9-642-651 アベチヨ


何気なく見てるつもりだった。
廊下ですれ違う時
笑ってる時
一生懸命野球やってる時。
その一つ一つがまるで宝石みたいに私の心に埋め込まれる。
そんな心の動悸を、阿部くんにはもちろん野球部員皆に気付かれる訳にはいかない。
部活内レンアイが禁止な訳じゃないけど、やっぱり変な気遣いをされるのは避けたかった。
だからいつも私は自分に言い聞かせる。
阿部くんは私のこと何とも思ってない、と。

「篠岡、ちょっといいか?」
「はいっ!」

阿部くんが話しかけてきても平常心、平常心。
とは言っても実は物凄く嬉しかったりする。
今日は何の用だろう。また三橋くんのことかな?

「あのさ、今日練習の後時間ある?」
「んー?あるよー。」
「じゃあ部室に来てもらってもいいか?
今度の練習試合の対戦校のビデオとデータ確認したい。」
「分かったー。」

やっぱりいつもの業務連絡。それでも嬉しくてニヤケてしまう。

あれ?聞くの忘れてたけど、もちろん監督か花井君もいるよね?まさか二人きりな訳…ないよね。

 ***

練習後、後片付けを済ませて部室に向かった。皆が帰っていく姿が見える。

相変わらず田島くんと三橋くんは仲良しだなあ。何だか微笑ましい。

…あれ?花井くん帰ってる?
なら監督と阿部くん?そうだよね。

ドキドキしながら部室のドアを引く。そこには、阿部くんしかいなかった。

「おっす。」
「あ、うん…。」

監督は、と聞こうとして思い出した。
監督は今日用事があって、練習が終わり次第帰るって昨日言ってた。

つまり、必然的に二人きりということだ。




(ええ〜っ!!やば、どうしよう!)


「篠岡。このバッターだけど…。」
「は、はいっ!」
「…?眠い?」


思いっきり首を振る。投手じゃないから嫌われないはず。


「そう?だったらいいけど…。」


そのままビデオを進めていく。
最初は阿部くんと二人なことに緊張していたけど、段々慣れてきた。
そうなると部活の疲れと安心感で、眠気が先行する。

(あ…やばい。)

「篠岡?おい…。」

阿部くんが私を呼んでいる。
そう思ったのを最後に、重い瞼が閉じた。

 ***

目が覚めた時、真っ先に目に入ったのは天井だった。

「あれ…?」

目を擦ろうとしたけど、何かに阻まれる。
そこで気付いた。

(私…縛られてる!)

眠気も吹き飛び、急いで状況確認する。
私は何故か下着姿。
ここは部室。
そして今は…夜の10時。

「目ぇ覚めたか?」

振り返ると、阿部くんが椅子に偉そうに座っていた。
まるで私を見下すかのように。

「あ、阿部くん…」

離して、と言いかけた時阿部くんは私の体に手を伸ばした。
そして器用にフロントホックのブラを外す。

「やっ!」

胸がさらけ出された。
乳頭が外気に触れて色付く。
阿部くんの、目の前で。




「あ、の…」

「勝手に目の前で寝やがって」

後ろから胸を掴まれた。
阿部くんの手の中でむにゅむにゅと形を変える。

「やっ!やぁん!」

「気持ちいいか?」

首を横に振る。
抵抗、しなきゃ。

「そうか。」

阿部くんはニヤリと笑って手を止めた。
嫌な予感がする。

「ま、首振る女はキライじゃねえけど。」

そう言って阿部くんは、乳首を弾いた。

「あっ…!」

予想以上の快感に、身をキュッと固くする。


「ほら、見ろよ。」


後ろから低い声で囁くのは、好きな人。

「お前、馬鹿みてえに感じてんだぞ。」

嫌、とは思ってても流されてもいい、と思ってる自分もいる。

「んっ…。」

胸ばっかり後ろから攻められて、私は気付かないうちに腰を揺らしていた。

やわやわと揉んだかと思えば乳首が刺激され、快感の波が襲う。
胸だけでこんなに感じるのは、阿部くんがすごく上手いからだけじゃない。

(私、興奮してる…)

もっと触って。
もっと気持ちヨクして。

男の人にこうやって体を触られるのは初めてなのに。

欲望と理性が入り交じる。

「ああんっ…!」

ついに阿部くんの手が下に降りてきた。
下着をずらして私の花弁や隠核を刺激する。

「はうっ!あっ、ああっ!」

「気持ちいいか?」

またもや後ろから低い声。
否定出来ないのが悔しい。
阿部くんなんか、阿部くんなんて…。


「篠岡…かわいい。」



だいきらい。

その言葉は喉まで出かかって、止まった。

「え?」
「…何でもねえよ。」


うそ。私、ちゃんと聞こえた。
そう思ったのに、直後、そんなことを考える余裕も無くなるような快感が伝った。

「ああっ!ひゃああーっ!」

阿部くんの手が隠核だけを刺激する。
頭の中が真っ白になる。

「静かにしろよ。守衛さんが来るだろ。」

暗い部室の中、月明かりの中でなすがままにされる。

…イヤ。嫌じゃない。イヤ…。

そんな言葉がぐるぐるする中、阿部くんは私の意志を聞くことなく事を進めていく。

「指、入れるぞ。」

男らしい角ばった中指を突き入れられる。
訳も分からず締め付けると、その指の存在をまざまざと感じさせられた。

「ん…。」
「痛いか?」

痛くない、と言おうとしたけど恥ずかしくなった。
私は俯いて、首を横に振った。
すると再び胸と隠核に快感が走った。

「やぁっ!」
「口で言え。」

親指が器用に隠核を刺激し、左手は乳首をゆっくり撫でる。
花弁には締め付ける度に存在を主張する指。
ゾクゾクするような快感だった。

「…痛く、ない。」
「それだけか?」

全部読まれてる。ここは、もう素直になろう。


「気持ち、いいよっ…!」

阿部くんは満足したように笑った。

「脱がすぞ」

阿部くんは一旦指を抜き、パンツをゆっくり引き下ろした。
つーっと愛液の糸が引く。

「濡れてるな…。」

そう言って今度は二本、指をゆっくりと挿入する。
優しく、労るように。

「ん…。」
「怖くないからな。」

気持ちいい。夢を見てるみたい。
なるべく、ずっと、このままで…。

そう思った矢先、カチャカチャという金属音が響く。

いつの間にか指は抜かれてて、阿部くんはベルトを外しているようだ。

「あべ、くん?」
「挿れるぞ。」

ボーッとしながら阿部くんがゴムを付ける音を聞く。
我に返ったのはその数秒後。

「い、いやっ!」
「何でだよ。」

逃げる腰を掴まれる。
前のめりになって逃げようとするけど、両手を縛られてる今、間抜けな格好にしかならない。


「何?バックで挿れて欲しいの?」
「ち、違うっ!」
「とにかくお前の処女はもらうから。」


後ろから、胸を掴まれる。
そして四つん這いの姿勢にさせられる。


「いや、いやあああっ!!」



「ほら、暴れると入らないだろ。」
「い、嫌…。」
「怖がんな。痛くしないから…。」

阿部くんの手が私の体を撫でる。
それだけでビクッと反応してしまう自分の体が悲しい。

「痛かったらちょっと我慢しろ。それでまだ痛かったら止めてやるから。」

どこまで上から目線なんだろう、この人は。
今まで『初めて』に憧れを抱いてた訳じゃない。
でも、まさかこんな強姦まがいに部室で、なんて想像もしてなかった。

「いくぞ。」
「まっ…!」

阿部くんが、ゆっくり入ってくる。
膣壁が押し広げられ、異物感に思わず眉をしかめる。
亀頭が入るまではあまりの痛さに床に爪を立てたけど、全部入るとそうでもなくなった。

「…全部、入った。」

阿部くんの下半身が、私のお尻にもたれかかる。
プツンと何かが破れる音がする。
これが処女膜だったのかな?
呑気に考えてると、阿部くんが小さく呟いた。

「やっと…俺のもの。」

まるで恋人のような言葉に、胸がキュンと締め付けられた。
何だかんだ、私は阿部くんがスキなんだ。

阿部くんはそっと胸に触れた。
花弁のジクジクした痛みが、少し和らぐ。

「痛いか?」
「う、ううん…。」
「無理すんなよ。」

そう言って頭に乗せられた手は、温かかった。

「初めてだもんな。」

その言葉に、涙が溢れる。阿部くんはギョッとしたような目で私を見た。

「し、篠岡?」
「…好き。」
「え?」
「嫌い…。」
「どっちだよ!」

振り向かなくても阿部くんが困惑してるのが分かる。
私はそれ以上何も言わなかった。

「おい、もっと何か言えよ。」
「…何で?」
「とりあえず好き、嫌いじゃダメだ」
「食べ物の好き嫌いはないけど」
「違う!」

下らない言い合いの後、阿部くんはギュッと私の体を抱きしめた。


「オレは、篠岡が好きだよ。」


先ほどの温かい感情が蘇る。
好き?阿部くんが、私を?

「じゃあ、何でこんな酷いこと…」

好きならこんな嫌われるようなこと、しないはず。
この質問には阿部くんは申し訳なさそうに答えた。

「絶対篠岡、オレのこと好きじゃないと思ったんだよ。よそよそしいし。
別に今日呼び出した時は下心なんかなかったよ。
けど、寝てるお前を見てて…つい、手が伸びた。
いや、言い訳は良くねえな。せめて初めての相手になりたかったんだ。」


もし私が阿部くんのこと好きじゃないなら憤慨してたかもしれない。
けど、偶然にも、私も阿部くんが好きなのだ。

言うなら、今だ。


「私も、好き…。」

言ってから少しだけ振り返る。
火照った阿部くんの顔が、真っ青になっていた。

「す、き?」
「昔からずっとずっと好きだった。」
「本当か?」
「今はちょっと嫌い」

阿部くんはさらに青くなった。自分の犯した間違いに気付いたのだろう。

「でも、だいすきだよ!」

そう言い切るや否や、キスされた。深く、深く。
私の全てを奪いとるように。

「動くぞ。」
「あっ…。」

膣に轟いていた異物が再び動き出した。
痛くないと言ったら嘘になるけど、陰核をなぶられ、快感に変わる。

「あ、あ、ああっ!あうっ!」
「篠岡、篠岡っ!」
「ふぁああっ!」

愛液をグリッと陰核に塗られ、快感が増す。
…何これ、ふわふわする。

「や、あっ、何か来る、来ちゃう!!」
「オレも限界っ…!」
「あ、ひ、ひゃあああああああーっ!!」

私が絶頂を迎え、膣が大きく伸縮するのと同時に阿部くんもゴムの中に熱を吐き出した。



情事の後の部室には変な空気が漂っていた。
匂いとかじゃなくて、重苦しい雰囲気。
その発端は阿部くんにあるんだけど、仕方ないから話しかける。

「阿部くん、いつから私のこと好きだったの?」
「…最近。」
「私と同じ中学だったってことも知らなかったのに。」
「それは昔だっ。」


パッと顔をあげた阿部くんと目が合う。おかしくて、つい笑ってしまった。

「わ、笑うなよっ!」
「阿部くんって案外変な人なんだねっ。」
「はあ?!」

お互い顔を真っ赤にしながら、話をする。

片想い期間は長かったけど、どうやら私は阿部くんのことをあまりよく知らないらしい。

これからは色んな阿部くんと関われるのかなあ、と思うと嬉しくなる。

でも、それとコレは別物だから—…。


「阿部くん。」

「何?」

「データ、まだ六番までしか確認してないよ!
終電逃しちゃうから急がなきゃ!」

「…さすが、篠岡。」


苦笑した阿部くんの顔は、最高にかっこよかった。



おわり
最終更新:2010年04月29日 15:48