2-408-411 アベチヨ2(オチ3パターン)

(シリアスオチ)

それから篠岡が目を覚ましたのは10分後のことである。熱い情事の後、そのまま眠ってしまって体が冷えたのか、背筋がぞくぞくしていた。

(ああ…)

ところどころに感じる身体の痛み。むきだしのままの肌におとされたキスマーク。
それらは全て阿部と篠岡の関係を表していた。
篠岡は表にだしたりはしないがずっと阿部を思っていた。大好きな人とひとつになれる、それは本当は嬉しいことのはずなのに、素直に喜べない自分がいた。
そんな気持ちを吐き出すようにひとすじ、溜め息をついた。

「おはよ」

思いきり自分の世界に入っていた篠岡は他人の声にえらく反応してしまった。痛む身体を起こしながら声の方向を見るとボールの入っている段ボール箱を背にして、阿部が座っていた。
そのとげとげした声とは裏腹に、阿部の表情は感情のよみとれない笑顔だった。

「アンタがさ、ずっとばかみたいに眠ってたから俺帰れなかったんだけど」
「ご、ごめんなさい…」
「それよりさ」

阿部は座ったまま身体を篠岡の方にだけ傾ける。急に接近されどきりとした篠岡は自分にかけられていたユニフォームをぎゅっと握り締めた。

「今日アンタを抱いてみてはっきり分かったことがあったよ。アンタ、男にこういうことされんの嫌いじゃないんだろ?」
「違っ…」

必死に否定するも、それすらも無意味な気がした。阿部の表情は変わらず、本気のように聞こえたからだ。
阿部は腰を動かし、落胆している篠岡の目の前までくると、これ以上ないほど微笑みながらこう言った。

「だから、これからもよろしく頼むぜ。淫乱マネージャー」








(ん…)

ぼんやりと目を半分開けると、いつもの見慣れた野球部の部室だった。
しばらく目を開けたまま自分の状況を理解する。
目を擦ろうと腕を横にあげると、手首に鋭い痛みが走った。

「いたっ」

あまりの痛みに声をあげてしまう。手首を見ると阿部のワイシャツで縛られた後が無残に赤黒く変色していた。その傷跡をしばらく手で撫でて痛みを和らげると、自分の上に何か布がかけられているのが分かった。

(野球の…ユニフォーム?)

肌を隠すようにおかれていたユニフォームを胸の上で握ったまま身体を起こす。胸が見えないように誰のものか確かめようとユニフォームを手繰ると、

(これ…阿部君のだ)

それの持ち主は情事の相手でもあり、自分の思い人でもある阿部本人のものだった。

(阿部君…かけてくれたんだ)

先ほどまでは、あんなに怖かったのに。やはり、彼は自分の好きな人だったのだ。この一枚のユニフォームは先ほどまで危うかった篠岡の阿部に対する気持ちはやはり変わらないということを教えてくれた。
篠岡はその気持ちを確認するように阿部のユニフォームをぎゅっと抱きしめた。
そのユニフォームは激しい部活のあとで決して綺麗というわけではなかったが、篠岡は気にせずユニフォームを大事そうに抱きしめ、手繰り寄せた。顔の近くで布地を揉んでやると、かすかに阿部の匂いがした。
それが凄く嬉しくて、気持ちよくてついその感覚に浸ってしまう。それはまるで今、篠岡にとって本当に阿部と初めて繋がったようだった。

「…おか、しのおか!」

急に声をかけられ、身体が数十センチ浮いたような気がした。
それよりも、だ。
完全に自分の世界に入ってしまった篠岡は阿部が来ているのに気がつかず、本人のユニフォームを抱きしめたままうっとりとした表情でいたところをみられてしまった。
その一連の動作を見られてしまったことに対し、顔を真っ赤にしながら篠岡は聞かれてもいないのに弁明した。

「あ、の!ちがうの!これ、なんだかいいにおいがしたから!って、ちが…!?」

どもりながら必死で言い訳をしていた篠岡に阿部が覆いかぶさる。
篠岡は訳が分からなくなり、いきなり抱きついてきた阿部の表情を窺おうとするも、がっちりと抱きしめられていたためそれができなかった。

「あの、あべく」
「お前さぁ!」




緊張しながらも阿部に声をかけると阿部は大きな声を出し、篠岡の言葉を遮った。

「俺のこと好きなわけ?嫌いなわけ?どっちなんだよ!」

叫ぶ阿部はどうやら緊張しているようで、篠岡を抱きしめる腕はかすかに震えていた。篠岡の横にある阿部の顔も赤くなっているようで、同じように赤面している篠岡でもその熱さが感じ取られた。

「ヤられてる最中はずっと嫌だ嫌だって言うし…。でも今は俺のユニフォーム抱いてるし!俺、お前がわかんねェよ!!」

大きな声で言い切ると阿部はぜぇぜぇと息をきらした。篠岡は阿部の言葉を全て聞き終えるとと自分の背中に回っていた腕を離しながら、こう言った。

「わかんないのは私のほうだよ!あんなことする前に好きって言ってくれなきゃ私もわからないよ!」

自分の目の前に居る阿部をきっとにらみつけたまま、篠岡も叫んだ。
阿部は驚いた表情のまま篠岡を見つめた。
頬を赤らめたまま、篠岡は深く深呼吸をし、阿部の肩をがっちりと掴んだ。

「わたしは、阿部君が好きなんだよ!わかった!?」

まるで持久走を全速力で走ったときのように喉がカラカラになった。
口をだらしなく開けたままの阿部を無視し、気持ちの高ぶりを押さえるため息を荒く吐いて整えた。
阿部はしばらく呆気にとられた表情だったが、眉を下げ不満そうに笑った。

「なに」
「いや…」

篠岡は下から阿部をギロリと睨みつけると、肩においていた手を外した。
阿部はさも楽しそうにくっくっと笑っている。

「分かりやすい告白ありがとう」
「どういたしましてー」
「俺も篠岡のこと好きだぜ」

それは、あまりにも自然な流れだったから。二人きりでもなければきっと聞き逃してしまっただろう。
阿部はしてやったりと言った表情で、驚きのあまり呆けた顔をしている篠岡にニヤリと笑いかけた。
篠岡は徐々に表情を変え、最終的には頬を膨らませながらもう一度阿部の肩に手を回した。

「阿部君、本当に分かりづらいよ!」

抱きついてきた篠岡を受け止めながら、阿部も篠岡の背中に手を回す。

広い阿部の胸の中で篠岡はコッソリ泣いた。
小さな篠岡の肩の向こうで阿部は今までにない笑顔をしていた。

嬉しさの表現は違えども、ようやく二人は繋がった。
二人に足りなかったのは言葉で、最終的に二人をつなぎとめたのも言葉だった。

ようやく分かり合えた二人の気持ちを共有するかのように、二人はお互いをしっかりと抱きしめていた。


終(ハッピーエンドオチ)


(ギャグオチ)


篠岡「阿部君がユニフォームかけてくれたんだね、ありがとう!」
阿部「い、いや別にそんなの気にすんなよ。それより…」
篠岡「?なぁに?」
阿部「(いけ、言うんだタカヤ!今度こそ素直になれタカヤ!)
   篠岡!お、俺、篠岡のことがす」
水谷「WAWAWA忘れ物〜♪…ん?」
篠岡「………」
阿部「………」
水谷「……………お、オジャマしましたぁ〜っ!!!」
篠岡「………」
阿部「………」
篠岡「…かえろっか」
阿部「………おう」

阿部(ク・ソ・レ・フ・ト〜〜っ!!!)
最終更新:2009年11月07日 15:19