野球部の応援も今回で2度目となり、授業があって行けなかった前の試合の分も
きっちり応援しようと応援団の鼻息は前回よりも荒い。
前回でやはりトランペット1本では足りないからということで松田と深見は
後輩の野々宮を誘って今日の応援に臨んだ。
野々宮は10分も前に集合場所へ到着していたが深見がまだ来ない。
「深見さん遅いですねえ。道路混んでるんですかねえ」
やや心配そうに野々宮が松田に話しかけてきた。
「そうかもなあ、やっぱ大太鼓でけーし駐車場から運んでくるのも大変……」
松田が語尾を濁したのは、心配をかけている当の本人、深見が
野々宮の後ろから人差し指を口に当ててこっそりと忍び寄ってきたからで。
野々宮が松田の様子をいぶかしむより前に深見は背後から野々宮の胸を鷲掴みにした。
「いよー祥子、今日もオッパイおっきいねー!」
「きゃあ!」
ああ女子って本当にきゃあって悲鳴あげるんだ、と松田は一瞬だけ冷静に思ったが
すぐ眉根を寄せて深見に近づいた。
「お前なあ、遅刻した上に来るなりセクハラか」
松田の方に目は向けつつも野々宮の胸から手を離すどころか一層体ごと密着させて
深見はニヤリと笑った。
「セクハラじゃないもん愛だもーん。祥子スキスキー」
そう言ってキュッと野々宮を抱きしめた深見の視線は、衣装の下にジャージを穿き
ブルゾンを羽織ったチアの2人に向けられた。
「めんこい娘はいねがー! 衣装を隠してる子はいねがー!」
言うが早いかチア二人の方へと走って行き、胸を触り尻を触りとやりたい放題である。
「松田ぁ、アレなんとかしれ。ちっこいオッサンにしか見えねーけど仮にも彼女だろ」
「オッサン言うな。仮にもじゃなくって正式に彼女ですけど?」
下駄を鳴らして駆け寄ってきて深見の方を顎でしゃくってそう言う梅原に、
松田は少々不機嫌そうな顔をしながら切り返した。
「いや正式とかそういうことじゃなくて、とにかくどうにかしてくれよ。教頭さんも来んだからよ」
保護者も多くいることだし、と付け加えられれば動かないわけには行かない。
松田はまだチアにちょっかいを出している深見の方へ歩いていった。
「おー、もうそこらへんにしとけなー」
声を掛ける松田を深見は鬱陶しそうに睨む。
「なんだメガネ、あんた邪魔。あたしはこれから祥子とアヤノちんと美亜ちゃんとでハーレム作るんだから。
あんたはベッドの下に隠してる巨乳グラビアで我慢しな!」
「えー松田さんマジっすか巨乳派っすか」
「マジメっぽいと思ってたのにー」
チアの二人がきゃあきゃあと騒ぐのと対照的に松田は固まっていた。
暑さ以外の理由でこめかみに汗が流れる。
(なんで、バレたんだ?)
松田とて健康な青少年であり、「日課」のために雑誌や何やらを入手したり友人と貸し借りしたりしている。
しかしながら彼女である深見を家に呼ぶ際にはなるべく目に付かないような場所へ
それらを追いやったつもりでいた。
確かに昨日、終業式後に深見を自室に呼んだ際にもきちんと隠していたはずだ。
『もっと胸おっきい子の方がいいよね、ごめんね』
『んなことねーって』
普段の男勝りの口調とは打って変わって情事の際にはしおらしくなる深見の小さな体を
きゅっと抱きしめて額にキスしたことも覚えている。
(まさか、あの時にはもう見つけてたってか? にしてもあいつならすぐ「見つけたー」とか言いそうなもんだけど)
「うら、いーからこっちよけとけって。梶から電話来るまで待機だとよ」
強引に深見の腕を取って植え込み前へと連れて行く松田の背中に
「ラヴいっすねえー」
とチアの黄色い声が飛んできた。
翌日、今度は深見の自宅に松田が招かれた。
汗をかいたグラスに口をつけてアイスコーヒーを飲み干すと、松田は姿勢を正して切り出した。
「あのね」
「ごめん」
松田が用件を話さないうちに伏し目がちな深見がぶっきらぼうに言った。
「昨日はちょっと調子乗ってました。ごめん」
そう言って頭を下げるものの、深見の言葉にはまだ険が残っている。
「まあ確かに言っても効かなかったのもみんなの前でおかずバラされたのも腹立つけどさあ」
一旦言葉を切って松田は首を傾げながら深見を見る。
「なんで人んちのベッドの下まで漁ろうとすんの」
むー、と口を尖らせていた深見だが、しばらくして
「梶山が、松田んとこに今巨乳のネタが行ってんぜ、あいつ好きだよなあって」
とあるグラビアアイドルの名前と共にそう言った。
(梶のやつ後でシバく! 要らん波風立てやがってシバく!)
「あのな、まあ確かに梶山からそういうのは借りたよ。んでもさあ」
少々気恥ずかしくはなったものの、真相を言わねば彼女の機嫌は直らなさそうだ。
松田はそう思って人差し指で頬を掻きながら続けた。
「顔が智花に似てたからさ、智花とシてる時の感じとか思い出しながらシてる」
言った松田も聞いた深見も、耳まで顔を赤らめた。
「それ、超恥ずかしいんですけど」
「言ってるオレの方が恥ずかしいっての」
じりじりと膝立ちで深見に近づくと、松田は深見の鼻先にキスを落とした。
「オレが好きなのもシたいと思うのも、智花だけだから」
「んっ……あ、あっあっ」
小さな体で自分の上に跨って喘ぐ深見を、松田は眺めるともなく眺める。
「よしゆきぃ……」
喘ぎのさなかのか細い声で自分の名を呼ぶ深見を何度も貫けば、
松田自身を飲み込むそこは切なそうに収縮する。
しっかりとついた筋肉の上を柔らかい肉が覆う腹を両手でなぞると、彼女は一層狂おしい声をあげる。
「んやぁ、あ、だめぇ」
松田は体を起こすと、深見をグッと抱き寄せた。
密着した体から伝う汗が交じり合い、やがて繋がった場所から溢れる露と混じって
シーツをしっとりと濡らしていく。深見の左耳から髪を掻き分けて唇を重ね、
舌と舌を絡ませると上と下で繋がった両方が一層潤んでうねうねと動く。
松田の左手に納まった深見の胸の先端は自らの快感を如実に松田の掌に伝え、
揉みしだかれ摘み弾かれて更に愉悦を増幅させた。
「あ、はあ、あふ、あはっ」
目が潤んで焦点が合わなくなってきた深見の呼吸が荒くなり、やがて体中の力が抜けるのと同じ頃、
松田も絶頂を迎えてゴム越しに深見の中へ精を吐き出した。
ふわふわと火照りの残る体で抱き合い、どちらからともなく触れるだけのキスを落とす。
「わかったろ、オレがこんなんしたいのは智花だけだっての」
「うん……」
まだ少しとろんとした表情の深見が返事をすると同時にキスを返す。
「明日は昨日みたいに女子にセクハラすんなよ」
そう松田が釘を刺した瞬間、深見の目の色が変わった。
「なんでよ、あたしの大事な楽しみを!潤いを!生きがいを!」
そんなご大層な、っつか楽しみだったんかい、とつっこむ気にもなれずに
松田は小さくため息をつくと深見の唇を再び塞いだ。
最終更新:2009年06月28日 22:27