3-592-605 ミハモモ 監督とエース(303氏)
――三橋君のメンタル面をどうにかできないだろうか
私、百枝まりあがこう考えるようになったのは、三橋君たちが西浦高校硬式野球部の第一期生として入部してきてそう日が
経っていないときのことだった。
ストライクゾーンを九分割にして投げ分けることのできる卓越した制球力。それと変化球も三種類を投げ分けると高校一年生
にしては、いや、高校生としては実に器用さも兼ね備えている。ただストレートの最速は百十キロ台ちょっとと球威には
いささか欠けると言わざるを得ないものの、十分すぎるほどに魅力的な投手だといえる。
この能力を知ったときは胸の高鳴りを覚えたものだ。投手をやっていた人間から見れば、それは正に垂涎の的という言葉が
あてはまるものだった。
このことから彼は稀有な存在であるといえる。
投手の能力を語る上で球の速さを抜きにすることはできない。
私自身も少年野球に入って野球の魅力にどっぷりとはまっていった小学生のころは、プロ野球のテレビ中継で映る百五十キロ
超の剛速球を投げ込んでいく速球派の投手に強い憧れをもった。それでも次第に気づいていったのだ。どんなに速いストレート
を投げることが可能であってもそれだけではどうしようもないということを。
このことはプロ野球だけでなく高校野球レベルでも実証されている話だ。
最近のピッチングマシーンは百五十キロを有に超えるスピードを容易に出すことができる。これによって事前からある程度の
準備・対策をすることが可能となる。まあ、実際に人間が投げるボールとは球質が違うのは言うまでもないが、試合が進む
につれて速球派の投手と対峙している打者たちは次第に目が慣れていきタイミングが少しずつ合っていく。そして、その投手は
相手校につかまる(もちろん、バッターに相応の技術が伴っての話だ)。
全国大会で前評判の高い速球派の投手たちが能力を発揮することができずに敗退していくケースが多いことを例に挙げれば
わかりやすいと思う。
打者を圧倒する唸りを上げるような剛速球にキリキリ舞いさせるキレのある変化球。そして正確無比のコントロール。こんな
三拍子揃った完全無欠の投手など存在しない。もしいたとしても、そんな投手になれる素質を持った子はうちのような公立の
しかも野球部を新設したばかりの無名校などに来てくれるはずなどない。
だが、うちには三橋君が来てくれた。これは彼にも話したことなのだが、彼は将来的に百三十キロ台までスピードを上げる
ことができるはずだ。高校野球レベルまでならば、この球速で十分なのだ。この速さでも、三橋君には緩急をつけることが
できる多彩な変化球と確かなコントロールがある。
それと彼を巧みにリードすることができる優秀な捕手の阿部君もうちに入ってくれた。
今年がダメだとしても、三橋君が順調に育ってくれれば彼らが三年生になるころには本当に甲子園出場を狙えるチームとなる
だろう。
ここまで三橋君ばかりを持ち上げると贔屓だと思われるかもしれない。でも、これは仕方がないことなのだ。結局のところ、
野球というスポーツは投手がしっかりしていないと話にならないからだ。
このように私は三橋君のことを高く買っている。それでもさすがにあのウジウジオドオドしたところだけはいい顔をすること
はできない。人の性格を変えることが容易ではないということは理解している。ましてや彼の場合は、中学生時代の暗い経験
からきているものなので根深いものなのだということは想像に難くない(私は詳しくは知らないが)。それでも、投手を
やっていく上であの性格は正直向いていないと言わざるを得ない。
このことだけが野球部を始動させてから唯一引っかかっていた。
野球センスに溢れる田島君や、野球の実力も一級品で主将としての人間性も光る花井君などの個性的な面々をみっちりと
三年間鍛え上げる。そうすれば、私学優勢の風潮が色濃い今の高校野球界――その例外に漏れないここ埼玉でも必ずや面白い
結果をもたらすことができるだろう。
私はこの幸運を授けてくれた野球の神様に心から感謝していた。
今のところ西浦野球部は誰一人として脱落者を出すこともなく順調にきている。志賀先生の協力もあって部員たちが退屈――
飽きるような練習メニューをやらせていないというのも大きいと思う。それに先輩たち、上級生がおらず同じ学年の
気のいい人間たちだけだという環境も居心地がいいことだろう。
そのようななかで日々着実に力をつけていく彼らを見ていると自然と目を細めてしまっていた。これが指導者冥利に尽きる
ということなのだろうかと、私は非常に充実感を得ていた。それでも心配事はあった。
それは三橋君のことだ。
彼の阿部君への過剰なまでの信頼。
肯定的な捉え方をすれば二人とも打ち解けつつあり、バッテリーの信頼関係が徐々に構築されてきているということになる。
一方、ネガティブな見方をすれば三橋君は阿部君でないと能力を発揮できない困った投手ということになるだろうか。
これでは困るのだ。
うちの野球部は十人しかいない。野球は九人でやるスポーツなので、控えは一人だけということになる。補欠の西広君は
高校入学から野球を始めたばかりなので今の時点では戦力として数えることはできない。ということはスタメンの九人のうち
誰か一人でも欠ければ、西浦は黄色信号が点灯してしまう。
このため西広君は比較的楽なレフトで指導して、他のメンバーには複数のポジションを守れるように練習をさせている。
それと二人目の捕手には田島君を充てるようにした。持ち前のセンスを発揮してくれており、彼もそう遠くないうちに捕手が
板につくまでになるだろうと思う。
一番の最悪のケースが阿部君の離脱だ。三橋君は阿部君のリードだからこそ自分は投げることができていると考えている。
確かに阿部君の存在はうちのチームで占めるウエイトの割合は大きい。阿部君が抜ければうちは手詰まりとなってしまう可能性
が濃厚であるといえるだろう。
――阿部君が受けてくれないとまともに投げられません
これでは困るのだ。このことは私のなかでとても大きな頭痛の種として居座るようになっていた。もうじき梅雨に入り
夏の大会の組み合わせ抽選会も迫ってくる。
だが、それでも私は未だに具体的な解決策を見出すことはできていなかった。
午前からのバイトを終えて家に帰ってくるとシャワーを浴びて汗を流しサッパリとしていた。昼食の後に自分の部屋へと
戻ろうとしたところで、思い出したようにして弟の部屋へと寄ることとした。
軽く室内を物色して勉強机にお目当てのものを見つけてそれを取り、ベッドへと横になっていた。何を探していたかというと
アマチュア野球の雑誌だ。私の弟は現在、大学一年生で小学生から始めた野球を今でも続けている。彼はこの雑誌を講読しており
私はそれをこっそりと今日のようにして見せてもらっていた。
その雑誌は主に学生野球を扱っており、野球クリニックのコーナーが設けられていた。それとともに練習方法などが掲載
されており参考としていた。
「――なるほど」
今月号は残念ながらお目当ての練習方法は載っていなかったものの、十分魅力的な記事があった。甲子園常連校として名を
馳せている学校の監督さんのインタビューだった。
私には西浦高校の監督を引き受ける前に指導者の経験はなかった。高校時代は軟式野球部に所属していたものの、ただの
野球好きな女子高生に過ぎなかった。卒業後に進学した短大も当然ながら野球部などはなく、二年間をなんとなく過ごした
だけであった。その後、就職先でのスケベ上司によるセクハラに頭にきてボコボコにしてやってあっという間に退職。もともと、
ただ卒業後の進路を確保しなければならないという気持ちからの就職――自分がやりたいことではなかったので、これといった
後悔はなかった。
その後、気ままなフリーター生活を送っているなかで頂いた話が母校の監督の話で大いに心を揺さぶられるとともに
ピンときた。
――私がやりたいことはこれだったんだ
学生時代にやることができなかった硬式の高校野球。叶わなかった青春時代を再び――という代償行為といえる心情から
私は引き受けていた。
とはいうものの、公立校のそれも一度は廃部となっていた部活を復活させようというのだから予算はあまり下りるはずも
なかった。そんなわけで、ほとんどを私がアルバイトをしたお金が基本資金ということになった(顧問に就任することと
なった志賀先生も協力してくれたが)。
それでも自分がやりたいことをやらせてもらえるチャンスをもらえたのだ。お金を用意することは苦にはならなかった。
体を動かすことが好きだったので、稼ぎのいい肉体労働系のバイトに切り替えていくことに抵抗はなかったのだが問題がひとつ
あった。
指導者になるにあたって絶対に必要なもの。素人レベルではない、野球のより詳しい知識だ。
そのためバイトをしつつも、様々な専門書を購入もしくは借りるなどして読み耽っていった。
ボールの扱い方は自信があったけれど、それは軟式球の話だった。そのため家で空いた時間を使って硬式球に触れて慣れる
ようにもした。監督がノックのひとつもできないようでは話にならないからだ。
――監督が女ぁ? ありえないでしょ
こうなることは目に見えていたから持ち前の負けず嫌いな根性を発揮して熱心に取り組んでいった。
この間、およそ一年余りのことであった。
「んー、勉強になったなー」
軽く伸びをしたところで布団の下の感触に気づいた。弟も若い男だ。溜まっているものもあるだろう。
「もうちょっと隠し場所には気を使ったほうがいいわねえ……ほらビンゴ」
手をやって探ってみれば予想通りの代物が出てきた。写真誌ではなくマンガで胸の大きい女の子がそれを隠すこともなく
半裸状態で媚びるような視線でポーズをとっていた。こういうものはほとんど見たことがないからよくわからないのだが、
これをレジに持っていくのってかなり恥ずかしいのではないだろうか。
壁に掛けてある時計を見れば二時過ぎだった。午後の練習は夕方五時からで私は四時前ぐらいの出発なので時間はまだ余裕だ。
「…………」
興味本位というか暇つぶしというか、私はなんとなくそのエロマンガを開いていた。
「――意外にありそうな話よね」
読み終えたそれを静かに閉じつつ、思わず呟いていた。
マンガの内容は高校の野球部を舞台にしたもので、試合で打ち込まれたため自信をなくし落ち込むエースを彼に思いを寄せて
いるマネージャーの女の子が彼とエッチをして励ますというものだった。
そういえば愛読していた高校野球のマンガでもエースとマネージャーのカップルという組み合わせは珍しくなかった。
ひとつの王道というものなのかもしれない。
「……三橋君が女を知って男として自信がつけば、あのウジウジオドオドしたところもなくなるんじゃないかしら」
手にしていたマンガをぶらぶらと弄びつつ、起き上がって胡坐をかく。
「でも、千代ちゃんにこんなことさせられないわよねえ……」
頭にうちのマネージャーである篠岡千代ちゃんを思い浮かべる。西浦野球部にとって欠くことのできない存在となった子だ。
気立てもよく、野球大好きで一生懸命にマネージャー業に励んでくれており、文句のつけようがない仕事ぶりを
見せてくれている。
(こんな変なことをさせるわけにはいかないよね。別に三橋君のことが嫌いではないだろうけれど……。というよりも、
あの子達は可愛いマネージャーは皆のものとかで抜け駆け禁止の協定を結んでいるらしいし)
今時の高校生みたいに擦れたところがない彼らのことを思うと自然と笑みを浮かべていた。私としてもこれは好都合だった。
別に恋愛禁止とかいうわけじゃない。高校生なんだから恋愛のひとつでもしたほうが健全だ。とはいっても、うちは
十人しかいないわけで、そのなかで付き合うとなればほぼ間違いなく人間関係に摩擦が生じることだろう。余計な面倒事になる
恐れがないのは正直助かる思いだった。
とりあえず、手にしていたマンガを元の位置に戻した。
「それなら、私が三橋君に女を教える……?」
立ち上がって時間を確認すれば三時を少し過ぎたところで、野球雑誌を机の上へと置いて自分の部屋へと足を向けた。
(三橋君ってあの虐めてくださいみたいな雰囲気がそそるっていうか。普通の男子高校生みたいにガツガツギラギラした
ところがないのよね。それに女の子みたいな中性的な顔をしているし、将来は間違いなくいい男になるだろうし……)
自室に入りタンスを開けてソックスを履き、その上にストッキングを重ね履きして練習着のズボンを穿いていく。ハイネック
のアンダーシャツをすっぽりと着たところでベルトを締めて、姿見でおかしいところがないかを確認した。
「――ん? というか、三橋君って私の好みに当てはまっている……?」
部屋を出て縁側にてのんびりと午後のお茶の時間を楽しんでいる祖母に挨拶して家を出て車庫に止めてある愛車――原付に
跨って出発した。
頬を撫でていく風が心地よい。
(先行投資というか、先に唾をつけとくってのもありかもしれないわね……って、何を考えているのよ、私は。
監督が部員に手を出す――大人の女が未成年を誘惑だなんて、いかにもワイドショー受けしそうな話だってば。こんなことで
有名になんかなりたくないし、第一、淫行で捕まりたくなんかないわよ)
赤信号へと切り替わったため停車する。ウィンカーで進行方向に合図しながらあごへと手を当てていたところで、ヘルメット
の上から頭を軽く叩いていた。
「こんなバカなことは考えていないで今日も練習に励まないと、ね」
対向車に注意し二段階右折をして練習グラウンドへと急いでいった。
日曜日。かねてから計画していたとおりに練習試合を午前・午後のダブルヘッダーで組んでいた。実戦は通常の練習の何倍もの
経験を得ることができる。勝ち負けを気にしていないが、どうせなら勝利のほうがいいことは間違いない。そのため、
あの子達には言っていないが十分に勝てる相手を選んでいた。
もっとも、一年生しかいない新設校と練習試合を組んでくれる学校なのだから相手をしてくれるだけで御の字というものだ。
感謝をしなければならない。
午前は3対0で勝利を収めることができた。
そして、昼食休憩をはさんで午後の試合が始まった。
この試合中にアクシデントが起きてしまった。阿部君が走塁中に相手の内野手と交錯して足を痛めてしまったのだ。
本人は大丈夫と言ってきたが、私はそれでも彼をベンチに引っ込めた。幸い軽い足首の捻挫で済んだものの、
捻挫は甘く見ていると癖になる恐れがある。それに今はまだ無理をするような時期ではないし、
ここらで西広君に試合を経験させるのもいいだろう。そう考えて守備位置をそれぞれ変更して捕手には田島君をもってきた。
私は重要なことをすっかり忘れてしまっていた。三橋君のことだ。
阿部君にベンチから捕手へと配球の指示を送らせているものの、動揺を隠せていなかった。不必要に間が長くなってしまって
テンポが悪くなり守備のリズムが狂い、エラーを犯してしまう。不運な当たりも重なったので同情の余地も考えられるが、
ずるずると失点を重ねてしまう展開が頭をよぎり決断をしていた。
午前に投げた花井君をマウンドに送り、三橋君は花井君が守っていた外野の守備位置に移した。明らかに憔悴して落ち込んだ
様子が見受けられたが、可哀想かなと思うよりも苛立たしさが上回っており特に気に留めなかった。
結果は5対4――。薄氷の勝利というやつだった。結果的に交代が終盤の八回で助かった。これならば連投した花井君にも
大した負担とはならないだろう。
試合後、三橋君はいつにもまして私と視線を合わせようとはしなかった。
(これは考えていた以上に深刻だわ……)
帰り道にて原付を運転しながら私の口からはため息が止め処なく漏れていっていた。
お風呂を済ませて夕飯をとると普段以上の疲労を感じて早々に自室に引っ込んだ。とにかくだるくてベッドにそのまま
ダイブしていった。
(三橋君を何とかしないと取り返しのつかないことになる……)
頭に占める割合はうちのエースのことが圧倒的だった。あれほどまでに信頼、いや依存といったほうがいい。阿部君への
依存心が大きいものだったとは思わなかった。
何度したかわからないため息をまたつきながら、昼間に見ていたエロマンガのことを思い出す。
「――やるしかないわね。一回だけよ、一回だけ。あの子も口が堅いと思うからきっと大丈夫でしょ」
そのまま心地よい眠気へと身を委ねていった。
一夜明けた月曜日。昨日の試合後に予告していたように今日は週一のミーティングを開催していた。放課後に学校の視聴覚室を
借りて、最近の練習のことや昨日やった二試合の反省点などを話し合わせていた。
この間、私は特に口を挟むこともなく少し離れた場所で部員全員に提出させたレポートをチェックしていた。自分のプレーの
良かったところ・悪かったところを実際に文章にして書き起こしてみるとよく頭に入る。それに、お世辞にも勉強ができる
という子は少ないから勉強の一環にもなるだろうと考えて採用したことだった。
試合の直後に反省会を開くのもありだが、一晩時間を置くことでより深い考察をすることができる。それにゲームを終えた
直後の興奮状態でやっても実のないものになってしまう可能性もある。
それぞれの個性が出ているレポート用紙を見つつも、話し合いの様子を耳に入れることも忘れなかった。
「――監督。一応、終わったんですけど」
「うん。それじゃあ、今日はこれで解散ね。寄り道なんかせずにさっさと帰るんだよ。明日からはまた練習だから、
しっかりと休んで疲れをとっておきなさいね」
部員全員が立ち上がっての挨拶を私はパイプ椅子に着座したままで鷹揚に返していた。ぞろぞろと出入り口に向かっていく
彼らを最後尾からこっそりとついていく三橋君に視線を向ける。
――そういや、今日は一度も目が合わなかったなぁ
それだけ昨日の降板指令が応えているのだろう。私から逃げたいのだろうが、この後に話があるので帰すわけにはいかない。
「あっ、そうそう。三橋君だけは残ってね。昨日の試合について話があるから」
ギクッと見ているこちらが笑ってしまうほどのリアクションだった。キョドキョドと周囲に助けを求めるような顔色を
していた。
「三橋ー、じゃーなー」
田島君を先頭に残りの部員は脱兎のごとく駆け出していった。私が説教する――触らぬ神に祟りなしというところか。まあ、
舐められるより怖がられる存在であるほうが監督としては有益だろう。
「さて。じゃあ三橋君、こっちにいらっしゃい」
私の向かいの席を指差しつつ告げていた。さながら三橋君は判決を受ける直前の青ざめた被告人のようだった。
「あのさ。三橋君は投手にとって一番大事なことって何だと思う?」
夏が近いということで日はまだまだ高く、今のところ照明をつける必要はない。
部活に励んでいる運動部の掛け声が遠くから聞こえてきていた。相も変わらず三橋君の顔色は青かった。
少し、心外だった。せっかくなるだけ優しい声音で聞いてあげたというのに。
「……?」
「質問を変えましょうか。三橋君は自分に足りないものって何だと思う?」
「えっと、スピード、球威だと思い、ます」
「それはもうわかっているよね」
まったくなんのフォローもなくあっさりと肯定した私を見てガーンという擬音が聞こえてきそうなほどに固まってしまって
いた。
「球速は一朝一夕ではつかないもんだよ、特にね。それこそ、寒い冬場に走りこみとウエイトの時間を徹底的に増やして
春先に投げてみて実感するような場合がほとんどなんだから。まあ、これは置いておいて。
私が指摘したいものはもっと根本的なことよ」
目を伏せがちで一向に視線を合わせてこない彼に苛立ってきていた。さっと立ち上がって三橋君の顔を両手で掴み、ぐっと
上に向かせた。
「人と話すときは相手と目を合わせる。でないと失礼よ」
「は、はい……っ」
「それで、何かわかる?」
椅子に座りなおして先ほどの質問を再びした。間違えていたら叱られるとでも思っているらしく、真剣な表情で
自分なりの答えを出そうと考えている様子だった。しかし、考えても出なかったようで力なく首を左右に振ってきた。
「……わからない、です」
「ここよ、ここ。つまりハートね」
ぐっと立てた親指を左胸にトントンと当てていた。
「……?」
「精神論になってしまうけれどさ、結局のところハートが強い――マウンド度胸が投手にとって一番大事だと思うのよ。
どんなアクシデントにも動じない精神力、というかね」
暗に昨日の動揺っぷりを匂わせる。
「マウンド、度胸……?」
「そう。入学当初に比べてマシになってきたかと思っていたのね。でも、昨日の試合を見ていてそれは間違いだったと考えが
変わったわ。三橋君はさ、阿部君がいないと何もできない投手になってしまう。こう思っているんでしょ?」
二、三秒ほど間が空いてコクッと頷いてきた。
「確かに彼は優秀な捕手だと私も思う。でもね、彼が故障してしまったら三橋君の投球を受けることができなくなるでしょ?
もうすぐしたら始まる夏の大会でも昨日のような事態を考えられることだと思うわ」
「…………」
「三橋君が阿部君を信頼――頼りたいという気持ちはわかるし、バッテリーは一心同体が理想的だからね。三橋君の考えを
否定はしない。だけれど、エースがそれではダメ。捕手は関係なく、自分の力を出せるようでないといけないわ。
三橋君が一本立ちしてでっかい柱になってくれないとうちは勝ち上がっていけないのよ……っ!」
――ドンッ!
「……っ!?」
いけない。少し熱くなってしまった。思わず机を力いっぱいにぶっ叩いてしまい、目の前にいる三橋君は驚いたり怯えたりと
表情をグルグルと変えている。
こほんと軽く咳払いして体裁を取り繕い、努めて優しい笑顔を浮かべる。
ここからが本題だ。しくじることはできない。
「ところで、三橋君は好きな女の子っているの?」
「え……っと、いない、です」
「そっか」
これで第一関門はクリアだ。さすがに意中の相手いるのなら、強引にレイプまがいのような真似はしたくない。
「それなら今までに付き合った経験はあるの?」
さすがにストレートに童貞なの? とは聞かなかった。とても繊細な子だから傷つける、バカにするようなことを口に
するべきではない。
ふるふると左右に首を振って否定をされる。
そのまま立ち上がって出入り口へと歩いていき、内側から鍵を掛ける。続いて窓際のカーテンと暗幕を閉めていく。これで
外側からの日光が入らないため、かなり暗くなってしまった。そのため、照明を点して三橋君へと振り返っていた。
「……?」
私の行動がまったくわからないということなのだろう。きょとんとしている。自分が腰掛けていた椅子には戻らず三橋君の
もとへ――彼の膝の上に腰を下ろしていた。
「か、カント、ク……?」
「三橋君はさ、自分に自信が持てないんでしょ? だからピッチングが揺らぐ。影響が出てしまう」
「…………」
「私が自信をつけさせてあげるわ。セックスして男の子から大人の男になれば、幾分かは余裕ができてくるはずよ」
言ってしまった。もうこれで後戻りはできない。胸の動悸が止まらない。それでも、何がなんだかわからなくてポカンと
している彼の顔を見ていると、先ほどからの緊張はいつの間にかなくなっていた。予想通りの反応を目にしたことによって
可愛いという思いがわき上がってきていた。
「あ、あう、え……っ?」
「大丈夫。怖がらなくても私が全部してあげるから」
すっと三橋君の膝を離れ立ち上がって着ていた服を落としていく。今日は暑かったので薄着で来たため、脱ぐのに時間は
掛からない。Tシャツとデニムのタイトスカートを床へと落とし、身につけているものは対になっている黒のブラとショーツ
だけとなる。
「……っ!」
生唾を飲む音が聞こえてきた。自分ではスタイルにかなり自信があるため当然の反応よねと自惚れたりしているが、やっぱり
異性を興奮させていると思うと嬉しいものだった。
「ふふっ」
食い入るようにして見られている。とても熱を帯びた視線だった。かといって、まるっきりスケベな目というわけでもなく、
まるで神々しいものを見ているかのようだった。さっと股間へと目を向ければ性的興奮を感じている確かな証がそこにあった。
ぷちっとブラのホックを外して自慢のバストを露出させる。これにも当然のように息を呑んでいるようだった。ショーツも
脱ぎ捨てて私は生まれたときの姿へとなっていた。
「どう? なかなかのもんでしょ?」
「は、はははは……っ、はいっ」
――やっぱり三橋君は可愛い。この子を私のものにしたい
一度っきりの情事だと昨夜誓い、今日もそう思っていたはずだった。だが、その決意は揺らいでいきそうだった。
そのままパイプ椅子に座っている彼の足元に跪き、ベルトを外してズボンを脱がす。
「あっ、えっと、そ、の……」
「私が全部してあげるから、三橋君は何もしなくていいのよ」
何か引っかかるようなことでもあるのか、どこか焦っているような声音だった。私はその初々しさに大いに刺激されて下着を
引き下ろしていた。
「え……っ?」
絶句していた。隆々と反り返る男性の象徴が目に飛び込んできたのだ。なんというか、桁外れのサイズだった。
私はかなりもてていたので男性経験もそれなりにあった。その今まで見てきたものが、一体なんだったのだろうかと疑問を
覚えるほどの威容を誇っていた。
『大人顔負け』
この言葉が頭のなかに浮かんでいた。童貞の――未使用のものらしくそれは綺麗なピンク色であったけれど、逆にそれが
威圧感にも感じる。
「……?」
(というよりも、こんなのが出てくるなんて考えもしないわよ。恥ずかしがっているから包茎の皮を被ったオチ○チンとかかと
思ったのに……これって反則じゃないの? こんなに立派なモノを持っているんだから間違いなく自信を持つべきよ。
そういえば、合宿のときにチ○コの見せ合いだとかを銭湯でやっていたっけ。
ギャーギャー騒いでいたのに三橋君の番になったら急に静かになっていったわね……)
隣の女湯からでも聞こえてきていた喧騒を思い出していた。注意しようかと思ったけれど、自分たちだけの貸しきり状態
であったので何も言わずに、裸の付き合いっていうしコミュニケーションの一環として黙認したんだった。
一緒に入っていた千代ちゃんはこれを聞いて顔を真っ赤にして視線を泳がせていた。
いつの間にか無意識に三橋君の逞しいものへと舌を這わせていた。
「えっ……あっ」
「んんっ……ちゅ……れろ……はぁん」
ディープスロート――喉の奥まで咥えてあげたいところだが、この太さと大きさのオチ○チンでは顎が外れるという恐怖感が
勝ってしまって無理だった。
代わりに唾液をたっぷりとまぶしてヌルヌルにして舐めしゃぶっていく。睾丸をやわやわと優しく揉み込んで刺激し、
下からも快楽を送ることも忘れない。
「ちゅる……ふぅん……やだ、まだ大きくなるの……?」
この倒錯した雰囲気に酔ったせいなのか。私のアソコはおびただしい湿り気を湛えていた。床に粘り気のある愛液を
滴らせていっている。まさかフェラチオをしているだけでこんなに濡らすとは思わなかった。かなり久しぶりのセックス
なので性感には鈍感になっているはずなのに、私の身体はいやらしく火照り続けていった。
「ん……ちゅ……ちゅる……んっ」
さきほどの顎が外れるかもという恐怖は霧散してしまったらしい。ピクピクと苦しげに動く先端を口に含み、できるところまで
咥えていっていた。左手は濡れそぼった秘唇へとやってまさぐり、淫らな水音を奏でさせて、
残った手で棹の部分をしごいていく。
「くぅ……っは……だ、だめ」
「じゅるるるっ……ずちゅるる……むくちゅ……んっ」
スパートをかけてそう経たないうちに三橋君は私の口の中で爆ぜていた。尿道口からドロドロとしたゼリーのような精液が
流れ込んでくる。気を抜けば噴き出してしまいそうだったけれど、教室を汚してはいけないと思い、
懸命になって受け止めていった。
一分近くもかかってようやく精の放出は収まってくれた。私は口いっぱいに溜まった精液を飲み干した。
今まで付き合った男たちにもフェラをしたことはある。でも、ザーメンを呑むことだけは頑なに拒否していた。だが、今の
自分は嫌悪感は微塵もなく、それを呑むことに躊躇はまったくなかった。
何故だかはわからない。
「んっ……。三橋君、オナニーはしてる? ものすっごく濃かったわよ」
唇に垂れてきた精液を舌で舐め取りつつ、会館の余韻に浸っているらしい三橋君を見上げる。
「あぅ、えっ、と。最近、は……練習が終わると、疲れてて、帰るとすぐ寝ちゃう、から……」
「なるほど、どうりでね」
見上げていた視線を戻すと一度出しても萎えることなく天井へと上向いているオチ○チンがそこにあった。
「これなら余裕ね。もっと気持ちいいことをしましょう?」
確認などできないが、私はとてもいやらしい淫らな顔をしているんだろうなと思っていた。
座ったままの三橋君の膝の上に跨って体に両手、両足を絡めて、肌を密着させる。ついで、興奮していて真っ赤になって
しまっている彼の顔を見て緩めると、唇を重ねていった。
「ちゅ……っ。んっ」
唇を合わせるキスだけでは満足できない。舌を差し入れて唇を割り開き、歯を舐めていく。息苦しくなってきた三橋君は
口を開いてきた。そこを見逃さずにさらに深く入れて彼のものを捉えて絡ませていく。
「……ぁ」
「ふふ……ぴちゅる……っ」
目を大きく見開いて驚いている。その反応に気をよくし、頭を抱き寄せてお互いの舌と舌をより深く触れ合わせていった。
「んっ……どう? 大人のキスは?」
「…………」
せめてなにか言葉にしての反応をもらいたかったが、言葉にできないほど気持ちのいいものだったと解釈することで
我慢することにした。
「さあ、ここからが本番よ」
机に置いておいたバッグからスキンを取り出して包みを破り装着を試みる。が、サイズがサイズなので付けるのに四苦八苦
してしまっていた。
今日は安全日というやつだけれど、万が一ということもある。あれは完全に大丈夫ってことではないわけだし、さすがに
妊娠はまずい。
ようやく付け終えてパンパンに膨れ上がっているオチ○チンはいかにも苦しいといった風情だった。
そのままの姿勢――対面座位で交わるべく、腰を浮かして狙いを定めて落としていく。くちゅっと粘膜同士が触れ合って
生じた音がほんの僅かなはずなのにやけに大きく聞こえていた。
「んっ……ふぅああぁ」
久しぶりの挿入に身体が歓喜に震えていた。それも今まで経験したことのない、とてつもなく巨大なモノによって串刺しに
されつつあるのだ。まだ亀頭から少しだけしか入っていないのに、圧迫感はすさまじいものだった。
「だ、だめっ。怖いのに……腰が、止まらないっ」
挿入というよりも拡張されているという表現が正しいと思う。今まで届かなかったところ、膣内の本当に奥の奥まで届いて
軽い戦慄すら覚えてしまっていた。
「はぁああ……お腹のホントに奥までいっぱいぃぃ……」
「……っ」
よくこれを呑み込めたものだと思う。あまり大きすぎると快感よりも痛みが強くて楽しめないらしいけれど、私の身体は
たっぷりと三橋君の分身へと愛液を浴びせかけて順応していった。
「んっ……そろそろ動くわね?」
ゆるゆると腰を動かしていく。大きくエラの張ったカリ首が膣のなかをごりごりとこすり上げてくる。
「ぅあぁっ、ああっ……ふぅん……っ」
こなれてきたところでより大胆なストロークを開始する。私たちの股間から漏れ出るいやらしい水音と苦しげにギシギシと
軋むパイプ椅子からの音が視聴覚室内に響き渡っていた。私たち二人だけしかいない空間。それにこの教室は防音設備が
しっかりとしているため、私は淫らなだらしない喘ぎを張り上げていた。
「んふっ、んっ、くふぅっあぁああっ! ダメっ、これ感じすぎちゃう……っ。み、三橋君のオチ○チン……
わたしのアソコを……熱いぃっ!」
気づけば彼も腰を揺り動かしてきていた。下からの突き上げに翻弄される私に追い撃ちがかかってきた。
「ひゃあぁあんっ、乳首もだめ……そんないやらしくしゃぶっちゃだめぇ!」
背中に両腕を回されきつく抱きしめられ、胸に顔を埋めてきた三橋君は私の両の乳首を交互に舐めてきていた。意識して
いないのだろうが、時折される甘噛みをされて身体に電流が走ったようにしてビクビクと震わせていた。
「か、カントクっ……お、おれ、もう……っ!」
「いい、よ……いつでも好きにしちゃっていいからぁあぁっ!」
二人とも腰の動きが合ってきていた。よりリズミカルに深いところを抉られていって、私はもう限界だった。
「ひ……っ!?」
ガリッと甘噛みよりも強く乳首を噛まれたことが引き金となった。膣内が収縮――精液を欲しがり、きつく締め上げていく。
「だめっ、いっちゃうぅぅ……っ!」
快楽によって蕩けきった恍惚の表情を浮かべながら、いつ果てるともわからない射精を受け止めていった。
心身ともに今までにない充足感がもたらされていた。
荒く息を繰り返しのろのろと腰を上げて三橋君から離れる。そして、行儀悪く机に腰を下ろして呼吸を整えようとする。
「か、カントク……」
顔を上げて三橋君へと向ければ、驚いたことにオチ○チンはまるで硬度を失っていなかった。普通の男の子だったら何も
言わずに獣性を剥き出しにして襲い掛かってくると思う。それでも、こんなときでも自分らしさを失わずにおずおずと
顔色を窺ってくるのを見て、三橋君らしいなと苦笑していた。
「いいわよ。今度は三橋君の好きにしなさい……」
ヒヤリとした机の冷たい感触を感じつつ、それに背中を預けて寝そべり、彼へと股を開いていった。
夜の八時過ぎになって後始末と身支度を終えた私たちは向かい合っていた。ミーティングの終わった六時前ぐらいからだった
ので二時間近くもセックスをしていたことになる。結局、抜かずに五回連続。スキンはとっくに破れてしまって膣内出しとなり、
避妊はできなかった。反省すべきことだが、それだけ私も三橋君も情欲に溺れていたという証拠でもあった。
ここまで犯し抜かれたと感じたのは初めてのことだった。
他の運動部はとっくに練習を終えたらしく、辺りからは物音ひとつ聞こえてこなかった。
「三橋君。言っておくけれど、今日のことは絶対に他言無用よ。何があってもね」
「は、はい」
「もし、ばれたら私は監督を辞めるどころか警察のやっかいになるでしょうし、三橋君は野球部にいられなくなるわよ」
「え……っ」
「だって、そうでしょ。監督とエースがこんなことになってしまった。ばれれば廃部は間違いなしよ。せっかく転校を
してまで手に入れたエースの座と心優しいチームメイトたちを失いたくないでしょ?」
「……っ!」
「最悪、もう一回転校――三星学園に行くことになるんじゃないかしら。西浦にはいられないでしょうし……。
そんなのイヤでしょ?」
私の言葉に必死になって何度も首を縦に振ってくる。
これが露見したら口止めと称して身体を要求してくる人間がいるかもしれない。生憎、複数の男と同時に関係を持って
好き勝手に犯される趣味はないので、必要以上に脅していた。
「私もあなたもばれないようにする。これさえ守れれば、私の身体はずっと三橋君のものよ……」
同じぐらいの体格の彼を抱きしめてそっと耳朶に囁いた。興奮を隠せない息遣いがはっきりと私の耳に入ってきていた。
西浦野球部にとって初めての夏の大会を迎えた。私にとってもあの子達にとっても初陣となる大会だ。
抽選会にて初戦で昨年の優勝校である桐青高校を引き当ててしまったが、部員全員の力、そして三橋君の踏ん張りもあって
この難敵を退けることに成功していた。
試合後の球場の外にて三橋君が疲労からダウンしてしまって眠ったと聞かされていた。阿部君と田島君に肩を貸してもらって
引っ張られて私の前に来た彼は目覚める様子はなかった。
そっと顎へと手を這わせる。
「……アララ、ダメだね、こりゃ」
胸中に去来した感情によってほんの僅かに間が開いていた
そのまま三橋君のお母さんに連れて帰ってもらうように頼む。
残念だが今日のご褒美はお預けとしなければならなくなった。
あれから幾度となく私たちは身体を重ねていた。肌を合わせるごとに三橋君は上手くなっている。繊細さ人柄を反映した
丁寧な愛撫に私は夢中になっていた。それこそ、当初の目的――男として自信をつけさせるということを忘れてしまうほどに。
今のところ三橋君の性格に変化はない。人間の性格はそうやすやすと変わることはない。だが、これから少しずつ
変わっていくはずだ。いや、変えてみせる。
そう遠くないうちに彼を真のエースへと成長を遂げさせてみせよう。
三橋君は私のこの身体の味を覚えたのだから、これからも彼は私から離れることはできない。飽きさせない自信もある。
車へと連れて行かれる三橋君を横目で見ながら私は雨が降りしきる曇り空を見上げていた。
――いや、離れることができなくなったのは私のほうね
さっき胸に抱いた感情は愛しさだということを自覚していた。
(終わり)
最終更新:2008年01月06日 19:40