8-502 泉×泉母
高校生にもなって、まだオレは「ママと結婚するー」と言いたいらしい。
どう考えたって「マザコン」の域を超えている。と思う。
外食して「おふくろの料理のほうがうまい」とか、
修学旅行のお土産選びで真先に「これおふくろに買っていこう」とか、
雑誌でたまたまウェディングドレスの写真が載っていたときに、
おふくろがそれを着てるのをちょっと想像してみたりとか、
とにかく思い当たる事柄を並べたらキリがない。
なんか自分が健全じゃないような気がして焦る。というか健全じゃない。
ただの母親想いならまだしも、そんな、おふくろの体を四六時中舐め回すように見てるとか、
角ハンガーにおふくろの下着がかかってるのを凝視したりとか、
そんな、オレ、うわあああああ変態オヤジかオレは!
でもねほら、おふくろこんなに素敵な女性だしね、男なら惚れないほうがおかしいよね。
と思っていたらいつの間にか兄貴に彼女ができていた。
この裏切者が…おふくろ以外の女性にうつつをぬかすなんてお前…。
そういえば奴は今日も帰りが遅いな。
どうせまたどこかのホテルに泊まって彼女とファッキンしてんだろ。
フン、そんなタクシー女と付き合ったくらいで得意になりやがって。
お前にはせいぜいそういう尻軽女がお似合いだよ。
ちょっと悟りをひらけば自然と熟女に手が出るもんなんだよ。
そうまさにオレのように!オレの目にはおふくろ以外映らない!!!
おふくろラブ!!
と、ここまで考えてオレは、腰をかけていた自室のベッドから降りて一階へと足を運んだ。
階段がね、ギシギシいってんだけどねオレ、この音嫌いじゃないよ。
むしろ好きなほうかな。いやいや、いやらしい意味じゃなくて。
そりゃちょっとおふくろとオレがね、ベッドでね、とか考えたりとかする…訳ないだろ!!!
さすがにそれはダメだ!!
いやいや、おふくろがもう40過ぎだから見た目的にダメとかそういうんじゃなくてね。
なんかやっぱり実の母だと罪悪感がね、あるじゃん。な!
まぁそりゃオレだってね、チャンスがあればおふくろと…とかちょっと思ったりするけどね、
そこはぐっと堪えて…。な!親子ってそういうもんだろ!え、違う?いいから黙ってろ。
そうこうしている内に居間に到着。椅子に座って、テーブルで家計簿になにやら書いている様子のおふくろがいた。
親父は…いない、な。うん。
正直たまに、「もし親父が死んだら…」とか考えたりする。
そしたら今度はオレがおふくろと結婚したいな~って思ってるけど、
そんなねぇ、不謹慎なことはねぇ。な?言えないっしょ!
オレもそんなん言わないよもちろん!うん。
だってオレは親父のことも好きだしね。いやいや、そういう意味じゃなく!
だから死んで欲しいとかそういうのは微塵も思ってない訳よ。誤解しちゃだめ。
でもねやっぱりオレも男だしね。好きな女性とは結婚したいよね~!!!
というか結婚できなくてもいいからせめて新婚さん気分だけでも…名前呼びとか。そういう。
いやいやイカン。イカンよ。ちょっとやりたくなってきたじゃないかよ。
名前呼び!いいね!「恵子!風呂!」とかそういうね!!
でも万が一にもそんなこと、うっかり口が滑って言っちゃったりしたらもう大変なことだよね。
思春期真っ盛りの男子高校生がいきなり母親を名前呼びしてくるとかね。
もう何事かと思うよね。
そんで不気味がられて避けられて最終的にはうわああああ
「おい、恵子」
やっちまった…。だが後悔はしていない。
恐る恐る顔を上げてみるとびっくりしたような顔をしてこっちを見ているおふくろ。
これは…完全にアウトだ…やっちまった…。オレもう失恋決定。
その前におふくろが親父と結婚してる時点でオレは産まれる前から失恋してるんだけど、まぁそんなことはいいよ。
今はいいよ。
それより今になってちょっと後悔してきた。
オレはバカか…己の欲望に任せてこんな…こんな…
「きゃはははは、どうしたのぉ孝介!やめてよもぉ~!!」
びっくりするじゃな~い!と付け加えて無邪気に笑うおふくろ。
ああ…かわいいよおふくろ…まるで天使だ…。
こんなかわいいおふくろと付き合って結婚して子供まで孕ませたとは…親父許せん…だが好きだ。
いやいや、そういう意味じゃなく!
そんな不健全なことを考えているオレをよそに、ホントもう、少女みたいなね、
可愛い顔して笑うおふくろがね。
ホント。かわいい!
もう結婚してくれ…一妻多夫があったっていいじゃないか。
オレも親父もおふくろのお婿さんでいいと思うよ。
もうホントおふくろオレと
「結婚してくれ…!!」
緩すぎるオレの口のせいで、今度こそオレは本当に失恋した。
最終更新:2008年08月17日 00:10