっていたけれど、
拒絶されるのが怖くて私はわざとそういう行動に出た。
眠ってはいなかったけれど、ぼんやりと窓の外を眺めていたレンレンは
振り返ってそれは驚いた表情を見せた。
春先の深い夜。ロングキャミ一枚の私は寒そうに見えるのだろうか。
それとも首尾よく私の思い通りのことを、レンレンは思ってくれるのだろうか。

「ルリ、風邪……引くよ」
「引かないよ。だって、……あついもの」

後ろ手にドアを閉めて、私は一歩一歩レンレンとの間にある距離を詰めていく。
近付いていってるはずなのに遠く感じてしまうのはどうしてだろう。
泣き出したい気持ちを隠しながらそれでも私は歩み寄る。
多分これが、最後の夜だとわかっているから。

暑いって、ルリ。お風呂から上がったばかりなの?」
「違うよ。だけど、あついの」

窓に寄りかかるレンレンに逃げ場はもうない。
困惑する表情を浮かべて私を見つめてくるけれど、逃がしてなんかあげないんだから。
明日になったらもう、私の手の届かないところにレンレンは行ってしまうから。

「本当に、埼玉に行くの?」
「帰る、よ。もう荷物だって全部、送っただろ」
「まだ間に合うよ、レンレン」

止めちゃいなよ。埼玉の学校に進学するのも、引っ越すのも、私の傍から離れちゃうのも。
何もかも止めちゃいなよ、レンレン。
今ならまだ、間に合うから。

「私ね、凄くあついの」

レンレンの手を取る。そして静かに私の心臓の上に重ねた。

「レンレンが、……私欲しいの」


ベッドに押し倒したレンレンのパジャマ代わりのハーフパンツとトランクスを脱がせる。
戸惑いかそれとも恐怖のためか。小さく縮こまったレンレンのそれを私はそっと両手で包み込んだ。
びっくりするくらいに温かいことに驚きながらも、私は迷うことなく口に含む。

「ル……リ……。だめだよ。汚い、よ」
「お風呂入ったでしょ。レンレン。汚くなんかないよ」

レンレンに汚いところなんて、一つもないんだから。身体も、心も。

「安心して、レンレン」

指先で唇でそして舌で包み込むようにしてレンレンのものを大きくしていく。
どういう風にしたらいいのかなんて雑誌でにわかに仕入れた知識しかない。
先端を吸ってあげて裏筋に舌を這わせて袋の部分を柔らかく握ってあげる。そんなことくらい。
だけどレンレンは気持ち良いのだろう。
戸惑いの表情を浮かべながらも息が徐々に荒くなってきていることに、私は気付いた。

「る、り……」
「私がしてあげてること、気持ちいいのね」
「だめ、だよ。こんなこと」
「だめ? 気持ちいいいのに? レンレンのこと気持ちよくさせてるのは私だよ。ここでやめても、レンレン平気なの?」

どんどん私の指の中でそして口の中で大きくなっていくレンレン。
ここでやめたらつらいのは私じゃなくてレンレンなのに。そんなこと言っちゃうの。
私の全部から離れて行っちゃうくせに、勇気を振り絞った私の行動も、否定するの?

「……る、りぃ……」

レンレンの指が私の髪に触れる。
撫でてくれようとしているのか、それともどけさせようとしているのか。
力の入らない手の動きからは読み取れない。
ただわかるのは、動きを早めた私にと快楽の強さに戸惑っていること。
何も怖くなんてないんだよ。レンレン。
私が守ってあげるんだから。私が気持ちよくしてあげるんだから。
私の傍にいたら、何も怖いことなんてないんだよ。
だから離れてなんかいかないでよ。レンレン。
レンレンが思っている以上に、レンレンのことを必要としている人間がここにいるんだよ。
ねぇ。どうしてわからないの?

「出して、いいよ」

行かないでよ。

「私の中に」

傍にいてよ。

「あついの、ちょうだい」

レンレンが、大好きなの。
最終更新:2008年01月30日 23:03