8-190-196 ニシチヨ ◆/3cEp/K.uQ
「やっぱり、3年も経てば飽きられちゃうのかな」
昼下がりのファミレスにはあまり似合わない不穏な言葉に、西広は眉を動かした。
目の前ではその言葉の主である篠岡がアイスティーをゆっくりと飲んでいる。
「飽きるって、アイツが?篠岡に?まさか」
フォローを入れたつもりだったはずなのに視線を更に落とす篠岡を見て、
西広はもしかして地雷を踏んでしまったのかと身構えた。
「久しぶりに会って指一本触れないって言ったら大げさだけど、
なんていうか、その、してない、んだよね」
後半を恥ずかしそうに早口で言う篠岡を見てなんだそんなことか、と西広は拍子抜けした。
「何年経とうがアイツは篠岡のこと好きだと思うよ?たまたま気分が向かなかっただけかもしれないし、
寝ないからって飽きたってのも短絡的なんじゃないかな」
少々強引かもしれないと思いながらも篠岡をこれ以上うつむかせないように西広は言葉を継いだ。
「大体飽きる前に向こうがなんか注文つけてきたりするだろ。今日はこうしてみろとかさ。
たまには違う趣向にチャレンジっていうの?」
「んー、そういうのも特にないかなー。遠距離だからちょっとでも会えたときは
ベタベタするもんなのかなーと思ってたんだけど、向こうはもう今はそんなんじゃないみたい。
なんか、私が期待しすぎてるのかなあ」
夏の終わりに昔好きだった女の惚気なんだか別のものなんだかよくわからない話を
よくもまあ聞いてるよなあ、とひそかに西広は苦笑した。
部活の仲間と付き合いだしたその時にひっそり胸の中の想いを手折ったその相手は今、
西広の目の前で憂い交じりのため息をついた。
高校生の時よりも色気の増した薄紅色の唇が軽く閉じるのをじっと見て、
それから篠岡と目を合わせて西広はある提案をした。
「それなら篠岡、オレのこと練習台にしてみる?」
――何も難しく考えることはないよ。アイツにしてみたいと思ったことを、オレで試せばいい。
たった一度のことだ。篠岡とオレさえ黙ってれば、何も問題はない。そうだろ?
その言葉は、冗談として笑い飛ばされるはずだった。
だがその提案を聞いた篠岡はしばしの黙考の後、首をこくんと縦に振った。
(しかし、本当に話に乗ってくるとは思わなかったな)
ファミレスを出て、その日1日借りる約束の父親の車を運転しながら西広は思った。
助手席には篠岡が所在なさげに座っている。
車はさいたま市内を大宮方面へ、更に東に向かい走っていく。
「知り合いがいなさそうなあたりの方がいいよね?」
車に乗り込む前に問いかけた時、篠岡は黙って頷いた。
(不思議なことでもないよな、二十歳越えて彼氏が手出してこないって悩むこと自体は)
悩んでいるのが篠岡だということが自分にとっては問題なのだろうと西広には解っていた。
高校時代。初めての野球。仲間たち。白球。熱意に目を輝かせる監督と、穏やかに笑う責任教師。
そして、影から自分たちを支えながらも野球への思いは誰にも負けることはなかったマネージャー。
輝く笑顔に幾度となく励まされ、挫けそうな日があっても三年間野球を続けてこられた。
それが全てではない。それでも、恋に落ちるには十分な条件だった。
(そして、何も言えずに終わった)
今でもあの日のことは思い出せる。部活を引退して、篠岡に恋の相談をされた日。
(野球部のヤツだったから、オレは黙ってたんだ)
そして彼女の恋が成就し、微笑んで祝福をしたあの日。
(アイツだから黙ってた。アイツも篠岡のこと好きなのは知ってたから)
卒業後、篠岡は埼玉に残り相手は県外に進学した。
恋の相談をしたこともあってか、何か悩み事があると篠岡が頼ってくるのは決まって西広だった。
(もう3年近くになるのか、我ながら本当によくここまで話聞いてきたよな)
東北道のインター入口を示す標識が現れはじめ、その手前で西広はウインカーを出して脇道に逸れる。
程なくして着いた東北道脇のその一画にはラブホテルが何軒も立ち並んでいて、
その中の1つに西広が運転する車は吸い込まれていった。
「先に風呂入っちゃおうか。いきなりとかやだろ?」
「そ、そうだね。私、お湯入れてくるよ」
部屋に入ってからの気まずい空気から逃れるように、篠岡がバスルームへ入っていった。
西広は冷蔵庫を開け、ミネラルウォーターを手に取ると三分の一ほどを一気に飲んでベッドに腰かけた。
「篠岡もなんか飲む?」
バスルームから出てきた篠岡に尋ねると彼女はただ首を横に振り、
ベッドの横にあるソファにぽつねんと座った。
「しかし安めの部屋選んだってのに広いよね。テレビも大きいしさ」
「西広君は」
「ん?」
「西広君は、こういうとこ、慣れてるの?」
「別に。使ったことはあるってくらいだよ」
「そうなんだ。私、実は初めてなんだよね」
意外な答えに西広が驚いていると、篠岡は慌てたようにしなくてもいい弁解を始める。
「あっあのね、こっちに戻ってきた時は私が向こうの実家にお邪魔してたり、
あっちに行った時にはアパートだから、なんていうか」
「ああ、一人暮らしでわざわざラブホ代出すのもってことか。
……お湯、溜まったみたいだね。一緒に行く?」
返事を待たずに西広はバスルームの方へ歩いていき服を脱いだ。
湯船に浸かると中身が妙にぬるっとしていた。
(ローションバスってやつか。ここは標準でこういう風になってんのかな)
家とは違う広めの湯船で足を伸ばして体を温めていると、バスルーム入り口のガラス戸が
軋むような音を立てて開いた。篠岡の白い裸身が西広の目に入ってきた。
高校時代は細い印象しかなかったが、こうして裸を目にすると腰から脚にかけてのラインが
まろやかな丸みを帯びていて篠岡が女であることをいやがおうにも意識させる。
「入っといでよ」
西広の言葉に従うように篠岡が湯船に入ってくる。
西広が足を縮めたのを見たせいか向かい合うように篠岡は座り、
落ち着かないように西広の肩のあたりを見たりガラス壁の向こうを眺めたりした。
「目のやり場に困る?」
頷く篠岡を見て西広は手招きをした。
「じゃあこっちおいでよ。背中向けてればこっち見えないだろ」
篠岡は一瞬戸惑った様子を見せたがやがてゆるりと立ち上がり、西広に背中を預けるようにして座った。
細いうなじに顔を埋めると篠岡の全身がビクッと動いたが、
西広の両腕が逃がさないように篠岡の体を捉えた。
うなじに軽いくちづけを繰り返しながら、西広の両手が篠岡の乳房をゆっくりとまさぐり始める。
まだその低い頂にも触れていないのに、ローションバスの粘性がいつもと違う感触を与えたのか
篠岡の口から吐息が漏れた。ゆるゆると胸全体を揉み、
それから先端をつまむと吐息は音を伴い始めた。
「んんっ」
胸を弄ぶ手の片方をゆっくりと下へずらしていくと西広は問いかける。
「気持ちいい?」
体をまさぐられながらの質問に、篠岡の頷きには甘い吐息が混ざった。
「声出しなよ。我慢しなくていいからさ」
それでも口を閉ざし、しかし快感を隠しきれない篠岡の鼻にかかるくぐもった喘ぎを聞くと
西広は一旦手の動きを止め、優しく篠岡を抱きしめると耳元で囁いた。
「ここは実家でもアパートでもないんだ。誰かに何か言われることなんかないし、
それにここならみんな同じことをしに来てるんだ。気にしなくていいんだよ。声、聞かせてよ」
篠岡の耳朶を口に含み、甘噛みし、舌で弄ぶとようやく篠岡の唇が開いた。
「っはぁ……」
西広は薄く笑うと、左手で篠岡の左脚を持ち上げて閉じていた膝を開かせ、
右手で篠岡の秘芯を弄りはじめた。
篠岡の両脚は西広の両膝にかけるような形で広げられ固定され、
蜜壺は指の侵入を許し、胸を繰り返し揉まれ首筋を西広の舌が這う。
「やっやあぁっ、あ、あ」
快感を声に現すことで更に体はほぐれ、新たな快感が呼び覚まされていく。
「ねえ篠岡、ぬるぬるしてるけどお湯のせいかな?それとももう濡れてる?」
こらえきれずに喘ぎながら首を横に振る篠岡だったが、それは否定のためなのか、
繰り返し自分に与えられる刺激に耐えるためなのか、篠岡自身にもわからなかった。
「はぁ、あ、っくっ、あっあはぁっ」
尻の辺りに張り詰めた西広自身の存在を感じながら最初の絶頂に達しようとしていたその時、
西広が急に両手の動きを止めた。
突然のことに潤んだ目で篠岡が振り向くと、西広は穏やかに微笑んだ。
「体洗おうか。一旦出よう」
備え付けのボディソープを手に取ってシャワーで泡立てると、その泡を西広は篠岡の体に塗りつけた。
湯船の中で与えられた刺激によって昂った篠岡の体はそれだけで震えた。
背中、脇、腕。今まで触っていた場所をわざと外すようにボディソープの泡が体にまとわりつくが、
その感触はことごとく篠岡に快感を与えていく。
「胸もあそこも触ってないのに、気持ちよくなっちゃってるの?」
西広の声に篠岡がたまらず何度も頷く。
「じゃあさ、壁に手、ついてよ」
篠岡が言われるがままに両手を壁につくと、再びボディソープを手に取った西広が
胸と秘芯を同時に触ってきた。
「ふあああぁぁぁぁっ」
素直に快感を声に出す篠岡を後ろから両手で責めたてながら、
西広は自分の中に芽生えていたものの存在を自覚した。
(もしかしたらオレは、自分の手で篠岡のことをめちゃくちゃに泣かせたかったのかもしれないな)
シャワーで泡を洗い落として体を拭き、ベッドに横になった二人はしばらくそのままでいた。
篠岡が上体を起こして心細そうに西広の顔を覗き込むと、西広はさも屈託なさそうに微笑む。
「そう言えば、オレは今日練習台なんだったね。忘れてたよ。
オレは自分からは動かないから、篠岡の好きなように動くといいよ」
「え……」
篠岡の表情は戸惑いに変わり瞳は感情を反映して揺らいだが、やがて意を決したように西広にくちづけた。
(へえ、前に「好きな人としかキスしたくない」とか言う女がいたけど、篠岡はそうじゃないんだな)
自分から動かないとは言ったが、篠岡が懸命に絡めてくる舌を西広が迎えれば
合わせた唇からは篠岡の媚を含んだくぐもった喘ぎが漏れる。
長い接吻を終えると篠岡は西広の耳の裏から首筋へと唇を這わせ、
心臓の音を聞くかのように胸に頬を寄せた。
それから両手でそっと西広の筋肉をなぞると、篠岡の手は下腹部へと伸びていった。
篠岡は西広の膝と膝の間に跪き、顔を近づけるとまずは右手でそっとそそり立つものを握り、
根元から裏筋にかけて強すぎず弱すぎない力加減で何度も親指を往復させた。
ふう、と西広が息を吐いたのを聞いて篠岡は、今度は先端を咥えて少しずつ口内へ収めていった。
唾液で濡れた唇と西広の陰茎とが立てる卑猥な音に合わせて篠岡の頭が揺れる。
(ふうん、さすがに歯は立てないね。舌も裏筋にぴったりくっつけてるし唇まで唾でぬるぬるだ)
快感に呑み込まれるのを食い止めるようにわざと冷静に篠岡の動きを観察していると、
西広のものを咥えて懸命に口で奉仕している篠岡と目が合った。
西広が微笑みかけると、篠岡は西広自身から口を離し上体を起こして西広を潤んだ瞳で見つめた。
「ねえ、もういいかな」
篠岡の意図するところを解っていながら、西広はわざと訊き返した。
「何が?」
「……もう、ほしいの」
視線を逸らしながら求める篠岡の上気した頬を見て、西広はもうひとつ段階を置くことにした。
「篠岡はどれくらい濡れてるの?ココに、またがって擦ってみせてよ」
少しの間逡巡した篠岡は、やがて言うがままに西広の陰茎の根元へ自らの秘裂をあてがった。
「ふあぁぁ、あっ、はっあぁ、はいっちゃいそうで、こわ、あっあぁ」
竿を擦る篠岡の秘裂からは蜜がしとどに溢れ出て、口内とは違った刺激を西広に与えた。
なによりも自らにまたがり身を捩じらせて啼く篠岡の淫蕩な姿を目にして
西広の全身をびりびりと興奮が駆け抜けた。
「よく出来ました。入れたげるからちょっと待ってて」
身を起こす西広と入れ替わるようにベッドに倒れ伏した篠岡は、西広がゴムをつけ終えたのを認めると
仰向けになりゆっくり脚を上げたが、西広は優しくその脚を倒すと篠岡を再びうつ伏せにした。
「顔が見えない方がいいだろ」
異を唱えるその前に西広が後ろから篠岡を貫いた。根元まで埋めると待ち望んでいたかのように膣内はうねる。
ゆっくりゆっくりじらすように西広が腰を動かせば、それでは足りないと求めるように篠岡の腰も動く。
押し寄せる快感に耐えるように篠岡は顔を枕に押し付け、手はシーツを握ったが
やがて上体が持ち上げられて掴む所を失くした手は宙を掻いた。
「もっとやらしい声聞かせてよ。せっかく気持ち良さそうにしてるんだから」
首筋を這う西広の唇と胸の先端を弄ぶ西広の指とが篠岡の残り少ない理性を飛ばしていく。
もはや快楽に完全に身を委ねた篠岡の喘ぎ声を聞きながら西広は満足気に笑うと、
果てるまで篠岡の体を容赦なく貪り続けた。
事後、背中を向ける西広へ篠岡は腕を回した。
「ごめん、私のことばっかりで、西広君が気持ちいいかどうか考えらんなかった」
回された腕をそっと退けると西広はいつも通りの穏やかな口調で
「オレは練習台で、好きなようにしていいって言ったろ?篠岡が満足ならそれでいいんだよ」
と返事をすると起き上がり、篠岡の方を見ないままトイレへ入っていった。
個室のドアを閉めると西広は便座に腰掛け、静かに大きく息を吐いた。
(あんなに好き放題篠岡を弄んでおいて『オレは練習台』?説得力も何もあったもんじゃないな)
他人には見せることのない自嘲に口元を歪め、うつむいてゆっくりと両手で髪を掻き上げた。
(もしかしたらこの先また同じことがあるのかもしれない。二度目を断れる自信はない。
でも三度目はナシだ。歯止めが利かなくなる。スリーアウトだ)
回数を重ねることは仲間への裏切りを露呈することに繋がりかねない。
出来得る限りその事態を避けたいと思うのは自分のためか、それとも?
個室から出た後で軽くシャワーを浴びてからベッドに目をやると、篠岡は丸くなって眠っていた。
西広はあらわになっている肩に毛布を掛け直してやり、
自分は服を着るとベッド脇のソファに浅く腰掛けて飲みかけのミネラルウォーターを口に流し込んだ。
空調で渇いた喉が潤っていく。時計を見れば既に夕刻と言える時間にさしかかっていた。
フリータイムの終了が先か、篠岡が目を覚ますのが先か。
(いずれにせよ、自分のためにももう少し時間は必要だ)
深く座り直すと西広はソファの背もたれに体を預け、祈るように天井を仰いだ。
最終更新:2008年04月27日 01:44