8-277-284 スヤチヨ ◆/3cEp/K.uQ


巣山君がひとり暮らしをしている町の最寄り駅に着くと、セミの大合唱に出迎えられた。
駅から連なる街灯には商店街の名前が入ったちょうちんと、
それをつなぐように張られた細い縄とその間に下がった白い幣束が青空に映える。
「篠岡!」
巣山君が手をあげてこっちに歩いてくるのが見えた。嬉しくて手を振り返す。
「久しぶり、だな」
「ほんっと、久しぶり!」
笑いあうと離れて暮らす日々が嘘みたいだ。
巣山君に促されて、アパートまでの道を歩く。
「これ、何入ってんの?」
持ってもらっている大きな紙袋の中身を気にする巣山君に、私は満面の笑顔で答えた。
「いーいものっ!」

巣山君のアパートは駅から10分くらい歩いたところにあった。
「へえ、きれいにしてるねー。なんか巣山君ちって感じ」
「なんだそれ」
苦笑する巣山君をよそに、意外と涼しい1Kの部屋を見渡す。
ベッドとローチェストとその上にミニコンポ、部屋の真ん中にローテーブル。
荷物を置いて座ると、開けた窓からさあっと風が吹いてカーテンを揺らした。
「で、さ」
巣山君がベッドに寄りかかるように座って、荷物の方を見た。
「その大きい方、何が入ってんの?持った感じ軽かったけど」
んー、着るにはちょっと早いんだけど、見せるくらいならいいよね。
「お祭りがあるって言ってたから、浴衣!」

紺色の地に朝顔が散らばる柄の浴衣を見せると、巣山君は驚いていた。
「埼玉からわざわざ持ってきたのか」
「だって浴衣見たいって言ってたじゃない。あ、着付けは自分で出来るから大丈夫だよ」
「いや確かに言ったけど……荷物になるのに悪かったな」
「見せる人がいないと、浴衣着ても張り合いないもん」
ぽんぽんと頭を撫でられて、なんだか嬉しくなって巣山君の方に近寄っていき、
私もベッドに背中を向けて座ると巣山君の肩に頭を乗せた。

巣山君の左手が背中から肩に回ってきて、そのまま引き寄せられる。
きゅっと抱きしめられた後、二度三度と唇を重ねるとどちらからともなく口を開いて
深くくちづけて舌を絡めあった。
それから唇を離して、そのまま巣山君の胸に顔を埋める。
「巣山君のにおいだぁ」
「あれ、汗臭いか?ごめんな」
「んーん、違うの。そうじゃなくって、巣山君のにおい」
汗臭いのとはまたちょっと違う、なんか安心するにおい。
ちょっとドキドキして、それよりももっと愛しさを感じる。

「あのな」
体を離されて見上げると巣山君がちょっと困ったように笑う。
「そういうこと言われると、ちょっと我慢できなくなるんだけど」
我慢できないのは、私だって同じなんだよ。
「じゃ、しよ?」
私の返事を聞いて窓とカーテンをちょっと乱暴に閉めた巣山君が、
ベッドに乗って私に手を伸ばしてきた。
その手を取ると強く引っ張られて、同時に仰向けに寝そべった巣山君の上にかぶさる形になる。
もう一度深くくちづけて、その間に巣山君の手がブラのホックを外して
キャミソールの裾から胸へ向かって私の体を優しく撫でた。

「んん……」
気持ち良さに声が出たけど、くちづけたままの喘ぎは巣山君の喉へと消えていく。
唇が離れていくとまくりあげられたキャミソールと用を成さないブラは脱がされて、
体の位置を逆転させると自分もTシャツを脱いだ巣山君が私の胸に顔を埋めた。
そっと両手で胸を触ったかと思えば、先端を指で弾かれる。
「ひゃっ」
交互に口に含まれて、吸われたり舌で転がされたりしているうちに
体の中からだんだん熱くなってくるような気がしてきた。
巣山君の体に手を伸ばせば、筋肉の付いた肩は汗ばんでいる。
「あつい……」
「オレも、熱いよ」
手首を掴まれて誘われるように触れたジーンズ越しのそこはもうかちかちで、
もう片方の手も伸ばして前をくつろげた。
ボクサーブリーフ越しだとそれは更に存在を主張している。

お互い裸になってまた抱き合ってから、巣山君のものに手を伸ばした。
思い切って口に含んで、舌を這わせるように動かすと、
「篠岡、お尻こっちに向けて」
と上体を起こした巣山君が背中に手を触れる。
言われるままに体の向きを変え、また口の中で熱くなる巣山君を頬張っていると、
脚の間をさわさわと撫ぜられた次の瞬間、一番敏感な所に巣山君の指が触れた。
「!」
「もう、濡れてる」
そのまま巣山君の指は私の中に入り込み、中を少しずつかき混ぜてきた。
「はぁ、ん、ふ」
「そのまま、続けて。千代」
下の名前で呼ばれるのと同時にクリトリスと中をいっぺんに刺激されて、
続けてと言われても少しずつ舐めたり手で擦ったりするのが精いっぱいだった。

スキンをつけた巣山君に両脚を持ち上げられて腰を抱えられ、
少しずつ、私の中に熱くて硬いものが入ってくる。
「千代の中、熱くて気持ちいい」
「は……こんな時ばっかり、名前、ずるい」
「呼んじゃダメなんて言ってないだろ」
全部が埋まって、少ししてから巣山君の腰が動き出した。
「はあぁっ」
カーテンの隙間から見える外はまだ明るいのにこんなことして、
それでも気持ち良さには逆らえなくて全身で巣山君を求めた。

シーツを掴んでいた手を解かれたかと思うとそのまま手を繋がれて、
目に、頬に、首筋に、何度も何度も唇が落ちた。
その間も奥深く突かれて、気持ち良さで繋いだ手に力がこもる。
「あ、あ、きもちい……すき、尚治、すきぃっ」
切れ切れに訴えると、私の目を見た巣山君が苦笑いを浮かべた。
「なるほど、こりゃあ効くな」
それから耳元を唇で探って、低い声で囁いた。
「もっと気持ちよくなって、千代」
刺激とその言葉で体が震えた直後、巣山君の腰が大きく早く動き出した。
「あ、あ、あ、あ」
途切れる声をはしたないと思う間にも体はますます熱くなっていって、
頭の中が真っ白になって力が抜けそうになる。
やがて巣山君が奥に押し付けるようにして動きを止めると、
ゴム越しに巣山君のものが放たれている感覚が伝わってきたような気がした。

しばらく裸のまま抱き合っているうちに日が翳っていき、
遠くから祭囃子の太鼓の音が聞こえてきた。
「汗かいちゃった。シャワー借りるね」
「おう。あれならその後浴衣着ちゃえよ。せっかくだからお祭り行こうぜ」
「そうする!」

浴衣を着て、巣山君と手を繋いで昼間通った商店街に着くと
出店がいくつも出ていてどこを見ても目を奪われてしまう。
「出てるのはどこも一緒だな」
「そうだね、でもやっぱりお祭りって楽しいよ。巣山君と来られて良かった」
巣山君を見ると、なんだか照れたように視線を逸らした。かーわいいの。

「よぉ、巣山!」
後ろから声を掛けられて、巣山君が反射的に私の手を離した。
振り向くと男の人が手を振ってて、巣山君がその人にお辞儀をした。
「先輩、ちわっす!」
「ちゃーす。ここでおまえ見かけるなんて思わなかったよ。隣、カノジョ?」
「ええ、まあ」
「コ、コンバンワ」
私も頭を下げると、先輩だと言うその人はニコーッと笑った。
「かーわいいなーオイ。大事にしろよー。んじゃ、オレ待ち合わせ中だから。ばいばーい」
ひらひらと手を振ってその背中が人ごみに消えてから、巣山君が私の手をまた強く握った。
さっきより握る力が強くて戸惑っていると、
「はぐれたらまずいしな」
と巣山君が呟くように言って歩き出す。なんかちょっと変。
「どしたの、機嫌悪い?」
「別に。ほら、行くぞ?」
それでもまだ巣山君の表情は硬いままだった。なんでだろ?

「自分ちじゃないけどただいまー、っと」
脱いだ下駄が玄関でからころと音を立てる。
付いた砂を軽く落としてから持ってきた時の紙袋にしまっていると、
ベッドに腰掛けた巣山君がいきなり私の手を引っ張った。
「きゃっ」
よろけてベッドに上体だけうつぶせるように倒れこむと、
アップにしていた髪を撫で上げられ、うなじに巣山君の唇が降りてきた。
急なことに体を震わせると、うなじから這い上がってきた唇が耳たぶを捉え、
歯が当たる感触がした。
「浴衣見たいなんて言うんじゃなかった」

襟元から手が入ってきて、胸を鷲掴みにされた。
「どうしたの、やだ、こわいよ」
頭を起こして見上げた巣山君の表情は険しくて、仰向けにされると
すぐに噛み付くように唇を貪られる。
胸元は大きくはだけられて、巣山君の唇が首筋から降りてくると
何箇所も強く吸われ、時には歯を立てて噛み付かれた。
外されたブラが上に押し上げられて、胸にも歯を立てられて
きっと私の肌にはいくつも痕がつけられている。
「ねえ、こわいってば。何も言ってくれないとわかんない、んんっ!」
抗議なんか聞きたくないと言うように裾もはだけられて、
あらわになった脚を巣山君の手が何度も撫で、やがて下着越しにそこを触られた。

巣山君の表情も行動も怖くて理由がわからなくて、それでも体は反応している。
また上半身をベッドにうつぶせにされると浴衣の裾が背中まで捲り上げられ、
下着がおろされたかと思うとお尻を高く持ち上げられた。
「ひゃあっ」
捲り上げられた裾ごと背中を押さえつけた巣山君は、
もう片方の手で私を執拗に攻めたてた。
やがてそこは大きな水音を立てはじめ、自分の腰が求めるように動き出すのがわかった。
「や、もう、おかしくな、ちゃ、あ、あ」
自分の声がはしたない響きになっているのを聞いて余計に水音が派手になっていく。
「おかしくなっちゃえよ」
耳元で囁かれた瞬間、頭の中で何かが爆ぜて脚に力が入らなくなった。
こんな状況でもいっちゃうなんて、私の体はどうなっちゃったんだろう。

そうだ、巣山君、は。
のろのろと首だけ後ろに向けて様子を伺うと、
服を全部脱いだ巣山君がスキンをつけ終えてこちらに近づいてきた。
力の抜けた腰をもう一度持ち上げられ、右手を後手に掴まれると
そのまま後ろから巣山君が中に入ってきた。
「っは……!」
絶頂から間もないそこは易々と巣山君のものを受け入れ、
くちゅくちゅといやらしい音を出して中を抉られている。
左手で何とか上体を支えて体を浮かせると、隙間から伸びてきた手が
私の胸の先端を乱暴に弄り回した。

何がなんだかわからなくて、ただ体は刺激を与えられるままに翻弄される。
だらしなく喘ぎを漏らすしか出来なくなっていた口に指が差し入れられて、
擦られる口腔の粘膜までもが快楽を促す器官と化していた。

突然巣山君が私の中からペニスを抜くと、私の隣にそのまま腰掛けた。
「上に乗って、千代」
散々攻め立てられてクタクタなのに、途中で置き去りにされた熱をどうにかしたくて
言われるがままに体を起こして浴衣の前もだらしなくはだけたまま、
巣山君にまたがってゆっくりと腰を落としていく。
「はぁ……」
奥まで巣山君のもので満たされて息を吐くと、前後に体が揺らされていく。
ベッドの軋む音に合わせて突き上げられる快感と、その合間の巣山君の声。
「オレのだ……千代は、オレのだ」
そんな風に囁かれて何度もキスを落とされて、夢中になって私も腰を動かした。
「しょ……尚治、しょうじ!」
腰骨から頭のてっぺんまで白い火花が駆け抜けて、背中に手を回してぎゅっと抱きついた。
それからすぐ中でどくどくっと波打つ感触がして、そのまま二人でベッドに倒れこんだ。

「え、あの先輩に見られたのがやだったの?」
抜けていた力も戻ってきて、ハンガーを借りてしわになった浴衣をかけていると
巣山君が突然の行動の理由を話し出した。
「あの人マメだしモテんだよ。んでなんか急に嫉妬っつーか、
 よりによってすごく可愛いかっこしてる時になんで見てんだよっつーか、
 うん、なんか本当ごめん」
裸のまま、巣山君は決まり悪そうに頭をぼりぼり掻いている。
もう、そんなことでムキになってたんだ。
ベッドに近づいて、巣山君の鼻先にちゅっとキスをした。
「怒ってないよ。心配しなくても、私は尚治のものだし尚治は私のもの。でしょ?」
「返す言葉もございません」
両手を挙げて苦笑する巣山君を見てにっと笑い、それからもう一度、私たちはキスをした。
最終更新:2008年06月19日 21:31