7-452-456 イズチヨサカ5

応援や野次や歓声で、体育館がドッと沸く。
二階から柵越しに篠岡を見下ろす。
運動神経が元々いいんだろうな。
パス回しが上手いし、膝も良く使えている。


「なあ、おまえ後悔してる?」
泉が聞いてきた。視線は篠岡から動かさないで。

「してない」
これは嘘じゃない。
あの夜に何度戻ったとしても、オレは篠岡にキスをするだろう。

でも、オレは今のことだけじゃなくて、この先のこともどうしても考えちゃうんだよ。

なあ、泉。
おまえは自分で言ったあの約束、守れる自信、あんのか?


一週間ほど前だろうか。
期末考査の試験週間で部の練習が休みに入った初日の午後、オレらは再び体を重ねた。
今度はオレが篠岡の中に入った。

オレのベッドの上に、裸の篠岡と裸の泉がいる状況に漠然とした違和感があったけど、
篠岡の中に入ったらそんなことは忘れて、もう無我夢中で腰を振った。
篠岡の中は、口でしてもらう以上に、そしてオレが想像していた以上の何倍もよかった。

オレもあんまり優しくできなかったかな・・・・・・

篠岡は遮光カーテンを引いてほしいと恥ずかしがったが、
オレと泉はなんとなくごまかして、始めてしまった。
この前は暗くてよく見えなかったし。
でも三人とも初めてだったから、部屋が明るかったら緊張して萎えちゃって、できなかったかも。
とにかく、篠岡の裸をよく見たかったのは、泉も同じだったみたいだ。

終わったあと、篠岡にバスタオルを渡し、シャワーを浴びに行くよう勧めた。
じゃあお言葉に甘えて、と篠岡がバスタオルを身体に巻いて、制服と下着を抱えたときだった。
トランクスだけ穿いた泉がオレのベッドに腰掛けて、きっぱり言った。

「オレ、三人でいるときしか、篠岡に触んねえから」


オレは先を結んだ使用済みのコンドームをティッシュと一緒に、スーパーのゴミ袋に入れる手を止めた。

顔を上げると泉がオレをじっと見つめていた。

「じゃ、オレも。約束するよ」
口から勝手に出た言葉だった。

「それじゃあ、わたしは、泣かない」
篠岡が泣きそうな顔で言った。
泉はぷっと吹き出した。
「それは守れねえだろ。泣くならオレらの前で泣け。ひとりでは泣くなよ」

そう言った泉の顔は、オレからは見えなかったけど、きっと優しくて、哀しい顔をしていたんだと思う。


今度、するのはいつだろうな。
夏大後だろう。
甲子園、絶対行こうな!
・・・・・・夏の終わりに、またしたいな。
二学期始まって席替えする前に、一回したい。

なあ、泉。
おまえが言った約束をずっと守ってたら、オレら三人、ずっと一緒にいられんのかな?
だったら、オレ、守るよ。


ピーっと笛が鳴った。前半戦が終わった。
この分じゃオレらのクラスの女子バスケは、順当に勝ちあがっていくだろう。
男子サッカーは負けちまったけどな。
まあ、勝ったとしても、オレら夏大始まっから、球技大会、もう出れねえけど。


オレが質問したっきり、栄口が考えこんで動かねえよ。
まあ、きっとこの前のコトとか、いろいろ思い出してんだろうけど。

なあ、栄口。
オレらの関係が壊れるとしたら、いろいろ原因があるんだろうな。

例えば、クラス替えんとき、野球部引退するときとか、高校卒業するときとか。
環境が変わるときだけじゃないぜ。

三人それぞれ好きなヤツが新たにできる・・・とか?
第三者がぶっ壊しにきたり。

それとか、篠岡がどっちか選んだとき・・・・・・。
いや、これはないな。
オレかおまえかどっちか選ぶくらいなら、きっと篠岡はオレら二人とも切るだろう。

それと、オレが言った約束を、オレかおまえかが破るときかな。


ハーフタイムがそろそろ終わる頃、篠岡はオレらに気がついた。
目線を上げて、笑顔で元気良く手を振っている。
頑張れよー、とオレらも笑顔で手を振り返す。

小さい身体でバスケットコートを無邪気に駆け回る篠岡を見てると、
ベッドの上でのあの色気を一体どこに隠してるのか・・・すげえ不思議。
篠岡の、白くて、柔らかくて、甘やかな体が脳裏を掠める。


あの日、おまえの部屋でコンドームの箱を手渡したとき、おまえ、数、数えてたな。
このコンドーム、全部使い切るまで一緒にいれんのか、ってのは、
オレも買ったとき、コンビニのレジで思ったぜ。

そして、ひとつずつ袋を破く度、オレもおまえも篠岡もどんな想いでいるのか、って思うと
少しだけ遣り切れなかった。


ずっと三人で、てのはありえないことだって、オレも思う。
終わりはいつかくるんだろう。
いつか、な。


(終わる)
最終更新:2008年02月10日 23:50