5-197- アベチヨ2 (お試し用アベチヨ2)
鍵のかけられた部室。
彼のネームプレートが入ったロッカーを背に、向かい合って立つ。
そっと眸を閉じると、少しかさついた唇が重ねられる。ついばむように何度か触れて、するりと舌がはいってくる。
唇の裏側、すこし感じやすい部分をゆっくりなぞってから、深く絡めとられる。上顎を舌先で舐められてビク、と身体が震えた。
いつも行為の終わりに一度だけ交わされるキスが、いつの間にか始まりの合図になった。
(意味なんか、ないよね)
好きだと言われることもない。気持ちが溢れて千代から口にすることはあっても、それに対して彼が何か返してくれた事はなかった。
ブラウスのボタンを3つまで外して、大きな手が入りこんでくる。やわらかなふくらみを手のひらで押しつぶすように撫で回され、
千代は目を閉じて与えられる快感を追った。
こういう時の阿部はシャツすら脱がない。ボタンを外して、肌を晒したことすらない。彼なりのけじめなんだと千代は思った。
裸で抱き合うのは、彼が本当に大切にしたい女の子だけなんだろう。それでも、(傍に 居たいよ・・・)
カシャン、と顔のすぐそばで背後のロッカーが鳴らされた。
「ゃ・・・」
「気が乗らねぇならやめるか?」
千代の顔を挟むよう手のひらをロッカーにつき、腕の中に閉じ込める。
見上げた阿倍の表情が逆光で見えずに思わず怯えた表情になると、阿部は驚かしたな、と呟きゆっくりと髪を撫でてやった。
何があったのか、今日の阿部は部活中も苛々している様子だった。正直、今も少し怖い。
「篠岡、スカートめくって」「・・・え」
「触ってやるから、自分で持って。見えるように」
おずおずと両手で引き上げる。下腹部に強い視線を感じて恥ずかしさに涙が滲んだ。身体の奥が熱くて目眩がする。
けれど布地のうえから慣れた仕草で辿られ、指先が下着をくぐったところで、2人同時に気づいてしまった。
「・・・・・・悪い。マジで今日よくねぇ?」
「う、ううん。ちゃんと、きもちいい、よ」
体調が悪い訳でもない。きっと余計なことばかり考えてるせいだ。いつもより潤いの少ないそこに触れて、躊躇った阿部に泣きたくなる。
「やだ、お願い、やめないで」
「無理すんなよ。・・・・・・本当に良いんだな?」
こくこくと頷き、涙目で縋る千代の頬に、なだめるようなキスと溜め息を落とすと阿部は身を屈めた。
震える手でスカートを持ったまま立つ千代の正面に膝をつき、薄い布地で覆われた部分に顔を寄せる。
「きゃ・・・っ」
左腰骨のあたり、細くなった部分の下着を阿部は器用に歯で銜えると、反対側に指をかけてゆっくりと太腿まで引きおろした。
そのまま、伸ばした舌先で目の前に晒されたふくらみをつついては割れ目をなぞる。
信じがたい光景と初めての愛撫に千代の脚はがくがくと震えた。淡い茂みの内側、ほころんだ左右の薄い肉にまで唾液をのせた
舌がぬるりと這いまわる。ぴちゃ、ぴちゃ。生温い感触と卑猥な水音に、歯をくいしばって耐えた。
「ん、くぅ・・・っ!」
「脚、もーちょぃ開いて。篠岡」
「・・・や、できな、ぁ、あああ・・・」
名前を呼ばれ、ちゅぅ、と突起を吸い上げられると千代は一際高い声をあげて仰のいた。
もはや立っていられずに崩れかける身体を、阿部が腕を広げてそっと支えた。
「阿部くん、は・・・?」
「は?」
「阿部くんは、いいの?」
達した余韻でぼんやりとしたまま、乱れた制服を直して千代は尋ねた。だって今日、彼はまだ、・・・
さすがにその先を口にするのは躊躇われて、言いにくそうな千代に阿部は肩をすくめて見せた。
「そりゃここまできたらヤリてーけど」
「じゃ、じゃあ・・・っ」
「やめとけ。初めてん時みたいになるぞ。・・・俺だってしんどいんだよ」
動けねーし、あんま痛がられ過ぎっと萎えるし。ぞんざいな口調で吐き捨てると、ごまかすように両膝を立てる。
「いーから今日は帰れって。足りなかったからもう1回したい? それとも、お前が抜いてくれんの?」
立てた膝に顔を埋め、阿部の表情は伺えないけれど、聞こえたのは彼らしくない酷く頼りない声で。
どうしてだろう。投げつけられた言葉に傷つくよりも、いまの阿部と離れたくなかった。
「ちがう、よ。私・・・阿部くんが、好きだから・・・」
「・・・・・・」
何度もくりかえした告白を口にすると、阿部は黙って千代の手を引き寄せた。
カチャ、とベルトの止め具を外す音がやけに耳につく。ホックを外し、ジッパーを下ろそうとしたところで今日初めて阿部が笑った。
「なんか、見られてるとやりにくい」
「ご、ごめ・・・っ」
「いーよ別に。俺が誘ったんだし。・・・頭、こっちな」
ロッカーを背に座りこんだ阿倍の、立てた膝の間に向き合ってぺたりと座り、おろおろと視線をさ迷わせる千代の顔を
ぽすんと自分の左肩へ押しつけた。
「お前、何するか分かってる?」
「た 多分・・・でも、した事ないから」
上手にできないと、思う。真っ赤な顔でぽそぽそ続けると、苦笑する気配がした。
「ばーか、何考えてんだ。――片手だけ、貸して」
え、それって・・・。いいから。あと、顔見るの禁止な。なんで?なんででも。
そう言って己の肩に押しつけたやわらかな髪を優しく撫でると、阿部はゆっくりと千代の左手を熱く張りつめた中心へ導いていった。
は、は、と短く切れる彼の息づかいが聞こえる。それから皮膚と肉が擦れあう生々しい音。
生まれて初めて触れたそこの熱さに驚いた指を、上から重ねられた右手にやんわりと握らされた。
あとは促されるままに、握った指で上下に擦りあげる。勢いあまって張り出した先のくびれに指の輪が強くかかると、
阿倍の喉からくぅ、と低い声が漏れた。力の加減が分からず、つい(痛くないのかな)と指を緩める自分のせいで
なかなか達せないようだ。もどかしげに溜め息をつき、その度に痛いほど強く手を重ねられる。
身体を繋げるより恥ずかしいコトだと千代は思うけれど、好きなひとだから、気持ちよくなって欲しい。
じわりと滲んだ温かい液が指に垂れてくる頃になると、阿倍の呼吸がひどく苦しげになった。(あべくん・・・)
きゅ、と一度強く目をつぶると、千代は身体を伏せて、2人の手が重なって動いている部分へ顔を寄せた。
「バ・・・っお前、何・・・!!」
ぎょっとした阿部が制止するのも聞かず、目を閉じてそこに唇をつける。ちゅ、と先端のあたりに吸いついてから、
思いきってくびれまでを口に含む。歯に当たらないよう、上顎と舌ではさんでみる。稚拙な技巧だったが、
たっぷりの唾液で濡れた温かい粘膜にぴっちりと包まれて、熱い幹はビクリと震えた。
「やめろ篠岡!・・・ぁ、ぅあ・・・っ」
「・・・は、ん、いい・・・よ・・・あべくん、イって・・・」
「放せ、出る・・・っ!」
「・・・ん、・・・んっ、ん・・・」
断続的にあたたかい液体が放出される。決して唾液と混じらない不思議な浸透圧のそれは青臭く、口の中に溜まった。
どうしようか一瞬迷ってから、千代はこくり、と喉を鳴らした。予想より飲みこみにくい。粘ついて流れ落ちる、精液。
唾液ごとすべて飲み下して、ゆっくりと目をあけると、そこには呆然と自分をみつめる阿倍の姿があった。
えへへ、と笑ってみせる。こんなことをして嫌われただろうか。好かれても居ないけれど。
「きもち、よかった?」
「・・・・・・あ、あぁ・・・」
よかった、とまた笑う。
「あのね、私、阿部くんが好きなの」
「・・・・・・」
「だいすき、だよ」
「・・・篠岡・・・」
名前を呼んで、きつく抱きよせられる。幸せだと思った。彼が好きだから。
笑ってでも居ないと、泣いてしまいそうだった。
了
なんでお前、こんなことさせるくらい俺が好きなの
気分次第で抱くだけ抱いた後 同じ教室に入って目も合わせねぇ俺に
なんでまだ好きとか言ってんの
茶色がかったおおきな瞳が揺れて、泣く、と思った。でも泣かなかった。震える声で、いつものように俺が好きだと繰り返した。
あのね、すきなの。あべくん、が。(だいすきだよ・・・)そう言って、笑った。
己の熱い中心が、彼女のちいさな口に含まれたのを視認しただけで暴発するかと思った。
やわらかな唇が触れて、ピクリと脈打ったそれをぬめった粘膜に迎え入れられる。
根元からくびれまでを白い指で、ついさっき教えた通りにしごき上げながら、先端を舐めまわす。上顎と舌できゅぅ、と挟まれ
どうしようもない快感が駆け抜ける。いい。温かい唾液も、包みこむ頬の粘膜も何もかもが気持ちいい。
はっ、と短く息をついてこみ上げてきた射精感を逃がす。こきざみに揺れる彼女の後ろ頭をめちゃくちゃに押さえつけて腰を突き上げ、
強く出し入れをしたい欲望を抑えるのに阿部は必死だった。張りつめたそこへ、苦しげな吐息がかかる。そろそろ限界だ。
視線を下げると、伏せた彼女の白シャツの胸元から、淡いピンク色のブラジャーがちらりと覗く。うまく呼吸ができないのだろう、
ん、くぅん、と仔犬のような鼻に抜ける甘い声を漏らしている。阿部は手を伸ばし、頬に落ちかかる髪をそっとかきあげてやった。
初めてだろうに、懸命に。阿部が気持ちよくなるように。それだけで埃まみれの床に這い、目を閉じて屹立した男性器を頬ばる少女。
さっきまでロッカー前で立ったまま自分の愛撫に乱れていた姿より、ずっと卑猥で、それ以上に痛々しくて、(ヤバい・・・出る・・・っ!)
止められない快感が断続的に迸る。濡れた温かさに包まれたまま射精している事実に、くらり、と目眩がした。
何も言えず、呆然と阿部が見ている目の前で。篠岡はゆっくりと伏せていた身体を起こすと、目をつぶったまま顔をあげた。
白い喉が、こくり、と動くのが、見えた。(・・・ンの、バカが・・・っ!!)
なあ、本当に、なんでお前こんなことするまで俺が。
部活終了後ひとり残って、阿部はぱらぱらと部誌を開いた。乱雑に書き殴られた所々に、かわいらしい几帳面な字が並んでいる。
三橋のようにして欲しいと言われて、手に触れた。抱いてほしいと請われて抱いた。抱けば縋りついてくるから、また誘った。
付き合う暇がないと突き放しておきながら、いつの間にか身体を繋ぐ時間だけを2人で過ごしてきた。
どう考えても優しくなんてしてやれない。これが水谷や栄口や西広や、いや自分以外のメンバーであれば誰でも、
彼女にとってずっと幸せなはずだった。きっと、
(あんな顔で、笑わなくて済んだ)
けれど、いつでもまっすぐに向けられる瞳は、自分しか見ていなかった。伸ばした指の先には、いつも自分のシャツが掴まれた。
重ねた唇。触れたこの手のひらで形を変えるやわらかな胸、感じやすい紅い尖り。欲情のままにまさぐる自分よりも、
彼女の身体中で求められてると感じた。潤んだ奥を指で掻き回せば高く声をあげて何度も自分の名前を呼んだ。
壊れそうな笑顔で、好きだなんて言葉を繰り返すばかりで。
(俺にどうしろって言うんだよ・・・・・・)
千代が見せた最後の笑顔が頭から離れない。何も願わない彼女の望みを、出来ることなら叶えてやりたいと思う。
もう泣かないで欲しい、幸せになって欲しい。あの、花がひらくような笑顔を――・・・
「なんか、心臓、いてぇ・・・っ」
かつて彼女がそうしたように、シャツの胸元を握りしめる。
初めて感じる甘い痛みは、滴となって頬を伝った。
了
最終更新:2008年01月06日 20:16