8-259-260 小ネタ 好奇心2 ◆VYxLrFLZyg
夏の大会開催まであと少しの頃。
西浦高校野球部員達は練習後の一時を近くのコンビニで過ごしていた。
篠岡もその日は付き合っていたが、前日徹夜でで桐青のデータをまとめたため瞼が重かった。
眠さを散らそうと無理矢理口に入れた小さなチョコを舌の上で転がしながら溶かし食べている、
その端から欠伸がこみ上げてきて、必死にそれを噛み殺していた。
先に帰ってしまおうか、と篠岡が考えた時。
急に田島が大声を上げた。
「あ! そーだ! しのーか!!」
その声に篠岡の半開きだった目がぱちくりと開き、田島を見るときらきらと光る目にぶつかった。
その目に、ひやりと篠岡の肝が冷える。
いつか見た目と同じ目だった。
「モモカンのおっぱい、どんなだった!?」
篠岡はくらりと眩暈を起こしふらついた。
確かに今日の朝、カントクにぎゅっと抱きしめられその豊満な感触は記憶に新しい。
気を取り直して助けを求めて周りを見渡すと、
期待に満ち溢れてコンビニの光よりも明るいぎらぎらした目が篠岡の目に突き刺さる。
怒りが湧くよりも先に気がふっと遠くなったような気がして目の前が暗くなる。
篠岡はいっそこのまま気を失いたいと思ったが、阿部の低い声が響き渡り現実に引き戻した。
「確かに気になるな。”ぽよよん”なのか”ぱふ”なのか”ぼいーん”なのか」
沖がまじまじと阿部を見て、ぽつりと呟く。
「阿部がそんな気にするなんて意外・・・」
「だな。お前デカイのには興味ねーじゃん?」
沖の言葉を受けて泉がもっともだと同意した。
阿部はじろりと泉と沖を眺めてため息をついた。
「アホか。単純な知的好奇心だ」
阿部の隣では巣山が真剣な顔つきで物思いにふけていた。
「考えられるのは、”ぽふっ”か、”ぽいん”・・・。個人的には”ぽよん” がいい」
さらにその隣で花井が冷や汗を垂らしながら視線を彷徨わせる。
「え~と、ダ ダーン?」
「それ違うだろ!」
珍しく水谷が花井に突っ込みをいれた。
その傍で西広が軽く顎を摘みながら真面目な表情で口を開いた。
「ばよえ~ん?」
「なんで2連鎖なんだよ?」
「違うよ3連鎖だよ」
「え?おじゃまぷよだろ?」
西広の呟きに栄口が素早く反応し突っ込むと、その栄口は沖に突っ込まれ、
一周したのか、最後は巣山が冷静に疑問を口にした。
放って置くとどんどんそれていきそうな気配の中話を元に戻すため、
三橋がなけなしの勇気を発揮した。
「たぶ、ん、”ぱふぱふ”、だとおも、う、よ」
「何で亀仙人なんだよ!?」
容赦ない阿部のつっこみに三橋は飛び上がってビビリ、目に涙を浮かべ言葉にならない声を上げた。
篠岡はこの隙にさっと帰ってしまおうかとそっと地面に置いたカバンを手に取った時、
獲物を逃がすわけのない田島の声がその動きを制止させた。
「そんで? しのーか!どうだった!?」
てんでばらばらの話をしていたうらーぜ達がぴたっと口をつぐみ、一斉に篠岡を見る。
逃げられない気配に、篠岡はうっと言葉を詰まらせた。
必死に逃げる算段を考える。
誤魔化す方法がないかと脳細胞をフル回転させる。
確かにカントクの豊満な胸には癒された。
疲れなんて吹き飛んだ。
あの感触は女同士でもありがたがる価値はあると思った。
しかし、それを彼らに言うと、彼らの脳内でカントクはどうなる。
絶対何も言わずにこの危機を乗り越えたい。
篠岡の気配を読み取ったのか、田島がじりっと篠岡に近寄る。
カバンを胸に抱えて篠岡は軽く身体を緊張させた。
「わ、私! 帰るね!」
と叫ぶと同時に自転車に駆け寄ろうとして、わ、と言った所であっさり距離を詰めた田島に腕を掴まれた。
掴まれた腕を振り解こうとしても、ピクリとも動かない。
「ね、しのーか!?」
ニヤリと笑いながら篠岡をじぃっと見つめる田島に、篠岡は心の中で涙を流した。
あきらめきった、力のない声が篠岡の口から流れ出す。
「どちらかというと・・・・”ふるぽよん”・・・だったよ」
「「「「それはどーいう感触なんだぁ!?」」」」
一斉に上がった叫び声の中で、阿部だけが真剣に目を閉じて考察していた。
「なるほど、”ふるるん”と”ぽよよん”を足して2で割って感じか・・・?」
阿部の言葉に、巣山が異を唱えた。
「違うだろ”ふるん”と”ぽよん”をかけたんじゃねーか?」
議論を重ねる二人をよそに、田島がぱっと篠岡の腕を離し、そのまま自分の頭の上で腕を組んだ。
「そっかぁ! ”ふるぽよん”かぁ! あ~! いーないーな!しのーか!うっらやっまし~!!」
屈託のない笑顔を浮かべて笑う田島を篠岡は力なく見上げてあははと笑いを返し。
しばらくそのまま笑った後、やがて深くてながーいため息を吐いた。
カントク、ごめんなさい。
そう思ったとか思わなかったとか。
終わり
最終更新:2008年06月09日 00:35