9―148 172-179 ミハアベ→ミハミハ
『3番、キャッチャー、阿部君』
「あすっ」
──ふ~ん、あれが”アベクン”かぁ……
バッターボックスに立つ選手を三橋瑠里はじぃっと眺めた。
ルリは今日、イトコとの会話にいつもいっつも出てくるアベクンとやらを一度拝んでみようと
わざわざ西浦高校野球部の練習試合を見に埼玉まで来ていたのだった。
金属音が響き白球が外野に落ちた。
3塁ランナーがホームインしたというのに喜ぶでもなく淡々とした表情の阿部に
それまで聞いていた”アベクン”を重ね合わそうとしてみるがうまくいかない。
すぐ怒って怒鳴って口喧しいらしいから熱血漢だと思っていたのに。
攻守交代し、キャッチャーマスクをかぶり声だしをする彼に少しずつ興味がわいてきた。
本当の阿部君はいったいどんな人なんだろう。
練習試合を終え、三橋廉は心地良い疲労感と満足感に揺られながら家路についていた。
まだ明るい夕方の風はほんの少し湿り気を含んでいて梅雨の訪れを予感させる。
夏が、近づいてきている。
「ただい、まー」
「おかえりーレンレン」
「ル、リ?
来てたんだ、いらっしゃい……お母さん、は?」
「どこかから電話がかかってきて出かけちゃったよ。夜には帰ってくるって」
「ふーん」
荷物を抱えた廉が自室に向かうとルリもついて2階にあがる。
「今日見てたよ、勝ってたね。おめでとー」
「え……な、なんで」
「いつも話に出てくる”アベクン”がどんな人か見てみたかったの」
「阿部っ君!?」
思いがけないところから出て来た名前に廉は30cmほど飛び上がった。
「そー。カッコいーね! どんなヒドイ人なのかと思ってたけど
全然そんなことないんだもん!」
「……」
「3回のキャッチャーフライすごかったね!
高ーくあがったボールを走って走って追いついて捕ってた!
……ちょっとー、レンレン聞いてるの?」
廉はベッドの脇に無造作に鞄を放り投げ、小声でブツブツ言っていた。
「は? 何?」
「レンレンてゆーな……」
「あーはいはい。それで、聞いてる?」
ベッドに向かって俯く廉の視界に入るよう前に回り覗き込むと
彼は泣きだしそうな瞳をしていた。
「……阿部、君はすごいよ。
阿部君が いなかったらオレ、投げられない」
「うん」
「阿部くんは、すごいんだ、でも」
廉が肩を軽く押すだけで簡単にルリの身体はベッドに倒された。
覆いかぶさるようにして至近距離からしっかり眼を合わせ、はっきりと言った。
「ココで 阿部君の話は するな!」
廉の言葉を真正面から受け止めたルリはそっと手をあげ
真っ赤になっている廉の両頬を包み込みにっこりと笑った。
「……よくできました!」
そのまま首をあげキスをする。
いつもと同じ、甘い味。
「ルリ……?」
「他の人を好きになるんじゃないかって心配になった?」
「う、うん」
「だいじょーぶ、私が好きなのは廉だけ!」
「オ、オレも ルリが スキだ!」
「ふふっ。知ってる!」
唇を重ね舌を絡ませると頭がぼんやりとしてくる。
廉の右手がルリの髪から頬、鎖骨を撫でる。
肌身離さず持っているボールのせいで固くなった指先とは思えないほどの優しい手つきに、
それだけで身体が熱くなる。
壊れ物を扱うかのように掌でそっと胸全体を包み込むと
中央に存在を主張しているコがいた。
「ふひっ」
「ど、したの廉?」
思わず笑みが零れた廉をルリが訝しげに見上げた。
「ルリ、かわいい」
こーゆー時のレンレンは本当に嬉しそうな顔をするから何も言えなくなる。
かわいいなんて言われ慣れてるはずなのに。廉に言われるとすごくドキドキするんだよ。
手早くルリの服を全部脱がして廉もシャツを脱ぎ捨てると
幼さの残る顔に似合わずほどよく鍛えられた体があらわになった。
「そういえば今日試合があったのにこんなことして大丈夫なの?」
「……!」
はたと我に返り、いつも阿部から言われている注意事項を思い出してみたけれど。
「エッチするなとは、言われてない!」
「バカレンレン……」
「オレは、ルリと したい」
「~~~~私だって」
にこぉ、と廉が笑う。
「ルリ、かわいいよ!」
「もう、そればっかり……」
小柄なルリの裸体は陰り始めたオレンジ色の光の中で白く浮かんでいるようだった。
廉は光る身体の隅々にまで唇を落とした。
「あ……」
胸のふくらみに沿って舌を這わせ、頂上まで舐め尽くす。
肋骨をさする手を腰骨から下へと滑らせるとルリの身体がぴくんと小さく跳ねる。
「……まだ、触ってないよ?」
「~~もうっ、レンレンの手が触れてるだけで、ダメなの!」
「かわいいね、ルリ」
廉の手がルリの秘密の場所へとのびていく。
奥はいくらか湿っていて廉の指をすんなり受け入れた。
「やっ……」
蜜を掬い花芯にからめると身体にギュッと力が入り、廉の背中に回されたルリの腕は
指の動きが激しくなるにつれ締め付けられる。
きつく閉じられた瞳にキスするとほんの少し開かれた睫に涙が一粒ひっかかっていた。
「ルリ、キレイ だ」
「レンレン……」
廉は眉を下げてふにゃっと笑って言った。
「レンレンて、言うな……」
もう一度キスをして廉は避妊具を装着した自身をルリに埋めていった。
「ん、あ、あぁ……」
「痛い?」
答えの代わりにゆるゆると首をふるのを見て廉はゆっくりと動き始めた。
水音が鳴り、吐息と混ざる。
「ふぁ、あ、あ……んっ」
「ルリ……ルリ……かわいいよ……」
「や、れん……」
上気した頬で自分を見上げるルリを、廉は愛おしい、と思った。
誰にも、渡さない──
動きを早めルリを追い立てる。
大きな瞳も真っ赤な唇も癖のある黒髪もこの白い身体も。
「──全部、廉のものだよ」
不安になることなんて何ひとつない。
総てを許すかのようなルリの微笑みに廉は何故だか救われたような気がしていた。
廉はルリを強く抱き締め、一番奥で自分を解放した。
「ごめんね」
「ど、したの ルリ?」
向こうをむいて三つ編みを編んでいたルリの言葉に廉はうろたえた。
「”アベクン”のこと。
あんまりレンレンがいっつもアベクンの話ばっかりしてるから意地悪しちゃった」
「あ、で、でも阿部君は本当にカッコイイ、んだよ!」
「うん」
「でも、ルリが 阿部君をスキになったら、困る……」
「あははっ、レンレンだーい好き!」
まっすぐ飛び込んで来たルリの笑顔に廉はしばらく見惚れていた。
「れーーーーーーんーーー」
「あ、おばさん帰ってきたよ! 行こ」
「う、うん!」
阿部君にとられることを心配してたのは私のほうなんだけどね。
そんな心配する必要もなさそうで安心しちゃった。
来てよかった!
最終更新:2009年03月14日 14:30