7-588-590 小ネタ ◆/3cEp/K.uQ (420氏)
定期テストが終了し、今回も全員が赤点を免れた。
テスト勉強から逃れて水を得た魚のように生き生きと白球を追う野球部は、
今日も応援団長・浜田が連れてきた数人を仮想ランナーとして守備練習を行っていた。
ベンチ脇に転がっているスポーツバッグの中の1つから着うたが流れてきて、
先ほどアウトになって1塁からてれてれと歩いていた浜田が慌ててバッグに走り寄り電話を取った。
「はい。あ、おつかれさまでーす。えっと、えー、マジっすかー。んー、まあ、はい、大丈夫です。
今からなら、んー、1時間後には入れるかと。はい、じゃあまた」
ふー、と応援中にはつくことのないため息をついた浜田は百枝監督の下に走っていった。
「カントク、すいません急にバイトに穴空いちゃったらしいんで入らなきゃいけなくなりました。
ここで上がらせてください」
頭を下げる浜田に百枝は他人事じゃないとでも言いたげな表情で苦笑する。
「オッケー、おつかれさま。働くのもいいけど身体壊さない程度にねー」
「カントクほどじゃないっすよ。じゃ、失礼しまっす。っと、田島」
浜田がなにやら田島に向かって手振り口ぶりで何かを伝える。
田島の表情がパアッと明るくなり、浜田に向かって満面の笑みで親指を立てた。
「ほぉらよそ見しない!サード強襲!」
監督のノックに瞬時に反応した田島はいつも通りの危なげなさで打球を拾い、
ランナーが1塁に着く前にボールはファーストミットに吸い込まれた。
その日の練習が終わり、篠岡とモモカンが先に帰った後は部室に残るは野球部10人だけ。
「にしし、しばらくオカズに困んねー」
田島がテーブルの上に積んだのは、結構な量のエロ本とDVD。
「え、ちょっとなに、なにこれ」
沖の問いに田島が誇らしげに答える。
「浜田のコレクション!前から貸してって言ってたんだよねー」
「んだよ浜田のやつ、中学の時はそんなもん回してくれなかったのによー」
そう言いながらも何冊も手に取る泉の顔は少々にやけ気味だ。
「みんなに回してもいいってさー。返す時には浜田に返せよー」
田島の声でみんなが山に手を伸ばして品定めを始める。
「いやー、数もあるけどジャンルも色々だねー」
「そりゃー一人暮らしなら隠す気遣いもねえしな」
「センズリ大王浜田様ありがとう!」
西広と巣山が次々に手にとってチェックを始め、
何人かが今頃は仕事に精を出しているであろう浜田に感謝を叫ぶ。
「なんだ三橋、さっきからナースものばっか見てて」
本を中心にピックアップしていた栄口の問いに、三橋はしまりなくにやけながら答えた。
「う、ウヒ。オレ、看護師さん、スキ、だ」
「ねーねーなんで阿部はオムニバスDVDばっかなのー?」
水谷の問いに無表情のまま答える阿部。
「雑誌は肌の部分修正してるのが多くて萎えるしな。
DVDはどうせドラマ部分なんか早送りするんだから少ないに越したことねえだろ」
「えー、台詞棒読みなところがかえってそそるのにー」
「水谷、おまえ意外とマニアックなのな」
「あ、花井ー、こっちに花井の分ちゃんと分けといたから」
田島の声に花井がそちらを見やると、見事なまでに年上巨乳もの一色だった。
「なんだよこれ……」
「何も言わなくてもお前の好みはわかってるって。なあ?」
阿部の言葉に花井以外の全員が含み笑いを隠さない。
『お前の好み』が指す対象は誰もが口には出さないが決まりきっていた。
「お、おまえらなあっ!」
真っ赤になって怒る花井だが、積まれたものに時折目を奪われているのはやむを得ないところ。
しょうがないさ人間だもの。
「みんな自分の分持ったー?持ったー?じゃあ残りオレのー!」
田島が残った山をまとめて自分のバッグに入れた。
全員のスポーツバッグが増えた荷物の分だけ重くなり、いろんな意味で凶器と化した。
「つか、田島はジャンルにこだわりなさ過ぎじゃないか?」
「オレはどんなネタでもカくよ!」
「田島くんは、スゴイ、な!」
巣山の問いに胸を張る田島を尊敬するかのように三橋が見つめ、その様子を阿部がギロリと睨む。
「おい、マスのカキ過ぎで投球できません、なんてことになったら承知しねえからな」
「うおっ、ほっ、ほわっ、はいぃ」
「おーい、もういい加減帰るぞー」
既に部室の外に出ていた花井と栄口の声に、残っていた一同はわらわらと荷物を持って
ようやく部室を後にしようとしていた。
翌日付けの篠岡の部誌にはこう記されていた。
『なんだか今日はいつにも増してみんながひとつにまとまっていたように感じます。
理由はわからないんですがみんな何かあったのでしょうか。
浜田さんがみんなから大王様って呼ばれてたけど関係あるんでしょうか。
とにかくチームがひとつになるのはいいことだと思います。
ちょっと気になったのは、花井くんがピッチャー位置での守備練習の時に
妙にエラーが多かったことです。
マウンドに慣れてないわけじゃないはずだと思いますが、
送球は全然悪くないので打球が追えていなかったのかと思います。
監督の方をちゃんと見ていたら取れる球だと思うんですがどうしちゃったんでしょう。
がんばれ花井くん!』
最終更新:2008年03月15日 23:34