5-386- イズチヨ2 蒼いはる 承 ◆VYxLrFLZyg
水谷と巣山は練習後の帰り道で、さっき見てしまったことを話し合っていた。
「なあ、あれ、何だと思う?」
水谷の疑問に、巣山が顔をしかめる。
「わかんねえけど。ほっといたほうがいいと思うぞ?」
「でもよ~。気になるじゃんか。」
「変に首突っ込んで、余計もめるのとか嫌だな。」
「そ~だけどさぁ。あれって、泉が変なのかな?」
部活のおにぎりタイムに一瞬だけ泉と篠岡が見せた確執らしきものに、
気づいたのはおそらく水谷と、巣山だけ。
水谷は二人が何かを原因にもめているのなら、解決してやりたいようだ。
巣山はさわらぬ神になんとやらのようで。
「オレ、これは変に首突っ込むのは嫌な予感する。水谷、辞めとけよ。」
「いや!オレは篠岡が困ってるならなんとかしてやりたいな!。」
水谷は妙に使命感に燃えてしまったようで、巣山はふかぶかと溜息をついた。
「なあなあ、篠岡、オレ、今日のおにぎりの具、なんだっけ?」
次の日の昼休み、一人机に向かって物思いにふけっている篠岡を見て、
水谷はチャンスとばかりに近寄り、話し掛けた。
その言葉につられるかのように無表情のまま機械的にメモを取り出し答える。
「たらこだよ。」
水谷は篠岡のその態度の暗さにびっくりして。
「し、篠岡?どうした?なんか暗いぞ?」
「そう?別になにもないよ?」
そういってにこっと笑ったが、目は笑っておらず。
無理やり笑おうとしているようなその痛々しさに、
水谷は胸が締め付けられるような感情を覚えた。
「し、篠岡。なんかどう見ても変だよ?何があった?」
「別に。大丈夫だよ?」
そういって、窓の外に視線を向けた。
水谷は慌てて、篠岡の前の席に座りさらに声を掛ける。
「ねえ。話すだけでも楽になるかもしれないし、話してみてよ。
オレ、聞くからさ?そ、そうだ!今日、部活終わった後とかどう?
一緒に帰ろう。な?」
そういって無理やり約束を取り付けた水谷に、篠岡は力なく頷いた。
「泉だろ?へんな原因。何か・・・あった?」
部活後、帰り道の途中の公園で、入り口の自販機で買ったお茶を
篠岡に渡しながら、水谷は篠岡に聞いた。
篠岡は手を差し出しつつ、目はびっくりしたように見開いて、
水谷の言葉が正しいことを態度で表す。
「そんな・・・何も、ないよ。」
「オレ、見ちゃったんだよね。」
その言葉に篠岡は見るからに動揺し、
震える手で口を押さえながら搾り出すように声を出す。
「な、何を?」
その様子にただならないものを感じ、水谷は動揺しながら言葉を続けた。
「い、いやあ、その、おにぎりを渡す時にさ、ちょっとなんか変だったから。
泉の態度が。」
その言葉に、ほっとしたように篠岡は手を下ろして水谷を見つめる。
「あ・・・うん。そうだね。そっちね。」
その篠岡の返答に、水谷はどこか違和感を感じたが、気にせず続ける。
「え~と、なんかあったんだ?」
「何も、ないよ、本当。」
篠岡の、明らかなウソを見抜けないほど水谷はバカではなく、
隣に座る篠岡の両肩に手を置いて、真正面から見つめる。
「篠岡がそんな顔してんの、オレ見たくないしさ。
篠岡の力になりたいと思う。話してよ、な?」
至近距離から水谷に見つめられて、篠岡は眼をそらすことも出来ず、
その大きな目から涙を溢れさせた。
水谷の優しさが篠岡に染み渡る。
泣いてしまった篠岡に水谷はかなり動揺し、
涙を拭いてやらなきゃと無意識に篠岡を引き寄せ、自分の胸に押し付けた。
篠岡は水谷の背中に手を回し、静かな嗚咽とともに、泣き出す。
水谷は自分の胸にすっぽりおさまる篠岡の肩の小ささと身体の柔らかさに胸が高鳴った。
「い、泉くんっに、な、なんっか・・嫌われた・・・み、みたいで。」
嗚咽に言葉を途切らせながら、篠岡は不安を水谷に打ち明ける。
「い、え?泉が篠岡を嫌い?いや・・それはないんじゃないかな?」
篠岡を嫌う奴なんて、部内に存在しないという確信だけで水谷は篠岡を慰めようとする。
「ちょ、直接、聞いても、話して・・・くれなくて。」
「う、うん。それで?」
「・・・・・・・。」
そこで、篠岡は沈黙した。
「し、篠岡?」
水谷の呼びかけに、篠岡は顔を上げて、水谷を見つめる。
「水谷くん。わ、私に、キスできる?」
唐突な篠岡の質問に、水谷は真っ赤になった。
「えええええええ!?」
「ね、できる?」
篠岡はさらに尋ね、
「えっと・・・し、していいのなら。」
水谷は思わず正直に答えてしまって、その返答に篠岡は青ざめた。
うっかり本音を漏らした水谷は、篠岡のその変化に同じく青ざめる。
「そう・・・なんとも思ってなくても、できる・・ものなんだ?」
「い、いやあ!そんななんとも思ってなかったら、無理だって!」
しまったと思った時には、もう口から出てしまっていて。
水谷は真っ赤になって言い訳を試みる。
「い、いや!その!オ、オレ!篠岡!好きだし!」
水谷はさらに墓穴を掘ってしまった。
篠岡の青かった顔が、見る見るうちに赤く変化する。
先ほどの篠岡の問いかけと、自分の答えと、
今の篠岡の反応がぐるぐる水谷の頭を駆け巡り、
何も考えることなく、思わずその勢いのまま、
自分の唇を篠岡の唇に重ねた。
背中に回していた腕にさらに力を込めて、抱きしめる。
それは気恥ずかしさや告白してしまった焦りからか、照れをごまかすためか。
篠岡の返答すら聞かずに起こしてしまったその行動は、
篠岡をさらに混沌に突き落とした。
水谷の暖かな唇は、冷えていた篠岡の心にほのかな熱を与える。
荒々しさに翻弄された泉のキスとは違い、水谷のキスは篠岡に安心を覚えさせ。
篠岡の意に反した行為のはずなのに、
動揺はあっても水谷を押しやろうとする力はどこからも湧いてこない。
むしろ、体中から力が抜けて、水谷に持たれかかる。
もたれ掛かってきた篠岡に力を得たのか、水谷はさらに腕に力を込め、
そっと重ねたままの唇の隙間から、舌を差し出した。
篠岡は抵抗せず、やすやすと受け入れる。
水谷はより深く篠岡を味わうため、知らず顔の角度を変えた。
唇で篠岡の下唇をついばみ、軽く歯を立ててちゅっと吸う。
上下の唇を一度に味わうように、軽く口をあけ、全体を挟み込む。
細かく角度を変えながら、篠岡の唇を味わった後、深く口内に舌を差し入れた。
「・・・はぁっ・・。」
くぐもった篠岡の吐息が、水谷の身体にダイレクトに伝わって、
下半身に熱を与える。
舌を絡め、舌のすべてを使って優しく撫でる。
舌先で軽くつつき、横腹でさすって、舌全体を押し付ける。
掬い取るように吸い上げ、今度は篠岡の舌を自分の口内に引き寄せて。
差し出してきた篠岡の舌を、唇で挟んで逃げないように押さえ、舌で刺激する。
「ん・・・。」
篠岡が身をよじって、脚をすり合わせた動きが水谷に伝わり。
水谷は無意識に篠岡の胸元に手を伸ばした。
「はぁんっ・・。」
服越しでも水谷の手は篠岡の乳房を包み込み、
込めた力は篠岡に快感を与え、のけぞらせた。
予想以上の篠岡の反応は、水谷の動きにさらに力を与える。
後ろに回ったままの手で軽く背中のホックをつまむと、プチンと外れた。
簡単に外れてしまったことに水谷は軽く動揺したが、
抵抗しない篠岡に安心し、そっとシャツの裾をスカートから
引っ張り出し、手を中にくぐらせた。
そのまま、ブラを押し上げ、胸を直に触る。
「い、嫌!」
その瞬間、篠岡は弾けたようにベンチから立ち上がって、
水谷から距離をとった。
「あ、・・・・。」
途端に水谷は罪悪感にとらわれ、顔色を青く変化させた。
「ご、ごめん。篠岡、オレ・・・。」
「あ、いや、違うの・・・。」
立ち上がった篠岡が、慌ててベンチに戻って座って、俯いた。
そのまま、水谷の顔を見ようとせずに、ぽつぽつと話し出す。
「水谷くんの気持ちは、嬉しい・・・と思うんだけど、
私は水谷くんをどう思ってるのか、わからないの。」
その目からはまた涙が溢れ出ていて。
水谷にいっそうの罪悪感を与える。
「お、オレこそ。ごめん。つい調子に乗っちゃって・・・・。」
「ううん、あのね、気持ちよかったの・・・。
水谷くんが暖かくて、気持ちよかったの。その・・・怖くなっちゃって。」
篠岡の言葉に、一筋の希望を見る。
「気持ち・・・よかった?」
水谷の問いかけに、篠岡はコクリと頷いた。
さっきまでの罪悪感は吹き飛んで、水谷は笑顔になる。
「そっか。よかった。でも、ホントごめんな~。」
ニッコリ笑って明るく謝る水谷に、篠岡も釣られて笑顔になった。
「え~と、オレが篠岡を好きなのは本当だから。
えっと、でも返事はいいや。今日そんなつもりだったわけじゃないし、
むしろ忘れていいよ。」
指で自分の頬を掻きながら、ちょっとバツが悪そうに言った水谷を
篠岡は黙って見つめる。
「あと、ほんと、手え出してゴメン。」
顔を赤くして、よりいっそう居心地が悪そうに篠岡に謝る。
「泉のことだけど・・・さりげなく何か聞いとこうか?オレ。」
そう水谷が続けた時、篠岡は見る見るうちに真っ青になって。
「だ、ダメ!お願い、泉くんには何も言わないで!」
篠岡のその変貌に、水谷はただあっけに取られた。
「お願い、何も言わないで。」
泉と篠岡の間に、何があったのか水谷にはさっぱりわからない。
しかし、篠岡のこの泉への恐怖は、一体なんなのか。
さっきは確かに笑顔を見せたのに、今はもう恐怖しか浮かんでいなくて。
泉との深い確執をさまざまとと水谷に見せ付ける。
篠岡の悩みを知って、取り除いてやりたいという気持ちだったのに、
自分の無力をただ思い知らされて。
同時に、篠岡の弱さに付け込んで取ってしまった
自分の軽率な行動を激しく後悔し、水谷は途方にくれた。
続く
最終更新:2008年01月06日 20:21