5-463-487 イズチヨ4 蒼いはる 結  ◆VYxLrFLZyg


「阿部!おまっそんないろいろすっ飛ばして言うなよ!
し、篠岡ちょっと待て!違うぞ!」

阿部の発言にふらついた篠岡を見て、花井は必死に阿部をたしなめる。
「何だよ、花井。結局はそういうことだろうが。」
阿部の冷たい視線に、篠岡の足は震え始め。
「ちげーだろ!?あ~もう!阿部ちょっと下がってろ!
篠岡。落ち着け!?ちゃんと説明するから。な?」

花井の言葉に、篠岡は涙が出そうになるのをぐっとこらえて、震える足にも力を込める。
「あのなあ・・・。何か、泉と水谷となんかあるだろ?
態度二人ともなんか変だしな。それでだな・・・、もし泉と水谷が、
篠岡を争ってて、もし篠岡が二人ともにその・・・・。」
「二股かけようとしてるなら・・・・。」
阿部の割り込みに花井は慌てて批判する。
「阿部、お前その言い方酷いだろ!ちょっと黙ってろ!
その・・気をもたせるようなことをしてるなら・・だ。」
「部を辞めて欲しいんだ。」
最後の部分を阿部が発言した。

「私、そんな!!何もないよ!気をもたせるって!その・・・。」
「水谷にコクられんたんじゃねえの?」
阿部の発言に、篠岡は言葉を失う。
「え・・・と、もしかして泉にもコクられた?」
花井のおずおずとした質問に。
「違う!泉くんは私を酷く嫌ってて!」

阿部は一つ深いため息をついて
「あのな、コレはお前には黙ってたんだけどな。
もし、部内で、恋愛感情がこじれて雰囲気が悪くなるようなら、
篠岡に辞めてもらうっていう話があったんだ。
だから、バカな行動するなよっていう暗黙のルールがあってさ。
泉と水谷と篠岡が何かヘンなのは、要はそういうことだろ?」

阿部の言葉を聞いた途端、篠岡の脳裏にあの日の泉がひらめく。


『三橋を好きになんよ。誰のことも好きになるな。』
『わかってんのか?部を辞めなきゃいけないの、お前だぞ?』

苦戦したパズルが、するするとあるべき所にはまっていくように、
篠岡の心は瞬く間に一つの結論に行き着いた。
心に重くのしかかっていた霧が見る見る晴れていくように
すべての物事がストンと腑に落ちる。

同時に、篠岡の腹の底から怒りが湧き起こり始め。
怒りが体中に駆け巡り、手が震え始める。
それを目の前の二人になんと言おうか。
しかし、それよりも、何よりも、文句を言いたい。

篠岡はくるりと踵を返し、階段を一つ二つ下りていく。
「おい?篠岡?」
阿部の呼びかけにも振り向きもせず、
やがて降りるスピードが速くなり、篠岡は駆け出した。
阿部と花井は顔を見合わせ、同時に篠岡を追いかけ出す。

廊下をすごいスピードで駆け抜ける篠岡は、
昼休み中のまったりした雰囲気に不釣合いで、
いっそう周りの視線を集めるが、一心不乱に走る続ける。
さらにはその後ろに花井と阿部がかけていくから見る見る野次馬が増え、
何事かと追いかける。


9組の教室で、泉達がバカ話をして盛り上がっていた時、
教室のドアががたんと大きく音を立て、みなが一斉に振り向くと
入り口にもたれかかる様に篠岡が息を切らせながら立っていて
まっすぐ泉を睨みつけていた。

突然の篠岡の登場に、思わず泉は顔を引きつらせる。

すたすたと自分に向かって歩いてくる篠岡に、
慌てて席を立ち上がって距離をとろうとすると。
篠岡の後ろに、阿部と花井が到着するのが見えた。
ワケがわからずさらに硬直する。

その間にも篠岡はますます距離を詰めてきて、
泉のほんの2、3歩手前で止まった。

篠岡の怒りの篭った目はまっすぐに泉を貫いていて。
そんな意思の強そうな篠岡を初めて見て、泉は少々面食らう。

そして。

「泉くんのバカ!私のこと好きなら好きってはっきりいってよ!」

篠岡の口から、爆弾が放たれた。


そのものズバリをよりにもよって篠岡から指摘されて、
泉は一瞬絶句したが慌てて否定する。

「ふざけんな!誰が好きなんだよ!?」
「泉くんが、私を好きなんでしょ!?」
「誰がいつそんなこといったよ!?勝手なこというな!!」
「言ってくれないからココまでオオゴトになったんでしょ!?
勝手なのは泉くんじゃない!」
「何自惚れてんだ!?バカじゃねーの!?」


留め止めなく続く言いあいに、最初はあっけにとられていた周りも、
徐々に面白がる雰囲気に変わっていき、やじ馬の数は、どんどん増えていく。
その雰囲気を察した花井は阿部と目線を交わす。
「なあ、ちょっとまずくねえか?」
「まずいな。」
「拉致るか?」
「そうだな。」
花井と阿部が田島に目線を送ると、あっけに取られたままの田島が
二人に気づき、一瞬で意図を察したようにパチっとウィンクした。

周りの状況が全く目に入らない様子の二人にそっと近づく。
と、急に田島が泉の頭に部活用のシャツを頭のスッポリかぶせた。
「はっ!?」
「えっ!?」
一瞬何が起きたかわからない様子の泉を、花井と阿部が二人掛りで抱え、
それっとばかりに教室から退散する。
「篠岡も、行くぞ!」
その後を田島が篠岡の手を引っ張り、駆け出す。
三橋と浜田もつられて追いかけ出し。

後に残されたのは、やじ馬ばかり。


やじ馬を振り切った屋上で、泉はやっと解放された。

「お前なあ、あんなところであんな言い合い始めんなよ。噂んなるだろうが。」
阿部の冷たい突っ込みに、泉はフイっとそっぽを向く。
それに遅れること数秒、田島に連れられた篠岡が登場すると、
続々と部員たちが集まってきた。野球部全員が屋上に揃う。
水谷もやってきて、二人の様子を見て硬直した。

「ホレ、ココでなら思いっきりケンカしていいぞ。」
阿部が二人を促すが、二人とも黙ったままで。
「え~と、そりゃ話しづらいよな。ホラみんな、ちょっと離れるぞ。」
花井が抜群の統率力を見せて、
みなを連れて二人の声が聞こえにくいところまで離れる。


座り込んでいた泉の前に、篠岡もゆっくり座る。
「もう、わかっちゃったんだから。」
泉を睨みながら篠岡は口火を切った。
「ああ!?テキトーなこと言うな。」
「違うもん!泉くんがあの時逃げないで話してくれてれば、
少なくともこんなことにはならなかったもん!」
「はあ?こんなことってなんだよ!?」
泉が内心の動揺を隠すように、荒い言葉を篠岡に投げつける。
「さっき、花井くんと阿部くんに部活辞めろって言われた。」
篠岡の返答に、泉は真っ青になった。
「泉くんと水谷くんと私の間がこじれ続けるなら・・・だけど。」
「そうだ!水谷のアホは何をしたんだよ!?最近ヘンだったよな!?」
「ちょっと前に、告白された・・・。」
言いよどみながら続けたその言葉を聞いて、泉は思わず、
離れたところにたっていた水谷を見つけ、憎憎しげに睨み付ける。
「あの、アホが!」
遠目ながら水谷が震え上がるのがわかった。

「ちょっと。水谷くんは悪くないよ。全部泉くんが悪いんだから。」
「はあ?何でだよ?」
「水谷くんは私と泉くんが何かおかしかったの心配してくれたんだから。」
「そんなの!ただ篠岡が弱ってる所に付け込んだだけじゃねーか!
アイツ卑怯なことしやがって。」
「だから!私を弱らせたの、泉くんじゃない!!あんなことして!」

篠岡の叫びに、泉はうっと息を詰まらせ、沈黙する。
「ずっと、辛かったんだから!全部泉くんのせいなんだから!」
泉は初めて、篠岡の顔をまっすぐ見て
「・・・・・悪かった。」
謝罪を口にした。
「私のこと・・・好きなんでしょ?」
目を覗き込むように、訴えてくる篠岡とまともに目線をかわしてしまって
泉は戸惑う。篠岡の目を、右、左と見つめ、顔を伏せる。
「そ・・・それは・・・。」

そこで授業開始5分前を知らせる、予鈴がなった。

「おーい、とりあえずそこまで。続きは後にしろよ。」
キャプテン花井の正論が二人の耳に聞きえてきた。


その日はミーティングだけの日で、終わるとどこか白々しく、
示し合わせたようにそそくさと部員達が出て行った。

部室に残される。泉と篠岡。

昼休みの勢いはもう篠岡には残っておらず、泉もまた口を開かない。
沈黙だけが部室を支配していた。

ゆっくり、篠岡が口を開く。
「何で、認めないの?私のこと好きだって。」
「自意識過剰。オレがいつそんな事いったよ。」
「言ってくれないから、私が悩んでるんじゃない。」
なかなか認めない泉に、篠岡はだんだん不安になってくる。

もしかして、泉は本当に本当は、篠岡を嫌いなんだろうか。

「大体、お前。三橋が好きなんじゃないのかよ?」
「わ、私が誰を好きだろうが、今関係ないじゃない。」
「それとも水谷のアホにコクられて、うっとりしてんのかよ?」
「ほんっと泉くんって口悪い。私はただ、泉くんの気持ちが知りたいだけなのに!」
「うっせーな。そんなの教える必要なんてねーだろ!?」
あくまでも白を切りとおすかのような泉の態度に、

篠岡の心の中で何かが切れた。

「もう!なんだそんなに意地張るの!?そんなんだから私
泉くん気になって、泉くんのことばっかり考えてて嫌になっちゃう!
三橋くんのこと確かに気になってたけど、周りの女の子がうるさいから
誰よりも近い位置にいると自惚れてただけで、あんなにかわいい従姉妹がいるなら
もう、入る余地もないっていうか。っていうかそもそもただの優越感だったし!!」

切れてわめきだした篠岡を、泉はただ呆然と眺める。

「水谷くんは私が泉くんのことで悩んでた時、心配してくれて!その優しさが
ただ嬉しかっただけなのに!そりゃ、告白されたけど、忘れていいって言ってくれたし!
忘れるつもりだし!なのに!なんで泉くんに責められるの!?
ずっと泉くんが頭から離れなくて!泉くんが触れたところがすごく熱くって!
毎晩私っあんなことっ!!」


そこまで一気に言ったところで、篠岡ははっと我に返り、顔を赤くする。
泉は目を驚愕に見開いたまま、ふらりと一歩篠岡に近寄った。
顔を赤くしたまま、篠岡は後さずったが、その距離を泉は一気に詰めて、
篠岡の手首を掴む。
「オレが頭から離れねえって・・?」
篠岡の赤裸々な告白に、泉は身が震えるような興奮を覚え、さらに篠岡に近づく。
篠岡は一歩づつ、後ろに下がる。
「オレが触れたところが熱いって・・?」
じっと、篠岡の目を見つめたまま、歩みは止めない。
「毎晩・・・何だよ?」
カタンと篠岡の背中がロッカーにぶつかり、動きが止まった。
「一人で・・ヤってんの?」
泉は至近距離からじっと篠岡を覗き込み、
篠岡の目に拒絶が浮かんでないのを見て取ると。まるであの夜の再現のように、
同じ場所で、同じ状況で、同じ距離で。
篠岡の唇をふさいだ。

あの時以来の泉の唇の感触に、篠岡の心は躍り、胸は高鳴る。
しかしあんなに訴えてもなお、言葉で示してくれない泉に苛立ちを覚える。
でも、今は、泉がくれる刺激に集中したくなり。
そっと手を伸ばし泉に肩に手を置いた。

その時、どこからか電子音が聞こえてきて。
泉がはっと振り返り、音源を捜す。
その間も電子音は鳴り響き、やがて、泉がそれを見つけた瞬間止まった。

わざとらしく置かれていた部誌の裏側にひっそり置かれていたそれは。
充電が切れたことを知らせて電源が落ちた、ケータイ。

「アイツら!ぶっ殺す!!」

泉はわなわな震えながら、壊さんばかりにケータイを握りしめ、
荒々しく部室から飛び出していった。
その泉を篠岡は唖然と見つめていたが、気を取り直して追いかける。

しかし、もう、泉の姿はどこにもなくて。
篠岡は泉の姿を探して、行くあてもなく駆け出した。



少し時は戻って、部員たちが白々しく退散した後、
部室から適度に離れた人気のない校舎の裏手で、
円陣を組みつつ座り込み、首をつき合わせてあるものを見つめていた。

それは一つの通話中になっているケータイ。

「こんなことして、い~のかな~?」
「聞きたくないなら帰れば?栄口。」
「オレ、この光景になんか見覚えあるんだけど。」
「お!それデビブーってやつじゃねえの?巣山!」
「デジャヴ、だ。田島。」
「さすが花井。英語強いね~。」
即座に訂正を入れた花井に、西広が感心する。

「チッ。それにしても、早く話せよ。」
「阿部、まあまあ落ち着け。」
「水谷、覚悟決めろよ?」
「うう~・・・。」
「う、あ。」
「三橋落ち着け、お前が震えんなって。」
なぜか三橋が震えるのを沖が励ました。

やがてスピーカフォンにしたケータイから篠岡の声が流れ出す。

『な・・・で・・・。』

みな一斉に黙り込み、さらにケータイに詰め寄った。
スピーカーフォンにしたケータイから流れ出る声に、みんなは全神経を集中する。
もちろんこちらのマイクはしっかり塞いだ状態で。

「声、ちいさいな。」
「し!黙れよ。阿部。」
「泉の声わかりずらいね。」

その時、突然篠岡の叫び声が聞こえ始める。

切れたようにわめき続ける篠岡の話す内容に、
みんなは一斉に意外そうに三橋を見つめ、気の毒そうに水谷を見、
やがて全員赤くなった。

三橋は震えながら小さくなり、水谷は青を通り越して蒼白になり。
やがて、篠岡の叫び声が途切れて、聞こえなくなる。

「水谷、ご愁傷様・・・。」
沖がポツリとつぶやいた。
「フラレだな。フラレたレフトで通称フラレ。」
「阿部、うまいこと言うなぁ。」
阿部の軽口に巣山がしみじみと感心する。

「篠岡が三橋に気があったとはな~。」
「いや、でも田島、篠岡身を引いてない。」
「んで?三橋は従姉妹と付き合ってるの?」
西広の問いかけに、三橋はブルブルと首を振る。
「ちが・・つきあ・・ない。それ・・ない。」
「田島、訳して~。」
三橋の意味不明な発言に、栄口が田島に助けを求める。
「付き合ってないし、そんなの考えたことないってさ。」
「いいぞ、これからも考えるなよ?野球のことだけ考えとけ。」
田島の翻訳に、阿部が深く頷きながら三橋に忠告した。

「でもよ。ルール破りいいのかよ?」
田島が不満そうにつぶやく。
「いや、もうここまできたらどうにかなるしかないだろ?ま、水谷はカワイソウだが。」
花井がため息とともに水谷に同情する。
「水谷がむやみに首突っ込むから悪いんだ。これでふっきれるだろ?水谷。」
巣山の言葉に水谷は項垂れたまま、力なく頷く。
「オレは卑怯な奴なんだ・・・。」

水谷がつぶやいた言葉に、一同は誰も同情しなかった。
元気を失くした篠岡を励まそうとして、さらに事態が悪化したのは水谷が原因だ。
篠岡にコクるなどというルール破りを犯した水谷の罪は重い。
泉が篠岡への想いを封印しようとずっと耐えてたことを、今はもうみんな気づいている。

「この二人いずれ結婚するかな?」
「とりあえず卒業までは別れないで欲しいな。もうこんな揉め事、こりごりだ。」
苦労人花井が深いため息と共に心中を吐き出した。


その時、スピーカーからガタンと大きな音が聞こえ、やがて、途切れて切れてしまった。

「あれ?切れちゃったぞ?」
「電波弱かったか?」
田島の質問に、花井が質問で返す。
「いや、いつも部室ではアンテナ3本立つぞ?」
田島の返答に。
「嫌な予感がする。」
「ああ。」
「オレも。」
阿部の言葉に賛同するものが多数。
虫の知らせというべきか、意図せず一斉に後ろを振り向くと、

丁度、校舎の角から泉が飛び出してくるところだった。
こちらを確認して、泉が鬼の形相になる。

「お前ら!ぶっ殺す!!」

その言葉とともに、手に持っていたケータイをみんなに向かって投げつけた。

「ああ!オレのケータイ!」
「やっべ、逃げるぞ!」
「逃げろ!」
「何でここがわかったんだ!?」
皆、弾けたように立ち上がり、逃げ惑う。
腰の抜けた三橋を花井と沖が引っ張り、逃げようと試みるが、
泉はみるみる距離を詰めてくる。
「三橋、自分で走れ!ヤられるぞ!」
「ううああああいやあだああ!!」
一斉に逆方向に駆け出すが、田島だけは投げつけられたケータイを拾いに、
泉の方向に向かって駆け出した。

「田島!そっちはやべえぞ!」
泉と田島の距離が見る見る狭まって、みなは田島の冥福を祈った。
しかし、田島は自分のケータイを拾うと、掴みかかってきた泉をするりとかわし、
泉が来た方向へ逃げていく。

田島を逃した泉は一瞬で判断し、捕獲しやすいほうを再度追跡しだした。

「やべ!こっちくる!逃げろ」
「散れ!!」

その言葉と共に、校舎裏の領域から抜けた途端、クモの子を散らすように
方々に逃げ去っていった。
泉はなおも追跡をやめず、校内を走り回る。
部室から飛び出した泉を追いかけて、篠岡もまた探し回っており。

野球部の追いかけっこ大会の火蓋が、ここに切って落とされた。


泉の姿を見かけて180度ターンして逃げ出す野球部一同。
逆サイドに篠岡を見かけて9時の方向に逃げる。
田島が囮になって泉を引き寄せ、つかまる間際に俊足で距離を稼ぐ。
木の陰に隠れて泉をやり過ごし、篠岡と鉢合わせしかけて校舎の影に隠れる。
そうやって、どれくらい走り回っただろうか。


走りつかれた泉が、ややひらけた所で息を整えていると
いたるところから様子を伺う部員の姿が見えた。
校舎の影に水谷、巣山、沖。
木の陰に花井、阿部、田島。
違う棟の影に西広、三橋、栄口。
全員揃っている。

「くそ!ふざけやがって!」
泉が一人毒ずくと。
「い、泉くん。やっと見つけた。」
そんな声と共に篠岡がやってきた。
「もう、また飛び出して行っちゃうし。」

目の前で必死に息を整える篠岡を泉はじっと見つめる。
黙って自分を見てくる泉に、篠岡が少し不審そうに見つめ返した時。

突然泉が篠岡の肩を抱き、周りに向かって大声で叫んだ。
「アホ水谷!でてこい!」



校舎の影からすっかりしょげきった水谷がおずおずと姿を現す。

「え?もしかして、みんないるの!?」
篠岡がそういってきょろきょろ周りを見渡した時、
「篠岡はお前にはやらねー!ざまーミロ!」
泉は人差し指を水谷にびっと突きつけそう断言した後、
篠岡のあごを掴み、無理やり顔を泉に向かせキスをした。

「げええ!?」
「うっそ!?」
「マジ!?」
「ひょえ~!」
「泉、大胆!」
「ううっああ!!」
「三橋、しっかりしろ!」

篠岡は公衆の面前でのキスに真っ赤になり、腰が抜けてへたり込む。
その篠岡の頭に手をおいて、泉は高らかに宣言した。

「オレのもんだ!手えだすな!!」

篠岡は呆然とこちらを見つめる野球部員たちをあてもなく見渡して。
結局最後まで篠岡の欲しい言葉は言わない泉に

篠岡は力なく笑うしかなかった。



呆けたように立ち尽くす部員たちを無視して、泉は篠岡を連れて立ち去り
そのまま、自分の家に連れて行く。

「えっと。泉くん?」
「いいから、黙ってついて来い。」
そのまま自分の部屋に篠岡を連れこむ。
「あ、あの家の人は?」
「今日は夜遅くまでだれも戻ってこねー。」
そう話しながら、部屋のカーテンを引き、電気をつけた。
篠岡をちょっと嫌な予感が襲う。
その後、当然のように服を脱ぎ出した泉に篠岡は絶叫する。
「泉くん!?」
「なんだよ?」
「あ、あの!?何するつもり!?」
「何だよ、いまさら。」
フっと短いため息をついた後、上半身裸のまま篠岡に近づく。
肩を抱き、無理やりベットに腰かけさせ、顎をつまんで上を見上げさせる。
「オレを想像して、毎晩してんだろ?一人で。」
耳まで真っ赤になった篠岡の唇を塞いで、返答を拒否した。

「あ、あの、電気は消してよ。」
行動をやめない泉に、篠岡が最低限のお願いをすると。
「いーけど、じゃあこっち使うぜ?」
そういって泉が篠岡に見せたのは、懐中電灯。
「な、なんで!?」
「だって、オレ見たことねえからどこがどうなってるのかわかんねえし。」
そういいながらも泉はどんどん脱いで、トランクス姿になった。
そのまま、ベッドの上で胡坐をかき、今度は篠岡の服のボタンをはずし始めた。
当然のように行動に出る泉に、篠岡はどこか抵抗する気にならず、
されるがままに任せていた。
ふと泉の脚が目に入って、しみじみと見てしまう。
「何だ?」
「いや、泉くんでも脛・・濃いんだね。」
「そりゃそうだろ。」
「泉くんみたいにかわいい顔の人に生えてるのがなんか・・へん。」
篠岡が思わず本音をポツリと漏らすと、泉がむっとした顔に変わった。
「男にかわいいなんていうな。それ、ほめ言葉じゃねえ。」
「あ、ごめんなさい。」
篠岡は泉の勢いに押されて素直に謝る。



「ふうん。タンクトップなんて着てんだ。」
「タンクトップじゃないよキャミソールだよ。」
シャツを当然のように脱がされた後、
その下に来ていたキャミソールの裾を泉が掴む。
「どっちでもいい。ほれ、ばんざーい。」
淡々と話す泉の言葉につられて篠岡が手を上げると、
すぽっとキャミソールを脱がされた。

「ばんざーいって・・・なんか慣れてない?泉くん。」
「んなわけあるか。昔兄貴と風呂はいる時こうやって脱がされたんだ。」
「あ、お兄さんいるんだったね。」
「あー。いろいろ頼りになるぜ。」
そういいながら泉はスカートのホックをはずしファスナーを下げる。
「うらやましいな。私もお兄さん欲しかった。」
「オレは下が欲しかったけどな。」
するっと篠岡からスカートを引き抜いて。
篠岡を下着姿にした。
そのまままじまじと見つめる。
「な、何?」
「いや、これホントに、実物だよな?」
そうつぶやきながら、手をそっと下着越しの乳房の上におく。
篠岡はパットが入ってることでも疑われたのかとすこしむっとして。
「実物だけど・・?」
「毎晩、お前想像してたから、なんか現実感ねえ。」
泉のセリフに篠岡は再び耳まで赤くなった。
「そういえば、お前もオレ、想像してんだよな?」
「いやあ!」

羞恥心のあまり、篠岡は両手で顔を覆い、身をよじってベッドにうつぶせた。
それを追いかけるように、泉が篠岡にかぶさって。
そのまま背中のホックをはずし、手を前に回して直に篠岡の胸に触れる。
「柔らけ・・。」
篠岡の肩を掴んで、無理やり仰向けにし、覆っていた手を両手で開かせる。

蛍光灯の下で、篠岡の小ぶりな乳房が泉の目に晒され。
「すげ・・。」
「み、見ないでよ。」
白い首から鎖骨にかけての、瑞々しいラインが泉の目を奪う。
その下に繋がる魅力的な膨らみ、その頂点にある、きれいなピンク色の突起。
少しへこんだみぞおちがうっすらと臍まで影を作る。
腰のラインは柔らかに波線をかたどっていて。
白い小さな下着が篠岡の最後の部分を隠す。

泉はその白い下着に手を掛けた。
「ま、待って!」
「嫌だね。」
そのまま引っ張りおろそうとする泉に、篠岡は観念し、腰を浮かした。
申し訳なさげな茂みが、泉の視界に入り、軽く息を飲んだ後、
泉は篠岡の脚を割り開くように覆いかぶさり、篠岡の胸に顔を寄せる。
胸の突起を口に含み、舌で転がすように刺激する。
同時に、反対の乳房は手で揉み上げて。
「はっ・・・んんっ。」
泉の与える感覚が、篠岡の背筋に快感を走らせ、思わず声が漏れた。
散々想像した泉の手が自分に触れているという事実が、
それだけで篠岡の中心を溢れさせる。
と、泉が胸を揉んでいた手を、急に滑らせ、篠岡のそこに触れた。
「ひゃっ!!ああん!」
「すっげ。」
羞恥に頬を染め、潤んだ瞳で泉を見上げる篠岡に、泉はズキリとくる興奮を覚えた。
身を起こし、自分も裸になる。
篠岡の脚を大きく開かせ、よく見えるように持ち上げ、固定する。
篠岡の膝が顔につかんばかりに反らされて、篠岡は真っ赤になった。
自分でも見たことのないところを見られてる、その視線が、熱い。
「い、嫌だ!泉くん。見ないで!」
その篠岡の訴えを無視して、泉は篠岡の中心の割れ目に沿って指を走らせた。
「ひゃあん!」
篠岡の膝が、快感に跳ねる。
「すっげぇ。濡れてる。」
泉の指が、部位を確かめるように丁寧になぞっていく。
両側の襞を、指でつまむように刺激され、篠岡の背筋がのけぞる。
指の腹で、粒をさわさわさわられ、篠岡の腰が揺れる。
「すげ、ヒクヒクしてる。」
「いや、やめて・・・ひゃん!」
「コレかな?ホントだ。穴、あるな・・・。」
其の言葉と共に、泉の指がすっと篠岡に差し入れられて。
「い、痛い!」
引き攣れた痛みに、思わず篠岡は腰を浮かしかけた。
痛がる篠岡をチラリと見て、泉は指を引き抜いて、今度は舌で触れる。

「あっひゃああん!」
今までとは全く違う、暖かいぬめった刺激に、篠岡の理性が飛ばされる。
泉の舌が、深く侵入し、無理やり開かれる痛みが起こるが、やすやすと受け入れて。
篠岡は体の芯が痺れて、痛みが薄れていく。
顔を上げた泉が、手の甲で口をぬぐった後、体の位置を変え篠岡に覆いかぶさった。
篠岡は、自分のはしたなく溢れているところに、
今まで触れていたものとまるで違う泉自身が押し付けられたのを感じたが、
その感覚は、篠岡に甘い身震いを起こさせた。
今までとちがう質量のものが、ぐっと篠岡の身体を拓き、侵入してくる。

「い、いたああああい!」

あまりの痛さに、篠岡は叫んだ。

「やっぱ、痛いか。」

泉はそうつぶやいて、あっさり身を引いた。
痛みに荒く息をつきながら、篠岡はぐったりしながらも、泉を見上げる。
そのまますっと身を起こし、ティッシュを手に取り、篠岡の脚の間を拭いていく。
「や、辞めるの?」
「ああ、兄貴に言われてんだ。女は初めてだとスゲー痛がるから、最後までやろうとすんなよって。」
「お、お兄さんとそんな話、するんだ。」
「おう。」
泉はその後、篠岡の下着を手に取り、脚をくぐらせ履かせて行く。
抵抗する気も起きずに、篠岡が腰を浮かすと、パチンとゴムの音がした。
その後ブラジャーを手にとって、また、おいた。
「篠岡、おきて。」
篠岡の手を引っ張って、身を起こさせると。
「もうちょっと、触らせて。」
身体を反対に向けさせ、後ろから手を回して、篠岡の胸に触る。
「本物だな・・・。」
泉は篠岡の耳元に口を寄せつぶやいた。
「また、続きは今度な。もう一人でするなよ?」
篠岡は複雑な想いでその言葉を聞いていた。

泉はこんな状況でも、篠岡の欲しい言葉を言わない。


泉が満足して篠岡を解放した後、
気恥ずかしい想いを抱えたまま、篠岡は勇気を出して泉に訴える。

「い、泉くん。あの。私、泉くんの気持ちはもうわかったけど。その。
ちゃんと言葉で聞きたいんだけど。」

そう、たどたどと話す篠岡に。

「好きだぜ。篠岡。」

泉はいとも簡単にさらっと答えた。
あんまりにもあっさり答えた泉に篠岡は目が点になる。

「・・・・・。」
口をあけたまんま沈黙する篠岡に、泉は怪訝そうに見ると。
「そ、そんなあっさり言うならなんで!さっき言ってくれなかったの!?」
篠岡は再び切れて絶叫し、泉は見る見るうちに赤くなり、

「そんなこと、そうそういえるか。もう言わねーよ。」
「ヤダ、もっと聞きたい!」
顔をプイっとそらす泉に篠岡は掴みかからんばかりにお願いするが。

泉は言葉どおり、その日は二度と言わなかった。


いつも買い食いするコンビニで、
巣山は失恋したかわいそうなフラレに付き合っていた。

「お前、バカなことしたな。」
巣山の言葉に水谷は黙って頷き、アイスにかぶりつく。
「しなくていい失恋しちまったな。ホント。」
続けた巣山の言葉に、またも無言のまま頷く。
「泉がおかしくなる前にいってれば、まだチャンスあったかもな?」
巣山の言葉に。
「そう思う?」
初めて水谷は返答した。
「いや、慰めようといっただけ。どっちにしろお前には脈なかっただろ。」
事実を的確についた巣山の言葉に、水谷はどこまでも落ち込んだ。
「オレ、バカなことしちゃったな~・・・。はは。」
「ま、野球に打ち込めよ。もう忘れろ。じゃないとマジで篠岡が辞めるハメになるぞ。」
巣山のたしなめるような声音に、水谷はただ頷いて。

「で、結局ナンカした?」

「ちゅーしておっぱいもんだ。」

水谷の返答に巣山はしばし目を閉じて。

「・・・そこで満足しとけ。泉には一生黙ってろよ?」
巣山の忠告に水谷は素直に頷く。

そして巣山は、あの日、篠岡を止めたことを実はちょっと後悔している事は

墓まで持っていく秘密にしようと誓った。


      • 終わり---





最終更新:2008年01月06日 20:24