5-76-90 イズチヨ(写真1)


泉は目の前に立つ相手の背中を、じっと見つめていた。
茶色の髪、華奢な肩、細い腕…。
何もかもが可愛くて、全てが愛しく思える。

もうオレは篠岡が好きすぎて、少しおかしくなってるのかも知れない。
可愛い可愛い篠岡。お前をオレだけのものにしたいよ。
他の奴に優しくしないで。オレだけを見ていて。

どうしたらいい?
どうしたら、オレだけの篠岡になるんだ?

「泉…くん?」
こんなチャンスは、2度とないと思ったんだ。
大好きだよ、篠岡。だから、オレだけのものになってよ…。


「どうしたの…。」
後ろ手で部室の鍵を閉めると、篠岡の顔色が変わる。
「何?やだな。私、もう出るよ?」
足を踏み出すと、畳がほんの少し沈むような気がした。
もしかして、緊張のあまり、少し貧血っぽいんじゃないだろうか。
だってこの手の冷たさは異常だ。

篠岡は身構えて後ずさる。肩を掴むと、小刻みに震えていた。
怯えながらも青い顔で、オレに向けて笑顔を作る。
「どうしたの?もしかして、具合でも悪いの?」
大きな瞳には、不安と心配の色が見え隠れする。

どこまでも、優しい奴。
そんなところもいいけど、それじゃ他の奴らにも誤解されちゃうぜ?

「うん。」
そう答えると、篠岡は驚いてオレの目を見た。
「どこ?練習でどっかおかしくしたの?」
心配そうな瞳に、自分の顔が映っているのに気づく。
うわぁ、オレ、こんな凶悪な顔してんのか…。
思わず笑ってしまって、慌てて顔を伏せた。

「おかしいのは、頭。」
「え?」

「お前のことが好きすぎて、お前のことしか考えらんない。」


千代は状況が飲み込めず、ただ呆然としていた。
練習の後、百枝から渡された備品を、ただ部室に運んだだけだ。
その途中で会った泉が、手伝ってくれて、それで。
部室で話をしていただけなのに!
今、千代は、昼間の熱を失った冷たい部室で、泉に抱きしめられている。
耳元で泉が、千代を好きだと囁いている。

「泉くんのこと…、そういうふうに思ったこと、ない…。」
「今すぐとは言わないよ。ゆっくりでいいから、オレを好きになってよ。」
「だって、い、泉くん。」
「それとも誰か他に、好きな奴いんの?」
「好きな…人。」

千代の目が泉を見て、ぴたりと動きを止めた。
「なぁ?」
答えない千代の耳元に、泉はキスをする。
「あっ。」
我に返った千代が、慌てて泉の胸を押し返すが、泉は動かなかった。
耳の下をちゅ、と吸うと、産毛が逆立ってくる。

「ねぇ、誰?」
「い…、いな、い…。いないぃ…。」
「嘘だね。じゃあ、当ててやろっか?」
「え…。」


「阿部だろ?」
千代がわかり易いくらい、ビクッと体を震わせた。
「やっぱりね。見てりゃわかるよ。嘘ついたってさ。
お前が阿部のこと見てるのと同じくらい、オレだってお前のこと見てたんだから。」
千代は困った顔をして泉を見る。
気持ちは嬉しい。泉の事だって、とても好きだ。
でも…。
「じゃ、じゃあ、泉くん…。え?」

いきなりキスをされて、千代は驚いて泉を突き飛ばした。
「イテ…。」
よろけてロッカーにぶつかった泉が声を上げる。
「ごめ…。でも、な、なんで、こんなこと…。私は阿部くんが、好きって…。」
初めてのキスを奪われ、千代の目に涙が浮かび上がった。

クク…。
「…?」
ロッカーに寄りかかった泉の笑い声に、千代は眉を顰めた。
「なんで、笑うの…。」
「ごめんな?でもさ、他の奴らはみーんな篠岡気に入ってるから、
告れば多分、9割は上手くいくよ。でも阿部だけは無理だろうな。
あいつ、お前が同じ中学だったことも知らなかったんだぜ?
いくらなんでも、他人に興味なさ過ぎるだろ。」

可哀想に、篠岡。これは嘘じゃないんだよ。阿部は無理だ。
だってあいつ、お前のことなんとも思ってねーもん。
野球のことしか、三橋のことしか考えてねーもん。

露骨に傷ついた表情の千代に、泉は追い討ちをかける。
「阿部は、篠岡に全く興味ないんだよ。」
『好きじゃない』より痛い言葉を投げつけ、千代の様子をじっと窺う。

「ひどい…。」
聞き取れないほどの小さな声で言うと、千代ははらはらと泣き出した。
大粒の透明な雫が、落ちてしまうのがもったいなく思えて、泉は指ですくい上げる。
微動だにせず、千代は呟いた。
「触んないで…。」

泉は千代の頬に触れたまま、その瞳をじっと見た。
「なんで、そんなこと言うの?そんなの阿部くんにしかわかんないじゃん!」
「じゃ、なんで泣くの。自分だってそう思ってるから、じゃねーの?」
頬に触れていた泉の手を振り払う。
「い、泉くんなんて、嫌い!大っ嫌い!」

自分から誘うようにして引き出した言葉に、少しだけ傷ついて胸が痛む。
千代の目はもう泉を見ていなかった。
「まぁ、そうだろうな。」
俯いて涙をこぼす千代は、泉が自らのベルトに手を掛けたことに気づかない。
「でもオレは、お前が好きで好きで、しょーがないんだよ。」

しゅるっと音がして、千代が顔を上げると、畳に強く引き倒された。
咄嗟のことに驚いている間に、両腕はベルトで二重に巻かれてしまった。
「な、なに…!」
最後に、部室に置いてある、ボロくてやたら重い長椅子の脚にベルトを固定され、
千代は完全に動けなくなる。

「何するのよ!」
大声で叫ぶと、手で口を塞がれた。
「しー…。」
口の前にひとさし指を立て、近づいた泉の顔は、少しだけ微笑んでいた。
どちらかというと可愛らしい顔立ちは、とてもこんなことするようには見えない。
「何するかって?」
千代の背中に冷たい汗が滲む。
「オレは、嬉しくて気持ちいいけど、お前は泣いて嫌がるようなこと、かな。」

強気の態度を一変させ、千代は青い顔をして震え出した。
泉が千代の口から手を離すと、消えそうな声で哀願する。
「やめてよ…。泉くん、こんなの変だよ…。」
ちょっとだけ胸が痛んだが、泣き顔の千代に泉は妙な興奮を覚える。
ははっ、オレって変態かも…。
「確かに変だよな…。」
千代の目が、瞬きもせずにじっと泉の目を見ている。
うん、そう。そんなふうにオレを見ててよ。

頬に伝う涙の跡を、指でなぞる。唇の横を通って、顎へ。
さっきは、ここで途切れて下にこぼれてしまったんだ。
柔らかい首筋の、薄い皮膚を撫でると、とくとくと血の流れる音がする。
「でもダメ。オレは変でいいんだ。」
泉は千代の胸のボタンに手を掛けた。


「いやだったら!やめて!」
泣き叫んで暴れる千代に、泉は舌打ちする。
襟元を掴むと、左手で千代の頬を打った。
あえて利き手は避けた。それでも、男の力で叩かれれば、当然痛い。
痛いというよりむしろ、熱くて痺れるような頬の感覚に、千代は呆然となった。

「しー、って、言ったろ?」
千代の大きな目が、より大きく開かれたまま、泉を凝視する。
その目には恐怖が色濃く浮かんでいた。

ボタンを全て外してシャツの前を開き、背中に手を回して下着のホックを外す。
千代は小さく抵抗を続けたが、殴られるのを恐れてか、泉が一瞥すると体を竦ませた。
ブラジャーを上にズリ上げると、小さな胸の先端の突起は硬く勃ち上がっていた。
寒い室内のせいか、はたまた恐怖によるものか。
泉の手が乳房を掴む。その手もまた、ひどく冷たい。

「篠岡の裸、何度も想像してオナニーしたよ。」
小さな乳首を舐め上げる。
「他の奴らもきっとそうだろうな。」
もう片方の乳首を指で捏ねる。
「…やめて、へんなこと言わないで。」
「阿部も、してるかな?」
「やめて。」
「してたら嬉しい?お前は阿部を思ってオナニーしてたの?」
「やめて…!」

スカートの中に手を入れると、千代の体が強張った。
太腿を撫で上げ、下着の上から割れ目に指を当てる。
「やめてよ…。」
「やめないよ。」
そう言うと、泉はそこをゆっくり擦り始めた。

「いやだ…、触んないで。なんで?私のこと好きって、言ったじゃない…。
なんで私が嫌がること、するのよぉ…。」
うっすらと湿り始めてきた布を、執拗に擦り続けながら泉は言う。
「お前は好きな奴を、自分のものにしたいと思わないの?
オレはずっと思ってたよ。篠岡の全てが欲しいって。
心がダメなら、体くらいオレにくれよ。」

「意味がわかんないよ…。そんなことしたら、私、泉くんのこと嫌いになる。」
「さっきもう嫌いって言ってたよ。それともまだ嫌いになってないの?」
布をずらして肌に直接触れると、千代は体を捩って逃げようとする。
「ならない、からぁ…。だから、やめてよぉ。」
「嘘だね。」
ぬめった指で、小さな突起を撫でると、千代の腰が大きく弾んだ。
「ここでやめたって、お前はオレを許さないよ。」

スカートを捲くり上げ、ショーツを脱がす。
千代は脚をぎゅっと閉じ、震えていた。
泉の手が、閉じた脚を掴んで、大きく割り開く。
「あっ、やだ、やだぁ!」
「…これが、篠岡の、かぁ…。」
泉がそこに顔を寄せて呟くと、温かい息がかかった。
指で開くと、先ほどの愛撫で、濡れた粘膜が露出する。
泉はそこを、舌でペロリと舐め上げた。


「や、あっ。」
千代の腰が動く。
「気持ちいい…?」
泉はそこを、優しく優しく、丁寧に舐めていく。
「やだ…っ、あ、あっ、うう…。」
「ここに、オレのが入るんだよ。」
そう言って、泉は自分の指を舐めると、そこにゆっくりと埋め込んだ。
千代の全身が緊張して、指をなかなか受け入れようとしない。

へぇ…。
泉はニッと笑うと、指を浅く差し入れたまま、もう1度舌で愛撫する。
「いや…、い、やぁ…。」
経験したことのない刺激に戸惑いつつも、千代の体は快感に抗えず開いていく。

第2間接までやっと入っていた指が、ぬるりと滑って奥まで入った。
温かくまとわりつく粘膜を、指の腹で押すようにゆっくりと擦る。
変わらず舌は敏感な突起を舐めている。
千代は唇を噛んで身悶えていた。

感じてんだ、篠岡。
舌に纏う熱いぬめりと、指が中へと引き込まれてしまいそうな強い締め付け。
入れたい入れたい入れたい。
この中に入り込んで、直に篠岡の熱を感じたい。

「いやっ…、は、あっ…!」
…イッたかな?
ぐにゅぐにゅとうねる千代の中を、確かめるようにかき混ぜて指を抜く。
中からはトロリと蜜が溢れ出た。
全身に薄く汗をかき、浅く早い呼吸をしている千代にくちづける。
拒まれることはなかった。

泉がジッパーを下げ、すでに臨戦体制となった自身を引き出す。
快感の余韻でぐったりとしていた千代が、それに気づいて暴れだした。
紅潮していた顔は、みるみる蒼褪めていく。
腕を縛りつけた椅子が、ガタガタと揺れた。

「泉くん、お願い。私、初めてなの、したことないの…。
だから、許して。お願い…。お願いします…。」
泉は千代の脚を抱え上げ、その間に膝をつく。
「なおさらダメだよ。篠岡に最初の傷をつけるのはオレだ。
他の奴になんて、絶対譲らないから。」

秘裂にペニスを押し当てると、千代の体が硬直する。
「お願い…。いや…。」
うわごとのように繰り返す千代に、泉は優しくキスをする。
「そんなにガチガチだと、余計痛いと思うよ。
オレは絶対やめないからさ、もう諦めて力抜きなよ。」

「や…、う。」
泉の手が再び千代の口を覆う。
「行くよ。」
そう言うと、泉は片手で千代の肩を抱え、一気に奥まで侵入した。
「!!」

口を抑えなくても、千代は一言も発しなかった。
ただはぁはぁと手の下で息をついて、体を震わせている。
「あぁ…。篠岡、入ったよ。う…、きっつ…。」
ゆっくりと引き抜いて、また押し込めると、泉の手の下で、千代が呻く。

塞いだ口で何やら訴えているのを聞こうと、覆った手を離す。
はぁっと息を吐いた千代を、泉は見つめた。
光を失った千代の瞳に、背中がゾクゾクする。

「痛いの…。泉くん、もうやめて。もう気が済んだでしょ?
ちゃんと私には泉くんの傷がついたよ…。」
見上げた泉の顔は、うっすらと頬に赤みを増して、笑っているように見えた。
その表情に、千代は諦めて体の力を抜いた。

自分の呼吸が、耳に大きく響く。
気持ちいい、気持ちいい…。
千代はもう力なく揺さぶられるまま、ただ時が過ぎるのを待っている。
「篠岡…。可愛い、大好きだ。」
顔を掴んで唇を奪っても、ただ虚ろな表情で天井を見ているだけだ。
泉はポケットから携帯を取り出して、千代に向けた。

突然小さな光に照らされたかと思うと、パシャッとシャッター音がする。
今まで人形のように動かなかった千代が、ゆっくりと泉を見た。
「やだ…。何してんの。」
泉は答えず、シャッターを押し続ける。
「やめて!いや!」
暴れだす千代を片手で抑えると、泉はそのまま携帯を後ろに投げ捨てた。
「いいじゃん…。篠岡の可愛い写真が欲しかっただけだよ…。」

「もういやぁ!やめて、やめてよ!」
千代が泣きながら暴れると、泉はじわりと体が熱くなった。
「生き返ってよかった。反応ないと、虚しくなる。
オレ今、篠岡とやってんだって実感、やぁっと湧いてきたよ。
はぁ…。気持ちいいよ、篠岡。オレ、イキそうだ。」

泉の言葉に、千代の表情が強張る。
「やめてよぉ…。お願い、泉くん。」
「ふ、中で出すなって…?」
千代がぼろぼろと涙を流して頷く。
「ほんとはオレの子産んじゃって欲しい勢いだけど、まだ高校生だしね。
もちろんそんなことしないよ。」

安堵の息を漏らした千代を、泉は激しく突き上げた。
「い、たい。泉くん、やだっ…!」
「はぁっ、痛がる顔も可愛いな、篠岡。…イクよ。」

ズルッと抜き出したペニスは、粘液で淫靡にぬらついていた。
「や…。」
勢いよく放たれた精液は、顔を背けた千代の頬に命中する。
「くはっ…。あ、あ。」
手で擦って、最後に1滴まで搾り出す。
泉がぬめった手のひらを見ると、粘液にはうっすらと血が混じっていた。

「なんで、こんなことすんの…。」
千代の震える肩に手を置くと、強く払いのけられた。
白いシャツは、泉の精液で濡れ、ところどころ薄く透けている。
「なんで…?お前が、好きだからだよ。」
「好きだったら、何してもいいの?」

肩越しに、千代の目が泉を睨む。
「さぁ…。どうだろうね。
ほんとはお前が、オレを好きになってくれれば1番いいんだけど。
そうはいかないんだろ?なら仕方ないじゃん。
いつも笑ってる篠岡の、そういう顔も見られたしね。」
「頭…、おかしいんじゃないの?」
泉は笑った。
「初めから、おかしいって言ってんじゃん。」

千代は立ち上がって、内鍵を開けた。
「篠岡。」
泉の声に、体が竦む。
「明日、オレんちおいでよ。もっとイイコトしよう。」
「…誰が。」

ノブに手をかけようとすると、千代の携帯が鳴った。
おそるおそる携帯を見ると、1通のメールが届いていた。
『泉くん』


後ろを振り返ると、泉は携帯を手に、壁に寄りかかって笑っていた。
千代は自分の手の中の携帯に目を戻し、震える指で受信メールを開く。
「明日、ね。」
立ち尽くす千代の横をすり抜け、泉は部室を出て行った。

メールに本文はなく、先ほどの行為の生々しい画像が添付されていた。
思うように動かない指で、画像を削除する。
心臓の音が、頭まで響いて痛い。
「う…、うぅ…。」
千代は膝から崩れ落ち、携帯を握り締めたまま泣き続けた。


部室の電気がいつまでも消えないのを、泉は見つめていた。
昼間は暖かかったのに、今吐き出す息は白く、冷たい風が体に刺さる。
頭おかしいんじゃないの、か…。
あまりにも的を射た言葉に、笑いが込み上げる。
「ほんとにな。」
笑う泉の頬にも、一筋の涙が伝って落ちる。
痺れるように痛んだその跡を拭うことなく、泉は歩いていった。





最終更新:2008年01月06日 20:12