8-145-150 アベモモ ◆/3cEp/K.uQ
合宿に向かう途中のバスの中で突然田島が叫んだ。
「あー、昨夜オナニーしてくんの忘れたーッ!」
マネジが「忘れた」という言葉だけを聞いてキョロキョロしていたが、田島は近くの席のやつらに4人がかりで押さえつけられて
それ以上の言葉をバスの最前列にいるマネジまで届けることはなかった。
隣席になった花井がオレに話しかけてきた。
「あいつ、本当に強いシニアの4番打ってたの?」
「ああ、本人がそう言ってたしオレも試合見たことある」
オレは入学式の日、三橋に手っ取り早く自分の価値とオレの優位を教えようとして花井と3打席勝負をさせた。
花井はオレの狙い通り三橋の「まっすぐ」を空振りし、更に幸いにも球筋を見る目があったらしく
三橋の「まっすぐ」が普通のストレートと何か違うことにも気づいた。
ただのプルヒッターだと思ってたがなかなかやるじゃないか。そう思っていた。
この合宿までの2週間で、オレの中で田島と花井を見る目にあるフィルターがかかった。
まず田島。
ある日の練習後、第2グラウンドに忘れ物をして夜道を自転車で引き返し、
近くに自転車を置いて歩いていた時にその声は聞こえてきた。
「ふふ、田島君ったらさっき出したばっかなのにもうカチカチだねえ」
監督である百枝の声だ。姿は見えないのでベンチ内にでもいるのかもしれない。
潜めているはずの声はなぜかオレの耳によく届いた。
「カ、カントク、もっと強くこすって」
田島の荒げた吐息と共に焦ってねだる声が聞こえた。
「ダメだよ、強くしすぎるのは不感症と遅漏の元だからね。でも早く動かすくらいはしてあげてもいいかな」
「おわ、ああ、あ、むぐっ、んんー」
おそらく口を塞がれたのだろう田島の声が聞こえなくなり、しばらくして百枝の愉快そうな声が聞こえた。
「じゃあ、明日も練習遅れないようにね、田島君おつかれ」
次は花井。
ミーティングのみの日、全員が解散して大分時間は経っていたが部室に置いていた配球プランをもう一度確認したくて
暮れなずむ校庭を部室へと歩いていったが、部室入口の前で足が止まった。
「うん、そう、いいよ花井君」
かすれたように囁く声は間違いなく百枝のもので、オレは先日の出来事があったので
田島の名前と聞き違えたかと思いこっそりと聞き耳を立てることにした。
ぎしぎしとおそらくは部室内の机か椅子が揺れて軋む音と吐息の後、百枝の相手と思われるヤツが口を開いた。
「オレ、もう限界です、カントク……!」
百枝と同じように声を最大限殺してはいたが、その声は聞き間違いでもなんでもなく花井の声だった。
百枝が何を考えているのか知らないが、まだ部員が入部してから2週間だぞ。
その間に花井と田島を食ってるとかどういう了見だよ。
田島は挿入までしてるのかどうか怪しいが、花井はおそらく最後まで行ってるんだろう。
何を考えているんだ。百枝も、田島も、花井も。
そんなオレの心など知る由もなく花井は田島と差をつけられたことに対してなんかぶちぶち言ってるし、
三橋は乗り物酔いで日ごろの挙動不審に拍車が掛かってるし、どうにもなんねえなホント。
合宿の幕開けから更にどうしようもないことは続いた。
バッテリーのみ別練習だと連れ出された野球場で百枝が三橋のコントロールの正体を暴いた。
オレがリードしてやれば三橋は球が遅くたってコースを突けるはずなのに、
百枝にそそのかされてどえらいノーコンピッチングをした三橋は、
百枝に渡された角材の上で一生懸命ワインドアップを試みてオレの意見なんか聞きゃしない。
投手なんかやなヤツばっかりだ。
挙句に百枝のこの言葉だ。
「阿部君は、捕手をわかってないねえ」
アンタになにがわかるって言うんだよちくしょう。暗い思いが心の中で波打った。
夕食後、はしゃぐ他のやつらから抜け出し、オレは外の切り株に座って一人ミットの手入れをしていた。
近づく足音に顔を上げると、ジャージ姿の百枝がにっこり笑っていた。
「チームを作ると大抵いい子が2人は入ってくるもんなの」
そう言った百枝が挙げた名前は田島と花井。
そうか、素質の面で有望なあの2人をカラダ使って手なずけることでチームを引っ張ろうとしてんのかこの女。
とんだ監督様だな。そう上手いこといくわけがねえだろ。
「阿部君、あなたは3人目だと思ってる」
……オレ?
そうか、オレも手なずけられそうだと見たわけか。おもしれえ。だがそう簡単に行かせるもんか。
練習着の後ろポケットに入れたままの携帯の存在を思い出し、その存在を後ろ手で確認した。
「オレは期待に添えそうもありません。だってオレは、捕手をわかってないんでしょう?」
何か言おうとした百枝を制してオレは続ける。
「それに、田島や花井みたいに体使って従わせればどうにかなるとでも思ったんですか?」
百枝が目を見開いた。ざまあ見ろ、動揺しやがれ。
しかし百枝はオレの手を小脇に抱え込むようにしながら引っ張ってずんずんと歩き始めた。
「ちょ、ちょっとどこ行くんですか」
「いいからついといで」
有無を言わせない言葉に黙ってついて行くと、そこは昼間悔しい思いをしたあのグラウンドだった。
「阿部君、私は勝ちたいの。入学式の日にも言ったと思うけど、私は本気よ。
勝てる可能性があって不正にならないなら、私は使える手段を使うよ」
百枝の目は確かにあの日と同じように燃えていて、吸い込まれそうな気になった。
しかしオレはなんとか自分を保つことに成功した。
「それで使える手段が選手と寝ることですか。お粗末なことで」
わざわざ挑発するように言ったオレを鼻で笑って、百枝はオレをベンチに座らせた。
「言ったでしょ、なんだってするって。私に従ってちょうだい」
ベルトを緩め、下着を穿かせたままオレのモノだけを外に出した百枝はそっとしごき始めた。
甘夏潰した握力の持ち主とは思えないような力加減にオレはつい背を逸らした。
「くッ」
「ふふふ、ここは素直なんだね阿部君」
自分でした回数なんか数え切れないけど、他人に触られるのは初めてで
いつもと勝手が違うし次にどこを触るかわからないというスリルですぐにオレのモノは硬くなった。
「硬くなったねー。まあ、こんなもんかな」
カリ首を人差し指と親指で弄られる。硬くなればムケるとは言え仮性包茎で余った皮を広げられ、
包皮越しに亀頭を擦られた。先走り皮と亀頭の間でがクチュクチュといやらしい音を立てる。
オレの息が荒くなったのを見て取ると百枝は唇だけで笑い、皮をずり下げると亀頭に直に触れた。
「うあああっ」
先ほどまでと違う強く鮮やかな感覚に背骨を何かが走り抜けるような気がした。
そうやって先端から根元まで手で弄り尽した後、百枝がオレのモノに顔を近づけ、
そして一気に口に含んだ。
「あっつぅ……」
これも初めての感覚だ。舌と口蓋に挟まれながら根元を唾液でぬぷぬぷした感触になった唇が責め立ててくる。
よく歯を立てないでいられるな、と思ったところで後ろポケットの携帯の存在を再び思い出した。
そうだ、今はオレが屈したとでも思ってるんだろう。でもアンタの思い通りなんかになってやるもんか。
百枝の口はなおもオレから色々なものを奪って服従させるべく動いている。
百枝の後頭部に左手で触れて動きを助けながら、右手でこっそりと携帯を取り出す。
サイレントモードのままの携帯を開く音さえ気づかせないようにわざと声を出し足を地面に擦りつけ、
用意は準備万端だ。あとは一度だけのチャンスを待つばかり。
オレの下半身からはもうそろそろ限界だという信号が送られてくる。
百枝の口の動きも早くなり、自分でも登りつめていくのがわかる。チャンスは、1回きり。
「くッ」
射精する直前に百枝の頭を引き剥がし、白濁した精液が百枝の顔や髪や胸元にかかる。
その間にオレはカメラを起動していた携帯のシャッターを押した。
連射モードのカメラは、百枝がオレのモノを咥えているところから精液が顔にかかるまでを確実に捉えた。
「っ、なにを……!」
動揺の色が百枝に浮かぶ。オレは肩で荒い息をしながらもカメラをプレビューモードにして
ディスプレイを百枝に向かって突きつけた。
「さあ、こんな写真撮られてどうするんですか?」
ぐっと息を呑む百枝に追い討ちをかけることにする。
「この写真、高野連に持ち込んだらどうなるのかなあ?なあカントク」
ここまで言えば目の前のこの女は泣き崩れて許しを請うはずだった。
そしてこちらが優位に立っているということを完全に解らせてやるはずだった。
しかしプレビュー画面を呆然と見ていたはずの百枝の目はギラリと光り、唇はにいっとつり上がった。
「やれるもんならやってみなさい。あなたも野球が出来なくなるのよ」
まさか。この女を組み敷いているのが自分だという証拠が一緒に写ってしまったってのか?
もう一度プレビューを見直そうと思ったが携帯を持つ手を強く握って固定されているせいか手首を返すことさえ出来ない。
「私は野球を諦めるだけで済む。でもあなたはどこに転学しようと硬式野球部に入る限り高野連の影は付いて回るし、
口さがない人はどこにでもいるわ」
しばらく睨み合いが続き、チチチチと鳴く虫だか鳥だかの声だけが響いていた。
先に口を開いてしまったのは、オレの方だった。
「……アンタ、本当に野球諦められんのかよ」
妙に喉が渇いて声がおかしな出方をしたが、気にしていないように百枝は笑った。
「阿部君こそどうなのかしら?自分の言うなりになりそうでしかもコントロールのいい投手見つけて、
リトルリーグ名門で4番を打ってたバッターもいる。こんなチームをあなたは手放せるの?」
「ふ、ふふ、ははは、あはははは」
気づけば笑いが口から漏れていた。それは悔しさなど通り越していっそ愉快でさえあった。
そうだ、彼女が手放したくないものはそのままオレが手放したくないものでもあったのだ。
負けだ。オレの、負けだ。
素直に負けを認めるのも悔しいので、精一杯意地の悪い笑い方をしてみせる。
「食えない人ですね、カントクも」
「君こそついこないだまで中学生だったくせに、なかなかの策士よね」
「どうやらオレたちは同じ穴の狢ってとこですかね」
唇の端を歪めて笑うと百枝も同じようにニッと笑う。
「そのようね。さあどうする?続き、する?」
「望むところですよ」
「オッケー。じゃあその前に……そこの陰で聞き耳立ててるアナタ、いらっしゃい。一緒に相手したげる」
最終更新:2008年04月27日 01:41