7-421-438 イヌノメ(ミズチヨ)

篠岡の目は、わんこみたいだ。
黒目がちでうるうるしてて。

「ごちそうさまでしたっ。じゃ、行ってきまーす!」
「千代、アンタまだグラウンドの草刈ってんの? しばらく大会ないんじゃないの野球部って」
クラスメイトの声に篠岡はお弁当箱を手早く片付けながら答える。
「秋の大会もあるんだよっ。それに昨日雨だったからまたグラウンドが原っぱになっちゃうもん。
ちゃんときれいにしとかなきゃ。じゃあねー」
机も何もさっと元の位置に戻したかと思えばもう次の瞬間には教室を後にしてる。
朝の身支度がシャワー入れて30分って前に聞いて驚いたけどありゃ本当だな。

「なあ野球部さあ」
オレ達が弁当箱を広げる近くにいた、そんなに頻繁に話すわけでもないヤツが話しかけてきた。
「野球部ってマネジがあそこまですんの当たり前なの?」
「あそこまでって、何」
言葉のトゲを感じたのか、花井が無愛想に聞き返した。
「だってあれだろ、お前らと同じ時間に朝練来て色々準備して昼はグラウンド整備で
放課後はまたお前らと同じくらいの時間まで残ってんだろ?
なんか部活ってよりは奉仕活動っぽくね?」
「オレ達が練習以外のところでやらなきゃいけないことを減らすのもマネジの仕事だ。
篠岡が自分でそう言ってるし、オレ達が見てて無茶なことなら絶対やらせない」
阿部がきっぱり言い切った後こっちを見る。
「なあ、そうだよな水谷」
あ、このヤロウこっちにまで話振りやがった。一蓮托生かよ。まあいいけどね。

「そうだよー」
ちょっとへらっとそいつに笑ってみせる。
「篠岡がいてくれるからおいしいオムスビ食えるし、練習にもやる気が出るってもんで。
雰囲気も柔らかくなるしな」
「柔らかく、って監督だってオンナだろ」
「カントク……モモカンなあ……」
「ありゃ逆に女扱いする方がダメだろう」
「てめえらっ」
やべ、花井に睨まれた。オレより阿部の方が割とひどいこと言ってんのにー。

「とにかく篠岡は好きでやってんだよ。出てく前の顔見たろ?すっげえやる気満々だぜ。
ありゃ止めたらお預け喰らった犬みたいになっちゃうよ」
オレの言葉に花井と阿部がうなずく。
「それに女子だけど篠岡はうちの部員で仲間だから。
仕事にハンデ付けたらそれは逆に篠岡に失礼だ。そこはオレらだってちゃんと踏まえた上でやってんだ。
阿部もさっき言ってたけど無茶なら最初からやらせないし仕事の分担くらいするよ」
はーっ、とヤツがため息をついた。
「野球部のガード固いって本当な」
「「「どういう意味だ?」」」
奇しくもオレ達3人の声が揃う。

どうやら篠岡はうちの学年だけじゃなく上級生にも人気があるらしい。
まあそりゃ篠岡かわいいから当たり前なんだけど、どうもソイツは部の先輩から
それとなく彼氏がいるかどうか探りを入れるべく偵察役を頼まれたらしく。

「空いてそうな時間に話しかけたりしてみたいらしいんだけど、
部活の仕事真っ最中だったり部員と一緒にいたりでなかなか近づけないから、ってさ」
別にみんな特別示し合わせて篠岡をガードしてたわけじゃないし、
篠岡の仕事熱心さがそういう風に見られたんだろうな。
「とりあえず彼氏がいるとかは聞かないなあ」
「彼氏作るより野球のこと考えてる方が今は楽しいんじゃないか?
アイツの取ってきたデータ、すげえ緻密だったよなあ花井」
「おう、カントクもオレ達もびっくりしたぞあれは」

「ま、そゆことでオレ達に聞いてもどうしようもないねー。
多分誰にもそういう風になるつもりないと思うよー?」
オレはのほほんと、ソイツ経由で誰かもわからない先輩とやらに釘を刺してみた。

弁当を食べ終えて、まだ大分時間があったのでグラウンドに行ってみた。
でっかい麦藁帽子が低い位置で校庭の緑とアッシュブラウンの狭間でちんまり揺れている。

「篠岡ー」
声をかけてみると大きな麦藁帽子の下から小さな篠岡が立ち上がった。
「あれ水谷君、どうしたの」
「ん、まあ、なんとなく、ね。休憩中?」
「うん、思ったより草生えてなかったよ」
オレは購買の自販機で買った2つある紙パック飲料の片方を篠岡に投げた。ナイスキャッチ篠岡。
「暑いだろうし、良かったら飲んでよ」
「うわあありがとう、あとでお金払うね」
「や、おごりでいいってこれくらい。いつもがんばってもらってるんだし」
「それはダメ。それに私、自分の仕事してるだけだもん」
篠岡がぷーっと頬を膨らませた。

ほら、な。篠岡はこういうヤツなんだよ。自分でプレイしてなくたって、オレ達に負けないくらい野球が好きで、
そのためにがんばることを誰かのせいにもしないし負担に思ったりもしない。
それがわかんないやつらは、篠岡の長所が1つわかんないってことだからカワイソーだよな。

「じゃ、いっただっきまーす」
ストローを紙パックに挿し、中身を飲み込んだ篠岡の喉がわずかに動いた。
オレはなぜだかわからないけど、唾をごくりと飲み込んだ。
「ひゃー、冷たくておいしー!」
黒目がちの目が喜びに輝く。

「篠岡、かわいいなー。アイちゃんみてー」
カントクの愛犬の名を聞いて、一瞬怪訝そうな顔をする篠岡。
「えーっと、それは喜んでいいの、かな?」
あれ、オレなんかまずいたとえしたっけっか。
「や、なんか好きなことに一生懸命っつーか、ちっちゃいけどよく動くなーとか、その」
しどろもどろになっていると、急に篠岡が笑い出した。
「あはは、水谷君ってばキョドキョドしちゃって、おっかしー」
「あ、チックショー笑ったなー。うー、篠岡、ちょっとその場で回ってみて」
「え?こう?」
「はい、篠岡がターケコープター」
笑いながら校庭に移る影を指差すと、動きを止めた篠岡も影を見てまた笑い出した。
「やだー、本当にタケコプターみたいー!ドラ○もーん!」

2人してそんなくだらないことで笑っているうちに予鈴が鳴った。
「やっべ篠岡、急げ!」
篠岡が部室に麦藁帽子を置いて鍵を閉めるのを確認して、俺は篠岡と一緒に校舎へ走っていった。

「しのーか、おっせーなー」
田島がむーっとした顔で言う。午後練が始まってしばらく経ってて、まだ篠岡はグラウンドにいない。
確かにいつもの時間よりは少々遅い気はする。
「数学準備室で他の先生にとっつかまって世間話してんじゃないの?」
「や、したら適当なところでシガポが止めるだろ」
「クラスで何か呼ばれてるとかじゃないんだよねえ?」
「いや、オレ達が教室出る前にもうとっくに出てったぜ」
沖の推測を栄口が否定し、西広の疑問をオレが否定する。

「いつも時間通り来るから、心配は心配よねえ。……水谷君」
「はいっ?」
いきなりモモカンに呼ばれてオレはなぜかビクッとしながら帽子をかぶり直し、
モモカンの前で気をつけをした。
「悪いんだけどちょっと千代ちゃん迎えに行って。
みんな、しばらく内野特守ねー、花井君泉君西広君はランナー役。はいGO!」
モモカンの号令で、みんな即座に走って各々の位置に付く。

オレは不承不承っぽくグローブをベンチに置いて、篠岡が通りそうなコースを辿ってみる。
他の部活が次々に練習を上がっていくのを横目で見ながら歩いていくと、
特別教室棟と校舎の間の辺りからなんか声が聞こえてきた。

「……なので、私そういうのは困るんです」
篠岡の声だ。
「何も今すぐ付き合ってっていってるわけじゃなくてさー、
時々どこか遊びに行くとかー、たまに部活サボって一緒に帰ろうとか
そういうのをやってみてオレのことどうなのか決めてっていってるじゃん」
「部活をサボるのはやですし、いきなりどうとか言われても」
声がする方へ歩みを進めると、篠岡の背中とその前にいるのは顔を見かけたことのある2年の男子。
「そういう硬い事言うなって、なー。オレだって無理しろって言ってるわけじゃないんだし」
しつこいなあこの人。篠岡困ってるじゃん。かわいそうに。

なんだか手にすごく汗をかいてきたような気がする。
1回深呼吸して2人の方に近づいていった。
「篠岡ー」
「水谷君!」
オレの声を聞いて弾かれたように振り向いた篠岡は泣きそうな顔をしていた。
2年がチッと大きく舌打ちをした。

「あー、ミズタニくんとかいう人さあ、先輩が話し中だからちょっと気ぃ遣おうよ」
「あーすんません、うちのマネジが遅刻してるもんでカントクがご立腹でぇー」
いつもの倍以上へらへらした顔でその2年に頭を下げる。
「うちのカントク怒らせるとおっかないんすよー。
あ、先輩がオレの代わりに頭握られてくれんだったらもうちょっと待ちますけど。
アレすんげえ痛いんすよねー、甘夏素手で潰す握力ですからなんてったって」
「……チッ。もういいや。じゃあね、篠岡さんバイバイ」
バイバイ、のところにいやなアクセントをつけて2年は去って行った。

篠岡がふわぁー、とため息をついてうつむいた。
「ごめんねえ水谷君、私が遅いせいで迷惑かけてカントクまで怒らせて」
「や、心配はしてるけど怒ってないよカントク。オレがちょっとオーバーに言っただけ」
「よかったぁー。遅かったのはちょっと志賀先生と話してたのもあるんだけど、
あの先輩がなかなかわかってくれなくって」
もう1度ふわぁーとため息をついて篠岡は歩き出そうとしたが、
動揺からか足元が怪しくなり身体が傾ぐ。
「おっと」
オレはすかさず篠岡を支えた。よろけた篠岡の髪からふわりといいにおいがした。

「篠岡、困ったことがあったら言ってね。せっかく同じクラスで同じ部活なんだし、
なにかあったらオレだけじゃなくて花井や阿部もいるしさ」
オレがいるから、とは言えずに花井や阿部まで勝手に引き合いに出すオレ。
ああヘタレだなあオレってば。
「うん、でもこれは私がもっとちゃんと断ってれば済む話だよね。
誰と付き合うとかそんなの全然思えないんだもん。だからみんなに迷惑かけられないよ」
さらに篠岡が困った顔をする。
しょんぼり、という文字が漫画みたいに背景に浮かんでそうなほどかわいそうにうなだれて。

えーと、こういう時オレはどうしたらいいんだろう。
いつもならいくらでも出てくるはずの軽口も思いつかない。
「しのおかっ」
気がつけばオレは篠岡の両手を握っていた。

篠岡がびっくりした様子で握られた手を眺め、それから半泣きの潤んだ目でオレの眼をじっと見る。
うわ、どうしようオレ。とっさにしたこととは言え、えっと。
「篠岡、瞑想。目閉じて」

部活モードに入れオレ。
と自分に言い聞かせるみたいに篠岡に言ってオレも目をつぶる。
篠岡がオレの言葉に答えてぎゅっと手を握り返してきた。白く細い指はどれも冷えきっている。
オレは一生懸命心の中でつぶやく。
篠岡にオレの体温を分ける、篠岡にオレの体温を分ける、篠岡にオレの体温を分ける。

しばらくすると篠岡の手が少しずつ温かくなってきた。
目を開けて、もう一度篠岡の手を握る手に力を込めてから手を離す。
「よし、もう大丈夫だろ? みんな待ってるからグラウンド戻ろうよ」
目を開けた篠岡は、それでもいつもよりちょっとだけ弱々しい笑顔を浮かべた。
「うん、もう大丈夫だよ。ありがとう水谷君」

ずきん。

篠岡を助けたはずなのに、なんだかオレが何か篠岡に悪いことをしたような気になってしまう。
篠岡の笑顔がいつもの笑顔じゃなくて、目はまだ半泣きから抜け切ってなくてうるうるしてたから。

そんな目で、見ないで。

目をぎゅっとつぶって、頭を左右にぶるぶるっと振って、それからなるべく優しく篠岡に話しかける。
「今日はジャグ1個持ったげるよ。自転車、取っといで」
「ごめんね、ありがとう。ちょっと待っててね」
篠岡が自転車を取りに走るのを目で追ってから、ふと何気なく特別教室棟の窓に目をやった。
いまいちきれいじゃないガラスには、捨てられた犬みたいな目をしたオレが写っていた。

練習が終わり、着替えているうちに無意識でため息をついてたらしい。
「おー、どうしたんだよため息なんかついちゃって」
泉がひじで小突いてくる。
「ため息をつくと幸せが逃げるんだぞ。運気が下がるからやめとけ」
「にしし、水谷きっと女運下がるんだぜー、ガックーンと」
「元々ねえもんが下がるかよ。心配するなら勝負運にしとけ」
巣山の優しいアドバイスに乗っかって田島と阿部がとんでもないことを言ってくれる。
「あはははは……」
いつもならもっとむきになってるんだろうけど、なんだか力無い笑いしか出ない。

篠岡の言葉が頭の中を回る。
『誰と付き合うとか、そんなの全然無いんだもん』
そっかー、そうだよなー、篠岡が一番大好きなのは野球だもんなー。オレが入る隙間なんて……
あれ? オレなに考えてんだ?

「つかそれより明日から試験休みになるんだから、また1学期みたいに集まって勉強しねえ?」
「田島、オマエ味しめたなー。オレと西広は大変だったんだけどあれ」
「いいじゃん花井、出来るやつはオレ達に教えてくれりゃあさ、なー三橋」
「う、うん、みんな、で、勉強、また、したい、な」
「じゃあとりあえず明日の朝学活前からやるか。朝練よりは遅いから楽だろ」
阿部の提案にみんなでうなずいた。

気がついたら俺はまたあの場所にいた。
西日に照らされて、篠岡の肩で2つに結わえた髪が震えているのが見えた。
「ねえ篠岡さん、昨日のアレなんだけどさあ」
あの2年だ。こりねえ野郎だなあ。
もうこいつのせいで篠岡を困らせたりするもんか。

オレは篠岡に背後から近づいて、右手で右手を握る。
前から見ると、ちょうど腰を抱くように見えるはず。

「すいません先輩、こういうことなんで」
「水谷君!?」
篠岡があわててる。ごめんなびっくりさせて。でもオレは握った手を離さない。
唇だけで微笑を作る。
「申し訳ないですがこいつ手放す気はないんで」

手を握ったまま腕で背中を押して、篠岡を回れ右させて連れて行く。
しばらくオレも篠岡も何も言わずに歩いた。手は汗だくで、やけに喉が渇く。
人気のない校庭をグラウンドに向かって歩いていく。
たとえ人がいたとしても、もうオレの目には篠岡しか入らない。

「あっ、あのっ、水谷くんっ、また、助けてもらってごめんねっ」
ベンチ前で足を止めた篠岡がちょっと息切れしたみたいな声で言う。

ずきん。

別に助けたわけじゃない、と申し訳なさが先に立つ。だってオレは、オレは。
「えっ……?」
篠岡から手を離したオレは、そのまま後ろから篠岡を抱きしめた。
細いけど柔らかい篠岡の身体。女の子って細くてもこんなにやわらかいんだなあ。

「ごめん篠岡。いいヤツじゃないよオレ、篠岡を助けたかったんじゃないんだ」
回した手に力を込めると、篠岡の肩がびくんと震えるのがわかる。
「オレ、本当はずっとこうしたかったんだ。
先輩にも、同級生にも、部の他のやつらだって篠岡を渡したくないんだ」
耳の近くで呟くと、篠岡の髪が震えてオレの鼻先をくすぐる。いいにおい。
「篠岡のこと、ひとり占めしたいんだ。このままさらってきたい」
心臓が暴れまわるみたいに激しく脈を打つ。ゴクリ、と唾を飲み込んで続けた。

「好きだ。篠岡」

後ろから篠岡を抱きしめたまま、そこから言葉も出ず、篠岡も口を開かず、
ただ心臓の鼓動だけが相変わらず響く。オレこのまま壊れちゃうんじゃないか。
……それでもいいや。

「みず、たに、くん」
篠岡がやっと口を開いた。ちょっと声がかすれてる。
「確かに、いい人じゃないよね」
嫌われた? 身構えるオレを待っていたのは思いがけないことだった。
「ここ、当たってる」

篠岡に触られて初めて、今まで自分がガチガチになったモノを篠岡に押し付けていることに気づいた。
立ってることにさえ気づかなかったくらいテンパってたのか、オレ。
「それに、私も、水谷君が思ってるような子じゃないかもよ?」
篠岡の左手がぎこちなくオレの股間をまさぐる。ちょ、ちょっと待って?

あわててオレは篠岡から身体を離し、改めて正面から篠岡を見た。
篠岡の目は潤んでいたけど、それは困ったような犬の目じゃなかった。
「私のこと好きって言ってくれてうれしい」
今度は篠岡が俺の胸にしがみついてきた。
恐る恐る篠岡の肩に手を回すと、篠岡が上目遣いでオレをじっと見つめる。
熱を帯びた、濡れた瞳で。

「水谷君、しよ?」

篠岡の手を引いて部室に入り、鍵を閉めてすぐ篠岡に口付けた。
ついばむように篠岡の唇に何回か触れて、思い切って舌を入れる。篠岡は拒まない。
夢中で舌を絡めたり、口内を舌でなぞると篠岡の喉が鳴るのがわかる。
「はあ……」
唇を離すと、舌と舌の間に唾液が糸を引く。
その糸が切れて、オレは篠岡の頬から耳へ、首筋から鎖骨へ、唇を落としていく。

右手でカーディガンを半脱ぎにさせ、左手はキャミソールの裾から入って
篠岡の身体をさすりながら胸を目指す。
「やっ、くすぐったっ」
身をよじる篠岡を右手で逃がさないように抱き寄せて、ブラの上から篠岡の胸を触る。
布越しの感触がどんどんもどかしくなって、両手を背中に回して悪戦苦闘の末ホックを外し、
直に篠岡の胸に触れる。
手のひらで包み込み、指を動かし、やがて外から内にこねまわすようにしながら揉み、
人差し指で先端をいじると篠岡の声が1トーン跳ね上がった。
「んっ、んあ、あっ」

上を全て脱がし、左手は篠岡の乳房をいじりながらもう片方の先端を口に含む。
右手はスカートの裾をたくし上げ、下着の上からおずおずとその辺りをさする。
「あ、あっ、はぁっ」
胸の先を両方味わいつくしたあと、右手で刺激を与えながら左手でスカートを捲り上げた。
水色の下着は汗とそれ以外の体液で湿り始めている。

「篠岡、直接触るよ」
クロッチの横から指を滑り込ませる。
毛の手触りのあと、ぬるぬるした熱い液体が指に触れる。
「ひゃんっ、あっ、やっ、だ、め、はずかし、いぁぁっ」
前の方にある突起に触れるとさらに声は高く切れ切れになり、奥からどんどん愛液が湧いてくる。
それを指で汲み上げるように掬ってはますます熱く硬くなる篠岡の小さな突起にこすりつけ、
スカートを脱がせ、下着をおろした頃にはもうそこは滴る程に濡れそぼっていた。

篠岡を机に座らせる。
「足、開いて」
恥じらいながらも膝を開く篠岡の中心に顔を近づけて舐め上げる。
「ひゃああああっ」
「篠岡、きれいだよ」
割れ目に舌を入れると、膝がびくんと跳ねた。
「やっ、どうしよう、こわいよ、みずたにくん、みずたにくんっ」
見上げると篠岡はいやいやをするように首を横に振る。顔は上気して桜色。
オレはTシャツを脱いで、ベルトを緩めてジーンズもその場に脱ぎ捨てた。

「オレにも、してくれる?」
篠岡がオレの下腹部を見て、ただ頷いた。

篠岡の両手がオレのをおずおずと触る。
自分でするより握る力は弱いんだけど、それがもどかしいような逆に気持ちいいような。
「気持ち、いい?」
「うん、いいよ、篠岡」
慣れない感覚に視線を上へ逸らすと、しばらくして先端に加えられる刺激が変わった。
「うわっ!?」

篠岡が、オレの、舐めてる。
ちろりちろりと遠慮がちに舐めてから、意を決したように口の中に含んできた。
熱い。さっき触ってた篠岡のあそこと同じくらいの熱さ。
いや、身体を支えるためにオレの太腿に回した手も熱い。
多分、オレのも、オレの身体全体も、熱い。
何もかもが熱く融けてしまいそうな気がして、篠岡の口からオレのモノを抜いた。

「ふあ……」
「篠岡、もう、入れさせて」
脱ぎ捨てた自分のTシャツを机に敷いて、その上に篠岡を横たえる。
「いくよ……」
篠岡の両脚を抱え、先端で入れるべき場所を確かめてから、
蜜が溢れだす場所へ少しずつ埋めていく。
「いっ……!」
篠岡の顔が痛さで歪む。ごめん篠岡。

「痛い? ごめんね」
「だいじょぶ、でも、ゆっくり、して?」
それでも篠岡はけなげに笑いかけてくる。罪悪感と、そうじゃないものが首筋あたりから渦巻く。
オレの顔のすぐ脇に、抱え込んだ篠岡の膝がある。そこにチュッと音を立てて口付けた。
「ひゃっ」
膝が震えて篠岡が声を出すのと同時に、膣内がきゅっと締まる。
「すっげえ、いいよ」
少しずつ腰を動かし、ゆっくり出し入れを始める。

ぎゅっと目をつぶり、痛みをこらえる篠岡の瞼に、頬に、唇にキスの雨を降らせる。
唇を舌で押し開けると、篠岡も舌を絡めてきた。キスしたまま、身体をぐっと密着させる。
オレも篠岡も、身体のどこもかしこも熱くて、触れた場所から融けてっちゃいそうだ。
頭がクラクラする。ボディラインを触りながら胸を吸う。
「ふあ、あ、あ、あ、ああ、あ、あ」
篠岡の喘ぎ声が変わってきたのを聞いて、オレは腰の動きを早めた。
「あ、ああ、あ、あ……ふみ、き」
篠岡が、オレの、下の名前、呼んだ。
「しのおか、しの……ち、よ。オレ、あっ、う」
ヤベえ出る! あわてて篠岡から自分のを引き抜く。

篠岡の腹と腰の右側と太腿に、白濁したものをボタボタ垂らしてオレは肩で息をした。
篠岡の秘所を拭き、オレが垂らしたものもきれいに拭き取って
横たわる篠岡に倒れこむように抱きついた。篠岡は向こう向いてる。
ピピピピピピ、となぜか電子音がして、見ると篠岡が携帯で何か打ち込んでいた。
『文貴、ヘタクソ』


「うわあああああああああああっ!」
自分の叫び声で気がつくと、オレは自宅のベッドの上にいた。
枕元で、目覚まし時計が電子音のアラームを鳴らしている。
「あ、あれ……」
しばらく呆けていると、ドアが開く音がして姉貴が部屋に入ってきた。
「フミキうるさい。大体そんな声出してご近所に迷惑でしょ」
「ああ、わりぃ姉貴」
起き上がろうとして、なぜか身体がいう事を利かずに床に転倒した。あれ?
「なにやってんのもう。……やだ、アンタ熱いよ。熱あるでしょこれ」
おかーさーん体温計ー、と姉貴がバタバタ廊下を走り去っていった。

そういや寒い割に妙にカッカして頭はガンガンするし、パジャマは汗びっちょり。
ふとパジャマのズボンごとパンツを掴んで覗くと、中に白いものがべったり付いていた。
夢精しちゃったかー。っつーか、ありゃ夢だったのか。
そうだよなー、篠岡があんな自分から誘うとかねえよなー。都合良過ぎだよなー。

母親が持ってきた体温計は38度6分を叩き出し、オレは学校を休む羽目になった。
汗をかいたパジャマを着替え、パジャマの間に隠すように汚れたトランクスも洗濯に出して、
オレは布団に潜り込んで花井と阿部にメールを打った。
『篠岡が昨日2年に絡まれてた。気つけてあげて』
昨日の今日で他人任せなんて、なんか本当にヘタレだよなあオレ。
篠岡とどうこうどころか番犬にさえなれないのか。
「わおーん」
遠吠えみたいにつぶやいて、そのうちまた眠りに落ちていった。
今度は、何も夢は見なかった。
最終更新:2008年02月10日 23:47