9-212 ホシュネタ1
せっかく早く帰れる日だったのに同じクラスの友達と話し込んでて
結構遅くなっちゃったな。
まーそのおかげで忘れ物に気付いたからよかったんだけどさ。
確か部室に置いたままだったよな、……あれ。
今部室の方から出てったのって阿部じゃね?
鍵閉めてっちゃったかなあ。
お、まだ電気点いてる。まだ誰かいるな、ラッキー。
……さっきの阿部、ズイブン暗い顔してなかったか?
そんないつも明るいヤツじゃないけど、
いつにも増してっつーか、オレにも気付いてなかったし。
何だろ。まーいーや。
「ちーす!」
オレが勢いよく扉を開けた音に驚き、振り向いて顔をあげた篠岡と目があった。
真ん丸な瞳が大きく見開かれている。
篠岡は部室の床にむこう向きにぺたっとひとり座りこんでいた。
入って来たのがオレだとわかると、彼女は自嘲気味に笑って顔を伏せた。
「おつかれさまです……」
その声は少しかすれている。
オレの頭の奥の奥で小さく警鐘が鳴りだしていた。
いつもと違う篠岡。
え、いつもと同じじゃね?
いやどっか違う。
どこが?
あ、髪型?
教室ではひとつにまとめてたよな?
何でわざわざおろしてんの?
何で胸元をずっと押さえてんの?
何でリボン外してんの?
何でティッシュの箱がそんなとこにあんの?
何か嫌なにおいが残ってるんだけど?
何で?
何で篠岡が?
もしかしてアイツと?
何で。
答えなんて聞かなくてもわかってる。
そんな話聞きたくない。
やめてくれ。
でもどうしても聞かずにはいられない。
最悪な言葉を、君の口から。
「ここで、何を───?」
篠岡の口がゆっくり動くのをただ見ていた。
ピンクの舌がのぞき、真っ赤な唇をなめてから軽く息を吸い込む様を。
息もできないほどただ、見つめていた。
「ホシュ……」
「捕手?」
「ううん、保守」
最終更新:2009年05月17日 20:30