9-237-240 アベチヨ(浮気ネタ)


  • 大学生
  • 阿部に本命彼女がいる浮気話
  • エロ度低め
  • 続きます




なんでこんなことしてるんだっけ。
もう何度目なのか思い出すのも飽きてしまった。私の太股を肩に乗せた阿部くんはさっきからずっと濡れた音を響かせている。


 今の今までめちゃくちゃな快感の渦に飲まれて目の前にいる阿部くんのこと
以外何も考えられずにいたのに、ふとした瞬間強い興奮が
冷めてしまえば普段見ないようにしている冷静な思考が戻ってきてしまう。
こんなときなのに、なのか、こんなときだから、なのかは分からないけど。
「あっ…」
 自分のやらしい声が恥ずかしくて苛立たしい。
 オレンジ色の豆球がぼんやりとシルエットを照らしだす私の部屋で、私の
そんな声と固定された私の膝と汗ばんだお互いの肌の感触とひっきりなしに聞こえる
濡れた音と真っ黒な阿部くんの頭、は変に現実感がなかった。
「ん、あ、あべくん…っ」
「ここ?いい?」


 そういうのやめてよ。
 こういうとこがホントに阿部くんだ。
 適当にとか行き当たりばったりな感じじゃなくて、確実にポイントを見付けて
そこを集中して攻め落とそうとする。
 私の反応を冷静に分析されてる気がして、それがどうしようもなく恥ずかしい。
 普通のカップルみたいに甘ったるくからかってるとかじゃなくて、野球の話、
たとえば他校の試合傾向なんかを話していたときの声の調子と同じに聞こえてしまうからだ。
 普通のカップルのエッチのことなんて知らないけど。
 阿部くんの肩幅は昔私が想像してたよりずっと広くてかたかった。
 ヒゲがちょっと伸びて、キスをするときざらざらして少し痛い。
 阿部くんとのエッチは、昔私が少しだけ期待してたよりずっと悲しくて虚しかった。
 色んなステップを一足飛びに越えて、普通なら抱えなくていい色んなものを私にもたらした。



 「篠岡」
 目を閉じたら絶妙なタイミングで名前を呼ばれた。
 否応無しに瞼を押し上げる。体を起こした阿部くんが、少し余裕なさげに私を見下ろす。
 次に言われるセリフは分かってる。私が返す反応も。
 「…なに、阿部くん」
 「ワリ、入れていい?」
 謝られるから悲しくなるんだよ、阿部くん。
 だけど私はいいよって言うしか無くて、私だって阿部くんが欲しいのは確かな事実で、
これ以上変に考えるのも嫌で、だから阿部くんの肩に腕を回してねだるみたいに小さく頷く。
そのときの阿部くんの、ちょっとだけ笑うのが嬉しくて、やっぱり私は阿部くんが
好きなんだと再確認してしまう。
 「篠岡、すげー濡れてる」
 「や、やだ、言わないでよそういうの!」
 「ははっ」
 タチの悪い口を塞ごうとしたら逆に手を掴まれて舐められた。
 爪と指の僅かな隙間からぞわぞわするような快感の波が背中に抜けていく。
 …阿部くんは上手いのかもしれない。誰かと比べたことはないけど、的確だし、
第一とても気持ちがいい。
 怖くないし、彼とこうしているのは自分でも意外なくらい自然な感じがする。
 それでもまだ体に変な力が入ってしまうのを、宥めるように肩から二の腕の辺りをごつごつした手のひらが優しく撫でた。
そうして、片手で自分の体重を支えながら、阿部くんが私の中に入ってくる。



 ――ねぇ阿部くん、なんで再会したとき最初に教えてくれなかったの。
 私が初めてだって知ったとき、驚いてから嬉しいって言ったよね。
 頭撫でて時間かけてゆっくりしてくれたの、すごくすごく嬉しかったのに。
 あの瞬間私は本当に満たされて、阿部くんのことがもっと好きになってしまったのに。
 ――阿部くん、あのとき、彼女がもういるんだって教えてくれたら。
最終更新:2009年10月22日 22:17