8-156-166 ミハモモ(モモミハ?)


とうとうこの日が来てしまった。
百枝は、特別な日にだけ身につける上等のスーツに身をつつみ、淡く香る香水を胸元に噴きかけた。
今日、百枝が初めて指導した選手たちが西浦を巣立つ。
そして、
―――――三橋との約束を、かなえるべき時が訪れる。

百枝が謝恩会の会場に着くと、すでに集まっていた選手たちから一斉に歓声があがった。
最後の時間を仲間たちで過ごそうと、野球部の謝恩会はクラスの打ち上げの後に設定してあったため
何人かはすでに酒が入っていると見え、会場は異様な盛り上がりを見せている。
未成年なのだから飲酒はまずいのだが、今日だけは大目に見なければならない。
今まで不祥事がないようにと目を光らせてきたことを思い、百枝は感慨深く初めて送り出す選手たちを眺めた。
3年間の笑い話や苦労話が思い思いに語られ、心地よい興奮に彩られた時間はまたたく間に過ぎていく。
最後に、選手たちから監督へ謝辞が送られることになり、一人一人から感謝の言葉や明日からの生活への決意が語られ、
――――ついに最後の選手の順番が来た。
百枝は、3年間でもっとも大きく成長を遂げたエースの姿に感動もひとしおだったが、
当の三橋はどこか焦点の定まらない目をして、ゆらり、と頼りなく立ち上がった。
(…なんかヘンね?)
「おーい、三橋!大丈夫かあ?」
「おっまえ、酒弱すぎ。一杯でなんなの?それ」
(なるほど)
どうやらここへ来る前にクラスで飲まされたらしい。
「頭まわんないだろうけど、何でも今思ったことを言えばいいんだかんな!」
「…い、い ま?」
「そ、監督に言いたいこと、なんでもさ!」
三橋の兄を自認する田島に促され、顔をあげた三橋と目が合った瞬間、百枝はいやな予感がした。
ちょっと待ってよ!と思う間もなく、三橋は軽く息を吸い込むと、精一杯という風に声を張り上げて、
「ス、スキ です!」
と、ワンナウトー!と叫ぶ勢いで言い放ったのだった。


一瞬、それまでざわついていた会場が水を打ったように静かになり、
次の瞬間、
スパコーン!と衝撃的な音が会場中に響いた。
阿部が三橋の頭を思い切り叩いたのである。
当然のこととして三橋はその場にくずおれ、何食わぬ顔をして阿部はその体を受け止めた。
そして、「監督が女に見えるなんておっまえどんだけ見境ないんだ!」と悪態をつく。
その瞬間どっと笑いが起こり、今の告白は謝恩会の最後を飾るエピソードとして、
その高揚した空気の中にきれいに消化されていった。
百枝がほっとして阿部を見ると、阿部が百枝にだけわかるように目配せしてくる。
不思議に思いながら、阿部のそばまでいくと、阿部は三橋を指さして小声で百枝に言った。
「オレたち二次会も行くんで、申し訳ないんスけどこいつ一緒に連れてってもらえますか」
「いいわよ、車を拾う予定だから」
「あ、こいつはオレが運ぶんで。監督は上で待っててください」
促されるままに店の外に出てタクシーをつかまえると、阿部が三橋をかついで階段を上ってきた。
タクシーの中に三橋を押し込むと、阿部はまじめな顔つきで「今日こいつんち親いないんスよ」と言った。
百枝はその言葉にドキッとしたが、阿部の表情から他意はうかがえない。
阿部はしばらく三橋のスーツの胸ポケットを探っていたが、キーホルダーを取り出すと百枝に手渡してきた。
「これで家入れるんで」
「最後まで世話女房だったわね」
百枝がそう言うと阿部は人の悪い笑顔を浮かべにやりと笑った。
「今日はこいつの大一番ですから。こいつのこと、頼んますよ」
(…!!)
その瞬間百枝は阿部の意図に気付き、さきほど三橋の頭を叩いたのもすべて計算づくだったのだと悟った。
「3年間でずいぶん仲が良くなったみたいね?」
動揺をさとられないように憎まれ口を叩くと、阿部は三橋を振り向いて薄く笑った。
「おかげさまで。また二人で部に顔出しますから」
そういうと阿部はぺこりと頭を下げ、タクシーのドアを音を立てて閉めた。


(まあ、いいか)
阿部は決して口外しないだろうし、実際先ほどの機転にはかなり助けられた。
百枝がちらりと三橋を見やると、三橋はまだ気持ちよさそうに眠っていた。
一杯しか飲んでいないというのが本当なら、ずいぶんと酒に弱いということになる。
(こんなんで大学大丈夫なのかしら)
大学に入れば飲み会の機会はぐんと増えるはずである。
こんなに無防備で女の子につけ込まれたりしないだろうかと、百枝はわずかに不安に駆られた。
先ほどの三橋の告白を思い出し、まだ自分は返事さえしていないのにと苦笑がもれる。
三橋の家の一つ手前の角で、百枝は三橋を揺り起こした。
さすがに一人で運ぶことはできないから、どうにか自力で歩いてもらわねばならない。
(今日はもう遅いし、話はまた今度になりそうね。)
百枝が監督しての最後のつとめを果たすべく「三橋くん、起きなさい!」と声をかけると、
存外にあっさりと三橋は目を開き、百枝の姿を認めると、「ひぃ!」と叫んドアに体をぶつけそうな勢いで後ずさった。
これが仮にも好きな女性に対する態度だろうか。
百枝は少し気を悪くしたが、今更だとも思い、ため息を一つ着くと前に向き直って言った。
「もう家に着くわよ。忘れ物がないようにね。」
「は、はい…」
間もなくしてタクシーは三橋家の前にすべるように止まった。
百枝が「水分をきちんととって、今日は早く休みなさい」と告げると、三橋は驚いたように目を見開いた。
早く三橋を休ませたほうがいいと判断した百枝は、それにはかまわず、運転手に次の行き先を告げようとする。
しかし、それは三橋に、「ま、待って…!」と手をつかまれたことにより阻まれてしまった。
運転手の前で何をはじめるのかと、百枝がかたまっていると、
「お客さ~ん、降りるの降りないのお?」と運転手に間延びした口調で問われ、
三橋は「お、降り ます!」と告げると、握った手に力を込めながら願うような目をして百枝をじっと見つめる。
(…私はこの目に弱いわ)
百枝はため息をつくと、観念してタクシーを降りた。


こう見えて三橋は結構強引な性格である、と百枝は思う。
大抵の場合、驚くほどの素直さを見せるが、自分にとってのここぞ、という場面で譲るところはついぞ見たことがなかった。
たとえば、マウンド。たとえば、
(…私に関してもそうよね)
そこまで考えて百枝は、自分の思考に一人赤面した。
そして、今はまだそんなときではないと思考を切り替えようと試みる。
「三橋くん」
「は、はい」
「とにかくまず水分をとりなさい。話はそれからよ。いいわね?」
「う、オ、オレ」
「何よ?」
文句があるのかと威圧的な態度に出ると、三橋は青くなって目をそらしつつ言った。
「一回 寝たら、だ、大丈夫 で」
そこまで聞いた百枝は、みなまで言わさずにひゅっと右手を伸ばして三橋の頭頂に手を置きほんの少し力を込める。
「聞き捨てならないわねえ?どうしてそんなことがわかるの?」
「うっ、しょ、正月 に、じ、じいちゃんが、」
(うん、調子出てきたわ)
がたがた震える三橋を目にすると、監督モードに自然に切り替わる自分がおかしかったが、そのほうが楽なのも確かだった。
百枝がにっこり笑って手を離し、「なら仕方ないわね」というと、三橋はほっとした様子で息をついた。
その様子を見ながら百枝はふと思いつき、「でも、お酒には気をつけなさい。知らない人の前ではできるだけ飲まないように」と言い添える。
年長者の分別に見せかけて釘を刺すと、三橋は百枝の意図には気づかずに素直にうなずいた。
7つも年下の男の前で余裕のないところを見せるのは本意ではなかったから、こうした三橋の素直さはありがたい。
(それにしても)
一度寝たら酒が抜ける体質だというのが本当なら、三橋にはもう付き添いは要らないということになる。
百枝は、両親のいない生徒の家に理由もなく上がりこむことに抵抗を感じて、玄関扉の前でしばし逡巡したが、胸ポケットを探る三橋の様子に鍵を自分が預かっていたことを思い出し、とりあえずは、と鍵を渡した。
「な んで、カントク が?」
不思議そうにたずねる三橋に阿部から鍵を手渡された経緯を説明し、「阿部くんは知ってるのね?」と聞くと、
「き、気付いたの、あ、阿部 くん だから」としどろもどろに返された。
「どういうこと?」
「あ、オ、オレ がカントクを好きって、」
(なるほど。三橋くんのこととなるとさすがに良く見てるわね)
百枝が感心していると、三橋は少し赤くなって俯き、小さな声で「あ、あの!」と言った。
三橋のこの様子。
百枝は少し緊張して、次の言葉を待った。
三橋は、ほんの少し震えながら、けれど勢いよく面を上げると、まっすぐに百枝を見て言った。
「つ、続き を」
――――聞かせてくれます か?
そうして、それだけ言うと、またぱっと顔を伏せてしまった。


三橋は腕をまっすぐにおろしていたが、握りしめたその両手がわずかに震えているのがわかった。
春の空気を震わせる三橋のおびえと、勇気。
このときを待っていた、と百枝は思う。
けれどそのためには私にももう少しだけ勇気が必要だ。
百枝は、三橋の震える両手をとり、その熱を確かめるようにして自分の指を絡ませていく。
「迷惑じゃないって言ったわね」
「は、はい」
「三橋くん」
百枝は三橋に近づくと、少し背伸びしてその耳元に唇を寄せた。
「少し寒いわ。抱きしめてくれる?」
瞬間、とまどいがちに長い腕が伸びて、百枝を包み込むように三橋が抱き寄せる。
(あたたかい)
百枝は目を閉じると、体の力を抜いて三橋に体重を預けた。
今度はためらいなく、強い力で抱擁され、百枝はうっとりしながらささやくように言った。
「あなたのことが好きよ。あなたが好きだって言ってくれて、うれしかった」
それは小さな小さな声だったが、三橋が百枝を抱く腕に力を込めたので、三橋の耳にきちんと届いたのだとわかった。


三橋が自分の告白を聞いたのだとわかると、恥ずかしさが込み上げてきて心細いような気持ちになり、百枝は三橋の胸に顔を押し付けた。
こんな真似は自分には似合わないという自覚はあるのに、三橋の前ではいつものペースが保てない。
3年間、一切の弱みを見せずにきた相手の前でどのように振る舞って良いのかわからず、百枝が顔を上げずにいると、
三橋が「寒く、ないです か?」と問うてきた。
そして、百枝から腕をはなすと、「う、家 に、」と言いながら玄関の鍵を開けようとする。
百枝は今このタイミングで家の中に二人きりになることにとまどったが、邪推かもしれないと素直に三橋に従った。
だってやはり3月の夜は寒い。
(それにまだ…帰りたくない)
卒業したばかりの元生徒と今すぐどうこうする気はなかったが、お茶を飲むくらいなら許される気がした。
「ご両親はどちらに?式には見えたわよね」
「あ、ぐ、群馬に。今日は、帰って きません…」
三橋はそう言うと目に見えて赤くなり、顔を隠すようにうつむいてしまった。
(ちょ、ちょっと!)
何故そこで赤くなるのよ!と突っ込みたかったが、この上三橋におどおどされるのも面倒な気がして何も言わずに百枝は靴を脱いだ。
ようは自分が流されなければ済む話なのだ。
さすがに18の男の子に自制しろと言うのも無理があるというものだし、そういう雰囲気になってもうまくかわすぐらい、訳のないことである。実際、百枝はその手の経験だけは豊富にあった。
百枝が気にしない素振りを見せると、ほっとしたのか三橋はいそいそと靴を脱ぎ、リビングに百枝を通すと、暖かいお茶を入れてきた。
しかし、三橋はお茶を手渡しても、自身はソファに座ろうとせず、何となく所在なげに百枝の前に立っている。
「…三橋くん、座ったら?」
「あ、はい」
おどおどとそう言うと三橋は、百枝から微妙に距離を離して座った。
(えーと)
「もっと近くに座りなさいよ」
「え、で、でもっ」
百枝が少し近づくと、三橋は青い顔をして後ずさる。
(心配する必要、なかったみたいね)
百枝はため息をつくと三橋に向き直る。
「三橋くん、わたしがこわい?」
「い、 いい、えっ」
「うそね」
きっぱり言ってみせると、三橋は、目をそらしながら言った。
「カントク じゃなく て、き、嫌われる のが」
こわい、とどうやらそういうことらしい。あまりに三橋らしい思考に百枝はこの先を思い気が遠くなったが、
今は三橋になんとか自信を持ってもらうのが先決である。
何ヶ月も待たせた自分にも非はあるというものだ。
百枝は決心すると、三橋の前に跪いた。


「三橋くん」
まっすぐに三橋の目を見ながら言葉をつむぐ。
自分の気持ちがきちんと届くように。
「あなたのことが好きよ」
そう言うと百枝は手を伸ばして三橋の頭を両手で包み、その柔らかい癖毛に指を絡めると、ぐっと力を入れて引き寄せ、バランスを崩し掛けた三橋に優しく口付けた。
ただ触れるだけの優しい口付けを何度も繰り返す。
三橋は最初のうちはされるがままになっていたが、徐々に慣れてきたのか、キスしながら百枝を抱き寄せ、その体を持ち上げてソファに座らせた。
そうして、ソファの背に百枝の体を押し付けると、一旦唇を離して百枝をじっと見つめる。
赤く染まった目の縁の色に心を奪われ、
百枝はかすかに荒くなった息づかいの生々しい音を聞いた。
三橋は百枝の正面からソファに乗り上げると、少しかがんで百枝の背をそっと抱きしめる。
しばらくそうして無言でいたが、やがて抱きしめたままの百枝の耳元に唇を寄せると、
「舌 を、入れてもいい です か?」とささやいた。
その言葉を聞いた瞬間百枝の体はかあっと熱くなった。
なぜわざわざそんなことを聞くのか、というとまどいと羞恥が半分。
けれどあとの半分は。
「…いいわよ」
これから起こることを体が求めているのだ。


百枝の言葉が終わるより早く、三橋は百枝のあごをつかまえると、そっとその唇に舌を這わせた。
(…!)
てっきり口づけられるものとばかり思っていた百枝は突然与えられた感覚に耐えきることができず、思わず吐息を漏らしてしまう。
それが合図になったかのように、三橋はゆっくりとまさぐるように百枝の唇に舌を差し入れてきた。
三橋の舌は決して荒々しく動かず、優しく探るような動きで、百枝の口腔の中をけれど容赦のないしつこさで舐めまわす。
(…どうしよう)
百枝は焦っていた。ぬめる三橋の熱は、まるで三橋そのもののたちの悪い強情さで、百枝の熱を暴こうとする。
こんなふうに優しくされるとかえって感覚が鋭敏になるのだ。百枝は声を漏らすまいと三橋のスーツの胸元をつかんだが、三橋の舌がようやく出ていきかけてほっとした時に、唇の端の敏感な箇所を舐められ、思わず声を上げてしまった。
「やあ…っ」
自分の声にはっとして、思わず目を開くと、三橋が驚いたように自分をじっと見つめていた。
「あ の、き、きもち」
三橋が何を言いかけたかを気付いた百枝は、三橋の首に腕を回すと、有無を言わせずに濃厚なキスをしかける。
(私にそんな態度、百年早いわ)
百枝が先ほどの出来事を忘れさせようと、今までに習得したキスのコツの全てを込めて、三橋の舌を吸ったり舐めたりしていると、三橋は腰が抜けたようにへなへなと座り込んだ。
(良い気味)
百枝はキスを続けながら、指先で三橋の耳や首元をなぞり、性感を刺激することも忘れない。
しばらくそうして楽しんでいたが、そのうちに三橋は耐えきれないというように百枝の腕から逃れ、
ソファの横に倒れ込んで目元を両腕で覆った。
肩を大きく弾ませている。
せわしない呼吸が苦しそうだ。
「どうしたの?」
百枝が意地悪く問いかけると、三橋は涙のにじんだ目をついとそらし、「だ、ダメ、もう…」と言って目を閉じた。
そのいたいけな様子に嗜虐心をあおられ、百枝は三橋の上に馬乗りになると
「だめじゃないでしょう」と、すっかり張りつめた三橋の股間をなぞった。


「うぁっ」
三橋はびくりと肩を揺らすと、ぎゅっと歯を食いしばり、「や、やめ…て くださ」と途切れ途切れの息の中から言う。
(…可愛い)
確かに快感を覚えているらしいのに、百枝の愛撫を拒否するのは羞恥のためだろうか。
今時めずらしいその純朴さに百枝はかえって興奮をおぼえ、その首筋にキスしながらズボンのベルトに手を掛ける。
素早くベルトを外し、ジッパーを下ろすと、三橋が「止め て…!」と懇願してきたが、
「いやよ」とすげなく言って下着の中に手を差し入れた。
三橋のかたちを確かめると、それはすっかり硬くたちあがっている。
三橋はその瞬間恐怖に近い表情で百枝を見たが、百枝が指でやさしく包むようにすると、
ぎゅっと目をつぶり、次の瞬間背筋だけで起きあがって百枝の体を反転させ、自分の下に組み敷いた。
(…え?)
とっさに何が起こったか分からず、百枝は近づいてきた三橋の顔に思わず目をつむったが、
突然スカートをまくり上げられ、今度は逆に驚きのあまり目を見開いた。
「ちょっ、みは…!」
三橋は百枝の制止も聞かず、百枝のスカートをめくり上げ、ふとももとショーツを露出させると、その足を大きく開かせ、ショーツの上から百枝の足の間に性器をこすりつけるように動かす。
「や…!あ、ああ、や、やっ」
いくら布越しの感触とはいえ、すでにすっかり濡れていた部分に硬くたちあがったものを擦りつけられ、百枝は耐えることができず声をあげ、痺れるような感覚を逃そうと三橋のスーツの胸元をつかんだ。
あんまり強くつかんでは皺になってしまう、と頭の片隅を冷静な思考がよぎったが、激しい三橋の動きにそんな思いも消し飛び、すぐに三橋の動きを追うだけで精一杯になってしまう。
下着越しにも百枝の体液があふれ、三橋の性器の先端を濡らしているのがわかった。
体液の混じり合う音があたりに響き、百枝は耳を覆いたかったが、両腕を三橋に縫い止められていてそれもかなわない。
三橋は最初闇雲に動いていたが、百枝が抵抗しないとわかると、足を開かせた姿勢のまま百枝のショーツの中心をめくりその性器を露出させ、最も敏感な部分に自らの性器を押し当てぐりぐりと動かした。
「…っ!や、だめえ、っは、ああ、やっ」
(だめっ!いっちゃう)
百枝が反射的に足を閉じかけたとき、三橋が百枝の体から離れ小さくうめくのが聞こえ、百枝の太股に白い液体が伝った。

三橋は射精して我に返ったのか、サイドテーブルのティッシュペーパーで百枝の足を拭ったが、
はたと動きを止めると性急な動作で百枝のショーツを下ろそうとした。
百枝は達した後特有のけだるさにぼんやりしていたが、三橋のすることにぎょっとして思わず体を起こそうとすると、青い顔をした三橋と目が合う。
「ご、ごめん なさ、オ、オレ」
そう言いつつ三橋は百枝のショーツを脱がせると、閉じていた足をまた大きく開かせた。
(なっ…!)
「三橋くん!なに…っ」
「オ、オレつけるの 忘れてて!む、夢中で、」
ごめんなさい、と繰り返し謝りながら、三橋は百枝の性器に指を這わせた。
どうやら精液が付着していないか検分しているようだが、それにしても、
(恥ずかしいのよ!)
一体何の羞恥プレイだ、と百枝は思ったがあまりに真剣な三橋の様子に止めろと言い出すことができず、ただこの時が過ぎ去るのを待つしかないと歯を食いしばった。
「あ の、カ カントク、」
「…何よ」
「どっちなのか、わ、わかりませ」
「はあ?」
「うう、オレ のか、カントクの か」
「じゃあもういいから!」
早く下着をはかせて!と百枝は心の内で叫んだが、三橋は足の間にかがむと今度はその部分に舌を這わせてきた。
「っ!」
どうやら、とりあえず舐めとろうとしているようだったが、一度達してすっかり敏感になっている場所をまさぐられ、
百枝はぴくり、と体が震えるのを止められなかった。
そうでなくても、煌々と明かりのついた部屋で下半身だけをむき出しにされ、すべてを露わにされて羞恥に気が狂いそうなのに、このうえ冷静になった相手に快感に悶える様子を見られるなど屈辱でしかない。
百枝は三橋の動きに感じていることを悟られないように、必死に息を押し殺した。
三橋は少しも痕跡を残すまいと必死らしく、柔らかいひだとひだの間を余すことなく舐めとろうと、注意深く舌を動かしている。
やがて、三橋の唇がクリトリスに達し、そこをすっぽりと濡れた唇に含まれたとき、百枝はこらえきれず声を上げた。
「…はっ、三橋くん、もう…!」
止めて、と言いかけ、三橋と目が合う。
三橋は何故か真っ赤になって、大きな目をさらに大きくして百枝を見ていた。
まるでいやな予感がして、百枝が押し黙ると、
三橋はたどたどしく言葉をつむぐ。
「ま、また、ぬ、濡れて きて…、あ あのどうしたら」
いやな予感はあたり、百枝はぎゅっと奥歯を噛みしめると、
「とにかく下着をはかせて。じゃないと握るわよ?」とドスの効いた声で三橋を脅したのだった。


これにはさすがの三橋も体を離し、百枝はようやく下着を身につけることができた。
ついでにスカートも直し、何事もなかったかのように洋服を整えると、おどおどしている三橋を一睨みし、
「あなたも服を整えなさい」と言う。
三橋のスーツは百枝が引っ張ったせいですっかり皺になっており、百枝はため息をついた。
「いい?三橋くん」
「は、はい」
「女の子とこういうことをする機会があったら、まず状況を見なさい。
もちろんきちんと避妊はすること。」
今日は最後までしていないからいいものの、と思いながら、百枝は自らの先ほどの痴態を思い出し、頬が熱くなるのを感じた。
しかし、三橋はそんな百枝の胸のうちには気付かずに、かたい声で「し、しま せん!」と言った。
「避妊しないつもり?いい度胸ね?」
「ち、ちが くて! 
カントク 以外 の女 とはし、しないって…オ、オレ」
その言葉に百枝は顔が熱くなるのを感じた。
好きだ、と答えたのだから一応自分たちは恋人同士ということになるのだろうが、まだそれを実感するには至っていない。
恋人らしい甘いささやきの一つも自分たちは交わしてはいないのだ。
三橋は百枝の瞳をのぞき込むと、「オレ の部屋 に、い、行きません か…?」とためらいがちに誘った。
百枝はそれには答えず立ち上がると「2階ね?」と言って先に歩き出す。
後ろに三橋の気配があることに、あたたかい気持ちが満ちるのを感じながら、百枝は小さな声で言った。
「私もあなた以外とはしないわ」
「え?」
「なんでもないわよ。明日も練習だからもう寝たいわ。」
一緒のベッドで眠ってもいい?と三橋を振り向いて問いかけると、三橋は頷いて百枝の肩を抱いた。
最終更新:2008年04月27日 01:48