5-412-415 ハマチヨ
「あ、浜田君。おはよう!今日も見学?」
「うん。選手見とこうかなって。」
朝に弱い俺だが、
応援団になった身。選手のことを見とこうとフェンス越しからそっと選手をいつも覗く。
みんな集中してて、とてもカッコいい。
俺も野球をしたいなんて、思っちゃいけねーけど、思っちゃったりする。
で、いつも朝一番に来るようにしてたのに、
最近はマネージャーの「篠岡千代」が俺より先に来て、
お茶の準備やら、ビデオをチェックやら、忙しい毎日を送っている。
俺もそれを手伝ったりして、篠岡と仲良くなってたりする。
今日も、また新しい朝が来た。
でも細い体・・黒くて大きい瞳。誰もを魅了するような容姿・・
「はーまーだー」
「おっ、おう!おはよ!!」
やべ、見とれてた。
みんなバッドを持ち、ボールをがむしゃらに打つ。
また朝の始まりだ。
俺はジャージを身にまとってるけど、何もできることねーし・・
仕方ない、篠岡の手伝いでもすっか。
さっき体育館倉庫のほう行ったな…
校庭からずいぶんと離れている体育倉庫。
古ぼけて錆びている。
あまり入りたくない体育倉庫だが、仕方ない。
グッと唇を噛み締めて、ソッと扉を開けた。
「しのーか、手伝うこ・・・」
あけた扉を瞬時に閉める。
1・2回咳ごみ、心を落ち着かせようとするがなかなか落ち着かない。
いつも涼しく高校に入ってくる風を感じながら、
俺は唖然とした。
篠岡、うそだよな。
体育館倉庫であんなこと、しねーよな・・?
うん、まさかあの子供っぽい顔でしねーだろ。おうよ。
落ち着かない心、俺の胸は熱く、そして鼓動が早くなっていた。
10分後くらいに、俺はまた体育館倉庫の扉をあけた。
「しのーか!!」
「えっ、何?どうしたの?誰か怪我でも?!」
扉を開けたとたん、篠岡はお茶を準備していた。
にっこりと笑みを浮かべつつ、「いいや、なんでも。」とボールが入ってるかごを持ち上げた。
さっき、篠岡は全裸だった、気がする。
でも違うんだよな。よかった・・・
赤くなる頬をパチンと手ではたき、校庭へ向かう。
背伸びしながらポンッと肩をたたく篠岡。
俺は少しどきどきしながら後ろを振り返る。
「何?」とたずねると、篠岡は少し強めの笑みを浮かべた。
「体育館倉庫、さっき開けたよね。ってことは見たんだ、私のこと。」
「!?」
信じたくない事実が目の前にある。
みんなの声がグラウンドから聞こえる。篠岡の不気味な笑みに俺は後ずさりする。
でも篠岡が俺の腕を掴んでまた不気味な笑みを浮かべた。
もう逃げられないと一瞬思った。
「浜田君、やだー!誰にも言わないでよー!」
「・・?おっ、おう・・?」
篠岡の普通の態度に俺はまたびっくり。
わけがわからない。さっきの不気味な笑みはなんだったんだ?
体育館倉庫で篠岡がやっていたことは、もしやオッ・・いや、やめよう。
田島がよく変なこと言うやつをやってたのか?
篠岡が先にグラウンドの扉を開け、ベンチにジャグをおく。
その背中をずっと見つめ、俺は疑いの目で篠岡を見続けた。
長い長い、朝練が終わりクラスにつき扉を豪快に開けた。
今日は本当に長い一日になりそうだ・・
エナメルを机に置き、田島、泉、三橋の居る場所へ駆けつけた。
「おっ、はよ・・」
「おう?なんか今日テンション低きーな、浜田。」
「もしかしてモモカンになんかされた?おっぱい攻撃ー!とか。」
田島がいつものように下ネタをいうが、今日は意識をしてしまう。
いつもなら軽く流せるのに。
赤くなる頬を泉は見逃さず「お前は馬鹿か」と頭をたたかれる。
本当に長い一日になりそうだ。
教室には誰も居ない。
部活動に行った生徒や、家に帰った生徒、遊びにいく生徒。
俺は、応援をどのタイプにしようかと寂しい教室に一人ポツンと机に座っている。
進まないペン。考え付かない応援の仕方。
やはり篠岡がポカンと頭の上に浮かんできて離れないのである。
あの不気味な笑みは何なんだ?・・本当に参っちゃうな。
そんな時、教室の扉がガラガラとあく。
「・・あ、栄口か。」
「その反応ひっどいなー!あ、篠岡が呼んでたよ~。倉庫に来いってさ!何か手伝ってほしいって。
俺、今通りかかったから言っとくー。忘れそうだし」
「お、おう。サンキュ・・・」
栄口の笑顔が妙に不気味に感じる。
いや、栄口は悪くない。悪いのは篠岡だ。笑顔は全部不気味に見えてしまう。
栄口の笑顔でも不気味に見えてしまうのだから・・
不安で押しつぶされそうになりながらも、ガタッと音を立て、椅子から身を起こした。
体育館倉庫
「手伝ってほしいことって、何?」
「・・手伝ってほしいことはね・・」
終
最終更新:2008年01月06日 20:23