ももえばくだん


モモカンは少し焦っていた。
最近急に体重が増え、筋肉もついた上に胸のサイズもあがってしまった。
要はユニフォームがとてもキツクなってしまったのだ。
買い換えの必要性はヒシヒシと感じてはいるが予算=給料日はまだ先だ。
よってキツイユニフォームのまま練習にでるはめになってしまっていた。

一方、野球部員にとっては災難で。
いかにもキツキツでぴったり体に張り付いたユニフォームでノックされても、
活をいれられていても、集中するのすら難しい。
必然的に練習中やたら止まって手を握りあったり、
誰かを無理矢理サードにたたせたり、リラックスに励むようになった。
モモカンからは練習に身が入ってないようにしか見えないのも
仕方のないことで。

当然、モモカンの雷が落ちる。

「一体、みんなどうしたの!? 何で集中してないの?」

アナタのせいですよ…。
心の嘆きは声には出せない。
ベンチの前で仁王立ちしているモモカンを囲んで
黙りコクって顔をあげない部員にモモカンはますます怒りを募らせる。
おおきく息を吸い込んで、さあ怒鳴ろうとした時、
田島が突然声を上げた。


「いってぇ!?」

田島は何か、小さいものを手に持っている。
ボタンだ。
どこからか飛んできたらしい。
「田島くん!そっそれ・・・あれっ!?」
モモカンの叫びに全員がモモカンに目を向ける。

ブチブチブチーン!

モモカンのユニフォームの前身ごろのボタンがすべて弾け飛んだ。

人は、ものすごい集中力を発揮すると、すべてがスローモーションのように見えるという。
モモカンの前身ごろがはじけ飛んだという事実に、一点集中。
必死で前を押さえようとする腕の動きがゆっくりと見えて。
モモカンの一瞬見開かれた目が恥ずかしそうにゆがみ、顔がゆっくり赤く染まり、
目が潤んでいくその様が。
黒のインナーを着てるとはいえはっきりとわかる豊かな胸を、
隠そうと動いたモモカンの腕が下からぎゅっと押しあげ、くにゃりとゆがむ。


現実に引き戻したのは、不気味な効果音。


三橋、西広、沖、田島が鼻からおびただしい血を撒き散らしながら吹っ飛び、
俯いて倒れる。少し腰は浮いている。
致命傷の被弾をかろうじて耐えた残りのメンバーは
即死を免れたことを心底感謝しながら
意識を必死に手繰り寄せ、冷静に戻ろうとする。

「わあ!? ボタン飛んじゃった!?」

光の速さは音より早いという。
視覚にくっきり刻まれたモモカンのリアクションの後に、声が聞こえてきた。


そして、そこに第2派の攻撃がはじまる。


あわてて前身ごろを抑えながら、モモカンは思わず後ろを向いた。
そこまでは普通のスピードだったが、それ以降は再び音がのろく響く。

バ・・・リ・・・バ・・・リ・・・バ・・・リ・・・!!


今度は動きが完全に止まってしまったような世界の中で、
モモカンのユニフォームの、お尻の縫い目が裂けていくのが
コマ送りのように、部員の目にいやおうナシに焼き付けられる。
避けた縫い目から覗く、真っ白な下着。
縁取りに豪華なレースが施されているのまではっきり視認できて。


現実に引き戻したのは、やはり耳障りな効果音。


休む間を与えない連続波状攻撃に、汁を噴き出しながら、次々と吹っ飛ぶ。
ピクリとも動けず、死屍累々の屍を築いた。

全滅。

いや、一人、吹っ飛んでいない者がいた。
ベンチにへたり込んだモモカンをちらりと見てから篠岡の姿を探す。

「おーい、篠岡ぁ。なんかデッカイタオル持ってきてくれ~。
なーんか、カントクの服破れてさー。」
「あ、ハーイ!」

阿部の頼みに、篠岡が遠くから返事した。





最終更新:2008年01月06日 02:19