4-733-737 小ネタ パニック!
「かゆい…」
「は?」
「チンコかぃいいいぃ―――――!」
「「「はああああぁぁぁぁぁ!?」」」
今日も一日お疲れさま、明日もみんなで頑張ろう。
そんな標語がぴったりの西浦高校野球部部室内に、田島悠一郎の絶叫が響いた。
尚もしつこく『我慢ゲンカイー痒い痒いー!』と身悶えしている。
チームメイト達は一斉に声の主を振り返り。次にお互いの顔を見合わせた。
ズザッ!!という効果音付きで部室の隅に移動する。以心伝心一心同体。
あっという間に綺麗な円陣が完成した。みんなナゼか正座だ。
花井が眉間を押さえながら唸る。
(おいおいおい、今日一日妙な動きしてると思ったけど、まさか……)
泉と栄口が、顔を見合わせた。
(ついに病気かよ)
(うつされた…?)
二人の言葉に水谷は息を呑む。
(お、大人の階段登っちゃったってコトかよぉ!)
(バカかありえねーよ。おーかた一人でヤリすぎたんだろ)
阿部のジト目付き断言。
しかし三橋がおどおどと、そして決して視線をあわさず疑問を投げかける。
(で、でも、そ、れっだと、痛くなるん、じゃ…?)
八人の賢者達)
妙な空気が部室内に流れた。
コホン、と阿部が一つ咳払いをした。真面目くさった表情で、円陣を見回す。
(相手は田島だ。どうせ『秘薬』とか『硬度100%』とか『ゲット・ザ・快感』とか
怪しげなキャッチフレーズに騙されて通販で買った塗り薬でも大量に塗っちまったんだろ)
(阿部ヒデェ…)
(しかもなんだよその具体的な推測は)
栄口と泉の小声ツッコミは、幸い阿部の耳には届かなかったようだ。
花井が、主将になってから何度吐き出したかわからない程の溜め息を、今回も深々と吐く。
手で『しっしっ』という仕草と共に、半ば投げやりに言った。
(もう誰か、田島に直接聞きに行ってくれ)
(よし、じゃあクソレ決定。今日もエラーしたからな。行け、行って男になってこい)
(わー水谷良かったねー阿部様のご指名だー)←栄口超棒読み
(でた!阿部大王…!)
(や、もう将軍でいいよ……水谷、諦めて行って来い。大丈夫、相手は田島だから。
何も考えず自分からペラペラ話すよ)
(栄口~沖ぃ~泉ぃぃ~)
チームメイト達の妙な後押しが嬉しいのか悲しいのか薄情なのか分からない水谷は、
半泣きになりながらカオス空間へとにじり寄って行った。
「あ、あのさ、田島。一体どしたの?」
「う~ん、昨日オレ頑張りすぎてさ!オトコのメイヨにかけてってヤツ?
んで昨日からチンコ痒いのなんのって!」
「へーそうなんだー大変だねーあははははぁぁぁ」←フェードアウト
ハレー彗星もビックリ!といった高速ターンを披露しつつ戻ってきた水谷を迎えて、
円陣討論会は再開される。
(やはり阿部の読みは正しかったか……男の名誉…通販恐るべし)
腕を組みしみじみ呟いた花井。阿部も無言で得意気に頷く。だがしかし、
(いや、あの言い方は女絡みともとれるね)
と冷静な判断をした泉に、水谷がまたもや涙目で叫ぶ。
(やっぱ大人の階段!!?)
(だから違うっつーの!……先越されてたまっかよ(ボソリ))
(あ、べくん、何か、言った?)
(うっいや別に)
そこにノックの音が聞こえ、続けて扉が控え目に開かれた。
「えっと、着替え終わった?」
「おお、しのーか、どったの?」
「あの…」
もう三橋並みの挙動不審さでキョロキョロ目を泳がせる千代。
「あ、田島君!」
目的の人物を見つけると、千代はコソコソと円陣とは逆の部室隅へと引っ張って行く。
「あれ?どったのしのーか(←空気読まず大声)」
「あ、あのね、だ、大丈夫?」
)
「ごめんね、私のせいで……」
)
「しかも、そんなトコ……(←赤面)」
)
「あのね、これ、夕方病院に行ってね、お薬もらってきたの!凄い効くって有名なの!
つけてみて!じゃあ、帰るね!お先にっ」
)
顔を真っ赤に染めたマネジが、風のように去って行った。
暫し呆然とする、哀れな男達。
水谷が真っ先に我に返った。
(あ、あ、あ、相手しのーか!?しのーかと大人の階段!!?)
沖が絶望の表情を浮かべ
(ウソだろ!ウソだと言ってくれええええ!)
と床をのたうちまわれば、西広先生からは黒いコスモが。
(涙って…涙ってホントにショックな時は出ないんだね……ふふ、ふ、ふふふふふふ)
ここで泉がとんでもない事に気付いた。
(ちょっとまてよ。てことは篠岡が……)
全員固まる。
八人の賢者達+一人の気弱な村人)
水谷絶叫!
(ふにゃあヤメテ!せめて伏せ字に!)
(病●持ち?)
(意味ワカンネーよ!)
強すぎる衝撃のせいか変に冷静な巣山に、泉からソッコーのツッコミが入った。
沖が、隣で口から魂を吐きだしている三橋に気付いて涙目になりながら揺さぶる。
(うわぁ!三橋!気を確かにもって!)
………ちなみに阿部将軍は、扉を見つめたまま呆然自失中だ。
そこへ今度はノックも無しに扉が開く。
「みんな着替え終わった?入るよー!あ、田島君!千代ちゃんから聞いたよ?
災難だったけど、ま、これも勲章だと思ってさ」
バシンっと田島の背を叩き、ニヤリと笑う。
「よくやったよ!カッコイイ!」
よしよし、と頭を撫でたモモカンは、これまた風のように去っていった。
円陣軍団は顔面蒼白!発狂したかの様に頭を掻きむしる。
))
))
(え、あ、アレっ、て、名誉、な事なの?し、知らなかった…)
(三橋だまされんな!男の沽券にかかわる超不名誉だよ!なぁ栄口!)
(そらそーよ泉!セービョーなんて女に知られたらフツーに登校拒否になるほど不名誉!
……しかし女二人に知られても平気な顔とは……さすが田島!)
「かいいー塗っちゃえー」
最早全員総意↓
)
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)
)
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(三橋お前は見るな―――って、あ、あれ?アレって…)
泉が何かに気付き、恐る恐る尋ねる。
「なあ田島、それって●●皮膚科の『万能ムシササレMAX-NEO』じゃねえ?
おふくろがなんでも治るからって有難がって持ってるけど…そんなんでいいわけ?
あぁいう病気って色々種類あんだろ?ちゃんと専門のトコで診てもらったら?」
「は?病気?」
田島がきょとんとした表情になる。
花井も、田島の方を直視はせずに、同じく問いかける。
「違うのか?せ、せ、せーびょー、じゃ……」
「セービョー?なんだよソレー!違うよ!」
「「「へ?」」」
呆けた表情の九人に、『イヤーソレがさー』と田島がアッケラカンと話し始めた。
「昨日の午後練休みの時にさ、家にいてもヒマだからグラウンドに行ったらさー。
しのーかが一人で草刈りしてんだよ。オレ、隣でしゃべりながら見てたんだー。
したら変なバケツがあってさ。水入ってたから、しのーかが『えーい』って倒したら!
ボウフラの住処で、しっかもホトンド成虫してて、襲ってきやがったの!」
…………………
「しのーかはオレ必死に頑張ってガードしたんだけどさ、そりゃもーヒーロー並みに!
けどオレの短パンやトランクスの中にわらわら入ってきてもー大変でー」
………………
………………
「しのーかパニックになっちゃってズボンの上からバンバン叩いてくるからチンコ痛てーし、
今度はチンコの感触に絶叫して泣きまくるしー。とりあえずしのーか抱えて逃げてさ、
スグにじーちゃん呼んで畑用の殺虫剤グラウンドに撒いてもらったけどさ!そんでさー…、
あれ?みんな帰んの?ちょっと待って、も少しで塗り終わるから……
おーいちょっと待てってばー置いてくなよー!」
おわる。
最終更新:2008年01月06日 20:08