1-52 ミズチヨ(マネジだもん)
「マネジだもん」
「あれ、篠岡まだいたの?」
練習を終え、家に帰る途中だった水谷はなぜだか教科書やらノートやらが入ったカバンを部室に置き忘れたことに気付き、戻ってきたのだった。
「あ、うん。ちょっとまだやるコト残っててね…」
部室には何やら、たくさんの紙を両手に抱えたマネージャーがいた。おそらく対戦相手のデータの資料だろう。
「あのさ、俺のカバン知らねー?たぶん部室に…」
なんとなく二人きりに気まずくなる前に言葉を発した。
「えーとぉ……あ、これかな?」
「あー、それそれ!サンキュ!」
「あっ!」
篠岡がカバンを取った瞬間、持っていた資料が腕をすり抜け、見事に地面に散らばってしまった。
「うぁ、だいじょぶ?」
慌ててカバンを置き、紙を拾い集める篠岡。同時に水谷も一緒に拾い集め、改めてその資料の多さに驚いた。
「ありがと、水谷君」
「…にしても、よくこんなにデータ集めたなぁ」
拾い終えた二人はとりあえずイスに座った。
「うん、ビデオ何回も見てね、出きる限りの事はやったつもりなんだけど…」
「けど…?」
「まだ完璧にはデータとして完成してないかな…」
「うそぉ!?いや、これでも全然使えるって!だって一人一人の弱点とか凄い分かりやすく書かれてるし…」
コト細かく整理されたデータにまだ不満があることに水谷は信じられず、思ったままのフォローをした。
「もうちょっと分かりやすく書くからさ、あと少しだけ待っててね」
篠岡は笑顔で言う。
少し距離をとってイスに座ったつもりだったが、意外とその距離は近く、篠岡の笑顔が間近で見られたことはラッキーだった。
それと同時に、その笑顔がどこか力無いのも分かった。
「篠岡、少し休んだら?最近ずっと寝てないんじゃないかなぁって…」
「ううん、だいじょぶだよ。だって皆の方が疲れてるし、水谷君もそうでしょ?」
果たしてそうだろうか。俺らは男なんだから体が出来てて良い。篠岡は野球部のマネージャーなんだから、多少はスポーツ系だとしても、見た目は小っちゃくて華奢。
そんな彼女は今にも倒れそうだ。
「それに…皆が大会で一番になって、そしたら私も皆にとって一番のマネジになりたいんだ」
「…!?」
なんだか凄いことを言われたようで。水谷から言葉が出なかった。それでも篠岡は続ける。
「一番になるには、やっぱり他の学校のマネジはしないような…」
「篠岡…?」
「…こともしなくちゃイケナクて……」
「し…!?」
「…だから…」
酒を飲んだかのように変わっていく篠岡に水谷は足が竦む感覚を覚えた。
マネジが変わり者ですが、続きます。
最終更新:2009年10月31日 17:48