5-53-61 ミハチヨ


 「ねぇ、三橋君…。しようよ」

放課後の練習が終わった部室でだった。
他の皆はもう帰ってしまっていて、
人一倍着替えるのが遅い俺は、やっと着替え終わって
ユニフォームをかばんにつめ終わったところだった。
その篠岡さんのセリフを聞いて、そのセリフを持つ意味を
理解した瞬間、俺は首まで真っ赤になり全身の血液が沸騰するのを感じた。

「うぇっ!え…えと…あの」
口が上手く回らない、篠岡さんが見たことのないような潤んだ目で
俺を見上げている。
まずい、なにか分からないけど、その目はとってもまずい。
篠岡さんはいつの間にか俺のそばまで近寄ってきていて、
しかも近寄りながらシャツのボタンを上から順々に外していく。

わぁっ!それ以上外したら、し…下着がっ…見える、よ!

見ちゃだめだ、見ちゃだめだ、と思うのに俺の目は、
篠岡さんのはだけたシャツの間から見える艶かしい白い肌と、
ささやかな胸の谷間に釘付けにされたように動かなかった。

「三橋君…」

いつの間にか俺と篠岡さんの間を隔てるものは、
俺がぎゅっと自分の身を守るかのように抱えたバックだけだった。
後ろにはロッカーがありこれ以上さがれない。

どうしよう。どうしよう。

そりゃ、俺だって男だし、これって据え膳ってやつなのか。
けど、いくらなんでもまずいと思う。篠岡さんはマネージャーで、
俺は野球部員で…だいたいここは部室だし、いや、部室以外だったらいいよ、
ってことじゃなくて…あぁ、何か頭が混乱してきた。
何も言えずに真っ赤になりながら、きょどきょどといつも以上に
挙動不審になっていると、篠岡さんの細い腕がすっと俺の顔にのびてきた。
俺は思わずびくっと身をすくめる。
そんな俺の様子に構わずに、篠岡さんは俺の頬に手をかけると、
ぐっと一気に俺のほうに顔を近づけてきた。  
顔が近い、息がかかる。

「三橋君…」
頬を染め、俺の名前を呟いた時、半開きにした口から赤い舌が
ちろりと覗き、ぞくっとした。篠岡さんの目にはうっすらと
水の膜が張っていた。その水の膜が張った瞳の中に真っ赤な顔をした俺が
ゆらめいて映っている。

ゆらゆら、とまるで自分の今の心の状態を映しているようだ。
理性と欲望の間で揺らめく俺の心の状態を映しているようだった。

思わず下をむいてしまう。しかし下をむいたことで今度は、
はだけたシャツの間から、白い胸元と、白いレースがついたピンク色の
下着が見えてもっとドギマギしてしまう。
首のところは日に焼けて少し黒くなっているのに、日に焼けていない
胸元部分は透き通るように白くて、そのコントラストが逆に艶かしい。

部室でチームメイト達の着替えを見ていて、こんな焼けかた
見慣れてるはずなのに(もちろん自分だってそうだ)なんでこんなに…。
くらり、とめまいを感じた。頭の芯が熱い。体の一部が自分の意思とは
反して意思を持ちはじめているのが分かった。

まずい、本格的にまずい。

俺はごくりと唾を飲み込み、自分の体の変化を知られたくなくて
…指の先が白くなるくらいバックをぎゅっと抱きしめた。
そんな俺の状態を知ってか知らずか、篠岡さんは更に体を密着させてくる。
俺の腕になにかやわらかいものが密着する。
マシュマロのようにふわふわしていて、でも弾力があるソレが
篠岡さんの胸だと分かったとき、俺は情けないことに思わず声をあげてしまった。

「う、わ!」
「なに、どうしたの…三橋君」

篠岡さんの、胸が当たってるんですっっ!!

そう叫んだつもりだったのだが、俺の口からは
「むっ…む、ねがっ…」
という言葉しか出てこなかった。
そんな俺の様子にくすりと笑いながら、篠岡さんは両手を俺の首にまわして、
ぐっと耳元に顔を近づけてきた。そして、少し笑いを含んだ声で
ささやくように俺の耳元でつぶやいた。

「分かってるよ。ワザとだもん」

その意味を理解するかしないかのうちに、俺の耳に電流のような快感が突き抜けた。
「…ぁっ…あぁ…!!」
思わず声がでてしまった。
篠岡さんが俺の耳を舐めている。
耳たぶにそっと息を吹きかけ、ちろちろと耳の穴を舐められると、
どうしようもないほどの快感が体中を駆け巡る。
「ふぅっ…うぅ…ぁっ…」
初めて感じる快感に声が抑えきれない。
篠岡さんの舌が俺の耳や首筋をねっとりと這いずりまわるたびに
必死に食いしばった口からは声がもれた。

「三橋君…かわいい」
「ひゃっ…あぁっ!」

耳たぶを甘がみされ、耳の裏まで舐められると、
快感でぞくぞくっと全身が震えた。
俺自身はもうとっくに勃っていて、早く熱を解放したいと訴えかけていた。
「はぁっ…はぁ…」
あまりの快感に涙目になりながら、息をしていると、耳を甘がみしながら
篠岡さんが話しかけてきた。
「…感じた?」
「いっ!」
「ねぇ、感じた…?」
「か、感じてなんか…」
「うそ」
そういうやいなや、今度は篠岡さんは自分の足を俺の…俺の股間に
擦り付けはじめた。
「はっ…!あぁ!!」
あまりの刺激にのけぞった。
すぐにでも射精してしまいそうな快感に耐えようと、目をぎゅっとつむり
歯をくいしばった俺の耳元で、熱に浮かされたようなささやき声が聞こえる。
「こんなに、なってるのに…?」
「………っ」
「感じてないなんて…なんでそんな嘘つくの…?」
「………う」
「…やらしーんだ、三橋君て。足で、こんなことされて感じちゃうなんて」
耳からの言葉での刺激と、足での直接的な刺激に頭がおかしくなりそうだ。
思わず顔を上げると、今度は無防備になったのど元に、篠岡さんが舌をはわせた。
耳とは違った感触にさらなる快感が体中を駆け巡る。
「ふふっ…また固くなった」
「あっ…ぁ」
その瞬間俺の頭は真っ白になり、腕の中からバッグが滑り落ちた。

「うわぁ!!!」
ばっと飛び起きると、そこは自分の部屋だった。
ゆ、夢か…なんていう夢を見てしまったんだ。自己嫌悪で暗くなる。
俺…こんなふうに篠岡さんにいじめられたい…とかいう欲望があるんだろうか?
自分の考えに頭を抱えた。
でも、これは田島くんが持ってきて見た
『放課後の情事~マネージャーと部室で××~』っていうAVの影響かも…
確かあれもマネージャーに気弱な一年生が羞恥プレイで責められる、っていう
内容だった。…っていうことはもう一度寝たら続きが見れるかな?
…って、何を考えてる、んだ!!俺は羞恥プレイは好きじゃない!
好きじゃ、ないよ!!ってそうじゃなくて、篠岡さんごめんなさい。ごめんなさい。
俺はベットの上に正座すると、我らがマネージャーの家があるであろう方角に向かって、
額を何度もこすりつけたのだった。
そして、その後冷静になった俺は、自分の体に起こったことに気づき、
真っ赤になったあと青くなって、お母さん達に気づかれないように洗面所に向かった。


その日の練習では俺は篠岡さんの顔がまともに見れなくって、
しかも「俺は羞恥プレイは好きじゃない、絶対好きじゃない」とか考えていたため、
みんなで野球談義になったとき花井君に
「三橋はさ、どういう(野球の)プレイが好き?」
って聞かれて思わず
「しゅ、羞恥プレイはす、好きじゃない、です!!」
と大声で答えてしまった。

…そのおかげで俺はしばらくみんなから、何か喋りかけられる時
「羞恥プレイ好きの三橋は~」
って自分の苗字の前にこんな枕詞をつけられるハメになった。

…羞恥プレイは好きじゃない、って言ったのに…





最終更新:2008年01月06日 20:11