7-595-607 タジチヨ(続々相性占い)ドーパミン氏 台風の夜(タジチヨ)


――side阿部――

最近、田島が「捕手会談」と称して俺を呼び出しては泣きついてくる。
知るか。一生お預けくらってろ、と思う。
最初田島は、
「しのーかにキスしたらぶっ飛ばされた」
と、しょげていた。それも翌日の朝練までで、むしろ充電時間だったのかもしれない。
すぐに持ち直して、篠岡にちょっかい出していた。……まあそれはいつものことか。
それにしても、ここまでバカだとは思わなかった。
俺と篠岡は短期間ながらも付き合っていた。篠岡は、すぐ別の男に乗り換えられる女じゃねーと
忠告しといたのに、速攻で篠岡に言い寄りやがって。
初めて付き合う女だったから、篠岡には思い入れがかなりある。篠岡は田島を選んだのに、
遊びの誘いすら断るのは、まだ自分に気があるからだという期待もあった。
が、「3年間は三橋を最優先」と決めている俺には篠岡に甘えさせる余裕はなく、もし寄りを
戻すにしても同じ過ちを繰り返すのが目に見えていた。
篠岡は、俺の時はぶっ飛ばすどころか、最初からほぼ言いなりだった。
ここまで来ると、篠岡はわざとやってんだろう。田島が不憫過ぎて笑える。
「しのーか~~」
ジャングルジムの上で、田島がだらだらしている。まったくうっとおしい。
一応田島に、「俺に篠岡のこと話すのがどんだけ残酷か判ってんのか?」と聞いたことがある。
田島の返事は、
「だって阿部、本命はしのーかじゃねーだろ?」
対抗も大穴もあるか。どーも聞いてると、俺が以前告白した(ことになってる)女を、ずっと
引きずっていると勘違いしているらしい。いる訳ねーのに。
もっとも、告った相手が三橋だなんて口が裂けても言わねーけど。
「田島の方が、手ェ早いと思ってた」
優越感よりも、純粋な疑問だった。狙った場所に打ち返す器用さがあり、打席に立てば
鬼みたいに集中する田島が、篠岡にここまで苦戦しているのは意外だった。
あんまり考えたくねーけど、俺より上手く篠岡を喜ばせるんじゃねーかと思ったり。
なんせ、篠岡と同じAB型の三橋と、バッテリーを組む俺よりも会話が成立するし懐かれてるし。
もし田島の後だったら、篠岡と付き合うのは……かなり勇気が要ると思う。
「……イロイロ、あんだよ。俺は阿部とは違うからさ」
田島は1人、情けない顔をして唸っていた。
あいかわらず、田島は俺が野球しか認めてないよーに感じてるみたいだ。
泉の話では、篠岡が他の女と一緒でも、田島は篠岡しか見てないらしい。
あれだけ目が良い、下ネタ野郎の田島が。かなり本気なんだと思う。
「オナニーのしすぎとか、過激なAVに慣れると、いざって時にダメらしーぞ」
「うぉ、ソレマジか?あ、でも俺の場合はさぁ――」
「テメーのオカズなんか知るか!」
いつ来るか判らないその日のために控えとけ、とアドバイスしたのは意地悪ではない。
でも、俺に報告に来るその日は、出来るだけ遠い日が良いと思った。

――side田島――

台風が来る。シャレにならないんで、部活は途中から中止になった。
早目に自転車で帰るか、止まる前に電車で帰るかをみんなが相談してる。
家族が車で迎えに来るとか、ついでに送って貰うヤツは自然に9組の教室に集まった。
予報では台風は夜には通過することになっていて、「それまで学校で遊んでよーぜ」と言ったら、
阿部に「オメーはどーせ近所だからだろ」と怒られた。
じーちゃんの畑も気になるけど、それよりも明日はしのーかと遊びに行く約束をしていたから、
もし今日の代わりにミーティングを止めて練習になったらと思うと心配だった。
まあ、しのーかが俺の誘いにやっと、「うん」って言ってくれただけでもラッキーか?
いっぱい一緒にいたいけど、しのーかを拘束出来ないから、あまり遠くまで行けねーし。
台風の後は川がにごるからそっちはパスだな、でも、そういう方がしのーか面白がるかな、とか
既に明日のことで頭がぐるぐるしていた。
「田島は残んのか?すぐ近くだろ。なんなら乗せてって、途中で下ろすけど?」
家の人を待っていた花井が声をかけてきた。
「わざとだよ。台風ってワクワクしねぇ?みんな集まってんのに帰るなんてヤだよ!」
「テスト近いし、三橋と田島は勉強したらどーよ?」
阿部が余計なことを言い出した。勉強なんか今からやったって、テストまで覚えてないって!
そこに水谷が、
「西広は俺らと一緒だから、もうすぐ迎え来るよー」
「そーかぁ!残念だなっ!」
「でも、田島がやる気あるなら俺、残ろうか?遅くには止むんだよね?」
「え?イヤイヤイヤっ」
勉強する気になってる西広と、拒否したい必死な俺の顔を三橋が見比べてキョロキョロしていた。
「三橋は、帰るだろ?」
「ウ、ヒ?」
三橋と一緒の方が効率いーよ、とムリヤリ理由を作って西広には諦めさせた。ゴメン三橋。
だらだらと無駄話をしてるうちに女の話になって、「恋愛は男はフォルダ保存、女は上書き保存」
と泉が言い出した。テレビで芸人が言ってたらしい。
しのーかはそうじゃないんだよなぁ。がっちりプロテクトして消去不可だもん、と阿部をチラ見する。
調度ケータイが鳴って、阿部が立ち上がった。弟のついでに拾って貰うらしい。
しばらくすると、他の残ってた連中にもそれぞれ迎えに来て帰っていった。

窓の外は大きな音を立てて、雨と風でかき回されている。
練習出来ないのはイヤだけど、台風は好きだ!
傘なんか差さない。思いっきり濡れて帰って、服はそのまま洗濯機に直行。台風バンザイ!
廊下に出たところで、見るはずの無いモノを見た。しのーかだった。
モモカンに送って貰うとかで、最初に帰ったと思ってたのに。
「しのーかー!なんでいんのー?」
嬉しくなって、叫んでいた。
ラッキー。また、しのーかの顔が見れた!
だけど、しのーかは飛び上がりそうになって、恐る恐る俺を振り返った。
「田島くん。あ、明日のミーティング用にデータ集計やってたの……」
「ふーん?帰んのか?今、雨凄いぞ。俺は濡れて帰る気だからいーけど」
「う、うん……」
「ウチ来るにしても、濡れちゃうだろーし。な、一緒に、通過すんの待たねぇ?
明日ドコ行くか相談したかったし」

しのーかがびくりとした。迷惑だったみたいだ。
泣いたらしのーかがもっと困るから、俺は頑張って笑う。
「あ……。しのーかがイヤなら、もー誘わねーから」
しのーかを1人で残すのは心配だったけど、俺と一緒にいるよりはマシだと思う。
あと何時間かすれば、雨は小降りになるし。
「じゃー、俺帰る」って言って、踏み出そうとした俺の腕を、しのーかが掴んだ。
「田島くん、帰らないで」
しのーかが震えていた。
女の子だから、台風の中に1人で暗い校舎にいるのは恐いんだ、と思った。
「いーよ。ゴメンな。阿部じゃなくて」
「そんなことないよ。それに阿部くんは帰ったし」
なにげなく、しのーかが答えた。
途中で阿部の姿が消えたの、家族が来たからじゃなくて、そーいうことだったんだ。
がっくりした俺を見て、なぜかしのーかが慌てた。
「わ、私が7組にいて、阿部くんは忘れ物取りに寄って。ちょっと話しただけ」
「別に俺、気にしねーよ」
しのーかの隣が辛くて、廊下の窓に寄って外の雨を確認した。
まだ強い。ホントに止むのかな。
今、外に出たらムシャクシャした気持ちも吹き飛ばされてスッキリしそうだった。
「電話、しようと思ってたの」
「阿部に?俺、どっか消えてよーか?」
「田島くんにだよ」
思わずしのーかに振り向いた。しのーかは緊張気味に続けた。
「もうお家に帰ったと思ってて。一応、下駄箱を確認しに行く所だったの」
「俺に話って、なに?」
しのーかは黙ってしまった。雨音が強くなる。
しばらくして、雨音にかき消えそうなしのーかの声がした。
「阿部くん、に、『一緒に台風が通り過ぎるのを待とうか』って、言われて……」
なんだ。もうしのーかとは何でもないって言ってたけど、阿部もフォルダ保存かぁ。
聞きたくなかった。けど、しのーかが話したいと思ってるから、我慢して俺は頷く。
「『家族の迎えを断れば、夜まで一緒にいられるけど』って。でも、私が一緒にいたいのは
田島くんだったから」
「えぇ?」
俺?阿部じゃなくて?

「教室で作業してて、田島くんはきっと台風でも私が『会いたい』って言ったら、来てくれるん
だろうなって思いついて、1人で笑ってたの。田島くんだと、私はお母さんか保母さんみたいに
我慢するんだと思ってたけど、甘えてるのは私の方だって……やっと、気づいて」
「そりゃぁ行くよ?近いからそう思ったんだろーけど、遠くてもしのーかが言うなら俺行く!」
「田島くんが風邪引いたら困るでしょ。『今、声が聞きたいって思うのは田島くんなんだよ』って
言ったら、阿部くん判ってくれた」
しのーかは、阿部にちゃんと言ったんだ。あれだけ好きで、もしかしたら忘れられないかも
しれないって言ってたのに。
しのーかは顔を赤らめながら続ける。
「阿部くん、『アイツなんでとっとと襲わねーんだろ』って田島くんのこと不思議がってたよ。
『そーいう場合はチンコ蹴って逃げろって、田島くんに教えて貰った』って答えたら、阿部くん、
『既にオメー、田島に感化されてんな』って呆れてた」
「はあぁー?」
たしかに言ったけど、なにも阿部に言わなくたって!
それじゃ俺、いつも下ネタ言ってるバカみたいじゃん。
あ。言ってるから、自分が蹴られそうで、我慢してたんだっけ。
俺はしのーかが好きだから、甘えてくれるなら嬉しいけど。甘えられてたのかな。
判ったよーな判らないよーな顔の俺を見て、しのーかがクスリと笑った。
「こんなんでいーなら、いつでも甘えていーからなっ」
「うん。でも、田島くん、私で良いの?」
暴れたくなってきた。俺が悪いの?何百回言ったか、覚えてないくらい好きだって言ったのに。
「怒るぞ。俺、ずっとしのーかを待つって言ってたのに」
「だって、イヤじゃないの?私、今まで……」
しのーかが言いかけて止めた、その表情で意味が判った。
「……あ、そーか。俺、阿部と比べられるんだ!」
「く、比べるなんてそんなっ」
しのーかは真っ赤になって否定する。手をバタバタさせて、
「考えないようにするから」
「うん!俺も負けないよーにがんばっからな!」
ニカッと笑って言うと、「がんばるって……」としのーかが苦笑いした。
「ちゃんと気持ちの整理ついたの。待たせてゴメンね。……好きにして、良いから」
恥ずかしそうに、囁くような声。俺は嬉しすぎて泣きそうだった。
えーと、どうしよう。教室でもいーけど、出来れば……。
「場所、変えよーぜ」
「え?い、今から?」
「好きにしていーんだろ?」

――side篠岡――

田島くんに連れて行かれたのは、先生が帰って無人の保健室だった。なんで?
鍵が掛かってて入れないと思ってたら、ドアから少し離れた上の小窓に田島くんが飛びついて、
スライドさせて開けてしまった。
「ラッキー、締め忘れ」
「……薬品あるのに、物騒だね……」
器用に田島くんが乗り越えて、向こう側に消える。運動神経の良さに改めて感心してしまう。
さっきの田島くんの目。キラキラでおもちゃを目の前にした子供みたいだった。
早くても、明日かと思ってたのに。何をされるんだろう?とちょっと不安になったけど、
初めてじゃないし。多分、大丈夫……と思う。
ロックを外す音がして、ドアが開いた。
中に足を踏み入れると、あのギョロリとした田島くんの目が、私を捕らえていた。
田島くんは鍵をかけると、私の手を引いてベッドに連れて行った。
外はうす暗くて、電気をつける訳にもいかないから、目が慣れるまで手探りになった。
「私が寒そうだったから、保健室に?」
思わず聞いていた。あれだけ待たせた上に気を使わせてしまって、申し訳なくなる。
「うんにゃ、俺のシュミ!」
「シュミ?」
ベッドの上に座らせられて、興奮気味の田島くんが私の胸のリボンをほどき始めた。
自分でやる、と言うのを無視して、ブラウスのボタンも外される。
そのまま押し倒されそうになったので、慌てて靴を脱がせて貰ってベッドに横になった。
田島くんは馬乗りになると、手早く自分で服を脱ぎ始めた。ちょっと鼻息が荒い。
私のブラを取り上げてしまうと、田島くんの目が輝いた。ペロリと舌が上唇をなぞる。
ロコツな下心は苦手だけど、田島くんは自然すぎて、私もつられて笑顔になる。
「田島くん、初めて?」
「うん!キス以上に進もうとすると『怖い』って女の子に泣かれてちゃってさぁ。
俺がスケベだって知ってても、オスな俺はイヤだって」
もし、阿部くんと付き合ってなかったら、私もそうだったかも。明るくて面白い田島くんと、
これからすることを考えると変な気分。今までもあまり想像出来なかったし。
田島くんは両手ですくったり指で胸をプニっと押したり、揉んでみたりに熱中して、
まるで実験をするように私の反応を見ていた。くすぐったくて一緒に笑った。
突起をカプっと咥えられ、ため息が出てしまう。私は田島くんの頭を撫でて、両手を背中に回した。
「時間、あるからゆっくりでいいよ」
「うん。すっげー柔らけー。ふにふにして気持ちいー」
そう言うと、田島くんが胸を持ち上げるように揉みしだきながら、唇を重ねてきた。
舌が入ってきて、優しく弄る。久しぶりだった。夢中で田島くんにしがみついていた。
ふいに唇を離されたので目を開けると、糸を引くのが見えた。
おでこ同士をごつんとつけて、田島くんは真っ直ぐ私を見た。
「しのーか、好きだ!」
判ってる。何度も言ってくれた。「待ってて」と言ったのに。落ち込んでいる暇もないくらい頻繁に。
「私ね、怖かったの……」
「ゴメン。俺、しつこいから」
違うよ、と答えたかったのに、さらに押し付けるような激しいキスをされて、遮られてしまった。

田島くんが上に乗り、赤ちゃんみたいにチュウチュウと音を立てて胸を吸っている。
突然それを止めると、
「なぁ、縛っていい?」
「えっ?」
どこを?どうしてそんなことするの?
私の顔を見て、田島くんがちょっと口を尖らせた。
「しのーか、好きにして良いって言った」
「良いけど……。ちょっと、イヤかも……」
って、聞いてない。田島くんはさっきほどいた私のリボンを手にして、パシンと鳴らした。
手早く私の両手首を結んでしまう。田島くんはとても楽しそうだった。
そうして、手を頭の上にして、ベッドの手すりに縛り付ける。
「た、じま、くん?これ、なに?」
「イチバン最初に見たのが、こーいうのでさ」
「な、なにが?」
ああ、エッチなDVDとか?田島くん、それの真似するつもりなの?
少女漫画でこんなのあったかも。美人主人公じゃない私は、カッコイイ先輩が悪者から助け出して
くれることはないし、ホラー映画なら最初に殺されてる。あ、田島くんが正義の味方だった。
なぜかその田島くんによって、暗い部屋で自由が利かず、外は嵐で不安で涙が出そうになっている。
「すげードキドキして、大人になったらぜってーやるんだって決めてた!」
まだ子供だから無茶しないでって言いたいのに、怖くて声が出なかった。
「ソレが、未だにイミ判んねーんだけど花瓶と花をさ……。ココにねーから、まあいーかぁ」
お花、無くて良かった!でも、お花でなにされるとこだったんだろう……???
田島くんがニカッと笑う。首筋に舌が這い、耳元で言われた。
「心配すんなって。痛いことしねーから」
「ん……」
や。息が止まった。ゾクゾクして、身体の中心が熱くなってきゅうっと力が入る。
胸の先端をれろっと舐め上げられた。
「ゃぅっ!」
ゾワリと快感が走り、声を上げてしまった。ニシシ、と田島くんが笑う。
さっきと同じことをされてるのに、田島くんの舌の動きに反応して、
ガクガクと身体が震えだした。動きたくても、縛られて身動きが取れない。
こんなの、イヤ!
「ほどいて……」
涙声になっていた。自分が自分でないみたいで、怖かった。
気持ち良くて混乱してることを、田島くんに知られたくない。でも……。
「こんなに硬くなってんのに。嫌い……?」
胸の突起を押しつぶすように刺激される。
「あッ、んぁ…」
ヒクヒクと反応して、変な声が漏れてしまう。
ほらねー、と田島くんが嬉しそうに言って、私のスカートを捲り上げた。

田島くんが何を見ているのかは判った。阿部くんに付けられた痣はもう消えている。
その、あった箇所を田島くんが撫でた。身体に緊張が走る。
ゆっくりスカートを下ろされて、震える手で下着も取り払われた。
思わず目を閉じた。触られる、と覚悟していたのに、田島くんは動かなかった。
目を開けると、じっと、光る目で私を見ている田島くんがいた。
「よく見えねぇ。電気、つけちゃダメ?」
きゃー、なに悔しそうに言ってんのーっ!
全力で首を振る。こんな姿の自分をさらけ出すなんてイヤ。絶対イヤ。
むー、と田島くんは子供みたいに拗ねた。
「しのーかがいっぱい見たいのにー」
もう、判って。無言で訴える。
田島くんは「ま、今度でいっかぁ」と、どうにか諦めてくれた。
痣のあった場所をもう1度撫で回すと、おずおずと足を広げていく。
田島くんは1つ息を吐き出して、指で割れ目をなぞり、差し入れてきた。
「や、やだっ」
そんな風に広げないで。見ないで。差しこまないで!
「へー」とか「こんななんだー」とか、田島くんのリアクションが恥ずかしい。
最初は身をよじって抵抗して嫌がってたのに、身体はいいなりになってしまう。
私の反応を確かめているのが判った。いやらしい音をたてて、ヌルヌルとお腹側の
感じる場所をかき乱され、熱に浮かされたように体中が熱くなる。
「んッ、はぁ、ヤ、ヤメ……」
もう、限界だった。
ふいに腕が自由になった。
心配そうに、だけど高揚した田島くんが顔を覗きこんでいる。
「ゴメン」
「なん、で?」
こんなことするの?私のこと、好きじゃなかったの?ヒドイよ田島くん……。
涙で田島くんが歪んで見えた。鼻の頭がツンとなる。
「しのーか、今まで振り向いてくれなかったから、ちょっとイジメたかった」
ほどいたリボンを手に、田島くんが指で涙を拭ってくれた。
「怖かったの……」
「ゴメン、もうしねーから」
私は首を振った。
「違うの。気持ち良すぎて、怖かった……」
前に田島くんにされたキスは、身体の中からトロリとして、頭がおかしくなりそうだった。
自分が変になるのが怖くて、好きだって言ってくれる田島くんから逃げ続けた。
謝るのは、田島くんに甘えてた私の方。
「俺、嫌われてなかったの?」
素直に頷いた。今度は田島くんが泣きそうになる。
野球の時はあんなに強気な田島くんが、ちょっと弱気になってたのが意外な気がした。
「俺、判んねーけど、がんばっからな!」
十分がんばってるから、これ以上張り切らないで欲しいな、と少しだけ私は思った。

田島くんの手がお腹に触れた。
おへその下をキスされる。
足の間に田島くんが顔をうずめて、舌を使って優しく舐め取られる。
信じられないような声が出てしまい、思わず自分で口を塞いだ。
「しのーか、感じてる?」
「しのーか、好きだ」
いっぱい、話しかけてくれる。何度でも言ってくれる。言ってくれなかったあの人とは違って……。
比べちゃダメ――。
笑ってる田島くんも好きだけど、真面目な顔はカッコイイ。言わないけど、野球の時の真剣な男の子は、
凄みが増して独特の色気がある。今の田島くんは、別の意味で色っぽかった。
舌、長いのかな。凄い。こんなトコまで……。
田島くんだけでいっぱいになる。
「もーダメ!挿れさせて……」
そう言うと、田島くんはゴソゴソとやり出した。私は朦朧とした意識の中、保健室の天井を見ていた。
ゴムの、判るかな。手伝って上げたいけど、私も判らないや……。
私は未熟で、教えてあげられることなんてたいしてない。そう思ってた矢先、私の疼くソコに、
田島くんの熱いモノが押し付けられた。腰を浮かせて、正しい場所にそれを導く。
ぐちゅっぐちゅっと音を響かせて、田島くんが激しく腰を揺らした。
「んはぁ、すっげ……ッ、しのーか!しのーか!はッ、やべ、よすぎ……!」
田島くんの高ぶった声と動きに合わせて、ギシギシとベッドが揺れる。
私の身体が反応してガクガク痙攣する。
涙が出てきた。
なんでもっと早く私、こうしなかったんだろう……。
私は薄れゆく意識の中で後悔していた。

気が付くと、田島くんがぎゅっと私を抱きしめていた。頭を撫でてくれる。
「俺、良かった?」
「うん……」
「しのーか、すげぇエロい声出すんだな」
精いっぱい、我慢したつもりだったのに。多分、顔が赤くなったと思う。部屋が暗くて良かった。
「でもさ……。うーん」
そう言って、私を抱き抱えたまま、ぐるんと転がる。私が田島くんの上に圧し掛かる体勢になった。
「今度は、しのーかがやって」
「……え?」
「上になってもう1回戦。ダブルヘッダー。ニシシ」
きゃー、なんてこと言うのーっ!
「も、もう帰らなきゃ……」
「時間、たっぷりあるだろ。俺はダブルでもトリプルでもクアドラブルでも……」
アイススケートのジャンプじゃないんだから、そんなに出来ないよ!
「た、田島くんっ、アスリートは身体が資本だよ。休もうね」
「ダイジョーブ!俺、持久力には自信あっから!」
田島くんの瞳が輝いている。あああ。そうでした。田島くんの運動神経は学校で1番……。
眩暈がした。

「え、えーと……私は自信ないから……」
逃げよう、と決めた。もちろん体力には自信があるけど、壊されそうな気がする。
それを察したのか、田島くんはすかざす私を捕まえた。
「しのーか、ソフトやってたんだろ?な、身体やーらかい?」
「あ?」
「あーもう、やっぱ電気つけてい?見てーよ俺!」
「やめてやめて!」
田島くんは私の言うことも聞かずに、ベッドから跳ね起きた。
しばらくして、部屋の電気がついて明るくなった。軽い足取りで田島くんが引き返してくる。
この間に、私は逃げれば良かったのに。私は田島くんの裸は見慣れてる(?)けど、田島くんは
私を見るのは初めてで。明るさに目を慣らすほんのわずかな隙に、田島くんが飛びついてきた。
「や、やらしいことしたら怒るよ」
「はぁ?この状況で、なに言ってんだよ」
言いながら、私の身体を遠慮なしに見ている。
私は目のやり場に困って、そんな田島くんの表情を見ていた。意外に、真面目な顔。
「しのーかの身体、キレーだな」
「そんなことないよ。変な日焼けしてるし」
「そりゃ、俺の方が凄いって。もっと、見ていい?」
お世辞でも褒められるのは嬉しくて、私はうん、と頷いていた。
田島くんは私を抱きかかえると、胸を隠していた腕をどかして、なぜか右足を持ち上げた。
「た、田島くん?」
なんだか、観察する目じゃない。何かを企んでる目だ。
田島くんは私の足を自分の肩に乗せると……いきなりあてがった。
自分の体勢も信じられないけど、硬くなったものが擦り付けられる感触に悲鳴も掠れてしまう。
「たしかコレ、すっげー奥まで挿れられる体位!」
ちょ、ちょっと待って!なにしてんのっ!
やっていい?と、無邪気に聞いてくる田島くん。ギブギブ、と真っ青になって首を振る私。
絶対無理。回数をこなすより、ゆっくり愛されるのが好きなのに。こんなのイヤ。
一生懸命、田島くんに「怒るよ」と訴える。無理です。許して。お願い。なのに――。
「くはー、我慢できねぇーっ!」
田島くんは叫んで、パンパンに熱くなったものを私に押し当てると、身体をぶつけてきた。
奥深く、ズブズブと呑み込まされ、私には初めての領域に踏み込まれてしまいパニックになる。
「ゃ、あ!なにすん、あッ、んぁ!」
「…かぁ!しのーか!ハァ……クソッ」
グリグリと私の奥を刺激して、激しく突き動かす。今まで感じた事のない快感が身体中に浸透してゆく。
その激しさに翻弄され、私の頭の中は真っ白になった。

私はぼーっとして、ベッドに横になっていた。身体はドクドクと痛みで脈打っていた。
田島くんに背を向けて拒絶する。
見せる顔がなかった。あんなに嫌がってたのに、私……。
田島くんが覆いかぶさるように耳元で話しかけてきた。
「しのーか、イッた?」
「知らない」
さすがにちょっと頭に来たので、田島くんから顔を逸らして別のことを考える。
時間大丈夫かな。もう帰ろう。小雨になってる筈だから。そう思ったけど、だるくて身体が動かない。
「しのーか、ギュウギュウ締め付けて、俺のこと離してくれなかったじゃんー」
その時のことを思い出してしまって、顔が熱くなった。恥ずかしくて消えてしまいたくなる。
「しのーか、俺のこと嫌い?」
心配そうに、田島くんが聞いた。
「――大好き……」
「ホントか?」
うん。今まで言ってくれた「好き」を全部足しても足りないくらい、田島くんが好き。
でも、同じくらい憎たらしくて、枕に顔を押し付けて顔を隠した。
今日はおしまい。少し休んだら、服を着てベッドを整えて、帰らなきゃ。
改めて決意した私は、裸の肩にキスをされて身震いした。
「んん……」
こういうの、好き。終った後に優しくされると、すごく満たされた気持ちになる。
耳たぶを甘噛みされて、背中や腰の周りを唇が這い、頬ずりされる。
余分な力が抜け、くったりと身体がほどけていく。
「しのーか、なんか言ってよ」
わざと逆らうように枕に顔をうずめると、田島くんが「むー」と拗ねた。
ベッドから田島くんが下りる気配があり、すぐ戻ってきた。擦るような音がして、太股が
ティッシュで拭われる。おしりを高く持ち上げられ、膝をつくことになり、足を開かされていた。
田島くんはそこをきれいにすると、この恥ずかしい体勢のまま、指と湿らせた熱い舌を挿し入れた。
「……じま、くん、もう無理……」
一体、なにを田島くんはムキになってるんだろう、と少し不安になった。
田島くんは私の弱いところを完全に把握していて、執拗に固く絞った舌で愛撫する。
変な気持ちになってしまい。これ以上続くなら言おうと口を開きかけたその時。
「……阿部の方が良かった?」
予想外の田島くんの言葉に、耳を疑った。今、なんて?今まで、私を見ててなんでそう感じたの?
「しのーか、俺じゃ気持ち良くなんねーんだ……」
「え?」
「俺、悔しい」
反論しようと顔を上げた。私がやったことがないだけで、こういうやり方もあるんだ、と
気づいた頃には手遅れだった。
「ゴメン……最後だから」
田島くんが分け入ってくる。熱い息を吐きながら、田島くんは私を後ろから何度も突き上げた。
私は、枕に顔を押し付けて声を押し殺し、その新たな快感に耐えた。

私が、田島くんの抱える不満に気づいたのは、全てが終ってからだった。
田島くんは落ち込んでいた。私は怒る気にもなれず、田島くんと向き合う。
「電車の時間もあるから、私、もう帰らないと」
「送ってく……」
本当は、このまま眠ってしまいたいくらい疲れ果てていた。
末っ子の田島くんと、長女の私は相性が良いらしい。でも、歯車が食い違ってたみたい。
私がもっと、素直に甘えられる可愛い性格だったら良かったのに。
なぜ、阿部くんの名前が出たのかを、聞く勇気があれば良かったのに。
気持ち良さや、好きだって気持ちを上手く伝えられない自分がもどかしかった。
くりかえされた質問に、どう答えれば正解だったんだろう、と考えてある可能性に思い当たった。
もしかして、田島くんの見るAVみたいに、私に声を出して欲しくて何度も……?
機会がないからまだ見たことはないけど、友達が「彼氏に『AV女優みたいに喘がれると冷める』って
言われる」と自虐していた。控えめの方が、男の子が喜ぶんだと思ってた。
「あ、あの、私、恥ずかしくて、声出せなくて……」
「へ?」
「気持ち良いから……。ちゃんと『イク』とか?言った方が田島くん嬉しいなら、がんばるけど」
出来れば、はしたないことはしたくない。でも、田島くんが喜んでくれるなら、私が変わらないと。
チラリと田島くんの顔を見上げると、顔をクシャクシャにして田島くんが笑っていた。
まさに、そのことを気にしてたんだ、と判った。
「しのーか、可愛いすぎー!」
私は引き寄せられ、ぎゅうう、と力いっぱい抱きしめられた。苦しくて息が出来ない。
押し倒されて、足の間に割り入れられて、もう1度足を開くことになった。
「た、田島くん、明日!もう、今日は終わり!壊れちゃうからっ」
泣きが入る私の顔を見下ろして、田島くんはニシシ、と笑った。
「わーってるって!」
私の太股の内側に顔を寄せると、ちぅーっと強く吸う。
「上書き!」
こんなことしなくても、もう大丈夫なのに、と呆れつつも嬉しかった。
雨は止んでいた。今なら自転車に乗れる。……辛そうだけど。
手を伸ばす私より先に、田島くんが服を取り上げて後ろ手に隠してしまった。
「な、このまま保健室、泊まっちゃおか」
「は?帰りますって!」
「じゃ、ウチに泊まんなよ!そしたらずーっと一緒にいられるし」
「田島くん……蹴っていい?」
「ひぃっ」
田島くんが真っ青になって飛び退いた。
脱がされたものを身に付けたあと、私はリボンを手にした。
これからは、洋服も気をつけなくちゃと思った。


――side阿部――

教室に向かう廊下で篠岡と一緒になった。
昨日のことを謝るのも、無視も気まずいから、自然に午後のミーティングの話を振った。
篠岡から、昨日教室でまとめてたノートを手渡された時、その異常に気づいた。
「篠岡、手首どーした」
赤くなっている。しかも両手。擦りむいている箇所まであった。
「あ、こ、これはその……」
篠岡は一瞬で耳まで赤くなり、腕を隠してしまった。昨日の返事と、この異様な慌てっぷり。
「……田島か?」
篠岡は縦と横、どっちに首を振って良いか迷って怪しいヤツなっていた。
図星かよ。なんとも残念だが、断ち切るしかない。
固まってる篠岡には、答えなくてもいーよ、と言った。言わなくても判るし。
「アイツ、小道具好きだって自分で言ってたけど」
「な、な、なん……」
「聞かれてもねーのに、他人の性癖教えるヤツがいるか。彼女出来たらいっぱい試すとか
言ってたから、初めての彼女はすげー苦労しそーだなとか、みんなで話してたけど」
田島の妄想語りは度々あった。まさかすべてが本気だとは思ってないが。
篠岡は今度は青くなった。思い当たる節があるらしい。気のせいか、珍しく疲れて見える。
見える場所に痣作らせてんじゃねーよ、とムカついたが、さすがに可哀想になってきた。
「ひと通りやりゃ、満足すんじゃね?小道具ったってなんか塗って舐めるとか突っ込むとかだろ。
コスプレはどーせ脱がすからキョーミねーって……」
言いながら、我ながらなんの慰めにもなってねーな、と思った。
そりゃ、好きなオナニー控えてたんだから、彼女が出来たらその反動は相当なモンだろう。
篠岡が力なく呟いた。
「ひと通りって……7、8個くらいかな」
「んなの本人に聞けよ。あー、ちょっと違うけど48手って聞いたことねーか」
「知ってるよ。相撲でしょ」
「いや、あるんだって。……悪かったな芸がなくて」
俺はそーいう勉強は野球に回して、良く言えばノーマル。悪く言えば……単調、か?
身体の相性は良かったからこそ冒険はあまりせず、少しでも篠岡が不快感を持ったことは避けた。
だいたい、こんな内容の会話自体、篠岡とするのは俺に抵抗があって、今になって
「下ネタ大丈夫な人なんだ」と自分が余計な気を使っていたことに気づいた。
俺とは違い研究熱心であろう田島は、今後もフロンティアスピリッツで嬉々として篠岡を
開拓しそうな気がする。
俺の言葉に篠岡が絶句して、どんどん暗くなっていくのが謎だった。
ココは喜ぶトコなんじゃねーのか?

パタパタと軽い足音がして、噂をすれば、の田島が走って来るのが見えた。
キラキラ目を輝かせて、一直線に篠岡に向かってくる。
「しーのぉかぁーっ!」
人目もはばからず、篠岡に抱きつく田島。当然、避けた俺は視界に入っちゃいない。
「今日、ミーティング終ったら俺ん家な。昨日の続き!出かけんの、今度でいーから」
「た、田島くん、ちょっと!」
「な、約束。ニシシ」
周りの視線を気にして、必死で引き剥がそうとする篠岡に、性欲に支配され舞い上がる田島。
ストレート過ぎて見てるこっちが恥ずかしい。いや、この迷いの無さは清々しくて尊敬に値する。
持て余した篠岡が「蹴るよ」と物騒なことを言い、田島が慌てて手を離した。
すかさず篠岡は鞄に手を伸ばして、
「あ、田島くん、グミ!おいしいよ、食べる?」
「うぉ、くれくれ!」
田島はあっさりとお菓子に意識を奪われていた。単純すぎる。
そこに、食意地の張ったウチのエースが通りかかって、篠岡の取り出した袋に釘付けになる。
母親でも保母さんでもなく、餌付けに成功した調教師の篠岡がそこにいた。
篠岡は田島を、本気では嫌がってなかった。なら、俺が心配するのは余計なお世話になるんだろう。
それにしても、才能があって努力も惜しまない田島には、見習うべき部分が多い。篠岡にも。
篠岡の顔色が冴えない不安はあるが、田島だって珍しがるのは最初だけだろーし。
せめて、篠岡を壊さない程度に励んでくれりゃいーけど。
不思議に、喪失感は殆どなかった。本当の痛みは時間を置いてジワジワ襲って来るのかもしれないが。
それよりも、俺にとって最優先すべき問題はこっちだ、と言い聞かせることにする。
俺もたまには食いモンで釣ってみっか?
ほくほくと変な顔でグミを頬張っている、3年間尽くすと決めた標的を見ながら、俺は思った。


終わりです。
最終更新:2008年03月15日 23:37