「和己めぇ・・・」
仲沢は小さな声で悪態めいた独り言を呟いた後、
持っていたヘルメットを小脇に抱え直し、オペラグラスを再び覗いた。
拡大された狭い視界のベンチに見える人影は3つ。
先ほど見た人物が中心に来たところで手を止めてブレ防止ボタンを押した。
帽子を深く被っているせいで、細かい造作は見えないが、体のラインははっきりとわかる。
細い首、襟元から除く黒いアンダー、胸の赤いロゴはくっきりと浮き出ているように見える。
なのにベルトで止められた腰はしっかりくびれており、それにつづく腰骨はこれでもかと
主張する流線を描いていた。
するとその人物が急に横を向いて数歩移動した。
途端しっかりと目視できたバストのトップとアンダーの差。
どこからどうみたって、ありえないほど差がある。
つかデカイ。
仲沢の頭の中で河合の言葉が響き渡った。
『けっこうかわいっすよ。んでこう・・・』
『まーいーや。見た目は。みりゃわかるし』
少し頬を染めて、妙な手振りで説明しようとしてやめた河合の姿が思い出されて
仲沢はオペラグラスを目から外して、一人で大きく頷いた。
「確かに、見りゃわかるな」
仲沢はへばり付く勢いでスタンドの一番前に進み、再びオペラグラスを目に当てた。
丁度その時、西浦ベンチでは百枝が帽子を脱いだ。
オペラグラス越しでも視認できたその百枝の顔に、仲沢は思わずごくりと唾を飲み込んだ。
くっきりとした眉、ぱっちりとした目、上気した頬、化粧気はないのに赤い唇。
戻ってきたナインを迎える目からは、オーラが見えそうなくらい強い意志が宿っている。
ストライクど真ん中。
「・・・・どうやったら、お近づきになれる?」
本音が口から駄々漏れになっていたことに本人は気づかなかった。
幸いな事に、それを聞いたものは誰もいなかった。
最終更新:2008年07月02日 22:37