2-345-353 準太×マネジ(二年生エースと先輩マネジ)

甲子園——。

去年、一年だったオレは幸運にもその聖地へと足を踏み入れることができた。とはいっても、先輩たちの
活躍によるものであって、ベンチ入り止りだったオレは地区予選の序盤でほんの少し登板しただけだった。
結局、甲子園球場のマウンドに登ることは叶わなかったけど、こう思い直した。

——オレにはまだチャンスが四回も残っている。部の皆と力を合わせればまたいけるはずだ

自分でいうのもおこがましいと思うけど、一年間でずっと力をつけることができたと思う。
春の県大会も強豪揃いの中を勝ち進んでシード権も確保できた。確かにARCを始め難敵ばかりで道は険しい。
それでも信じていた。自分の持てる限りの力を発揮して最高のパフォーマンスを見せることができれば
……この仲間たちとなら決して不可能な話なんかじゃないって。

そして迎えた二度目の夏。今年の初戦。オレたち桐青野球部はまさかの初戦敗退——。
まったくのノーマークだった一年しかいない野球部を新設したばかりの公立校・西浦高校に敗れてしまった。
こうして、オレの二回目の夏は早くも幕を閉じたのだった——。


和さんや慎吾さんたち三年生は引退して、反省会を行い一日の休養を挟んでオレたち二年と一年での
新チームがスタートした。
あのとき、試合の前日にブルペンで投球練習を終えた後に和さんと交わした言葉が頭を離れない。
『なんでいまゆうんスか? あさって投げるでしょ』
でもそれは叶わなかったのだ。
一年・二年はもちろん、三年の先輩たちも言ってくれた。おまえのせいなんかじゃないって。
それでもその言葉を受け取るのが心苦しくて……。ベンチ入りできなくてスタンドで声をからして応援
してくれていた部員たちの中には三年生もたくさんいた。
その人たちも罵倒するどころか逆に激励してくれた。この経験が必ず活きてくるから練習頑張れよって
口々に言ってくれた。
不覚にもその言葉でまた涙ぐんでしまって、慎吾さんから頭を叩かれたりした。


あの敗戦から一週間。オレの頭の中には未だにあの試合への後悔の念が大部分を占めていた。
もちろん、いつまでもそのことに心を囚われていてはいけないし、
監督からも早く切り替えるようにと促されてもいた。
それでもブルペンで捕手が構えるミットへとボールを投じながら思う。

——フォークは封じるべきではなかったんじゃないか。ただ和さんのリード通りにミット目掛けて
  投げていればよかったんじゃないか

確かにあの時の条件下でフォークを放れば、ワンバウンドになりすっぽ抜けて暴投になってしまう
危険性があったと思う。
それでも何も言わずに和さんを信じて投げるだけでよかったんじゃないか。
和さんならワンバウンドになってもしっかりと前に弾いてくれたんじゃないだろうか。
スライダーは西浦の選手たちには上位から下位までほとんどの打者に捉えられていた。
だから、フォークを投げたくないというオレの要望を聞き入れてくれた和さんはストレートとシンカーで
試合後半は配球を組み立てるしかなかった。
オレの我侭でそうさせたようなものだから、オレのせいで……という思いは
大きくなることはあっても小さくなってくれることはなかった。


練習が始まってしばらくしてから、オレはロードワークに出た。
うだるような暑さとなってきている。いよいよ夏本番ということだろうか。
そんな気候でも構うことなく、学校周辺をたっぷりと十キロ。寒い冬場も欠かしたことのない日課。
以前は一人で考え事をするのにもってこいの時間であったけど、日がそう経っていないため、この頃
考えることはあの日のことばかりだった。



「お疲れ」
「……?」
いつもより遅いペースで帰ってきたオレを校門で女子生徒が出迎えてくれていた。引退した三年生の
野球部マネージャーで、オレもさっきのロードワークをチャリで付いてきてもらったり、投球フォームを
ビデオに撮ってもらったりと数え切れないほどに世話になった人だ。
「……どうもっス」
断る理由もないし、差し出されたタオルも素直に受け取った。帽子をとって顔から頭、首筋などを拭いていく。
「新チーム、頑張っているみたいだね」
「……えっ、はい」
「新キャプテンの青木はもちろん、利央や真柴の一年コンビも積極的に声を出して皆を盛り上げてた」
「はい。タケのやつはもちろん張り切っていますし、利央や迅も率先して盛り上げ役になってくれてます。
 ところで先輩は今日はどうして……?」
「ん? ああ、休みで暇だからちょっと見に行こうかと思って……ね。もともと受験勉強を本格的に始める
 のは夏が終わってからって考えていたから。塾通いを始めるにしても中途半端な時期だしね。
 まあ、暇なわけ」
「…………」
夏が終わってという件がオレの胸にグサリと突き刺さった。そういえば、先輩も記録員としてベンチ入り
していて負けが決まった瞬間から涙を流していたんだった。恨み言を聞かされるのだろうかと考えたが、
それは違うという結論に至った。
朗らかな人柄で部員全員から慕われていたし、学年を問わずに面倒見のいい人だった。そんな人が悪意を
抱いているという考えを一瞬でも頭に思い浮かべたことをオレは恥じていた。

セミがうるさく鳴く中。立ち話も何だからと言われて購買の自販機でスポーツドリンクを奢ってもらって
部室棟の階段にて話すこととなった。
「……それで、エースナンバーをもらうのが濃厚で名実ともに新生桐青野球部の柱となる高瀬準太の調子は
 どうなのかしら?」
「…………」
ペットボトルのキャップを閉めて慎重に言葉を選ぶ。彼女は三年生——和さんの彼女だっていう噂があった。
だからオレのことを心配した和さんから言われて相談に乗りに来てくれたのかもしれない。
それを考えると、馬鹿正直に胸の内を打ち明けてもいいのだろうかという気持ちがストッパーをかけていた。
「誰にも言わないからさ。ほら、おねーさんに打ち明けてみなさいって!」
「……っ!? ちょっ、先輩……っ!」
暗い顔で黙りこくっているオレに焦れてしまったのだろう。先輩からヘッドロックをかけられていた。
となれば、女性特有の感触——胸の柔らかさを感じてしまってオレは焦りに焦ってしまっていた。
「えーっ、準太が話してくれないんだもん」
「わかった、わかりました! 話しますから……っ!」
ぽよぽよとした心地よすぎるいけない誘惑から逃れるためにも、オレは洗いざらいぶちまけることになった
のだった。



オレの取り留めの無い話を先輩はただ黙って聞いてくれていた。思いつくままに考えていたことを喋って
いたのに、彼女は何一つ嫌な顔はせずに耳を傾けてくれた。
「……終わり?」
「は、はい」
真剣な瞳でじぃっと見詰められて確認される。今更ながら先輩の美人さに気付かされていた。
これに加えて性格もよくて料理や洗濯、縫い物まで何でもできる人なのだから人気があるのも当然なのだと
妙に納得してしまっていた。
「〜〜っ!?」
ぼさっとしていたオレの頭へと振り下ろされた五百ミリペットボトル。
先輩は蓋を開けてもあまり口にしていなかったため結構な衝撃だった。
「い、いきなり何するんスか……」
理不尽極まりない暴力であったが、体育会系特有の先輩からのありがたい指導であるため文句を口にする
ことはできない。
「準太。あんたはいい加減に西浦高校さんの実力を認めないといけないよ」
「え……っ」
「だってそうでしょ。わたしたちは負けちゃったんだから。その事実はどんな弁解を連ねようと変わる
 ことはない」
「…………」
「確かにね……あの試合での九回の攻撃のときの河合の言葉を借りれば、わたしたちは西浦さんのことを
 なめていたよね。初戦——それも野球部を新設したばかりの一年生しかいない公立校が相手だったんだから。
 少なくともわたしたちの相手ではないとスタンドの皆も含めて考えていたはずよ」
オレと視線を合わせながら彼女は淡々と続けてくる。
「それでもわたしたちは負けてしまった。何れにせよ西浦さんには相応の実力があったことは間違いない。
 準太はまだ逃げているんだよ。西浦さんに負けたことは実力を出していなかったからで、
 オレたちが実力通りの力量差を見せ付けることができれば勝っていたはずだってね」
「お、オレは……」
「確かにこの敗戦は皆にとって辛いものだった。それでも、準太は前を向かなきゃいけないよ?
 まだ準太にはチャンスが二回残されているんだから」
「…………」
「逆にプラスに考えればいいじゃない。初戦で負けてしまったからこそ新チームを始動するのが早くなった。
 だから、秋季大会に向けての準備を他の学校よりも早く始めることができたんだから」
「それはそうスけど……先輩たちに……」
「まあ、そう簡単に割り切れれば苦労しないか。……わかった。こっち来なさい」
「えっ? 先輩……ちょっと……」
先輩にいきなり立たされたオレはズルズルと情けなく引張られていくだけだった。


オレたち野球部の部室は、県下でもかなりの大所帯ということもあって広さがかなりある。
もっともそれでも部員全員が入れるかと問われれば否なのだが。
男子部員しかいないところの部室は汚いと思われがちだけど、うちに限ってはマネージャーたちがほぼ毎日
のように掃除をしてくれるので綺麗に整理整頓されている。

その部室の中でオレは思いがけない言葉を投げかけられ戸惑っていた。

「準太。わたしを抱きなさい」
「へっ? だだだ、抱くって先輩、何言ってんスかっ!」
完熟トマトのように真っ赤になっているだろう自分の顔。正直かっこ悪いと思うけど、そんなことを気にして
いる場合ではない。ただ焦る気持ちが先行するばかりだった。
「いろんなことを考えすぎて煮詰まっているから、思考が堂々巡りするばかりなんだよ。そんなときこそ
 すっきりするのが一番だって。わたしとエッチして心も体もすっきりしちゃいなさい」
何ということはないという様子の先輩。対するオレはあたふたとしてかっこ悪いことこの上なかった。
少なくとも冗談を言っているような顔には見えなかった。オレは少しでも考える時間をと俯いていたのだが、
「あーっ、もうじれったいなあ!」
つかつかと素早く間を詰めてきた彼女から唇を重ねられていた——。
ふにゅっとした瑞々しい唇の感触。さっき胸も柔らかいと思ったけど、唇もなかなかのものだった。
そのまま続けてこの心地よい状況に身を浸していたいと思ったところで、オレの頭の中には
和さんの顔が浮かんできていた。
「……ぷはっ! いけないっスよ、こんなことしちゃ……」
「……何でよ」
不満げにしながら上目遣いに見詰めてくる先輩。それを見て、彼女に惹かれ始めて——いや、以前から
付き合うならこんな人がいいなと夢想していた女の子だということを思い起こしていた。
「……だって、和さんに申し訳ないっていうか……」
「……和さん? ちょっとなんで河合が出てくるのよ……?」
アンダーシャツの襟元を掴まれてぐいっと先輩の顔に引き寄せられる。明らかに怒っている表情を目にして
萎縮してしまう。
そういえば、美人の怒った顔はすげー恐いって話を聞いたことがあった……。
「いや、だって部員の間では先輩は和さんと付き合っているって話になっていて……」
「……あのね、河合にはずっと前から付き合っている彼女がいるから。それに部の主将と同じ学年の
 マネジなんだからある程度は親しくしているのは当たり前でしょうが。
 まあそれは置いといて。準太ってわたしのことを彼氏がいるのに他の男といやらしいことをするふしだらな
 女だって思ったってわけね……」
端整な顔に浮かび上がる怒りの表情。無理して微笑を浮かべようとしているようだけど、ひくひくとしている
だけの頬がひたすらに恐い。
「あ、いやその……スンマセンっした……っ!」
何分経験が乏しいというかないもので誠意を込めて謝るという選択肢しかなかったため、素直に謝罪をした。
「……そもそも好きな相手以外にこんな誘いなんてできるはずないじゃない……」
「……はい?」
「なんでもないわよ。ほら続き」
ほんのりと頬を朱に染めて瞳を閉じ、先輩はキスの続きを促してくる。
オレはそっとそれに応えていった。



キスをして先輩の口腔内に舌を入れながら部室にいやらしくぴちゃぴちゃと響く音を立てていく。
次いで、ネクタイを外してブラウスを脱がせた。
薄いブルーのブラジャーが現れて思わず息を呑んでいた。うっすらと汗ばんだ彼女の胸。
邪魔なそれを取り払って中身を早く見たいのだが緊張して手が震えており、ホックを
上手く外すことができない。
「ふふ。ちょっと待って。準太に任せているとブラ壊されそうだから、自分で外すわ……」
まったくもう……というふうに困り気味の微笑を浮かべている先輩の言うとおりにすることとした。
「ちょっと、あっち向いていて……。やっぱり恥ずかしいから……」
促されるままに背後を向いた。やや間があって、パチっという音が聞こえた。
「……いいわよ」
振り返れば手で胸を隠した先輩がそこにいた。
「見たい……?」
彼女の問いかけにバカのようにして首を縦に振る。そしてそっと腕が広げられていって、ようやく
先輩の胸が姿を見せた。
「……っ」
「……どうかな?」
「き、綺麗です……本当に」
素直な気持ちを告げていた。部室や教室とかで皆でエロ本を見たことがあったけど、それに登場していた
モデルたちよりも何倍も——比較できないほどに美しかった。
形も綺麗だし、頂点に鎮座している乳首も淡い桜色で……とにかく感動してしまって言葉にできなかった。
「見てるだけでいいの……?」
オレは彼女を抱きしめて、中央にある大机へとそっと先輩の身体を横たえていった。

もう一回キスをする。今度はディープな舌を絡めあっていく濃厚なキス。両手は導かれるようにして
形良い乳房へと向けていた。
そっと力を入れる。
「ちゅっ……んっ、もう少し強くしても……大丈夫だから」
許可を得て、その柔らかい感触をもっと楽しませてもらう。ふにゅふにゅと揉んでいくと押し返す
ような弾力。大きくなってきた乳首へと目がいく。
「あぁあ……くぅっ。う、んっ……それいい。もっと舐めて……」
片方は揉み込みながら、もう一つは要求通りに舌で転がしていく。
「んっ……ああぁぁあ……んあっ! いい、準太ぁ……気持ちいいよぉ……」
今度は入れ替えて、しばらくしてからスカートへと手を入れて中を探っていく。先輩のショーツの中心は
しっとりと濡れ始めていた。
自分が彼女を感じさせることができていることを確認できてほっとしていた。それと同時にもっと
先輩の可愛い声がもっと聞きたくて、ショーツを脱がすため両手を括れた腰へともっていき手をかけた。
「……っ」
「すいません。でもオレ、先輩のアソコが見たいです」
重なっていた視線がそっと外されたと思うと腰を上げてきていた。ショーツを脱がすお許しを貰えたらしい。
ブラジャーとお揃いらしいショーツを引き下ろしていった。
その中央部分からはほんの少しだけ糸をひいていた。
じっと耐えるような先輩の息遣いと、明らかに興奮しているオレの荒々しい鼻息交じりの息。
スカートをたくし上げて現れた陰毛に目がいき、そして閉じられた唇のようになっているそこに両方の
親指と人差し指を使ってぐいっと押し開いた。
「あ……っ」
「……っ」
初めて目にした女性器は堪らなくいやらしくて、生々しく見えた。でも、とても綺麗だった。
そこへ唇を寄せて、さっきキスをしたときと同じように丁寧に優しく扱っていった。
「んっ……だ、だめだって……ぁん……そんなとこ汚いから……っ! 
 そ、それに汗かいちゃってるから……ひぃ……っ!」
先輩の制止の声を無視するようにして、オレは飽きることなく彼女の秘所へと舌を這わせ続けていった。



「はぁ……んっ。ねぇ……準太ぁ……わたしと一つになろう……?」
彼女の意図することを瞬時に理解して慌しくベルトを外してズボンと下着をひき下ろした。そして腹に
反り返るようにしている欲望を露出させる。
股を開いてオレを受け入れる体勢をとってくれた先輩から鋭く声が掛かってきた。
「ごめん、ちょっとだけ待って」
素早くスカートのポケットを探っていたかと思えば、小さなビニールを取り出して破ると中身を広げて
オレの肉棒へと包んでいった。
「ごめんね。やっぱり妊娠って恐いから……今日はこれで我慢してね?」
「い、いいえ」
改めて仕切りなおして先輩の膣内へと潜り込んでいく。ゴム越しとはいえ、少しでも気を抜けば暴発して
しまいそうなほどに締め付けられてくる。
「……っう……」
何かに耐えるようにしている彼女が気になるが、オレも自分のことで精一杯で余裕がなくて腰を押し進める
ばかりだった。
「……っ!?」
ようやくのことでオレ自身の全てを先輩の胎内へと収めることができたと思えば、アンダーシャツ越しの背中
へと爪が突き立てられていた。
そこで彼女の様子がおかしいことにやっと気付いた。
「……せ、先輩……もしかして……?」
「あぁ……んっ。やっぱりそう上手くはいかないかぁ……。うん、処女だったんだ。わたし……。
 もしかして……血が出てるかな?」
「は、はい」
「そっか。……ところで準太は童貞?」
かっこつけてもしょうがないし、何よりも大事な処女を捧げてまでオレのことを励まそうとしてくれる
先輩に申し訳ない。無言で首肯した。
「処女と童貞で……皆が大事に使っている部室でこんないやらしい——セックスしちゃっているんだね。
 でも、興奮しちゃっているよね……わたしも準太も」
言葉よりも膣内にいるオレのモノが雄弁に語っていた。ぐっと更に大きさを増してきていたのだから。
「いいよ。準太の好きなようにして……」
恐る恐る反応を窺いながら腰をゆっくりと前後させていく。ちょっとずつではあるものの、先輩の口から
甘えるような響きの声が漏れてきて安堵するとともに唇をまた重ねていった。
「んっ……ちゅぷ……準太ぁ。はぁっくっ……いいよっ……準太のオチ○チンっ! わたしのお腹の中を
 ……あぁあっ……かき回してきてる……っ」
キスを続けながら上半身を抱きしめると、先輩はオレの腰へと両足を絡めてきた。
絶え間なく出し入れさせていく。自分の快楽のためでもあるけど、それよりももっと先輩に気持ちよくなって
もらいたかったから。
「ああっ……いいよぉ……準太ぁ……好きなの……あぁはぅ……大好きなの……じゅんたぁ……っ!」
「くっ。先輩、おれもう……っ」
「い、いつでも……いいよっ。準太の好きに……あくぅっ」
彼女の一番奥でオレは爆ぜていた。
「……っ!? ああぁっでてる……準太の精液……越しなのに熱い……よ」
オレたちは荒く呼吸を繰り返しながらもお互いの体を決して離すことはなく抱きしめあっていた。




「よし。綺麗になったね」
「は、はい」
部室で初体験を終えた後に二人してシャワー室に来て汗を流した。
制服姿へと先輩は戻り、新しいアンダーシャツへと着替えたオレを見てにっこりと笑っていた。
「エッチした匂いは結構バレやすいらしいから。念のためにね」
「あの……先輩。コンドームはどうやって……?」
どうしても気になっていたことを質問した。先輩は間違いなく処女であった。でもその割には随分と
手際が良かったというか。
「女の子にそんなこと言わせるのって最低よ……?」
「あ、いや。本当にすんません! それじゃあ、オレは練習に戻る……」
全てを言い終える前に首根っこを掴まれて止められていた。そして背後からはぎゅっと柔らかい感触がして
オレの腰に先輩の細い腕が回されていた。
「……ゴムのはめ方はうちのお姉ちゃんから、凍らせたバナナで練習するといいって聞いていたの。
 ゴム自体は夜にドラッグストアで女性の店員さんがレジにいるときにこっそりとね……」
「そこまでしてくれたんスか……」
あまりにも嬉しくて声が震えてしまっていた。
「好きな男の子がいつまでもウジウジしているところなんて見たくないし……。まあ、店員のオバサン
 からはニヤニヤされて恥ずかしかったけれど……」
背後からの抱擁が解かれたと思えば、先輩の方へと向き直らされていた。
「もうこれで大丈夫だよね? 準太は一人じゃないんだから。引退した三年や二年と一年ももちろん、
 新生桐青野球部のエース高瀬準太に期待しているんだから。
 終わったことはもう気にしないで頑張ってよね? 
 また辛くなったりしたら、わたしがいるから。何でも聞いてあげるから頼りなさい」
「えっと、これからも宜しくお願いします……」
「はい、もちろん。わたしはこれで帰るけれど、練習頑張ってね、彼氏さん」
ちゅっと頬に柔らかい唇の感触。すっと頭を下げて一礼し、オレはグラウンドへと走っていった。


その日からオレは周りの皆が驚くほどの練習量を自分へと課していった。投げ込みの球数はもちろん、
ロードワークの距離も十キロからもっと増やしていった。
部員の皆が心底嫌がる外野ポール間アメリカンノックも何本だろうが率先してこなしていった。

今年の夏のように雨が降る悪いグラウンドコンディションの中でも、しっかりとした制球力を保つための
強靭な下半身を作り上げるべく徹底的に走り込んでいった。
スピードも以前と比べて格段に増したし、いくらでも完投できるような基礎体力も同時に手に入れる
ことができた。


そして迎えた三年の——オレにとっての最後の夏。優勝の味と先輩の心からの笑顔は格別なものだった——。


                                         (終わり)
最終更新:2009年11月07日 18:31