8-489-494 巣山×篠岡2 ◆VYxLrFLZyg

「お邪魔します」
「ん」

恐る恐る巣山くんの後について、巣山くんのお家に上がった。
家の中はしんとしていて、誰もいないようだ。
すたすたと進んでいく巣山くんを見て、慌てて脱いだ靴を揃えてから後を追った。

「テキトーに座って」
「うん」

初めて入る巣山くんの部屋。
巣山くんが荷物を乱暴に投げた後、部屋から出て行ったのを見送ってから、そっと一歩足を踏み入れる。
物珍しくって思わず部屋の中をぐるりと見渡しちゃう。
壁には野球のポスター、机の上は教科書が乱雑に置いてあって、教科書の下にはノートパソコンまである。
机の脇の背が低い本棚には野球関連の本と、自転車らしい雑誌。
逆サイドを見るとベッドがあって、思わずどきんと胸が鳴った。
いつも、巣山くんはここで寝てるんだよね。
視線を一周させると、ベッドの隣、丁度ドアの傍に当たる所に大きな姿見が置いてあった。

男の子の部屋にも、こんな大きな鏡が置いてあるものなんだ。
何となくその鏡の前に移動してまじまじと鏡を覗き込んでしまう。

笑ってみたり、角度を変えてみたり。
全身が映るくらい大きいから、思わずスカートを摘んでくるりと背中越しに振り向いてみたら。
いつの間にいたのか、巣山くんがドアの所に立っていた。

「きゃっ!」

音もなく立たないで欲しい!
ばっと体の向きを正面に戻して、赤くなる頬を押さえてしまう。
「いや、続けていいけど」
しれっと真面目な顔のままの巣山くんがそんなことを言う。
「もう!」
説得力のない抗議の声を上げるものの、恥ずかしくってたまらない。
なんとか誤魔化さないと。

「ず、ずいぶん大きい姿見だよね」
「ああ。篠岡だって持ってんだろ」
「こんなに大きくないけど、まあ、あるよ。男の子も持ってるもんなんだね、鏡」
「身だしなみはチェックしないと」
「そういうもの?」

あんまり巣山くんが鏡の前でポーズつけてる絵は想像できないなぁ。
巣山くんは持ってきた飲み物のお盆を机の上に置いて、ベッドに寄りかかるように腰を下ろした。
私も釣られてその隣に座ると、丁度鏡に対して横を向く角度になった。
なんとなくそのまま鏡を見ると、私の向こうに巣山くんがいるのが見える。


「とりあえず、鼻毛チェックはしてる」
「ええ!?」

思わず顔を本物の巣山くんのほうを向いて、まじまじとその鼻を見つめてしまった。
「でてねーって」
「あ、うん」
巣山くんは軽く鼻を押さえて、苦笑いした。
男の子でもは、鼻毛とか気にするもんなんだぁ。
不思議に思い、頭のてっぺんから足先までじぃっと眺めてしまった。

頭は球児らしくて坊主にしてるけど、着てる物は何気にカッコイイ・・・?
男の子の服はよくわからないけど、きちんとしてるっていうか。
小物一つとっても、なんか他の子とは違う感じ、なのかなぁ?
とりあえず、自転車はとてもカッコイイの乗ってるよね。
「なんだ?」
「え? う、ううん」
巣山くんが首をかしげて見下ろしてきて、慌てて視線を自分の膝の上に戻した。
見惚れてたの、ばれたかな?
胸がどきどきして来たのを何とか誤魔化せないかと、机の上に置かれたジュースをもらおうかなと思った瞬間。
ぐいと巣山くんのほうに引き寄せられた。

右肩に巣山くんの腕が回って抱きしめられて、
左肩に巣山くんの筋肉を感じて思わずどきんと胸が鳴った。
「篠岡」
巣山くんの声のトーンが数段下がって、私の耳元で囁かれる。
こみ上げてくる気恥ずかしさに、私の顔は真っ赤に違いない。

「かわいい」

耳元で突然言われた言葉に、私の胸がどきんとなった。
びっくりして思わず顔を巣山くんのほうに向けると、
熱っぽい目で私を見てる巣山くんがそこにいて。
あっと思う間もなくその顔が近寄ってきて、私の唇に何か温かいものが触れた。

キスだ。
これって、キスだ。

いや、そりゃキスするのは初めてじゃないけど。
何だか、巣山くんが巣山くんじゃないみたいで。


頭の中が混乱して思わず身を引こうと体を動かしたら一瞬の隙にさらに引き寄せられた。
何時の間にか唇も外れて、後ろ向きに抱きしめられる。
巣山くんはぎゅうっと私を抱きしめて、うなじに顔を伏せてるみたい。

「篠岡、かわいい」

どうなってるの!?
この人誰!? 一体誰!? 本当に巣山くん!?

また呟いたその言葉に、私はどうしていいのかわからずに、
ただ私の身体を抱きしめ続ける巣山くんの腕を掴んだ。
その言葉は途切れることなくずっと囁き続けられて、嬉しさと恥ずかしさで頭がぼうっとして来ちゃう。

ひたすら巣山くんの腕をぎゅっと掴んでいたら、ふっと巣山くんの腕が揺るんだ。
私はこの何かの責め苦のような状態から開放されるのかとほっとしたら、その手は私の胸に触れた。
「あ、あのっ! 巣山くん!?」
もう何が何だかどうしたらいいのかわからずに、後ろにいる巣山くんを振り返ると、またキスされた。
びっくりして声を出そうとしたら口の中に何かぬるりとした感触を覚えて、舌を入れられたんだと気づいた。
おまけに手は変わらず私の胸に置かれていて、な、なんか揉まれてる!?
「う・・・は・・・あんっ!」
口の中の柔らかい感触に背筋がびりっと来て、思わず声を上げた。
くすぐったい様な、こそばいような感覚が私の全身を駆け抜ける。
抵抗しなきゃと思えば思うほどに、体からは力が抜けていって、必死で巣山くんの腕を掴む。
何時の間にか手が私の服の中に潜り込んでいて、じかに胸を触られている。

やっと開放された唇から、大きく息を吸い込むと、至近距離で私を見つめる巣山くんと目が合った。
いつのも、冷静な巣山くんの目じゃなくて、何だか見たことない人のようだ。

「篠岡、鏡見てみろ」

巣山くんの言葉に、反射的に首を翻して反対側の鏡を見た。
その大き目の姿見に映る、私と巣山くん。
私の胸に巣山くんの手が置かれていて、蠢いているのが見える。
ゆっくり動く手に引きつられるように、私の服に皺が寄る。
「・・・・っ!」
羞恥心の余り言葉が出てこない。
思わず鏡の中の自分を凝視してしまう。
はしたなくよがっている自分の顔。
無意識に擦り合わせてる、自分の膝。

すべてが恥ずかしい。


堪らなくなって目をぎゅっと閉じて顔を背けたら、耳元に巣山くんの吐息を感じた。
「見てなって。篠岡」
魔法がかかったかのように私はまた目を開けて、鏡の中の二人を見た。
巣山くんの手が、私の脚に触れてゆっくりスカートをまくっていく。
鏡越しに、巣山くんと目が合う。
抵抗したいのに、身体は金縛りにあったかのように動かない。
助けを求めて鏡の中の巣山くんを見る。
熱っぽく私を見つめている。

ついに下着越しに巣山くんの指が私に触れて体の奥から音が鳴った。
ビリっと、そしてじゅわっと。
自分ではこらえられない何かが、何かがどんどん溢れてくる。
「巣山っ・・・くん」
怖くなって思わず名を呼んだら、鏡越しのまま巣山くんはニコっと笑った。
ほんの少しほっとしたら、急に巣山くんの両手が私の腰に回った。
「え? あの!?」
抗議する間もなく、ひょいと抱え上げられて私はバランスを崩して思わず両手をで支えると
丁度、鏡に向かって四つん這いの姿勢になった。
反射でまた鏡を見てしまい、自分の姿にはっきり顔が赤く変化した。
赤くなっていく自分の顔をまじまじと見つめて、さらに赤くなる。
一瞬放心してしまって、鏡の中の自分のスカートが勢いよくまくられて現実に引き戻された。
「巣山くん!?」
後ろを振り返って抵抗しようとすると、ぐっと腰を抱えられて動けない。
立ち上がろうとしてさらに引っ張られて、思わず顔が床に着いた。
お尻を天高く突き出してしまっている姿勢に気づいて、必死に逃げようとしたら。

するっと下着を脱がされて、ぬるっとした温かい何かが私の中心に触れた。

「ひゃ・・・ああ! ああああん!」
全身を駆け抜ける今までに経験した事がない強い快感に、私の口からはしたなく声が漏れた。
止めようとしても、止まらない。
ピチャリとした音がかすかに耳に届く。
強い意志を感じるその動きには、何かを探し当てようとする意図まで伝わる。
そして、ひときわ強い刺激の所に触れた。
「あ、や、やあああ!」
腰が震えるほどの快感が体中で暴れるような感覚。
膝が震えだして、口が喘ぎ声を出し続けて止まらない。
「う、す、巣山・・・くん・・・」
助けを求めて必死に巣山くんの名を呼んだけど、答えは舌の動きで返された。
ぐりぐりと撫でられて、ねっとりと差し込まれて、じゅっと音をたてて吸われた。
もう何がなんだかわからなくなってただ目を閉じてそれに耐える。

そうしていると、頭をトンとつつかれて薄っすら目を開けると、
巣山くんの指がぴっと正面を向けと指示をする。
釣られて顔を上げると、いやようなしに鏡の中の自分と目が合ってしまった。

はしたなく腰を突き上げてお尻が見えてしまっている。
まくれたスカートが頭に届いていて。
巣山くんのがっちりした手が私の腰をしっかり掴んでいて。
自分のお尻の向こうに見える巣山くんの坊主頭が僅かに動くたびに私の体がいう事を聞かなくなる。

そんな自分の姿が、目の前の鏡に映っている。

「はっ・・・・ああん!」
我慢できない声が自分の口から出ているのさえはっきり見せ付けられて。
もう、どうにもならない。
やがて巣山くんが頭を上げて、鏡越しに私を見た。
楽しそうにニっと笑い、ベッドの下に手を入れた。
私は姿勢を変えることもできずに、ただ黙って鏡越しに巣山くんを見ることしか出来ない。
見えている私のお尻の向こうに巣山くんの顔が隠れて。
カチャリと金具が鳴る音と、ぴりっと何かを破る音が聞こえた。

巣山くんが身を起こして膝立ちになり、私を鏡越しに見つめてくる。
「このまま、いいか?」
目が合った左右反対の巣山くんに向かって、私は力なく頷いた。
巣山くんの指が、再び私の中をかき回す。
「んっ・・・ああっ!」
とめどめなく溢れて行くのが自分でもわかる。
じれったく思い、思わず腰を揺らしてしまうと、ぐっとつかまれた。
た巣山くんが、私に覆い被さってくる。
その動きを鏡越しに見つめていると、硬いものがぐっと押し付けられた。
私の身体は何の抵抗もせずにそれを受け入れる。

「ふん・・・っ・・・はぁん・・・っ!」
体の中が擦られる感覚が、強い電流のような快感になって私の身体を突き抜けていく。
それに集中したくて私は目を閉じて顔を伏せた。
すると、巣山くんの手が私の顎にかかり、ぐっと無理矢理上げさせた。
再び鏡の中の自分と目が合い、自分を見つめる巣山くんと目が合う。

今まで見たことがない、その巣山くんの顔。
学校では決して見せない、少し意地悪そうに笑い、心底楽しそうだ。
ゆっくり鏡越しに目を合わせながら、巣山くんが私の耳に顔を寄せた。
「篠岡、可愛い」
熱っぽく囁かれくと同時に激しく突き上げるように巣山くんが動き出して。
私の理性は完全に吹き飛ばされた。



「篠岡、大丈夫か?」
頬を軽くパチパチと叩かれて、私はぼうっと目を開けた。
心配そうに覗き込んでいた巣山くんと目が合って、慌てて身体を起こす。
「平気か?」
「う、うん」
ほっとしたように私を見て、巣山くんは私をぎゅっと抱きしめた。
肩口に顔を埋められて、私はやっぱりどきどきしちゃう。
「篠岡ってかわいいな」
今日何度目かの台詞に、私はまた赤くなる。
「ね、ねぇ巣山くん」
「何だ?」
「何だか、今日は違うね」
「そうか?」
「うん・・・」
こんなに甘えてくる巣山くんは初めてだ。
それに、さっきの、その・・・ちょっとエスっぽい所も・・・?
今までこんな所、見たことがない。

巣山くんの頭をぼんやりと見つめながら、しみじみと考えていたら、玄関があく音がした。
「あ、誰か帰って来たみたいだよ?」
「・・・親だ」
帰って来た人物の足音がだんだん近づいてきた。
部屋の前まで来た気配に、巣山くんが反応して、さっと私から離れておもむろにドアの前に立った。
「しょうー」
「何か用?」
巣山くんのお母さんの声がした瞬間、巣山くんがばっとドアを開けた。
今まさにノックをしようとしていた巣山くんのお母さんの姿が見えて、私は慌てて頭を下げた。
「お、お邪魔してます!」
巣山くんのお母さんはあんぐり口を開けて、私を見て固まってしまった。
私を見て、巣山くんを見て、やがて顔を真っ赤にさせていた。

「しょ、尚治?」
「用がないなら、じゃあね」
巣山くんが問答無用でドアを閉めた。
そのそっけなさに私の目が思わず点になる。
「あの、いいの?」
「いい」
私の問いに、巣山くんは面倒くさそうに振り返って私を見た。
それは、確かにいつもの巣山くんで。
先ほどまでとに違いに、私は思わず首を傾げてしまった。
ドアの向こうの巣山くんのお母さんが離れていく気配がして、巣山くんは再び私の隣に座る。
かと思えば、再び腕を回してきて私をぎゅっと抱きしめきた。
首筋に顔を寄せてきて、唇を押し付けられる。

「かわいー篠岡」

ほんの数秒前の巣山くんとはまるで違う巣山くんだった。

今日、何十回目かわからないその言葉に。
その、変わり身の早さに。

私の頭の中で、『デレスイッチ』という言葉が響いた。


終わり
最終更新:2008年08月17日 00:07