8-485 ろかもも2

「オイ! そこの!」
百枝はうるさい声にふと振り向くと、相手は自分を指差しているのに気づいた。
この大学に知り合いなんていたかと訝しげに相手を見つめたが、
脳内検索機能はヒットゼロを示した。
目つきの悪い男性が目の前まで寄って来てえらそうな態度で見下ろすので、
百枝は不機嫌さを隠そうともせずにジロリと相手を睨む。
「何か?」
「お前、あれだろ?」
記憶を探るように指をぐるぐるさせながら、目の前の男性はひたすら百枝を見つめている。
百枝の眉がますます潜められた。
「・・・今日からここで作業があるだけですが?」
この大学で今日から行われる工事のバイトに来た百枝は、
その事実を短く告げて立ち去ろうとすると、相手はさらに詰め寄ってきた。
「え~と、アレだ。モ、モモ・・・」
百枝は自分の名前の前半を呼ばれて、完璧に不審人物を見る目つきに変わったのに
相手は気づこうともせずに、ブツブツと呟いた後、手を叩いてぴっと百枝を指差した。
「モモケツ!」
「・・・・は?」
百枝は完全に切れた目つきで相手を見上げ、相手に悟られないようにそっと体重移動した。
相手はなおも何かを思い出すようにブツブツ言っている。
「違った・・・・。そうだ! デカパイ!」
「こんの変態!」
百枝は手に持っていた工事作業用の道具を野球のバットに見立てて思いっきり振りぬいた。

かっこーん

星となってとんでいったロカを、百枝は目を細めて見送った。
「最近は、妙なのが増えたわねぇ・・・千代ちゃんにも気をつけるよう言わなくちゃ」
しみじみと呟いた百枝の言葉は、誰にも届かなかった。

終わり
最終更新:2008年08月17日 00:04