8-577-578 小ネタ

 田島くんが駆けてくる。
「しのーか、ごめん。オレ、おにぎりの具、忘れてきた。昼、取ってくっから」
「あ、ほんと? わかった」
「それとも……じいちゃんに、フェンスんとこまで持ってきてもらおうかなあ」
「だめだよ、自分で取りにいきなさい」
 甘えっこはだめ、みたいにたしなめられて、へへ、っと照れたような顔がかわいいなあと、私は田島くんをじっと見つめる。
田島くんもそれに気づいて、ニッと笑うと、すっと手を伸ばして私の頬を撫でた。
う、キスしたい。したいな、だめかなあ。
 うずうずしている私に覆いかぶさった田島くんは、チュ、と鼻先にキスしてくれた。
「じゃな」
「うん、じゃお昼にね」
 バタバタと走っていく後ろ姿。追っかけたいけど、
「篠岡」
「はいっ」
 志賀先生が来たから、我慢する。
 みんなには内緒だけど、私は志賀先生が一番好き。だってやっぱり、オトナなんだもん。
体つきとか全然ちがう、胸とか厚いし、あの腕に抱かれると、力がふうっと抜けちゃう。
何より手がね、男の人の手、って感じで、さわって欲しくなるの。いっぱい、いっぱいさわって欲しい。
その胸に背中でもたれて、からだの大事なところ全部さらした無防備な私を、先生は、かわいいよって言ってくれる。

耳の裏を優しくくすぐって。首から胸にかけて、そうっと、マッサージだよ、なんて言いながら撫でられると、気持ち良くて、甘えた顔になっちゃう。
腰の抱え方とか、全然乱暴じゃないのに、その手で押さえ付けられると私、どうしても逃げられない。
「じゃ、そういうことで」
「はい」
 あ、やだ。色々思い出してたら、志賀先生の言ったこと、何ひとつ聞いてなかった。
「さ、おいで。今日は特別だ。数学準備室」
 え?
「おとなしくね。ばれないように」
 志賀先生はそう言って、意味ありげに片目をつむって、しー、のしぐさをした。私は口をつぐんだ。
あそこは本当は、簡単には入れてもらえない。今日は他の先生がいないのかな。
前に一度、あそこで志賀先生と、内緒の時間を過ごしたことがある。先生の腕に抱かれて、一緒にアイスを食べた。
先生が木匙にすくってくれたバニラアイス、私は夢中になって舐めて、とけたアイスが先生の胸にたれて、私はそれも全部、全部舐めた。
 志賀先生は、ひょいと私を抱き上げ、顔を覗き込んで言った。
「いい子にしてたら、後でアイスあげる」
 ほんと?
「あはは、正直だなあ、アイちゃんは」
 喜びのあまり、しっぽをぶんぶん振ったら、そう言って笑われちゃった。てへ。
最終更新:2008年09月02日 23:44