7-393-409 イズチヨサカ4
「オレらのこと、好きって・・・」
栄口が沈黙を破った。
「そう。友達としてじゃなく、野球部の仲間としてでもなくて」
「男の子として、二人が好きなの。泉くんも、栄口くんも、好きなの」
「サイテーでしょ。でも仕方ないの。」
篠岡の剣幕に押され、泉と栄口は相槌も打てない。
「二人の間がすごく居心地よくて、三人で過ごす学校がすごく楽しくて」
「でも、それじゃあ満足できなくなっちゃった」
口火を切ってしまうと止まらない。
「教室で栄口くんのハダカ見たときも、触りたくなっちゃったし」
「だから、ごめんなさい・・・・・・いくら考えても、どうしたらいいのか分かんない」
話ながら、篠岡は自分の声がどんどん冷えていくのが分かった。
二人の反応が怖い。
「この発想はなかったな」
「・・・・・・うん、想定外」
「・・・・・・ソウテイガイ?」
「あのな」
一息ついて、泉は決心したように告げる。
「オレは篠岡のことが好きだ」
篠岡の目が見開かれる。
「オレも、好きだよ。篠岡」
栄口の告白も迷いは一切ない。
「て、ことは・・・・・・結果的に、みんな幸せなんじゃねえか」
泉は顎に手をやる。そういえば、と続けて、
「さっきの、教室で栄口のハダカって、なに?」
心に引っかかっていた質問をする。
「そ、それは・・・・・・」
篠岡が言いよどむ。
「練習の休憩中に教室でアンダー着替えたことがあったんだよ。そんときの事だよね?」
栄口が続けて、篠岡は黙って頷く。
何かがじりっと、泉の心を焦がした。
泉はTシャツを脱いだ。
「オレにも触りたいって思う?」
篠岡の首がかすかに縦に動いた。
「いいよ、触っても」
心なしか、泉の声が硬い。
しばらくの後、暗闇で影が動いた。
篠岡が立ち上がる。
(だめだ。わたし、抑えらんない・・・)
泉の正面に立ち、おずおずと指を泉の喉仏に添える。
指で喉仏を丸くなぞった後、そのまま鎖骨に這わせ、何度も張りを確かめた。
胸に手を置き胸筋、腹筋の弾力を感じ、手が脇腹を掠め、背中に伸ばされる。
背筋の堀を上下になぞる。
泉は篠岡の体を引き寄せる。篠岡のもう片方の腕が泉の背中に回される。
篠岡は頬を胸に当てる。泉の心臓の鼓動が聞こえる。速い音。
泉は長い睫毛を伏せる。篠岡を抱く腕に力をこめる。
栄口は暗闇にかすかに浮かぶ二人に目を凝らす。
泉は腕の中で篠岡の感触を十分に確かめた後、篠岡の肩を優しく掴み、自分の体から離した。
そして、直立不動状態の栄口の方に篠岡の背を押した。
栄口はふと我に返る。目の前に篠岡がいる。
「お、やっと顔が見れた」
篠岡の顔を両手で挟み、親指で頬に残る涙をそっと拭き取った。
柔らかい髪に指を通し、柔らかい口唇を指で感じ。
そして、少し屈んでキスをした。
「あっ」
思わず泉が声を漏らす。
栄口が口を離したあと
「・・・・・・今の、わたしの、ファーストキス」
篠岡が口を隠す。
「栄口、てんめえ・・・」
泉は低い声で唸った。
「ごめんな、泉。・・・・・・とまんない」
軽いキスを何度か落とし、舌を口唇の間に滑り込ませる。舌で歯をなぞり、
篠岡の抵抗がないことを知った栄口は、歯を割り、舌を深くねじ込んだ。
(あったかいんだな、口ン中って)
妙な感想が湧く。
篠岡の舌下を捕らえ、絡ませた。
篠岡は全身の力が抜け、その場に崩れそうになった。
栄口は篠岡の腰を支え、そのまま布団に組み敷く。
かちゃん、と戸口で音がした。
突然の物音に二人は驚き、口を離した。血の気がさあっと引く。
泉が部屋の鍵をかけた。
「え、なに・・・」
「するんだろ。セックス」
泉は二人の傍らに戻り、ジャージーを脱いでトランクス一枚になる。
篠岡と栄口は唖然として泉を見上げた。
「あのな、こうなっちゃったもんは仕方ねえんだよ。逃げんなよ」
泉はどっかり腰を下ろした。
「え?誰と誰が?」
「誰と誰、じゃねえよ。オレと、おまえと、篠岡の三人でだよ」
「だってこんなの」
「間違ってるとか、言うなよ、篠岡。じゃあ、正しいことってなんなんだよ」
「・・・・・・」
「考えても分かんねえし、誰にも聞けねえなら、気持ちに素直になるしかねえだろ」
「・・・・・・」
「これから先のことだってそうだぜ。なるようにしかならねえんだから、
だったら、今のことだけを考えるしかねえんじゃねえのか」
「栄口、おまえはどうなんだよ」
栄口はしばらく黙っていたが、立ち上がり、Tシャツとジャージーを脱いだ。
「・・・・・・まだ、消灯まで時間あるよな」
「ああ。万が一のこと考えて鍵もかけてきた」
「・・・・・・じゃあ、篠岡は?」
泉くんの言ってることは、間違ってるのかな。
でも、反論する言葉がないや。むしろ、そんなんだろうな、っていう。
好きだって気持ちを抑えるの、胸が焼けそうだったじゃない。
今度は?
好き、の先に行きたくて、今度は体が焼けそうな想いをするのかな。
だって、だって、今ももう・・・・・・
篠岡はまた、蜜が溢れ出すのを感じた。
濡れることですら、こんなに気持ちいいのに、触られたら・・・・・・。
篠岡は立ち上がり、ジャージーを脱ぎ、少しの躊躇いのあと、Tシャツに手を掛けた。
「もう、寝るつもりでいたから」
上の下着は身に着けていなかった。
篠岡は覚悟を決めた。
窓から入る明かりで篠岡の体が蒼白く光る。
胸の谷、胸の下、腿の付け根の陰影が、少女から女に変わる刹那の体を際立たせる。
泉と栄口は釘付けになった。
「んじゃ、オレはこっちの初めてをもらうぜ」
泉は篠岡の手を引き、布団の上に横たえた。
脚を開かせ、ショーツの上から筋をなぞる。
ああ、と篠岡の口から吐息が漏れる。
「・・・・・・篠岡、もう濡れてんの?」
泉の指に力がこもる。発した自分の言葉に自身が大きく膨らんできた。
「栄口のキス、で?」
吐息が大きくなり、篠岡は手で顔を覆う。
栄口は篠岡の頸を持ち上げ、胡坐を掻いている自分の片腿の上に乗せた。
顔を覆う篠岡の手を解き、上体を屈めて、深いキスの続きをはじめる。
お互いの唾液が口の中を行き来し、ずずっ、ぐちゅ、と音が漏れる。
収まり切れないものが篠岡の口端から伝い、栄口の腿まで濡らした。
口を離すと銀糸がつうっと伸び、栄口は指で絡め取った。
その粘り気を帯びる指で、篠岡の乳輪に沿って円を描く。
「ん、んあ・・・」
篠岡の頬が上気する。
(そ、そんな顔される、と)
栄口が一気に怒張した。
指を乳首に乗せる。軽く押して、指で挟む、つまむ、引っぱる。
篠岡の肩がびくん、びくんと動く。
栄口は篠岡の頸を支え、片腿を抜いて、側にあった枕を代わりに差し込んだ。
手で片方の乳房を柔らかく包み、揉みしだき、
もう片方の乳首を口に含み、舌や歯を使って出来るだけの刺激を全部与えた。
(尖がってきてんのは、かんじてるってことだよな)
どんどん嬌声が深まる。
栄口が目を移すと泉がショーツの隙間から指を忍び込ませるのが見えた。
「すげえ・・・」
どんどん溢れる蜜で泉の指の感覚が鈍る。どこを触っているのかが、いまいち分からない。
(もっと・・・ちゃんと見たいぜ)
「下着、汚れるから脱がすぜ」
両側のリボンを解き、篠岡の秘所が露になる。
部屋が暗くて見にくい。
(よし、こうなったら・・・)
泉は口を付けて蜜を吸い上げた。
(どろどろで、あちい。味はあんまねえな)
手の平で薄く茂る陰毛を押さえ、指で花弁を押し開いて、舌を蜜壷に這わす。
指が小さな突起を見つけた。
(これって・・・・・・)
その粒を舐ってみると、篠岡は一際甘い声を上げ、脚を震わせた。
舌で捏ねれば捏ねるほどどんどん柔らかくなり、大きく変化していく。
泉は篠岡の反応に心から満足した。
「いやああ・・・いずみく・・・汚いよ」
篠岡は首を左右に振るが、本気で制止することはできなかった。
上半身を栄口に預けて、下半身を泉に預ける。
泉と栄口の四つの目に、こんな卑猥な自分の姿を晒しているのかと思うと羞恥心で泣きたくなるが、
何故か背筋がぞくぞくし、鳥肌が立つ。
喘ぎたくとも、誰か来るのではないかという恐怖が胸を過ぎる。
一向に止まない、止むどころかどんどん強まっていく刺激に、どんどん敏感になり、
ただただ、蜜を溢れさせる。
(からだ、あつい・・・)
血が沸いているのではないかと思う。
心も体も何かに向かって昇りつめていく。
(ああ、もっとほしい・・・!)
頭がおかしくなりそうだ。
めくるめく快楽、限界が迫る。
篠岡は身を縮めて、何度かふるふると体を痙攣させた。
泉はトランクスを脱ぎ捨てた。
「お、おい・・・・・・」
栄口が僅かに咎める。
「だいじょうぶだよ。ちゃんと外に出すから・・・腹、いや、トイレとかで」
「篠岡。たぶん、すんげえいてえと思うけど、声、あげんな」
篠岡のぼんやり潤む目に、怯えの光が射す。
泉は篠岡の蜜壷に自身をあてがう手を、ふと止めた。
「おい、栄口。おまえ口でしてもらえよ」
「な、なに言って」
「声、出したくなったら栄口咥えながら、声出せ」
泉は栄口の言葉を切った。
「おまえも、脱げよ」
栄口は緊張した面持ちでトランクスを脱いだ。
絶頂に達した放心状態の篠岡を、泉は四つん這いにさせる。
「栄口を咬むなよ、篠岡」
泉はニッと悪戯な笑みを浮かべた。
栄口の張りが若干緩む。
「咬まないで、ね」
栄口は跪いて、自身を篠岡の口元まで恐る恐る運んだ。
「・・・・・・今は・・・オレは痛くないようにできないけど」
泉はぽつり呟いた。
「次の・・・・・・栄口のときには、きっと大丈夫だから、栄口に優しくしてもらえ、な」
泉の何気ない「次」の約束を耳にした篠岡は、黙ってこくんと頷き、睫毛を伏せて、
手で栄口の根元を持ち、そのまま呑み込んだ。
泉は二人を確認してから、一瞬の躊躇いのあと、ゆっくり挿入した。
「うっ、あ・・・」
栄口は堪らず声を上げた。
篠岡の口の中は熱くて、ぬかるんでいた。舌や口の内壁がまとわりつく。
吸われるたびに、今まで味わったことのない快感が体を劈く。
篠岡が苦しそうに口の中で何か叫ぶと、刺激が止んだ。
(い、いやだ!・・・離れないで!)
栄口は篠岡の頭を押さえて、ぐっと引き寄せた。栄口がさらに奥に入る。
篠岡は鼻で息を整えながら、がむしゃらに上下左右に顔と舌を動かした。
「うあああああ・・・」
栄口は迫りくる絶頂の渦に、まだ巻き込まれまいと、必死に抵抗する。
(焦んな!)
泉は少しずつ挿入を深める。
泉の進入を拒むように、篠岡はぎゅうぎゅうと締め付ける。
「くっ・・・・・きつ・・・・・・」
締め付ける割には、壁の襞はもっともっとと誘うように吸い付く。
(そ、そういや、指いれんの、忘れたか、も)
篠岡の尻が下がりそうになり、泉は両手で抱え込む。
(ま、あ、いいか、こんなに濡れてるし、もう、はいっちまってるし)
泉の篠岡を支える手に力が入り、その最奥に到達する。
篠岡の腰がびくんと動き、白い尻が上に跳ねた。
(やべ、オレ、まだ中で動いてねえのに・・・・・・)
泉もまた、襲い掛かる絶頂への甘い痺れと、必死に戦っていた。
「ぐっ・・・・ぷ」
栄口を咥えつつも、篠岡の口から声が漏れる。
(いたいいたいいたいいたい、いたいよお!!!!!)
泉が切り開き、張り付いていた肉が裂けていく。
(こわい!くるしい!)
目じりに涙が浮かび、鼻水が出てくる。
口から涎が伝うのも分かる。
体の至るところから体液が迸るのを感じる。
そして生々しい、いやらしい音がする。
(全部、わたしの体が、立てる音だ)
(あ、もう、だめ)
篠岡の体が崩れかけたとき。
「う・・・オレ、もう・・・!」
泉が篠岡から勢いよく引き抜き、部屋を飛び出して行った。
「ん、・・・・・・いくっ」
栄口は腹を突き出し、篠岡の口内に全てをぶちまけた。
(!なにこれ!!!まずい!!!)
篠岡も口を押さえ、部屋を飛び出して行った。
果てた栄口がその場に手を着く。がくがくと膝が震えている。
はあ、と大きく深呼吸をしてなんとか立ち上がり、二人を追いかけ、戸口脇の小部屋に入る。
そこは浴室だった。ユニットバスになっていた。
洗面台の水がじゃあじゃあと流れていて、ゲホゲホと篠岡がむせている。
泉が篠岡の背中をさすっていた。
「ごめん、オレ、我慢できなくて・・・」
栄口が後ろから篠岡の髪の毛に顔を埋める。
「泉、おまえは・・・?」
泉は黙って便器を指差した。
二人の精液は既に流されていたが、浴室内に少し匂いがこもっていた。
「だいじょうぶか、篠岡?」
栄口が声を掛けるが、篠岡は俯き、顔を上げない。
泉はぽんと栄口の肩を叩き、浴室から出て行く。
栄口も部屋に戻る。泉が部屋の電気をつけた。
光に目が眩む。
蛍光灯の下に晒された褥が生々しく見えた。
幸いにも、ひどい乱れがあったのは篠岡の布団だけだった。
二人は脱いだ服を身に着け、シーツの皺を伸ばし、枕を戻し、掛け布団を敷いた。
「部屋に戻ろうぜ」
「え、でも篠岡が・・・」
「少しひとりにしておいたほうがいいんじゃねえのか」
「・・・・・・」
「あいつらが帰ってくるかも」
「本来なら」
栄口が口を挟む。
「本来なら、たくさん篠岡の話を聞いてあげて、オレらの話もしなくちゃいけないんだろうけど」
「・・・・・・ああ、そうだな」
泉が頷いた。
浴室に行くと、二人に背をむけるようにして、篠岡はバスタブの縁に裸のまま腰を掛けていた。
髪が乱れていた。俯いてじっと浴槽の壁を見ている。
その横顔からはなんの表情も読み取れなかった。
「篠岡、とりあえずここで風呂入れ、な」
「・・・・・・」
「ここ、匂いがまだ少しあっから、髪も、身体も石鹸でよく洗って、匂い取って」
「・・・・・・」
「布団も気になったらシーツやカバーも交換しとけ」
「・・・・・・」
泉の言葉に、篠岡は微動だにしない。
「なあ、篠岡。今は時間取れないから、別の日にゆっくり話そう。三人で」
栄口が優しく声を掛ける。
篠岡の顔が少し上がる。その目に涙が溢れた。
「嫌いにならないで・・・おねがい」
声が掠れる。
後ろから泉が篠岡をそっと抱いた。
「ばあか。いまさらなんだよ」
横から栄口も頬にキスをした。
「泉がもう一回とか言わないうちに、オレら戻るから」
「んだと、コラ」
篠岡はやっといつもの笑顔を見せた。
三人の新しい時間が今、動きだした。
(終わる)
最終更新:2008年02月10日 23:45