2-318-324 準太×マネジ
いまだ降りしきる雨のようなシャワーを浴びていると、数時間前まで立っていたマウンドに今も立っているような気分になる。
和さんがサインをくれる。
あのサインでピンチを救われたことが何度あっただろう。
どれだけランナー背負ってても和さんの組み立てた配球とあの強肩で凌いでこれた。
調子が上がらないときも俺の投げやすいリードしてくれた。
俺は、そこに向かって…
———終わってしまった。
桐青高校、初戦敗退。
時間の感覚がない。
雨で薄暗いせいもあるだろうが、それ以上にショックから立ち直れていないことのほうが大きい。
既にみんなは帰ってしまった。
和さんも慎吾さんもヤマサンも、もうこのグラウンドで練習することはない。
昨日和さんとここで話したときに嫌な予感がしたんだ。
本当に最後になってしまうような…
「たーかせくん」
雨音だけが支配する沈黙を破ったのは、拍子抜けするほど明るい声だった。
「まだいたんだぁ」
傘をさしながらひょこひょこと近づいてくるその姿に、張り詰めていた空気が少しだけ和んだ気がした。
「…先輩、こそ…」
先ほどまでの涙で震える声がバレないように、確かめるように声を出す。
「お昼食べてないでしょ。…って言ってももうそんな時間じゃないけどさ、食べなきゃ体に悪いし。はい、高瀬くんの分」
そう言って差し出したビニール袋の中には、銀紙でくるまれたおにぎりが2つ。
「あ…どうも」
受けとったそれは既に冷たくなっていた。
「ごめんねー、もう冷めちゃってるよね。でもあたしが握ってあげたんだからさ、ちゃんと食べろよ?」
先輩の声はどこまでも明るい。
「食欲、ないスよ…」
疲れのせいか涙のせいか、食べ物は咽を通らなそうだった。
「…うん、食べたくなったらね。とりあえず風邪ひくと悪いし中入ろ?」
そう言うと先輩は、俺の手をひっぱって部室へと向かった。
「ふー。今日でここともお別れかぁ」
荷物や服についた水滴をハタハタと払いながら彼女は言った。
当たり前だけど、和さんたちが終わりってことは先輩も…
「…スンマセンでした」
イスに座ったまま、うつむいて言った。
「あ、そういう意味じゃなくてさ。謝ることないよー。みんな一生懸命やったんだし」
「俺の球がもっと速かったら…制球も変化球ももっと良かったら…」
「…顔、上げて?」
いつの間にか目の前に立っていた彼女の顔を見ようと頭を上げる。
「…っ」
思いのほか近くにあった彼女の顔。
驚いて思考が停止した一瞬のうちに、唇に柔らかいものが重なる。
それがキスだと理解するのに時間はかからなかった。
「な…んで…こんなこと…」
「かっこよかったよ。今までで一番」
「答えになってないスよ…」
「ずっと好きだったの」
「ん…ぅ…」
薄暗い部室に、彼女の鼻にかかった吐息が響く。
くちゅり、と舌をからめると、快感に眉が歪むのが見えた。
「ふぁ…あ…」
少しずつ優しく、それでも貪るように、口の中を蹂躙する。
隣に座らせ肩を抱いていた手は、今は柔らかい胸を優しく撫でている。
「んっ!」
ぴくん、と一際大きく反応する。
そんな彼女の姿を見て我慢できなくなり、はだけたYシャツの下から手を入れようと…
「…まって…」
「…っ!」
一瞬で素に戻る。
調子に乗っていた自分を悔いた。
「あ…スンマセン」
「んん、そうじゃなくて、…鍵、かけてきていいかな」
カチャリ、という音がすると、パタパタともといた場所へと座った。
なんとなく居心地の悪くなった俺の右手を、彼女は両手で掴んで自分の胸へと誘った。
手のひらに柔らかい感触が伝わる。
「…続き、…してくれる?」
「ん…ふ…」
雨なのか汗なのか、ポリエステルと綿でできた布地はじっとりと湿り、下着のラインを透けさせる。
三度重ねた唇の間から熱い吐息が漏れる。
小さく開いた口に、お互いの唾液でしとどに濡れる舌を挿しいれた。
快感を与えるためか、自らそれを得るためか、短い舌を必死に絡めてくる。
薄く目を開けると、そこにあるのは火照った頬ととろんとした目の先輩の顔。
そのギャップに背筋がゾクリとする。
「っあ…!」
Yシャツの下から差し入れて下着をずらし、敏感な部分に触れた手は、彼女の体をわずかに震えさせる。
「ん…っ」
プチンという音とともに、動きを邪魔していた布が緩く下にずれた。
ホックを外した手はそのまま俺の首に絡められる。
「ふぁ…ぁ…ん」
舌ですくいきれなかった唾液がポタリと制服に点を落とす。
「…っ」
鈍い快感が背筋を走った。
首に回されたのとは別の手が、準太自身を優しく撫でる。
張り合おうとしたわけではない…が、右手は胸を、脇腹を伝い、スカートに隠れた彼女の秘所へとたどり着く。
「っは…ぅ…」
薄い布に染みをつくるほどにそこは湿りを帯び、くちゅ、と卑猥な音を立てた。
「ぁ…ゃ…ん」
中指と人差し指でそこを優しく撫でると、彼女は途切れ途切れに喘ぎながら身体をビクビクと震わせる。
快感で自由にならない身体をもじもじとさせながら必死に快感を与えようと手を動かす彼女の姿に、一瞬理性が飛びかけた…が。
「っ!」
頬を伝うひとすじの流れ。
ポタリと制服に作られた二つ目の点。
彼女は…泣いていた。
咄嗟に抱きしめた。
時間が止まったように全ての動きが停止する。
「先輩…やめましょう」
「な…んで…」
彼女は袖で涙を拭いながら言う。
「俺も…先輩のこと好きだったんスよ」
「だったら…っ!」
やめたくないと言えば嘘になる。けど。
「だから…今はやめときましょうよ。これじゃ雰囲気に流されたみたいじゃないスか」
「…」
きゅっ、っと背中に回された手に力が入るのがわかる。
「大切にしましょうよ」
「…優しいんだね」
濡れた服を通して、火照った身体の温かさが伝わってくる。
「見ててくださいよ。タケも迅も利央も…俺だってまだまだ上手くなりますから。」
「うん…」
「先輩を連れてけないのは残念ですけど…絶対、甲子園行きますから」
「うん…うん…っ」
窓から見える夕焼け空は、先ほどまでの雨が嘘のように綺麗だった。
それでも俺は、彼女の溢れ出す涙が止まるまで、震えるその細い身体を抱きしめていた。
最終更新:2009年11月07日 14:03