5-581-590 イズチヨ2(写真)


「親は仕事してて遅いし、兄貴は最近、女んちに入り浸りだからさ。
家には誰もいないよ。残念だったな、篠岡。」
玄関の鍵を開けながら泉が言う。千代の顔はすでに真っ青だ。
昨日、部室で起きたことを思い出すと、吐き気がして体が震えた。

ドアを開けると、外と変わらないほどひんやりとした空気が流れる。
泉は自分の隣で蒼褪める千代を見やると、小さく笑った。
「あっ。」
肩を抱くようにして、玄関に押し込むと、千代はよろけて泉にしがみついた。

「オレの部屋、こっち。」
促されて部屋に入る。普通の、男の子の部屋だ。
ベッドの上に放り投げられた服や、出しっぱなしのゲーム、床に積み上げられた雑誌。

「座れば。」
泉がそう言って、ベッドにドサっと腰を下ろす。
千代も少し離れたところに座る。
2人分の重さで、ベッドがギシ、と軋んだ。
「私に、何の用が…、あるの?」
千代が膝に置いた自分の手を見ながら呟く。
泉がその目線を追うと、千代の手は強く握られたまま震えていた。

「昨日の今日で何言ってんの?イイコトしようって言ったじゃん。」
わかっていたことなのに。泉の言葉に体が竦む。
「あの写真、消してよ…。」
震える声で言うと、泉が自分の横顔を見ているのがわかった。

「いいよ。」
思いも寄らない返事に、千代は顔を上げる。
「写真の代わりに、お前がオレのもんになるならね。」
そう、だろうな。せっかく握った弱みを、やすやすと手放すわけがない。
一瞬でも期待した自分に、腹が立つ。

「いやならいやでもいいよ。オレ誰かに見せる気もないしね。
外に漏れる心配はしなくていいよ。」
「…どこかで携帯落としたりしたら、どうすんのよ。」
「ちゃんとロックしとくよ。あ、じゃあメモリーカード抜いとく。これで安心だろ?」

泉が携帯から取り出した小さなカードを、千代はじっと見つめた。
「安心なんて、できるわけないじゃない。泉くんが見るんでしょ?」
「ああ、オレがこれでオナニーとかしてたら、気持ち悪いもんな。」
「気持ち悪いよ。見られるのもいや。」
「でもするよ。せっかく篠岡とやれたんだもん。何度も何度も反芻して、さ。」

「変態…。」
「な。変態だ。」
泉は楽しそうに笑った。

「で、どうする?篠岡はどっちがいいの?」
どっち…。写真を残したままか、代わりに泉のものになるか?
「どっちも、いや…。」
「ふぅん…。じゃあもう1つ、選択肢を増やしてやるよ。写真も消す、篠岡も諦める。
そのかわり、阿部にメールで画像を送る。上手くすれば、阿部がお前を助けてくれるかもよ?
まぁオレなら、そんなの送って来られたら、どん引くけどな。」
千代の大きな目が、さらに大きく見開かれる。
「…3択になったよ。どれがいい?」

「ふざけないでよ!どれもいや、全部いや!」
千代の大声が部屋に響く。泉はカードを携帯に戻しながら言った。
「せっかく、選ばしてやったのにな。じゃ、オレも全部やだ。
写真は消さない。お前もオレのもんだ。
阿部にメールは…、見せんのもったいないから、しないけどさ。」

ベッドを軋ませて、泉が千代に近づいた。
腕を強く掴まれると、昨日の恐怖が蘇る。
「やだ…。」
「全部やだじゃ、話になんねーだろ。選べよ。」
選べって言われたって、何を選んでも辛い目に合うじゃないか。
どうして選べるって言うのよ…!

1番ダメージが少ないのは何?
千代は泣きそうになりながら、必死に考える。
もうあんな痛い、恥ずかしい思いはいや。でも。
写真を外に漏らす心配がないなんて、とても信じられない。
たとえ今はそう思っていたとしても、泉の気が変わったらそれで終わり。
もし本当に阿部にメールなんてされたら…。



千代は覚悟を決めて、静かに切り出した。
「写真、消して…。」
「OK。じゃあ1回につき1枚消してやるよ。」
「1回って…。1枚って、なによ。」
「セックス1回につき写真1枚に決まってるだろ。」
「そんな…。」

いったい何枚の写真があの携帯に収められているの?
昨日、何回あのシャッター音を聞いた?思い出せない…。
「いいじゃん。そのうち終わりはちゃんと来るんだからさ。
さっそく1枚目消してやる。…来いよ。」
腕を引かれて、千代は泉の胸に倒れ込んだ。

「ほら、力抜けって。」
昨日のあの痛みを思い出すと、力なんか抜けるわけない。
「もう昨日みたいに、無理矢理やったりしないからさ。な?」
びっくりするほど優しい声に、却って不信感が募り緊張する。
「めちゃくちゃ優しくするから。だから、力抜いて。」

耳に唇を押し当て、囁くように言われると、まずその吐息のくすぐったさにぞくっとする。
「ふ…っ。」
「篠岡、耳弱いんだ?可愛い。」
耳を舐めながら、髪を梳くように撫でられると、じっとしていられず体が動く。
今さら優しいふりして、どうしようというんだろう。
さっさと終わらせて欲しい。早く帰りたい…。


「服脱いで。全部。」
「こんな明るいとこで?無理…。電気消してよ。」
「何言ってんの?それじゃなんも見えないじゃん。早く。」
泉は壁に寄りかかって、千代を眺めている。
早く帰りたい。千代はそれだけを考えて、1枚ずつ服を脱いでいく。

「いい眺め。」
恥辱に震える指で、最後の1枚を取り去る。
「手で隠しちゃダメだよ。こっちおいで。」
ベッドの上を移動して、壁際の泉に近づく。
泉が膝をポンポンと叩く。乗れ、ということか…。
足を開いて跨り、向き合うように座ると、泉の腕が腰に回される。

「今、どんな気分?素っ裸でさ、大っ嫌いなオレに抱っこされちゃって。」
「死んじゃいたい…。」
「ふ。そっか。じゃあ死にたくなんないように、気持ちいいことしますか。」
そう言うと泉は、目の前にある千代の乳房に舌を這わせた。

「んっ…。」
乳首を舐めると、舌にツンと尖った感触が伝わる。
「乳首勃ってきたよ。気持ちいい?」
「気持ちよく、ない…。」
「ふぅん。あっそ。」
泉は笑いながら、千代の背中を撫でる。
冷たい指にくすぐられると、体中の皮膚が粟立った。

腰に添えられていた手がするりと尻を滑って、割れ目に触れる。
「やっ。」
「なんだ。もう濡れてんじゃん。」
「う、嘘…。」
「嘘吐いてどうすんだよ。証拠見せてやろっか?」
泉の指が、蜜液に濡れて滑る。
何度も繰り返しなぞると、そこから水の跳ねるような音が聞こえた。

「ほら。」
千代の目の前に突き出された指は、濡れて、部屋の照明で光って見えた。
頬を赤く染め、今にも泣きそうな千代の唇に、蜜液を塗りつける。
「やだ!」
「篠岡の味だよ。」
泉は千代の唇をペロリと舐めると、細い体を引き寄せてキスをした。

「う…、うんん…。」
舌を絡め取られ、吸われると、鼻から抜けるような甘い声が漏れる。
千代は自分のその声に焦って、泉の胸を強く押し返した。
唇が離れ、息苦しさに大きく息を吸うと、小さな胸が上下する。顔が熱い。

「やらしい顔になってきた。」
囁く泉の声も熱を帯びている。
「や、らしい…、顔…?」
千代が泉の言葉を繰り返す。考える余裕も、恥ずかしがる余裕もなかった。

「篠岡が自分で入れてよ。」
泉の声が耳を通り抜けると、下腹部にじわりと痺れを感じる。
「え…、怖いよ…。きっと痛いもん、無理。」
「大丈夫だよ。痛かったら抜いていいから。」
でも…、と戸惑いを見せる千代の腰を、泉が掴んで引き寄せる。
そのまま恐る恐るしゃがみ込むが、膣口に熱い肉の感触が伝わると千代は腰を引いてしまう。
「大丈夫だって…。」
泉がそう言いながら、指でクリトリスを弄り始める。

「やっ…、そこ、さ、触んないで…。」
「なんで?気持ちいいだろ?ほら…。」
気持ちいい…?
そこを触られると、足の先から全身が痺れるようで、なんだか怖い。
怖くて逃げ出したくなるのに、その刺激が欲しくて欲しくて、自然に腰が動いてしまう。
「気持ちよくない…。なんか、へ、変に、なる…。」
「それが気持ちいいってことだよ。だから、おいで。」

「ふ、ぅ。」
小さく息を吐き出す。
誘われるままに腰を落とすと、ずぶずぶと千代が泉を飲み込んでいく。
「ほら全部入った。痛くないだろ?」
「い、たく、ない。」

痛みは確かになかったが、奥までずっぽりと嵌って、少し苦しく感じる。
「動いて。篠岡の気持ちいいように。」
「動くって…。わかんない、よ。」
千代が困惑の表情を見せると、泉は千代の腰に手を添え、下から突き上げた。
「やっ…。」
急に体が浮いて、声が出る。
「こうゆう感じ。やってみて。」

千代がぎこちなく動き出すと、それに合わせて小さな胸が揺れる。
腰を深く下ろすと、ぴりっと体中に電気が走った。
「…?」
千代はその感覚を確かめるように、探りながら腰を動かす。
泉が千代の腰を抱くように引き寄せ、乳首に吸い付いた。
ぴったりとくっついた下腹部にまた電気が走る。
なに、これ…?

時々動きを止めて、何かを考えているような千代を、泉はじっと見ていた。
ぎこちなく、しかも、途切れがちな刺激をもどかしく感じる。
でも。
昨日は散々痛がって泣いた。けど今日のこの反応はそれとは違う。

こいつ、感じてんじゃないの?
でも、自分じゃどうしていいか、わかんねーんだ。
―へぇ、おもしれ。
泉は、興奮から抑えきれなくなった笑みをひたすらに隠し、千代の腰に手を添えて
誘導するように少しだけ動く。
「あ、あっ、泉、くんっ、やだぁ…。」

ほんの少し揺さぶって、千代が甘い声を上げたところで、泉は動きを止める。
「あ…、う、うぅ…。」
「ほら、篠岡、あとはお前が頑張って動けよ。」
そう言って頬にキスをしてやると、千代の泣きそうな目が泉を見た。

なんて言っていいか、わかんねんだろ?
もっとして、なんて死んでも言えないもんな。
多分、今自分は、とんでもなく意地の悪い顔して笑ってるんだろう。
吐き出す息に紛れた泉の笑い声に、追い詰められた千代は気づかない。

腰を押し付けるようにして動くと、泉の体に擦れたクリトリスから、
全身を貫くような刺激が伝わった。
ぴりぴりと甘く痺れるような感覚に、千代の腰は止まらなくなる。
感覚が一人歩きする怖さに、涙が溢れそうになった。
「い、ずみくんっ!なんか、変…。怖いよ、わ、私、どうすれば、いいの?」
「変じゃないよ、怖いことなんか何にもない。篠岡の好きなように動きな。
お前、イキそうなんだろ。」

「い、イキそう…?」
涙で霞んだ千代の視界には、自分を見て笑う泉が捉えられる。
はぁはぁと息を吐きながらも、動きを止められないこの理由は。
「気持ちいいんだろ?気持ちいいから、そんなに擦りつけて来るんだろ?」
「気持ち、い…?あっ、いやぁ、気持ちいい…。」
泉の声に煽られて零れた自分の言葉に、千代はさらに追い込まれる。
「だろ?もっとよくしてやるよ。」
泉が下から激しく突き上げて来ると、千代は支えを求めて泉にしがみついた。

なんで、こんなに恥ずかしい目に合わされるの?
怖いよ。悔しい。…気持ちいい。
たくさんの感情が入り混じって、千代の目からはついに涙が零れ落ちた。
泉くんなんて、嫌い、嫌い、嫌い…!

「き…らい、なんだから…、も、いや…。」
言葉とは裏腹に、千代の腕は泉にしがみついたまま。
ぐちゃぐちゃと音を立てて擦れ合う粘膜も、止められない吐息も嬌声も。
全てが千代の快楽を証明してしまっている。
「嫌い?わかってるよ、そんなの。でも、気持ちいいんだろ。」

「はぁっ、あん、きもちいい、泉くん、きもちい、よぅ…。」
耳元で繰り返す千代の言葉に、泉も徐々に高まっていく。
「くッ…、オレも気持ちいいよ、篠岡、好きだ…!」
「やぁ…っ。」
ギリギリで引き抜いたペニスから、真上に向かって精液が放たれる。
うっすらとピンク色に染まった千代の肌を、温かな白濁液が汚していった。

「写真、全部で何枚あるの?」
千代の声に、泉がゆっくりと体を起こす。
「さぁ…。20枚くらいはあるんじゃね?」
20枚…。千代はこくんと息を飲む。今日と同じことを、まだそんなにたくさん。
呆然とする千代の鎖骨に、泉が突然キスをした。
「ひぁっ…。」
泣きながら享受した、さっきまでの快感が一瞬で蘇る。
「そんなんあっとゆー間だよ。よかったな。」
そのまま首筋を舐め上げられると、背筋がゾクゾクと痺れた。

怖い。
いやだって、本当にいやだって思ってるのに。
泉が千代を見て笑っている。自分がどんな顔をしてるのかわからない。

「もう1枚…、消す?」
笑いながら千代の頬に触れる、相変わらず冷たい泉の指。
触れられた先から全身を貫く、寒気のようなこの感覚はいったい何なのだろうか。

いや。泉くんなんて嫌い、大嫌い。
でも―…。





最終更新:2008年01月06日 20:30