5-518-524 アベチヨ 幸せ篠岡  ◆VYxLrFLZyg



『おやすみなさい』

その言葉だけメールを送信する。返事はいつも5分以内。

『お休み。』

短くってそっけないメールだけど、ちゃんと返信くれる。
阿部くんと付き合い出してどれくらいたったかな。

毎日部活があるから二人で会う時なんて全然ないけど、
こうやってメールのやり取りだけでも、結構満足できるものなんだな~。
なんてたって相手はあの阿部くんだし。クラス一怖い男子で通ってるし。
あんなのと付き合っている私の頭がおかしいとか言われちゃうもんなあ。
失礼しちゃう。
でも、阿部くんの魅力に気付いているのは私だけって言うのもいいかも。



「おはよーございまーす!」
朝グラウンドにつくと、みんなもう練習に入ってて、
練習しながらも挨拶をしてくれるみんなを順番に眺めて
ふと阿部くんを見たら、丁度こっちを見てふっと目が細くなった。
あれ、笑ってるつもりなんだろうな。多分。睨んでるように見えるけど。
さて、今日も一日マネジがんばりますか。

昼休みはだいたい草刈してるから、阿部くんと話す時間ってほんっとない。
まあ、することは・・・したから・・・恋人同士なんだろうけど・・・。
黙々と作業していたら、ケータイが鳴って。

『グランド整理ご苦労様。』

いちいちどこかえばった阿部くんのメールに、きゅんってくるのは変かな。
ふと、手を止めて、今までもらったメールを読み返す。

『おはよう。遅れるなよ。』『お休み。』『明日、英語の宿題写させてくれ。』
『おはよう。雨降りそうだぞ。傘忘れるな。』『お休み。明日雨らしいぞ。』
『数学の宿題、結構難しいぞ。わかるか?』etc

ほぼ、おはようとおやすみしかないや・・・。思わず笑いがこぼれちゃう。
野球で占められている阿部くんの頭の片隅に、
ちゃんと私の存在があるってだけで、嬉しいのはやっぱヘンかな。
野球をやってる阿部くんは最高にかっこいい、それは間違いない。
野球以外への興味のなさのギャップはすごいと思う。
クラスで全然目立たないもん。

毎日、何気ないメールが、私と阿部くんをつないでる。
デートはほっとんどないけれど、部活優先だし、仕方ないよね。
付き合ってるだけでも、満足しなきゃ。



部活後、買出しのための備品チェックをしてて人の気配に振り返ったら、阿部くんがたっていた。
「あれ?どうしたの?めずらしいね。」
思わず頬が緩みながら阿部くんに話しかけてしまう。
「いや。その。明日、買出しいくだろ?オレも行くよ。」
少し照れくさそうに言った阿部くんに、胸がドキンとなる。
「ホント?デートだね!」
思わず笑顔にでそういったら、阿部くんが見る間に赤くなって、顔を背けた。
「じゃ、また明日な。」
「うん。」
そういって着替えに部室に向かう阿部くんに、思わずぶんぶん手を振ってしまう。
久しぶりに二人でお出かけ、楽しみだな。

その日の夜のメールで思わず長めで送ってしまって。

『二人で出かけるの、久しぶりだね。楽しみにしてるね。おやすみなさい。』

阿部くんは必ず5分以内に返信くれるのに、こなかった。どうしたんだろう?
風呂にでも入ってたかな?もう一度送ろうか、じりじり迷いながら待ってたら
15分後、ケータイが鳴った。

『オレも楽しみにしてる(^o^)// あんまり二人で会えなくて悪い・゚・(つД`)・゚・』

一瞬誰からのメールか受信ボックスを開きなおして。
間違いなく阿部くんからなのを確認すると、思わずブって噴きだしちゃった。
一体何があったの!?阿部くんに!!
電話して聞きたいけど、もう夜遅いしどうしよう!?
いいや、明日出かけた時にでも聞こう。
その日はなんかわくわくして、なかなか寝付けなくなっちゃった。



「折角だし、池袋まで行かねえか?」
自転車を漕ぎながら阿部くんがそんな提案をしてきた。
もちろんすぐに賛成する。
どこで買っても同じものはどこで買っても、いいよね?
自転車を止めるとすぐに阿部くんが手をつないでくれて、ずっと離さない。
こういうところがすごく意外なんだけど、
二人で出かけるとちゃんと手を繋いでくれるんだよね。
昨日のメールについて聞きたいけど、なんかタイミング掴めないなあ。
っていうか笑っちゃいそうで、言えない。
そしたら傷ついちゃうかもしれないしね。

早々に買い物を終わらせて、阿部くんが腹減ったというので二人でマックに入ると。
阿部くんはものすごい量をオーダーして次々平らげていって。
男の人ってほんっとよく食べる。
私がハンバーガーを食べてる間にペロっと食べて、私のポテトをじっと見てる。
「食べていいよ。」
「悪いな。」
私の言葉に本当遠慮なくぱくぱく食べていく。
食べ終わって、ドリンクを飲んでると、
阿部くんが右手をテーブルに置いて手のひらを上にし、指を動かして私の注意を引く。
つられるように私が左手を重ねると、ぎゅっと握ってくれる。
会話もあんまりなく、顔も無表情なのに、どうしてこんなことができるんだろう?
これくらいで胸がじんとなるなんて、私って結構カンタンだ~。



そうして阿部くんはそっぽを向いて、ストローを咥えたままで。
「悪いな。あまりこうやって出かけてやれなくて。」
心底申し訳なさそうに謝ってくる。
こんな風に謝られて許さずにいれる女の子、いるわけないじゃない。
「全然いいよ?ちゃんとメールは返してくれるし・・・。」
そうだ、メールのこと聞かなきゃ。
「ねえ?昨日のメールどうしたの?」
私がそう聞いた途端、阿部くんはすごい勢いでむせだした。
「あ、あれは・・・。」
そう呟いて、こっちのほうを全然見ないのに、顔はもう真っ赤っ赤になって。
「水谷に、絵文字ぐらい使えって言われて・・・。」
その後、憎憎しげにあのクソレフトとつぶやいてた。
「嬉しかったよ?阿部くんにしては珍しいと思ったけど。だからまた送ってくれる?」
笑いそうになるのを必死に押し殺して、精一杯のおねだり顔で訴えてみた。
阿部くんは耳まで赤くして、小さくわかったって答えてくれて。
そんな些細なことで幸せだなって思う。


「時間ある?オレん家これるか?」
帰りの電車の中で、不意に阿部くんがそう話しかけてきて。
その言葉に思わずドキンとなって、それはつまり・・・よね?
顔が赤くなってくるのがわかる。思わず目をそらして、
首だけで頷いたら、阿部くんの手が肩にまわって、ぎゅっと抱き寄せられた。


阿部くんの部屋に入るなり、ぎゅうっと抱きしめられた。
久しぶりの阿部くんの胸、匂い、体温に胸がじんとなる。
滑るように阿部くんの唇が降りてきて、私の唇を塞ぐ。
阿部くんの舌が強引に割り込んできて、
思わず口を開いたらぬるりとした暖かいものが私の舌を強引に弄ぶ。
私も必死になって舌を動かすけど、どうもいいようにされてる気がする。
胸をぎゅっと揉まれて、服の上からなのに電気が走るようにじんとくる。
阿部くんの手がどこに触れても気持ちいい。
どんどん下着が濡れていくのがわかって恥ずかしいけど、久しぶりだし、いいよね?

無我夢中で阿部くんの首に手を回して抱きついたら、そっとベッドの上に横たえられた。
服の下に阿部くんのひやりと冷たい手がお腹に触れて、そのまま胸まで上がってくる。
冷たい手・・・阿部くんも緊張してるんだ。
この行為に慣れる日なんてくるかな?
阿部くんの大きい手が私の胸にぴったりと張り付いて、優しく力が込こめられると、
あまり大きくない私の胸が阿部くんの手の形に歪んで、身体に甘い痺れが走る。
ゆっくり私の服を脱がせていく阿部くんに、私も阿部くんの服を脱がせにかかる。
裸になってきゅっと抱き合うと、普段疎遠なのがウソみたいに阿部くんの気持ちが伝わってくる。
私の気持ちも伝わっているのかな?

阿部くんの硬い指が私の中に侵入して、かき混ぜられる。
胸の突起は舌で転がされて、押しつぶされて、身体に侵入してる指が、
心を見透かしてくるようで、思わず声を出すのを手で塞いでこらえてしまう。
そうしたら阿部くんは
「篠岡。声出せ?」
いつもそういって、私の手を無理やり剥がして、さらに強い刺激を与えてくる。
「いやぁ・・。ああぁん・・。」
私のはしたない声が漏れてしまう。
自分自身への羞恥で、私はまた濡れてしまう。
何かを破る音がして、視線をそちらに向けると、阿部くんがアレをつける所で。
この瞬間だけは、どうしても慣れそうにない。
胸がひときわ大きく跳ねて、ドキドキが収まらない。
痛いくらいに鳴る音、阿部くんに聞こえないかな。
ゆっくり阿部くんが覆いかぶさってくる。
阿部くんの手が私の脚を開いていって。
阿部くんのモノが押し当てられて、ぐっと入ってくる。
この瞬間が、一番幸せ。
阿部くんと繋がって、阿部くんを身近に感じれる。
目を開けて阿部くんを見ると、とても優しい目で私を見下ろしていて。
心が震えそうな恍惚に浸れる、最高の瞬間。


終わった後は、阿部くんは私を抱きしめる。
まるで離したくないというぐらいのかなり長い間。
こういうのなんていうんだっけ・・?
普段はどこか冷たいのに、二人っきりだと妙に甘えてくるような・・・。

「そうだ。」

その言葉を思い出して、思わず声を出すと、阿部くんがびっくりして私を見た。
「なんだ?篠岡。」
腕枕して私を抱きしめる阿部くんをじっと見て。

「阿部くんみたいなのツンデレっていうんじゃない?」

阿部くんはピキって言う音が聞こえそうなくらい固まっちゃった。
私、何かまずいこといったから?



家に帰って、寝る準備が終わって、いつもの日課。
阿部くんにお休みメールを送る。

『おやすみなさい。今日はデートできて楽しかった。』

返事はいつも5分以内、なのに、今夜はなんと20分後にきた。

『お休み(はあと)』

ハートになってないハートの失敗絵文字メールに、
私は即行で保護を掛けて。
ベットの上でごろごろして、絶対消さないことを誓った。


終わり




最終更新:2008年01月06日 20:34