5-432-445 ミハチヨ エースと同級マネジ13 ◆LwDk2dQb92 (303氏)
夏休みも残り一週間となった日曜日。
私は三橋君の家に来ていた。
「うわー……大きいとは聞いてたけど、ホントに立派な家だね……」
その威容を目にして思わず独り言を漏らす。ちょっと気後れしてしまって家の前で足を
止めてしまっていた。だけど、いつまでも佇んでいるわけにもいかない。
ふうっと軽く息をついて敷地内に足を踏み入れていく。玄関前まで来てインターフォンを
押していた。
この日の部活は休みだった。それを利用して三橋君を誘った私は彼と、郊外にある大型
ショッピングモールへと行く……はずだった。
『ここだったらいろんなお店があってブラブラするだけでも困ることはないしお勧めよ。
それに映画館やゲーセンとか娯楽施設も備えてあるし、大きなスポーツショップもある。
野球の用具を見たりとかでもいいんじゃないの』
助言してくれた友人に感謝していた。だって、男子と遊びに行くなんて初めてのことだし、
それも二人きりだ。だが、ここに遊びに行けばなんとかなるような気がしていた。
ところが――。
そろそろ家を出て待ち合わせの場所に向かおうとしていた矢先のことだった。自室にて姿見を
使っておかしいところがないかと最後のチェックをしていたとき、携帯が着信を知らせてきた。
相手はこれから一時間後には会う相手だった。
緊張しているのを落ち着けるために軽く咳払いして通話ボタンを押す。
「はい。三橋君、どうしたの? えっ? 来られない……の?」
話によれと、前日の夜からどうも体調が優れなかったらしい。朝起きたら熱があったそうで、
申し訳ないけど予定はキャンセルしてもらえないかということだった。
だが、今日の私は積極的だった。
それだったらお見舞いに行くよと告げていた。ドタキャンした上にそれは悪いからと一度
断られたものの、やや強引に押し切った。
というような経緯で彼の家を初めて訪れていた。
ちょっと時間を置いて玄関のドアが開き、三橋君が姿を見せた。寝ていたらしく、半袖シャツと
半ズボンとラフな格好だった。もしかしたらパジャマなのかもしれない。
「今日は、ごめん、ね」
「あっ、ううん。いいの。もともと私が強引に誘ったことだったんだし、気にしないで」
「えっと、どうぞ」
家へと招き入れられ、ちゃんと行儀よく靴を並べてお邪魔しますと挨拶した。
日曜日だけど、共働きの彼のご両親は仕事とのことだった。なので、私たち二人しかいないわけで。
考えてみれば大胆なことをしている。私と三橋君は付き合っているわけではない。それなのに、
お見舞いに来たというのはちょっと違うような……という気もする。
――いけない。弱気になっちゃダメだ
頭をぶんぶん振って弱気の虫を追い出す。今日は予定を変更して女の子らしいとこをアピールする
ことにしたのだ。病気で弱っているところを優しく看病してもらえば誰でも嬉しいもの。
男の子もそれは間違いないはず、だ。
リビングに案内されそうになったんだけど、三橋君は熱を出して寝込んでいたのだから安静に
しておかなければいけない。丁重に断ってベッドでゆっくりするのを勧めた。
それによって二階にある彼の部屋へと来た。男子の部屋は散らかっているものらしいけど、
あまりそうは見えなかった。
「三橋君って綺麗好きなの?」
「あっ、女の子が来る……のに汚いままだと、悪いなって」
「そっか。気を使わせてごめんね。ところでご飯は食べたの?」
「ううん。なにも食べてない……」
「えーっ、ダメだよ! 夏場は体重が落ちやすいし、昨日もしっかりと練習をしたんだから、
ちゃんと栄養とらないと」
とりあえず、彼をベッドに寝かせる。
ここに来る前にお店で買ってきた果物がある。熱があって食欲がないとしても、なにかお腹に入れた
ほうがいいのは間違いない。果物ナイフを借りてこれだけでも口にしてもらおうかと考える。
「ねっ、お台所借りてもいいかな? 冷蔵庫を見せてもらってなにかあれば簡単なもの作るよ」
「……えっ? 悪い、よ」
「ううん。せっかく来たからには役に立ちたいの。お願い」
両手を合わせて頭を下げる。大胆に積極的にと頭のなかで繰り返していた。
「それじゃ、お願いして……いいかな?」
「うん! 頑張るよっ」
許可を貰って勢い込んで部屋を出ようとしたところで、慌てた様子の三橋君に呼び止められていた。
「あっ、作ってほしいものが、あるんだ」
立ち止まって振り返る。
お母さんに仕込まれてきたので、そこそこ料理はできるほうだ。大抵のリクエストには応えられる
と思う。さすがに材料がなければ無理だが、そのときはスーパーにでも走って揃えてくればいい。
「篠岡さんのおにぎりが、食べたい」
どんなものをお願いされるかと思ったけど、少し拍子抜けしてしまった。
「おにぎり? そんなのでいいの?」
「うん。オレ、練習のときの篠岡さんのおにぎり、いつも楽しみにしてるんだ。美味しくて……
好きだから」
「……えっ」
――いやいや。落ち着きなさい、私。好きなのはおにぎりだってば
「わかった。頑張る」
ぎゅっと拳を握って了解する。張り切って下へと降りていった。
時刻はお昼前ということもあるし、私もごちそうになることにした。炊飯ジャーにはお米が
たっぷりと炊いてあったので、先に取り出していたボールに移して冷ましておく。
続いて冷蔵庫のなかを見せてもらって、具になりそうなものを探す。シャケの切り身とイクラと梅干を
発見した。どれもたっぷりとあったので、使わせてもらっても大丈夫なはずだ。
普通にイクラがあるなんて、ホントにお金持ちなんだねーと感想を持ちつつ、これで具は決定した。
しっかりと洗った手に塩を軽くまぶして握って軽く形を整えていく。そして、ほぐしたシャケと
イクラと梅を仕込んで整形しなおす。三橋君には三個。私は二個こしらえた。
デザートには買ってきた果物のなかからりんごを選び、ウサギりんごにした。それと同じように
買い求めてきたスポーツドリンクのボトルとコップを二つ用意して準備を終えた。
二階にある三橋君の部屋へと上がり、ドアをノックする。やや遅れてどうぞーと間延びした声が
聞こえてきて入った。
「お待たせ」
ベッドの横にイスを用意してもらっていた。そこに腰を下ろして起き上がった彼におにぎりが三個
乗ったお皿を手渡す。嬉しそうな顔をしてくれている。よかった。喜んでもらえたみたいだ。
「「いただきます」」
二人して手を合わせてお昼ご飯となった。どうやらお腹が空いていたみたいだ。私が一個
食べ終えるころには、彼はあっという間に三個とも食べ終えてしまっていた。
――そういえば、三橋君って細身のわりには結構食べるんだよね
じーっと視線を感じる。正確には私の手元にあるあと一つ残ったおにぎりが乗ったお皿だ。
「いいよ。三橋君にあげる」
「……っ! い、いいよ。そんな、悪い、から」
遠慮の言葉が返ってきたけど、彼の視線はおにぎりに釘付けだった。
――うん。言葉と表情が見事に合っていない
「体が弱っているときは栄養をしっかりとって休むのが一番だから。ほら、遠慮ないで」
さっとお皿を差し出してあげる。おずおずとながらも手に取ると口にしていく。ほどなく
食べ終えて、デザートのりんごも終わり、コップに注いだスポーツドリンクを飲んで
一息ついた。
「ごめんね。いろいろ、気を使ってもらっちゃって……」
「そんな、いいんだってば。後片付けしてくるから三橋君は休んでて」
さっと立ち上がると、皿などが入ったお盆を持って部屋を出た。
キッチンに戻ると蛇口から水を出しながらこれからのことを考える。
(ご飯も食べたし、これでお見舞いは終了ってことなのかな……。でも、どうなんだろ。
大したことしてないし、もっと親しくなるって目的を果たしたとも言えないと思うし)
水道から流れる水の冷たさは心地よく、夏の暑さを忘れさせてくれる。そのため、わざと
ゆっくりと洗い物をしていっていた。これからなにをすべきなのかわからなくての行動だった。
それは現実逃避に当たるかもしれない。
とはいっても、洗い物は二人分だけに過ぎない。すぐに終わってしまった。
三橋君の部屋へと戻りノックする。しかし反応はなかった。
その理由を思い至ってそっとドアを開けた。彼はベッドで健やかな寝息を立てていた。お腹が
満たされて眠くなったんだと思う。ちょっとでも役に立つことができたようで嬉しかった。
座っていたイスに戻って彼の寝顔を覗き込もうとしたところ、ベッドサイドに置かれた
洗面器に気づいた。水がおよそ半分ぐらい入っており、そばには湿ったタオルがあった。
――そっか。熱があったんだから、おでこを冷やしてたんだ
さっきはあまり辛そうには見えなかった。だが、無理してくれていたのかもしれない。
ごめんねと思いながら水に浸したタオルを絞って彼の額へと乗せた。
改めて三橋君を見つめる。
この一年で同級生の皆もだけど、彼も体格が良くなってきていると思う。他の学校でエースを
張るような人たちと比べれば、確かに線は細い。だけど、身長は春の身体測定では百七十まで
伸びていたし、最近、見た感じではまだまだ伸びている気もする。
体が成長するにつれて球速も上昇してきた。今では百二十キロ台半ばまで出るようになっている。
投げ込みはもちろんのこと、一年前の倍となる二十キロまでいけるようになった走りこみ。
地道な努力が報われてきている証だった。三橋君は当然喜んでいる。私も少しでも助けることが
できたようで嬉しく思えていた。
――こういう真面目で努力家なところが好きなんだよね
枕元に置かれた雑誌に気づいた。それに興味を引かれて見せてもらうこととした。
「……あっ」
毎年、夏の甲子園が開幕する前に出る雑誌で、全国の代表校が紹介されているものだ。パラパラと
捲っていくなかで、折り目がつけられたページがあるのを発見した。
「…………」
そのページは埼玉の代表――武蔵野第一のところだった。
それを目にして私は、正直なところ複雑だった。もしかしたら自分たち西浦が載っていたかも
しれない場所。
そう。あのとき九回になにも起こらなければ……。
(勝負事にタラレバというのを持ち出すのは敗者の論理に過ぎないってことはわかってる。
でも、考えちゃうよね……。まだ三橋君も気にしているんだろうな)
そっと嘆息して頭を振る。置かれていた枕元へと雑誌をそっと戻す。次いで、寝ている三橋君の
額へとのせたタオルを変えようとしたところ
「あっ、起こしちゃった……? ご――」
ごめんねと告げようとしていた私は、彼によってベッドの上へと引き上げられ、三橋君に
抱かれていた。
――えっ? これってどういうこと?
本当に唐突な出来事だったので、頭がついていっていなかった。三橋君の胸元に顔を埋める
形となって、自然とくっ付ける形となった耳からは、彼の心臓の鼓動の音がはっきりと
聞こえてくる。
それによって今起きていることは現実なのだと確かめていた。
「夢、見たんだ」
「……?」
「篠岡さんが、知らない人と……楽しそうにして、手を繋いでいるところ。去年の夏ぐらいから
ずっと気に……なってた。篠岡さんの、こと。すぐに、好きなんだってわかった。
でも、オレみたいな、ウジウジしたやつのこと……好きになってもらえるはずなんかない……」
「……っ」
そして、本人の口からもたらされた事実。
驚きと戸惑いと嬉しさと――。様々な感情が胸のなかを支配していく。最後に残ったのは、
もちろん嬉しさだった。
ぎゅっと抱きしめてくる彼の腕に、更に力が入れられてくるのを感じる。だが、不思議と痛みは
感じられなかった。あたたかい思いが伝わってくるみたいだったからだと思う。
「だから、オレは、篠岡さんの笑顔を見せてもらうだけで、満足しようって思った。甲子園に
行ければ、きっと、最高の笑顔を見せてくれるはずだって……頑張った。だけど、オレのミスで
負けちゃって……」
三橋君は上半身を起こす。それによって私も起き上がることになり、緊張していた。
――もしかしたらキスとかしてくれるのかな?
私の淡い期待とは相反し、抱擁は解かれてしまった。
「ごめん、ね。いきなり、こんなこと言い出して……。忘れ……んっ!?」
ただ待っているよりも能動的に――。
三橋君の言葉が途切れる。それは私が彼の唇へとキスをしてふさいだからだった。
どうしてこんなことをしたのか。今のネガティブな三橋君には言葉をいくつ連ねることよりも、
直接的な行動で示したほうがいいと思ったから。
ここまで来れば一気に手を出してくれてもいいのに……と、焦れてしまったからということも
ある。
目を大きく見開いて驚きを隠せない彼からゆっくりと離れた。
「――驚いたよね?」
こくこくと何度も首を縦に振ってくる。彼の顔色は真っ赤だった。多分、いや、間違いなく
私も同じような状態だ。ほっぺたがとても熱を帯びていたから。
「私もね、三橋君のこと好きだったんだよ。去年の夏からね」
「……っ」
「両思いなんだってことがわかって、嬉しくてキスしちゃった」
照れ隠しにはにかんで上目遣いに見つめる。
「…………」
「…………」
二人して押し黙ってしまっていた。このため、部屋ではエアコンの音だけしか聞こえてこない。
(んー……。また抱きしめてくれないのかな?)
どうしたものかと思いをめぐらせる。それでも視線は彼から離さない。
『あんたが積極的にいきなさい。あとから後悔するぐらいなら思い切ってぶち当たっておけって』
唐突に友人から掛けられた言葉が脳裏を過ぎる。私は一つだけはっきりと頷いていた。
「……?」
私の行動がわからないのだろう。きょとんとしている彼をベッドに残して床に降り立つ。それから
着ていた服を肌から落としていく。
これで私の身体を包むものは下着だけとなった。
この夏に買ったばかりの真新しいパステルブルーのそれ。これを付けてきたのは心の奥底でなにかに
期待していた証でもある。
「し、篠岡さん……?」
背を向けていた私は三橋君へと向き直った。
「三橋君は、私のことが好き……なんだよね?」
「う、うん」
「ありがと。さっきも言ったけど、私も三橋君のこと好きだよ。私たちって両思いってことだよね?
それなら私と付き合ってくれる?」
私が再び乗ったことでシングルサイズのベッドが軽く軋む。そのまま目を瞬かせいる彼へと
にじり寄っていく。
「……本当に、いいの?」
「うん。もちろんだよ」
躊躇いがちな彼からの口付けを受け入れていた。
『三橋君は大人しいからあんたが積極的にね』
友人からのこの言葉が大きかったと思う。
一年前から胸に秘めていた思いが叶って純粋に嬉しかった。
「篠岡……さん」
真剣な表情をした三橋君からの口付けを受け入れていった。
二人で抱き合って肌と肌をくっ付けあう。エアコンの音ばかりが大きかった室内に、ベッドのシーツが
擦れる音と、舌を絡めあういやらしい水音が加わった。
「んっ、ちゅっ。はぅん……あはふぅ」
ほんの少し前に自分からしたファーストキス。もちろん、言葉に言い表せないほどに緊張と興奮をした。
これからエッチなことをするんだと思うと、この二度目のキスではまた違う興奮に包まれていた。
三橋君の上にいた私はそっと身体を押し上げられた。彼が着ている服を脱ぐためだ。
「……うわっ」
「……?」
下着以外を脱ぎ去った彼の体を見て思わず歓声のようなものを上げていた。私のその様子に怪訝そうな
表情を浮かべた三橋君へとなんでもないよとごまかす。
私が驚いた理由――。
それは想像していた以上に立派な体だったからだ。でも、これは私の認識不足だったのかもしれない。
考えてもみれば、身長だけでなくて体重も増加していたわけだし。
しなやかな筋肉……とでも言えばいいのかな? ぺたぺたと触りたくなるような、いや、
触りたいなーと思ってしまっていた。
「篠岡さん?」
「えっ……? ああ、はい」
「その、初めてだから勝手がよくわからない……というか。だから上手くは……できないと思うけど、
ごめんね」
ベッドの上に正座して居住まいを正した彼から頭を下げられる。私も慌てて同じようにして
頭を下げた。
「そんな……そんなこと言ったら、私だって初めてだし。あっ。お願いが一つだけあるんだけど、
いい?」
「う、うん。オレに、で、できる……ことなら」
「その……ね。これからは二人きりのときは、三橋君のこと名前で呼んでいい? せっかく付き合う
ことになって、今からは初めてエッチするのに、苗字で呼び合うのは……なんか寂しい
というか、違うような……気がするっていうか」
言い終えた後に気づいた。これは結構恥ずかしいことを口にしちゃったなって。顔だけでなく、全身が
赤くなっていくのを感じていた。
視線を上げてちらっと様子を窺ってみれば、案の定、三橋君も同じような状態だった。
「う、うん。わかった……。じゃあ、オレも、そうする。千代……さん?」
「同級生でさん付けっておかしくない?」
「じゃあ、千代ちゃん……?」
不満げに頬を膨らませてふるふると首を横に振ってダメとサインを出す。
「えっと……ち、ちよ……?」
静かにはっきりと頷く。それも満面の笑みを浮かべて――というか嬉しさでニヤケが止まらなかった。
(んー……私って自分が思っている以上に単純なのかも。でも嬉しいし、感情はストレートに
表現したほうがいいよね?)
「ち、千代……っ。それじゃあ、触る、よ?」
緊張した面持ちの彼が胸にそっと触れてくる。フロントホックタイプのものだったので、簡単に外れ
露出する。
まじまじと見つめてくる廉の視線が痛い。
私はどちらかと言えば、あまり胸は大きくない。うん。嘘はいけないよね……。
正直に言えば、小さいほうだと思う。でも、これでも頑張った。そ、その、バストアップ体操そしたり
牛乳やヨーグルトといった乳製品を意識的に取るようにして。
神様も私のことを見捨てていなかったらしく、一年のころと比較すると格段に大きくなった。
――それでも、平均サイズになるのがやっとだったけど
それに副産物として身長も伸びてくれたし。欲を言えば、もう少し欲しいんだけど。
なんでこんなことをしたのかというと、部室の掃除が起因だった。
マネジの仕事の一環として部室を片付けていると、グラビア誌がよく出てくる。私たちは高校生で
異性に興味を持つことは当然だから、別に嫌悪感などはなかった。だけど、そういうグラビアアイドルを
見ていると、ほとんどといっていいほどに、胸の大きい――巨乳の人が多い。
それを見ていると複雑だった。
――やっぱり廉も小さいより大きい子のほうがいいのかな
「……んっ」
彼から抱き寄せられて、投球でタコのできた右手で胸を触られていた。
「あっ、痛かった?」
「う、ううん。いきなりでびっくりしたっていうか……」
嫌じゃないということを慌てて告げる。私の許可を得て、より大胆にむにむにと揉みしだかれて形を
変えていく。
(んっ……自分でするよりもきもちいい……っ)
一年間も焦がれていた男の子から抱かれている。その感動も相まって性感が徐々に高まっていくのを
感じていた。
「えっと、あまり気持ちよく、ないかな?」
「……っ! そんなことない……よ。あまり大きな声出しちゃうと、はしたないかなって思って……。
その、レン……のほうこそがっかりしてない?」
初めて名前で呼んで心臓がとてもドキドキした。
内心、気になっていたことを聞いてみる。
「……? どうして?」
わからないと首を傾げる彼にかいつまんで説明する。
「あ……んっ」
返事の代わりに胸を愛撫され、起き上がって自己主張をしはじめた乳首へとキスをされる。そのまま
舌で転がされていると思考がとろけそうな快感に包まれていくように思えた。
「ちゅ……ん。千代は勘違いしているよ。好きな女の子とこんなことできてるのに、そんな小さい
とか大きいとか関係ない」
ひどく真面目な顔でのセリフだった。いつものようにどもってしまうようなことはなく、男らしさを
感じさせる言葉だった。
「変なこと言って……ごめんね。それと、ありがと」
そのまま勢いづいて抱きつき、強引に唇を重ねる。コンプレックスだったことを肯定してもらえて
気に病むことがなくなった。
そのお礼をしたくなってベッドから降りると、床にぺたんと座り込む。彼にはベッドに腰掛けるように
してもらうように頼む。
「えっ!? ちょっ、ちょっと……!?」
下着をひき下ろして彼の下半身を露出させた。同時に男の子の象徴が目に入ってくる。私がまじまじと
見つめることで、更にむくむくと体積を増していった。
(うわっ、これがオチ○チンなんだねー……。保健体育の教科書に載ってるやつとは結構違う、かな)
両手で優しく包み込む。デリケートな部分らしいから慎重になっていた。ニギニギと緩やかに
動かしてみる。
「……っ!」
綺麗なピンク色のそれを見ていると、お腹の奥のほうが熱くなってくる。アソコに直接触れずに
濡れてくるなんて初めての経験だった。
(確かこれを舐めてみるといいんだよね?)
乏しい知識を思い起こして顔を寄せ、切れ込みがある頭の部分へと舌を這わせた。
「くぅ……。そんな、汚い、よ」
熱があったために多量の汗をかいてしまったからだろう。少し汗の匂いがする。よく考えてみれば
おしっこが出るところなのでしょっぱいのは当然。
だけど、嫌悪感は微塵もない。むしろ、自分が気持ちよくしてあげていることを思えば、
もっと頑張らなきゃとさえ発奮する。
「はぅん……くちゅっ。ぴちゅ、るるっ」
口のなかへと入れて唾液をたっぷりと絡めて舐めしゃぶる。ちらっと上目遣いに廉を見れば、
顔を朱に染めて驚いていた。
気持ちいいのは確かなようで、呼吸が徐々に荒くなってきていた。
(んっ。ぴくぴくって脈打ってるのがわかる……)
「ち、ちよ……っ。もういいから……っ!」
なにかに焦った様子の彼にほっぺたを掴まれて引き剥がされそうになる。せっかく要領が
掴めてきたのを邪魔されてムッとした。腰へとがっちり抱きついて離れないようにする。
「だ、ダメだってっ! あ……っ」
「――んんー!?」
次の瞬間、喉へと流れ込んできた熱いものに驚く。すごくドロドロしていて、量もとても
多かった。際限なく入ってくるそれを受け止めようと懸命になっていたけど、限界だった。
腰から手を外して離れて咳き込む。手のひらに吐き出したものと、新たに顔へとかかってきた
ものは白い粘液だった。
「けほっ……けほっ」
「ご、ご、ごめん!」
洗面器に浸していた冷たいタオルを手早く絞った彼から顔を拭ってもらう。
「これが……精液なんだね」
「う、うん」
ただ何気なく呟いた独り言にも律儀に返される。
「その、気持ちよかった?」
何度もぶんぶんと首を縦に振られる。初めてのフェラチオは成功みたいだった。
こんなに悦んでもらえるなら、またチャレンジしてみようと思い浮かべていた。
私のアソコも指や舌で可愛がってもらって、愛液でしとどに濡れて溢れていた。これだけ
濡れていれば大丈夫なはずだ。
……たぶん。
ベッドに横たえられる。二人とも熱い視線が交錯する。いよいよだ。
「その、最後までするのはまずくない……かな?」
それなのに、私に圧し掛かってきている廉の顔色はどこか冴えないものだった。
「ゴム……用意していないから」
「ああ。大丈夫だよ。ちょっと待って」
床に置いていたバッグを取ってもらい、なかから目的のものを出して手渡した。
「これって……。どうしたの?」
「えっと、友達にね。女にしてもらってこいって持たされたの」
ここにきて恥ずかしがってもしょうがない。ありのままに説明していた。
まさか本当に使うことになるとは思っていなかった。いらないよって頑なに拒否したんだけど、
いいから持って行きなさいって渡されたものだ。
ピリッとスキンを包んでいたビニールを破ってオチ○チンに被せていく。
お腹に反り返るようにして隆々としているものを、手を添えて私のアソコにあてがってくる。
「ここでいいのかな……」
「うん。そこでいいと思うよ……」
なんでもないというふうに取り繕ったけど、内心はかなり怖い。
友人から処女喪失の瞬間ってめちゃくちゃ痛いから覚悟しといたほうがいいよって、スキンを
もらったときに散々脅されていたから。
「いく、よ」
返事をする代わりに一つだけ頷く。
私から了承を得て廉は腰を押し入れてくる。お腹の奥へ奥へと進んでくるのがよくわかる。
「……っ! ……?」
――あれ? 痛くない?
恐れていた痛みはいつまでたっても襲ってこなかった。さすがに違和感があるのは否めないけど、
これは痛みとはとても言えない。
『小さいころから激しいスポーツをしていると、処女膜は自然消滅している場合があるわよ』
保健体育の授業で、先生から雑学の一つとして聞いていたことを思い出した。
私は小学校で少年野球をしていた。女の子にとって野球はハードだと思う。当然、スライディング
なんかも普通にやっていた。走り回ったりとか、いろいろやっているうちにそうなってしまったのか。
それに中学でもソフトボールを熱心にやっていたし。
「大丈夫?」
気遣ってくれたのか。動かずに様子を見ていた彼から声を掛けられた。
「う、うん。思ったより痛くなかったっていうか……。えっと、動いていいよ」
まったく痛くなかったっていうと初めてって信じてもらえないような気がする。そのため、
少しだけ嘘をついてしまった。
「う、んんっ。ああ……」
ゆっくりとした前後の動き。ちょっと物足りない気がしないでもない――と考えたことにはっとする。
エッチな子だって思われちゃダメだ。
「んちゅ……っ」
頭を抱かれて濃厚なキスを交わしていた。腰の動きも休まることはなかった。
「ああ……ふぅ……はぁぁああぁんっ!」
「すごく……気持ちいいっ!」
ぐちゅぐちゅと股間からいやらしい水音が漏れ続ける。次第に強くなっていく音に比例するようにして
お互いの声も高まっていた。
「いい、の! お腹が熱くて……かき回されて……っ」
「ち、ちよっ……好き……だ! 大好きなんだっ!」
私も彼もそれぞれの背中へと腕を回していた。私は両足も廉の腰へと絡めていた。
「わ、わたしも……大好きなの! んん……っ!」
今度は私からキスをする。
「んんっ……」
腰の動きが緩やかになっていく。それから、オチ○チンが震えているのを感じていた。
(よかった……。ちゃんとできたんだよね)
脱力して体を預けてくる廉の体重を受け止めながら、そっと熱い息をついていた。
行為のあと――。
二人で一つのタオルケットに包まって抱き合う。優しく頭を撫でてくれる手が心地よかった。
「――あのね」
「うん?」
「元気、出たかな?」
「……気づいていたの?」
廉の胸へと顔を埋めながら続ける。
「もちろんだよ。一年間、ずっと一番近くで見てきたんだからね。また、頑張ろう?
私ももっとこれまで以上にお手伝いして支えるから」
「うん。ありがとう。よろしくね」
「うん。よろしく」
顔を見合わせて笑いあう。少しして彼は眠ったみたいだった。熱が出ていたのに、激しい運動を
してしまってぶり返してしまったのかもしれない。
「ふぁあ……」
気持ちよさそうに眠っている廉を見ていると、次第に瞼が重くなってきた。それもそのはずで、
昨夜は初デートのことを思って緊張してしまい、あまり眠れなかった。
「……少しだけ、いいよね」
時計を確認すれば午後二時過ぎだった。
私は彼氏となった大好きな人の腕を抱いて目を閉じていった。
――トントントントン
まどろみのなかにいる私の耳になにかの音が入ってくる。そう。階段を上り下りするような音だ。
――ガチャ
部屋の扉が開いた。『誰だろう?』とまだ寝ぼけ眼のまま起き上がって視線を向けた。
「――ちょっと、レン。大丈夫なの? お母さん、心配で仕事を早退して帰ってきちゃったわ
……あら?」
「……っ!」
扉を開いて佇む人物に気づく。
彼のお母さんだった。
それによって一気に意識が覚醒する。なにを言えばいいのかわからないけど、とりあえず、裸のまま
だった上半身をタオルケットで隠した。
「はあ。びっくりだわ……。まさかうちの子が女の子を連れ込む日が来るなんてねー」
どこか意地悪げに見えるニヤニヤとした笑顔が怖い。
「あっ、あの……」
「ああ。いいの、いいの。怒っているわけじゃないのよ。確か、野球部のマネージャーさんの
篠岡さんだったわね?」
「は、はい」
「うちの子のことよろしくね。人見知りが激しいけれど、いい子だから。ゆっくりしていってね」
「あっ」
こちらが口を開く前に扉をパタンと閉めて出て行かれた。
差し出した右手は虚しく空を切り、私はどうしたらいいものかわからなくて頭を抱えるばかりだった。
三年の夏を迎えた。
春の県大会で優勝した西浦は、堂々の第一シードで夏の大会に臨み、終始危なげない試合運びで
頂点に立つことができた。
念願の初優勝――夢にまで見た甲子園への切符を獲得することに成功した。
学校近くの公園で私と廉はベンチへと腰掛けていた。去年の夏から付き合うようになってから
時間がある日は寄って話をするようにしている大事な場所だった。
お互い自然と目が合う。
にっと笑顔を浮かべて手にしたコーラの缶を合わせていた。
「「カンパイっ!」」
いつもは炭酸飲料を控えている廉だけど、今日は特別。だって、優勝の祝杯を挙げるのに
スポーツドリンクでは微妙だし。
「……そうだ。なにか書くものあるかな?」
いろいろと今までのことを話しているなかで突然聞かれていた。できればマジックがいいって
リクエストを受けて、バッグに入れてある筆箱をチェックする。
希望通りに黒マジックを渡した。
廉はエナメルバッグから取り出した――砂埃で汚れたボールにサラサラと書き込んでいく。
今日の日付の下に、祝優勝! 祝甲子園! って書かれていた。
――ああ。今日の試合のウイニングボールなんだ
「よし、できた。はい」
「えっ」
眩しい笑顔を浮かべた彼に腕を取られ、ぎゅっとボールを握らされた。
「そんな……受け取れないよ」
返そうとしたのだけど、逆にボールごと手を握り締められる。
「いろいろ考えたんだ。千代に感謝の気持ちを伝えるにはどうすればいいかなって。
それで、このウイニングボールが一番だって思って、プレゼントすることにした」
自然と涙が溢れてきて視界がぐちゃぐちゃになっていく。
大事にしてもらっているなとは感じていた。
だけど、ここまで深く思ってくれているとは……。
「それと、これからもよろしくってことで。いいかな?」
「……っ」
涙腺が決壊して思うような返事ができなかった。私はただ彼の胸にすがり付いて涙を流す
ばかりだった。
「千代……」
「……んっ」
何度交わしたかわからない口付け。
今までで最高の気持ちよさを私たちにもたらしてくれていた。
(終わり?)
最終更新:2008年01月06日 20:27