がんばれ花井くん

5月。
花井は久しぶりに球場を訪れた。

観客席に出ると、自分を呼ぶ声が聞こえた。
振り返ると篠岡が自分を呼んでいて、隣には阿部がいた。
「うっす。久しぶりだな。」
阿部が相変わらずの冷めた目で花井を眺める。
「久しぶりだな。元気か?」
そう声をかけながら、二人のところまで上っていくと。
二人のしっかり繋がれた手が目に入った。
相変わらずのバカップルぶりに、花井は少々げんなりする。
久しぶりに会う篠岡は、最後に会った時よりも、数段オンナらしくなっていて
少しだけ見たことのある、篠岡の服の下を思い出して、思わず顔を赤らめる。
途端、何かを察したのか篠岡の前に阿部がずいっとでてきて、
冷たい目で花井を睨みつける。
心を読まれたような気がして、花井は冷や汗を流した。



「ふ、二人とも、ずいぶん早いな。」
「私たち、第一試合の最初から見てたの。」
「相変わらず、高校野球好きだな~、篠岡。」
やがて、第一試合の終了を告げる音が鳴った。
「他の連中は来るのか?」
阿部の問いかけに。
「これる奴は来ると思うぜ。ま、誰が来るかまではわからん。連絡はしたがな。」
「チッ。全員集めろよ。OB会会長だろ。」
「勝手に押し付けやがったくせに、無茶言うなよ。」
高校を卒業したと同時に結成されたOB会の、会長に花井は就任した。
花井の気持ちを知ってる皆が、無理やり押し付けたに近い。
「感謝しろよ。みんな一応応援してるんだからな。」
阿部のイヤミに、げんなりする。
「一応は余計だろ。ったく。」
「んで?コクったのかよ?モモカンに。」
花井は絶句して阿部を見つめ、あきらめたように頭を抱えてうなだれた。
「何だ。振られたのか。」
「振られてねーよ!!その・・・コクってないんだ。」
「はああああ!?何だそれ?カッコワルイな。」
心底バカにしたような阿部の嘲りに、花井はいっそ泣きたくなった。

3年の秋、少しの期間花井は篠岡と付き合って。
お互い好き合っていなかったことに気づき別れた。
篠岡は、本当は阿部のことが好きで。
花井は、百枝のことが好きだった。

まもなく阿部と篠岡は付き合いだして。
花井は百枝に勢いで告白したものの、二十歳まで待つように言い渡された。

そして、花井は今年、二十歳になった。



「お、出てきたぜ。」
3人の後輩である西浦高校野球部が試合前練習に駆け出してくる。
その中に百枝の姿をみつけ、花井は少しどきっとする。
百枝は確か今年、27歳になったはずだ。
その年の差に、改めてため息が出る。

やがて次々と、卒業生が試合観戦に駆けつける。
「おーす。久しぶりぃ。お~浜田が作った横断幕まだ使われてんだな~。」
泉は顔を出すなり、横断幕の文字が変わってないことに素直に喜んだ。
「あの学ランも、受け継がれているみたいだぜ。」
阿部の指摘に、泉は心底感心する。
「いやあ。こうしてみると、浜田ってスゴかったんだな~。」
「こ、今度っ!会った・・・トキ。」
「お~そうだな。今度会ったとき、教えてやろうな。」
泉と三橋と田島は、浜田と交流があるらしい。
全員集まったところで、試合開始のサイレンが鳴った。

初戦をめでたく突破した西浦ナインに、花井ら卒業生からご褒美のアイスが進呈された。
アイスにかぶりつく野球部員を見ながら、百枝がお礼を言う。
「みんな、来てくれたんだね。差し入れありがとう。」
自分たちが高校生だった頃と、何一つかわらない百枝に花井達は懐かしさを覚える。
「カントクも変わらず元気そうッスね。」
「相変わらずきっつい練習してんスか?」
「楽しかったけどな!」
皆で百枝を囲み、好き好きに話しかける。
ひと時の同窓会を楽しんだ。

百枝以下西浦ナインが学校に戻って行った後、
今度は花井が皆に囲まれるハメになった。
全員、花井が百枝を好きなことを知っていて。
約束までも周知の事実で。
逃げ場はないと花井は覚悟した。

「んで?なんでコクんねーの?」
篠岡の手を握りっぱなしの阿部が、冷たく花井に言い放つ。
「ちょっと。阿部くん。」
篠岡が小声でたしなめるが、阿部は一向に気にしない。
「何のためにお前にOB会会長やらせてると思ってんだ?」
泉がさらに突っ込む。
「花井はもう二十歳なったんだろ~?遠慮はいらないんじゃないの?」
栄口の柔らかな追求に。
「まだコクってないなんて、ダッセー!」
田島がトドメをさした。
「うるせえな!お前ら!ほっとけ!」
花井はキれて抗議するが、皆はニヤニヤして花井を見つめ、誰も耳は貸さない。
「お前が早くなんとかならないと、阿部と篠岡は落ちつかねーだろ。」
巣山の指摘に、恥ずかしさと表現できない悔しさで、
花井は顔を赤くしたり青くしたり、落ち着きなくそわそわする。
「それが・・・なあ。」
花井はふかぶかとため息をついた。

「なんだ?改めて年の差気にしてんのか?」
阿部のツッコミに花井は顔を上げた。
「はああああ?そんなの今更じゃねーか!?」
「うっわ。ダッセェ。」
口々に非難され、花井は途方にくれた。
阿部の指摘は、まさに核心を突いていたからだ。


見るからにしゅんとなってしまった花井に、みんなは地雷を踏んでしまったことを悟る。
慌てたように、一人一人解散しだし、最後に残ったのは阿部と篠岡だった。
「花井くん。花井くんは、まだ好きなんでしょ?カントクのこと・・・。」
篠岡の優しい言葉に、花井は顔を上げる。
「・・・・ああ。」
篠岡と阿部に隠しても仕方がない。
「あの頃はわからなかったが、今ならあの時、
モモカンが拒否した理由が解る。ホントになにもわかってないガキだった。
二十歳になるまで待たせたモモカンは正しいとしか言いようがない。」
「ふうん?そんで、あきらめんの?」
阿部の冷たい言葉が花井に突き刺さる。
「ちょっと。阿部くん!」
篠岡が阿部を非難するが、阿部はさらに続けた。
「思うとおりに行動しろよ?オレと篠岡はまだ未成年だけど、お前はもう成人だからな。
自分の好きに行動していいんだぜ?全部自分の責任だろ?」
そういい捨てて、阿部はつないだ手を引いて篠岡を促し帰ろうとすると
篠岡は慌てて花井に声をかける。
「あ、あのね。花井くん。私・・・思うんだけど。
きっとカントク・・・まってるよ?がんばって。」
去っていく二人を眺めながら、花井は一人途方にくれる。

篠岡と付き合っていた時、あまりにも自分はガキだった。
変な正義感や義務感だけが先走って、篠岡を傷つけた。
その時、百枝が好きだと自覚したが、今は、現実の前にその感情が霞む。


年の差7つ。
百枝は27歳だ。

『期待せず、待ってるよ。』

2年前の返答が、痛みとともに浮かび上がる。
彼氏がいないとも限らない。
胸に浮かび上がるもやもやした感情を、どう片付ければいいのかわからず
花井は深いため息をつき、傍のベンチにへたり込んだ。

長い片思いの末、篠岡を手に入れた阿部を心底うらやましく感じる。
と、同時にその意思の強さに尊敬を抱く。
一年のあの時も、篠岡と篠岡が付き合う前も、
付き合っていた時も、阿部の気持ちに全く気づかなかった。
篠岡と付き合いだしてからの阿部のバカップルぶりは、
暴走していて怖かったが、
逆に、アレだけの想いを、どうやって抑えていたんだろうか。
自分は二十歳になって、もう枷はないのに、行動に移せるとは思えない。
今の自分があの時に戻ったら多分・・・告白はしないんじゃないだろうか。
モモカンを思う気持ちに嘘はないが、現実が重い。

ケータイの着メロが響き渡り、何気にケータイの画面を開くと表示は『モモカン』
花井は一瞬うっとなったが、おずおずと出た。
「あ、花井くん?百枝だけど。久しぶりに会ったし、
皆まだ一緒でしょ?ご飯でも食べに行かない?」
「あ、いえ、もう解散・・・したんですけど。」
「ええ?みんなだって久しぶりに会っただろうに。随分淡白ね~。」
それは、自分を気遣って帰って行ったとは、いえない。
「いや、はは、皆、用事があったらしくて。」
「ふうん。ま、いいや。じゃあ花井くんも用事あるの?」
会話の流れに少しどきっとする。
「い、いや。オレは、ないっス。暇です。あ、あの!!」
「ん?」
「お、オレは、暇なんで!そのっ。オレと、じゃあ、メシ行きませんか!?」
精一杯の勇気を振り絞って、花井は百枝とあうチャンスを生かそうとする。
「・・・・そうね。いいよ。行こうか。」
適当な時間と場所を約束して、電話を切る。
百枝と二人であっても、自分がどう行動するのか、
決断はできていないが、百枝とは会いたかった。


「お待たせ。まったかな?」
待ち合わせ場所に現れたモモカンに、花井は目を見張る。
黒く長い髪をアップにまとめ、白のカーディガンの下には黒のキャミが覗き、
胸元には存在を主張するくっきりとした谷間。
淡い黄色のロングスカートに、華奢なサンダル。
モモカンは立ち尽くす花井を下からずずいっと見上げた後、ニコっと笑う。
「花井くん、ホントあんまり変わんないね~。髪型も変わってないし、余計そう見えるのかな。」
花井の目線から、モモカンを見下ろすと、その胸の谷間はあまりにもはっきり見えすぎて
思わず目をそらす。
「カ、カントクも変わらないッスね。なんかむしろ若返ってませんか?」
「ははは、ありがと。そういえば、花井くんももうハタチなんだよね。じゃあ、今日は飲もっか!」
さらりと言ってのけたモモカンに、花井は約束を覚えているのかとドキッとする。
「さぁ、いこいこ!」
明るい調子で花井の手を引き、歩き出す。


百枝と久しぶりに話すのは本当に楽しくて。
楽しければ楽しい分、かわした約束が重く花井にのしかかる。
自分は一体百枝とどうなりたいのか?
はっきり決断できない自分に嫌気が差し、がむしゃらに杯を重ねた。
「だ、大丈夫?花井くん。飲みすぎじゃない?」
「だ、大丈夫です!カントク!今日は飲みましょう!!」
初めて飲む酒は花井の意識を飛ばした。




花井が目を覚ましたとき、天井はどうも見慣れなくて。
顔を起こして周りを見渡し、ドキッとした。
明らかに、自分の部屋では、ない。
自分の姿をはっと見下ろすと、タンクトップ姿で、
シャツ着ていない。下は、穿いていた。周りを見渡すと、
部屋は妙に広く、ベッドも妙に広い。テレビも最新式の大型ハイビジョンで。
後ろを振り返ると、ベットサイドの棚に乗っているのはティッシュボックスと
何かの小さい袋。
いかにも・・・・・な部屋。

慌てて意識を失う前を回想する。
確か、百枝と二人で飲んでて、楽しくて、辛くて、飲みすぎて。
それからのことは覚えていない。
その時、浴室と思われるドアが開いて、百枝が姿を現す。
「あら、花井くん。起きた?」
ホテル備え付けであろうバスローブに身を包んでいた。
「いいいいいいい!?」
花井は真っ青になって絶叫した。

言葉を失いあわあわしている花井を尻目に、
百枝は冷蔵庫から一本ビールを取り、おもむろにあおる。
「プハー! ったく、花井くんたら無茶するんだから。」
その言葉に、ますます花井は色を失くす。
「カッカントク!!そ、その!オレ!も、もしかして!?」
自覚ないままにイタしてしまったのかと恐怖する。
「まったく。飲めないのに無理して。私の服に吐いたの覚えてないでしょ?」
イタしてなかったことに少しほっとしたが、別の意味でさらに青くなる。
「あ・・え・・あ・・・。」
もはや言葉にならない。
「ココまで運ぶの大変だったのよ?花井くん大きいし、ま、日ごろ鍛えてるから
何てことなかったけどね。しかし、担いでるときに吐いちゃってね~。
まいったまいった。あ、花井くんのシャツにもかかったから、洗っておいたよ。」
「う・・・す、スミマセン。」
その言葉以外、口に出来ない。



すると、ここは、やはりホテルなんだろうか。
いわゆる、ラブホ。
その思考に到って花井は今度は赤くなる。
「ホイ。花井くんはもうこっちにしときなさい。」
そんな声とともに、水のペットボトルが投げられた。
そういえば喉がからからなことに気づき、一気にあおる。
水が胃に落ちていく感覚が染み渡り、少し冷静になる。
ベッドの端に腰かけたモモカンはビールをあおりながらテレビのリモコンをいじり出した。
大きな画面に、その日のニュース映像が映し出される。
こんないかにもな部屋で、二人きりで。
酒の醜態をさらしまくって恥はすでに掻き尽したのに。
花井は、まだ、答えを出せないでいた。

百枝のことは好きだ。
しかし、気持ちを伝えていいのかわからない。
18歳のときのように、感情だけでは突っ走れない。
篠岡の後押しがなければ、あの時だって告白しなかったに違いない。
中途半端に年齢だけ大人になった自分が、バカみたいで。
いかに自分が優等生思考であるのか、歯がゆく思う。

しばし、テレビに見入る。


やがて、百枝が立ち上がり、浴室に行って、戻ってきた。
「ダメだわ。私の服、全然乾きそうにない。私はこのままここに泊まって帰るから
花井くんは、シャツはまだ乾いてないけど、そのままでも帰れるんなら帰ったら?」
モモカンの口調は、いつもと同じなのに、どこか棘があって。
花井はハッと百枝を見た。
いつもと変わらない笑顔。しかし、どこか硬い気がする。
昼間の篠岡の言葉が不意に脳裏にひらめく。
『カントク、きっと待ってるよ。』
もしかして、本当に待っていてくれたのだろうか。

「あ、あの・・・カントク・・・。」
「何?」
そう思うと、どこか張り付いた笑顔のように見えて。
花井は指先から熱が一気に引いていくような、激しい後悔に襲われた。

歳の差が、何だ。
現実が、何だ。
自分の気持ちがあって、モモカンの気持ちがあれば、
それで、いいじゃないか。
阿部も言っていたじゃないか。
オレは、もうオトナだ。
自分で責任を取れるんだ。

花井は、自分の気持ちが急速に固まっていくのを自覚した。

「あ、あの!!カントク!!い、いや・・・百枝・・さん。」
モモカンは目をぱちくりさせて、花井を見つめる。
「何?あらたまっちゃって。」
ベッドに座りっぱなしだった花井は、慌てて起き上がり、モモカンの前に立つ。

「百枝さん。その・・・・オ、オレと・・・・・。」

真っ赤になって百枝を見下ろす花井を、百枝はすこし目を見張って見つめる。


「オレと!!結婚してください!!」



しばしの静寂。


静寂を破ったのは百枝の大爆笑。
「あはははははははは!!!」
身をよじってお腹を抱えるように悶え、ベッドに倒れこんでもまだ笑い続けている。
一世一代の大告白を爆笑で流された花井は、
実に居た堪れないようで、顔を赤くしたり青くしたり、泣きそうになっていた。
「あの・・・・オレ。真剣なんですけど。」
振り絞るように、抗議する。

「あっは。ゴメンゴメン!っでも!ププ!あはははは!ゴメッ!!止まんない!」
花井はすっかりあきらめて、諦観の笑みを浮かべながらモモカンが落ち着くのを待つことにした。
「は、花井くんってほんと真面目よね~。」
涙を拭きながら、百枝が花井を見る。
「はは、まあ。そうッスね。」
「い、いやいや。けなしてないよ?ほ、褒めてるよ?」
そういいながらも笑っているので、バカにされているようにしか聞こえない。
「そうか、でも。うん。花井くんはきちんと言ってくれたんだから、私もきちんとしないとね。」
ベッドに寝転がっていた姿勢から、身をおこしてベッドの端に腰かける。
花井を手招きし、手をきゅっと握る。
どぎまぎしながら百枝を見下ろす花井を、じっと見つめて。

「私ね、本当は、期待して、待ってた。花井くんのこと、好きよ。」

花井は、今まで自分が悩んでいたことが心底バカらしくなった。
実に無駄な時間を過ごしていたのだと、後悔する。
早く、行動を起こしていればよかった。と。
自分を見上げて、微笑む百枝。
その目は潤んで、頬も少し高潮していて。
壮絶にきれいだった。
ふらふらと引き寄せられるように、無意識に花井は身を屈め、
百枝にキスをした。



口付けたままそっと百枝を押し倒し、花井もベッドに乗りあがる。
百枝の手は花井の首に絡みつき、自ら招き、花井を誘う。
完全にベッドに乗りあがった後、百枝の頭を撫でながら、
そっと舌で唇を割り、百枝に侵入する。
密着した身体に伝わる百枝の豊満な胸。
熟した実を思わせる腰つきをゆっくり撫でさする。
「・・・ふ・・・む・・。」
積極的に求めてくる百枝の舌をあやすように絡めながら
花井は手をそっと百枝の胸に置いた。
片手では収まらないそのでかさに、感慨深いものを感じる。
何度、この胸に触れることを想像しただろう。
願ってはいたけれど、まさか本当にこの腕の中に百枝を抱く日が来るとは
花井自身も信じていなかった。
恐る恐る、揉み上げる。
「あ・・。ねえ、花井くん。もっと力いれて揉んで?」
「え?その・・・痛くないスか?」
百枝はフフっと微笑んで、続けた。
「さすがにココまでおっきいとね。軽く触られただけじゃくすぐったいだけなのよね。
強く揉んでも大丈夫だから、しっかり揉んで頂戴。」
全く持って、恐れ入る。
花井は百枝のお望みどおり、ぐっと力を込めて揉み上げた。
ローブをはだけ、反対側の胸の突起を口に含んで、舌で押し潰して、軽く噛む。
「は・・ああん。」
百枝がのけぞって喘ぐのを視界に捕らえ、もっとよがせたくなりさらに力を込める。
「ん・・・・んん・・・。」
顔を押し付けた百枝の胸から、心地のよい石鹸のにおいが立ち込める。
花井は、はっと顔を上げ、動きを止めた。
「あ。オレ!オレも・・・シャワー・・・浴びたほうがいいっスよね?」
いっそ場を白けさせるその花井の発言に、またもや百枝は爆笑する。
「あッあはははは!!そうね、ちょっと汗臭いかもね。ははっ。浴びてくる?」
自分はもしかして気まずいことをいったのだろうかと、花井は不安に思う。
「えっ・・・・と。その・・・。」
「ホラホラ、浴びるならさっさと浴びる!」
「うっ・・ハ、ハイ!」



慌ててベッドから飛び降り、浴室に駆け込む。
軽くタンクトップを嗅ぐと酒のにおいとかすかに吐しゃ物のにおいがした。
雰囲気をぶち壊した自分の発言を少々後悔しながらも、服を脱ぎ捨て栓をひねる。
熱いお湯を頭から浴びながら、じわじわと実感が襲ってくるのを自覚した。
ホテルで、モモカンと、エッチする。
深々とため息をついた。
この後、未知の領域が待っている。
花井の経験値はあまりに低く、百枝を満足させる自信なんて、ない。
少し逡巡して、覚悟を決めた後、タオルだけを腰に巻いて浴室から出ると。
百枝はアダルトビデオを観賞していた。
画面に広がる男女の痴態に、思わず顔を赤くする。
「なっ・・・・何見てるんスか・・・。」
「んん?社会勉強だよ。こういうときしか見れないもんね。」
おそるおそる百枝の隣に横たわり、取り敢えず一緒に画面を眺める。
脚を大きく開いた女性が、男性に指を激しく突っ込まれ、喘いでいる。
花井は途方にくれて、ちょっと泣きたくなった。
いや、そんなことではいけないと、
自分を奮い立たせ、リモコンを奪い、テレビを消した。
そして、百枝をじっと見つめる。
百枝も花井をじっと見ていて。

「その・・・ずっと・・好きでした。」
自然と、口から漏れた。
百枝はニッコリ笑って。
「私も、捨てたモンじゃないわね。私も、好きよ。」

その言葉に後押されるように、花井の手はごく自然に百枝を引き寄せ、唇を重ねた。
舌で強引に割りいり、百枝の舌を絡みとり、嬲り、吸い上げる。
自分の口内に引き入れ甘く噛んでまた侵入する。
片手では到底収まりきらない乳房をかなり力を込めて揉み上げ、突起を潰す。
「・・っはあっ!・・・。」
百枝が快感で首筋をそらせ、唇が離れてしまったので、
変わりに首筋に吸い付き、鎖骨まで唇で舐める。
「・・・んんっ・・・。」
そのまま乳房まで降りて行き、ツンとたったピンクの先端を口に含む。
かなりの力を込めて揉んでいるので、少し心配になってそっと百枝の様子を伺うと、
目をぎゅっと閉じたまま快感に耐えているようだった。
その表情に背筋がゾクリとし、さらに行為に没頭する。
成熟した百枝の身体は、どこを触っても艶かしく。
腰からのラインを撫でると、手に吸い付くようで。
いっそう花井を夢中にさせる。


そっと、百枝の中心に触れると、すでにしっとり濡れていて。
花井は少し自信を持って、確かな手つきで刺激を与えだした。
「ああ!!あああん!」
一番敏感なところへの直接の刺激はやはり感じるらしく、
さっきまでと比較にならないほどの喘ぎを見せ始めた。
花井は、自身が痛いくらい張り詰めているのを必死で我慢して。
百枝の身体に夢中になりながらも、タイミングを掴みかねていた。
ふと、百枝の腕がベットサイドのテーブルに伸びる。
自然な手つきで、百枝はゴムの封を切り、中身を取り出す。
「ね、つけてあげるよ。」
「いぇ!?は、はあ・・・。スミマセン。」
自分でつけようかと思ったが、慣れてないので、任せることにした。
「先端に、空気が入っちゃダメだからね。」
そういって、百枝はゴムの先端の出っ張りを指でつまんだ。
そのまま、そっとゴムを花井のものに近づける。
「・・・んっ!!」
百枝の手が触れた瞬間、思わず花井は腰を引きそうになったが、
ぐっとこらえてそのまま待つ。
ゆっくりかぶせて、下まで引っ張る。
そのたびにゾクゾクしたが、根性で堪えた。
伏せていた目だけを上げて、百枝は花井を見上げる。
「・・・きて?」
快感のせいか、頬を赤らめて潤んだ目で見つめる百枝を
とても愛しく感じた。
「その・・前に、ちゃんとじっくり・・・見たいんスけど。」
百枝の返答を聞かず、脚を強引に手で割り開く。
生まれてはじめてみる、女性の秘めた部分。
吸い寄せられるように顔を近づけ、舌で触れる。
「ひゃっあああん。」
理性はすでになく、ただ、むちゃくちゃに舐めまわす。
差し入れを繰り返し、粒を唇ではさみ、こねる。
耳にとどく百枝の嬌声はますます激しくなり、それに後押されるように
刺激をさらに与える。
「あっ・・あああん。ね。ちょっと・・・まって!」
不意に百枝の手が花井の頭を掴み、動きを止める。
「ね。来て?」
花井はもう何も考えられずに、いわれたとおりに自分のものを埋めようとした。
「もうちょっと・・・上。」
入り口がわからず、彷徨う花井に、百枝はそっと誘導する。
「ソコよ・・・。」
ゆっくり推し進める。引っかかる感じがしたが、気にせずぐっと押し込むと、
吸い込まれるようにするっと入った。
途端、強烈な快感が花井を襲う。


理性を吹き飛ばすほどの熱さ。
自分のモノが溶けてしまうんじゃなかろうかという刺激。
何も考えられなくなり、ただ、激しく腰を打ち付ける。
「ああ!あああん!!・・・はぁ!!」
百枝の嬌声がどこか遠くで聞こえるような感覚で。
やがて、弾けた。


力が抜けて、そのまま百枝にもたれかかる。
そんな花井を百枝はぎゅっと抱きしめた。
やがて、のろのろと自身を引き抜く。
「あ・・・スミマセン・・なんかオレ、・・・オレだけ・・・。」
心底すまなさそうな表情で、花井を恐る恐る百枝を見る。
百枝は、満面の笑みで、花井を見つめる。
「花井くん。オンナはね。好きな人と抱き合ってるだけで、満足するものよ。
謝る必要なんて、ないよ。」
この人には、一生かなわない。
花井はそう思った。


次の日の朝、無断外泊した理由を、親になんと説明しようかと考えながら、
しかししっかりと百枝の手を握ったまま、ホテルの下に降りると。

そこにはいかにもお泊りしていました
という風情の、阿部と篠岡がいた。

お互いの存在を認めて、硬直する。

いち早く動いたのは百枝で。

「未成年がこんなところでなにやってるの!!?」
二人の頭を握ってぎりぎりと締めあげる。
「いってえええええええ!!」
「い!いやあああああああ!!」

悶絶する阿部と篠岡を見ながら
花井は
一生かなわなくて、いいや。

そう思った。


終わり




最終更新:2008年01月06日 02:21