9-78-82 チヨ→アベ

今日はミーティングのみだったため普段より早い時間に
野球部の面々は校門へと自転車を押し進めていた。
そのうちの一人がケータイの画面を見たまま固まっている。
「どーしたのー? メール?」
「え、あ、うん。友達が待ってるみたいだから私戻るね。
 じゃあみんな、また明日」
「うーい、おつかれー」
「おつかれっすー」

もと来た方へと向かった篠岡は9人の姿が見えなくなるのを確認してから
もう一度ケータイを開いた。
『話がある。部室で待ってる』
用件だけの簡潔なメールの差出人は、データ整理のために残ると言っていた阿部だった。

話って何だろう……
阿部くんのことだからデータのことだよねきっと。
でも二人きりになることなんて滅多にないからちょっとラッキーだね。

「おつかれさまでーす」
はやる気持ちを抑え、明るい声を出して部室へ入って行くと
阿部は畳の上にノートを数冊広げ、あぐらに頬杖をついて見入っていた。
背中を向けたまま「おつかれ、悪いな」と一言。
篠岡は慎重に戸を閉めたあと、阿部の肩越しにノートを覗き込んだ。
「どこか間違えてた?」
「んー、いや……」
……、
……?
髪が肩にかかりそうなくらい近くにいるのに
阿部はどこかを見つめたまま動く気配を見せない。
「あのー阿部君? 話って?」
阿部君のことだから野球の話なんだろうけど。
篠岡は阿部の正面に回って座った。
「あ~~~、あのさ」
一度顔を上げたもののまたすぐに視線を落として言った。
「その……付き合ってるヤツとか、いる?」

!!


え、え、え、それって、それってどういう意味?
まさか阿部君も……?
ううんでも阿部君に限ってそんなことはない。ないない。
それはいつも見てる自分が一番よく知っている。
「ど、どうしてそんなこと聞くの?」
チ、と小さく舌打ちしてから横を向いたまま答えた。
「三橋が……篠岡のこと好きみてーなんだけど」

…………はい?

「オレの勘なんだけど確かだと思う。
 ほら、あいつって何かってーとすぐグルグルすっけど
 そばにいて支えてやれる人間がいたら男としての自覚もできて
 もう少し安定するんじゃないかと……」

阿部の御託を篠岡はもう聞いていなかった。
足元が音をたてて崩れるような感覚を覚え、畳に両手をついた。
そう、私が一番よく知っていた。
この人の頭の中には野球しかないんだってこと。
どうして、どうしてこんな人のことが好きなんだろう!

うなだれたまま動かない篠岡の手元に、パタッと何かが落ちる音がした。
「お、おい篠……、!?」
歯と歯が当たりガチッと音がすると
次の瞬間には押し倒された阿部の上に篠岡が馬乗りになっていた。
阿部は状況を理解しきれずただ押し付けられる身体と唇とを受け止めていた。
かすかに血の味がする。
「!? !?」
「阿部君……」
耳元で篠岡が囁く。息がかかる。
「……いいよ、三橋君とお付き合いしても。
 でもね、そういう関係になってこういうことするようになった時、
 私がうまくリードしてあげなくちゃいけないよね……?
 自信をなくして投球にまで支障をきたすようになっちゃ困るでしょ」
静かな低い声と密着する身体から感じる熱。心地よい重さ。
どこか現実味がない。
「だから阿部君も協力して……」
「な……」
言葉を遮るようにもう一度、今度は優しく口づけをした。
絡ませる舌と受け止め応える舌。
身体が中心から少しずつ熱くなってくる。
「ん……」
かすかな息遣いだけが部室に広がった。

どうしてこんなことをしているんだろう……
ぼうっとした頭の片隅でそんなことを思うがもうどうでもよかった。
二人は考えることを放棄した。


篠岡は黙って阿部のベルトに手をかけた。
カチャ、という金属音がやけに響く。
取り出したモノを前に逡巡している彼女の手を取り彼は自身を握らせる。
「こう動かして、そっちの手はこっち」
2人ともとても冷たい手をしていたが それ はとても熱かった。
ゆっくりと手を動かすとだんだん硬度を増していき
先端から透明な液体が滴ってきた。
舌をのばしてペロッと舐めてみる。
「ぅわっ」
「えっ」
「……ワリ。続けて」
全体を口に含むとさらに硬くなる。
「ん、……ふ」
ぎこちない篠岡の手の上に右手を重ね
左手で後頭部を押さえ逃げられないようにしてから扱きだした。
「んっ、ん、ぅ……」
「く、」
だんだん速くなる動きに、歯を立てないようにするのが精一杯だった。
「~~~~~~!!」
口中に発射されたそれを篠岡は必死で受け止め、涙目になりながらもなんとか嚥下した。
「……わりぃ」
「いいの。大丈夫」
頬をほんのり上気させ微笑んだ彼女の顔は、初めて見る顔だった。
部活もクラスも同じで毎日顔を合わせているのに。
また俯いて先端に残る液体を舐めながら言った。
「阿部君が気持ちよかったら嬉しい」


阿部はなおもくわえようとする篠岡をひきはがし畳に押し倒した。
無茶苦茶にリボンを外しブラウスをたくし上げブラジャーをずらすと胸を隠す手があった。
「やだ、見ないで……」
「なんで」
「~~~胸、ないから、恥ずかしいっ」
「大きさなんて関係ねーだろ」
抵抗する両手を頭の上で左手でひとつにして押さえると
彼女のささやかな胸があらわになった。
抜けるように白く、頂はピンクに色付いている。
「うまそう……」
「えっ」
阿部は吸い寄せられるように先を口に含んだ。
「あ……っ」
もう片方も愛撫しながら舌を転がすとまた声があがる。
肌理細やかな肌を堪能しつつ右手をゆっくり降下させ
スカートを捲り下着の中まで到達するとビクッと身体が揺れた。
しかし抗議はなさそうなのでさらに進める。
割れ目にそって指を入れるとそこは濡れてはいたが
未だ固く侵入者を拒んでいるようだった。
阿部はチ、と小さく舌打ちをして身体を起こすと
おもむろに下着を抜き去り、篠岡の太腿を抱え上げた。
「え、やぁ……っ、あぁっ」
抗う隙を与えず花芯に舌を絡ませ目の前の蕾を揉みしだいた。
「や、あ……やめ、てぇ……あっ」
言葉とは裏腹に声は熱を孕み蜜を溢れさせる。
指を這わせ刺激を与えるたびにピクンと身体が跳ねる素直な反応が可愛くて
ずっと続けていたかったがこんなうまそうなモノを前にしてそう我慢できるはずもなかった。
いただきます、と心の中で呟きながら篠岡の中に自身を沈めていった。
「! た……」
「わりぃ」
「いいよ……気に、しないで、好きなように、動い……て」
涙を浮かべ辛そうな顔をしながらも笑顔でそう言った。
篠岡のそこは狭くきつく締め上げられ阿部も痛かったがもう止められなかった。
再奥に到達して一度息を吐いてからゆっくりと動き始める。
「ん、ん、はぁ、あ……」
篠岡の甘い声と結合部から漏れる卑猥な水音が蛍光灯に照らされる。


やべー、すげぇ気持ちいい
オレ……何でこんなことしてんだっけ
篠岡ってこんな、顔も、するんだな

阿部君と、しちゃってるんだよね、私……
たぶんこれが、最初で最後
ちゃんと切り替えるから、お願い、
今だけは私を見ていて

「痛いか?」
篠岡の頬を伝う涙を親指で拭う。
柔らかな微笑を浮かべ首を振ると手をのばし阿部にキスをねだった。
融けてしまいそうなキスだった。

限界が近い。
動きが早まるにつれ嬌声も高くなる。
「あっ、あっ、は、……ん、」
「篠岡、オレもう」
「あ、阿部く、ん、あべくん、……き……」
「篠岡、しの、おかっ……、……あぁあッ!!」
直前で引き抜くと篠岡の腹の上に派手に欲望をブチ撒いた。
荒い息遣いが部屋を支配する。

「……………ごめん」
「あはははっ」
「?」
「さっきから謝ってばかりだよ」
「そうか?」
手早く後始末と着替えを済ませた篠岡はもういつもの篠岡だった。
のろのろと服を着ている阿部の前に立つとさっと右手を差し出す。
反射で手を出し握る阿部。
「約束は守るよ。じゃあね、また明日! おつかれ!」
にっこり笑って踵を返し鍵を開け颯爽と部室を去っていった。

「なんだ鍵閉めてあったのか、
 じゃねー、約束って何だ? ……」
『いいよ、三橋君とお付き合いしても』
「あれか? そもそもどうしてそんな話に……あ」

最初に馬鹿なことを言ったのはオレか。
でもあいつ三橋と付き合うって?
オレとこんなことしといて?
練習台は数のうちに入らねェってか!
クソ、女って、女ってわっかんねェ!!

阿部は身体の奥と掌に残る熱を握りしめて盛大に舌打ちをした。
最終更新:2009年10月22日 21:48