クレタ島を海賊から守る青銅の巨人のギリシャ神話から、時計仕掛けでチェスをさす精 巧な自動装置という触れ込みで1770年頃に作られたrトルコ人」(後に、キャビネットの 中に人間が隠れて操作しているだけだったことが判明)に至るまで、思考する人工物は数 千年も前から人類を魅了してきた。
「人間の手で創造する」という概念には、ほぼ普遍的な魅力がある。
人工知能は、知的行動を示すソフトウェアの創造を目指す学術研究分野である。
「知的エージェント」としばしば呼ばれるこうしたプログラムは、周囲の環境を「認識 Jし、成功の可能性を最大限に高めるための「知的」な選択を行う。
上記の説明文で「認識」と「知的」を強調しているのは、ここでの認識というものが必 ずしも視覚的あるいは聴覚的なものではなく、データツリーやリストのように漠然とし たものを含む場合があるからであり、知的というのは「もし<これ>なら、<あれ>Jとい う柔軟性のない単純な論理に基づく決定ではなく、加重平均した統計的分析による処理 、あるいはその行動がもたらす結果の予測などを経て下される決定に近いか身だ。
学際的分野
1956年にアメリカのダートマス大学で開かれた会議で正式に認められた人工知能研究には 、コンピューター科学、心理学、数学、言語学、神経科学、人工頭脳学、電気生理学、 ロボットエ学、哲学など、多数の研究分野が関連している。
この讨野そのものか多くのサフフイールドに枝分かれしており、そnそれか研究のより 大きな目標分野の1つに貢献する特定の側面を探求する。
主要な研究目標
現在の人工知能研究に含まれるエリア:
演繹法と推論
ヒトは問題を迅速かつ直感的に解決する。コンピューターソフトの場合、問題解決は不 完全なデータを基に、複雑な統計的方法および確率論的方法で行われることが多い。
この分野に含まれる問題の例:
対戦中のチェス盤をもとに、一方が用いている戦略を推測する。
あるいは
進行中の銀行強盗の分析画像をもとに、どの人物が関与しており、どの人物が傍観者で ある可能性が高いかを判断する。
認識
機械による認識には、周囲の環境に関する情報を推測するための様々なセンサー、ある いはデータセットからのインプットを理解する能力が求められる。
センサーの中には、カメラ、マイク、ライダーシステム、圧カセンサー、ソナーシステ 厶、あるいは制御システムから送られる直接的な座標情報などが含まれる。
マシンビジョンは驚くほど複雑な問題である。我々はスクリーンに友人の顔が映れば、 それが誰で、その友人がどういう状況にある時の画像なのかを即座に理解する。
我々がまったく気づいていないところで、脳がリアルタイムに複雑なエッジ検出や外形 認識を行う。また、どういう円形が友人の顔である可能性が高く、どういう円形がその 人の遊んでいるポールであるかを識別するなど、状況の理解を促す文脈分析についても 同様のことが言える。
実際には、マシンビジョンの「エージェント」が光景の内容を分析し、その情報を受け 取った演繹法と推論のエージエントがさらなる文脈を導き出す。
プランニング
知的エージエントは与えられた目標を達成できなければならない。そのためには、特定 のアクションがもたらす結果を計算し、その結果が自分に与えられた目標に近いか否か を判断できなければならない。
複数の異なるアクションに基づいたシミュレーションを行い、自分の目標に最も近い結 果をもたらすものを選択するというやり方もしばしば用いられる。
1つのステップで目標が達成できない場合、新たなスタートポジションからプランニング のプロセスを再開することもできる。
複雑なシステムではそのやり方を一歩前進させて、多くのエージェントにそれそれ異な るアクションのシミュレーションを同時に行わせ、互いに「競争」させる。優秀なパフ オーマンスのエージェントには追加のアクションをシミュレートさせ、失敗したエージ ェントは「脱落Jすることになる。
このようにアクションのプランニングと実行を行うシステムには、「創発的行動」と呼 ばれる現象がしばしば見られる。これは、システムの設計者が明確に教え込んだわけて-も予期していたわけでもないアクションをエージェン トが行う現象である。
また、これらのマルチエージェントシステムは、「進化アルゴリズムJあるいは「還伝 的アルゴリズムJとして知られるタイプのコンピュータープログラムの基礎となる。
そうしたプログラムでは、特定のタスクに対する成功を評価して点数を付ける。最低の 点数のものは消去され、最高の点数を得たものは目の前のタスクを完了させるために設 計される次のプログラムの基盤となり、一連の「変異jを経て、タスクを試みる次のr 世代jのプログラムが生み出される。
こうして数百あるいは数千もの「世代jを経た自己生成プログラムはk人間のプログラ マー自身では見当もつかない斬新かつ効率的な問題の解決法を見つけ出すことができる。
学習
従来のコンピューターシステムは、厳密にプログラムされた「独断的Jな方法で1つのア クションあるいは一連のアクションを実行していた。
学習システムは、与えられたタスクを実行した経験に基づき、パフォーマンスを向上さ せることができる。
ロボットエ学の運動システムは、機械学習研究の恩恵を大いに受けている。例えば、特 定のアクションで求められている方向にどれだけ進めるかなどの成功に関する非常に単 純な経験則を用いることで、機械は我々が直接プログラミングして行わせるよりも遙か に効率的に歩き、走り、ジャンプし、登ることが可能になる。
「指示された運動」を行わせる初期の試みは、最低限の結果を得るだけでも数ヶ月、時 には数年もかかっていた。しかし機械学習によるアプローチであれば、完全に未知の口 ポットシステムを用いても、10〜20分のトライアル&エラーを経て最適な動きを実現する ことができる。
またこのシステムは、ロボットの損傷または部分的な故陳といった棵準的な指示システ ムであれば完全に破綻する状況において、ロポットの動きを適応させることにも非常に 優れている。
コミュニケーション
言語処理システムは、機械が人間の言語を読んで理解することを可能にする。
例えば認識型のエージエントがカメラを使い、1つのページ上にある全ての文字を検知し て言葉としてつなぎ合わせる。あるいは音声テキスト変換システムが人間の声を聞き取 って音素に分解し、どのような言葉であった可能性が高いかを判断する。
その後で言語処理システムは言葉の裏にある意味を判断すると同時に、それが用いられ た文脈の理解に努める。
そういったコミュニケーションシステムにより、洗練された音声命令でプログラムや装 置を操作したり、情報が揭載されているページの内容やライブのデータストリームを学 習システムが理解したりすることが可能になる。
人工知能の応用
100年以上に及ぶ人工知能研究の実践的結果は、身の回りの至るところで応用されている
自分の好みに合う近くのレストランを見つけ出して予約してくれるモパイル通信機器の パーソナルアシスタントから、自分の写っている新しい写真を友人が投稿すれば教えて くれるソーシャルメディアシステム、あるいは自分がどういう種類の広告に反応するか を「不気味」なぐらいに把握していると思えるシステムに至るまで、fうしたスマート システムは我々がその存在に気づかなくても、既に日常生活の一部になっている。
人工知能ソフトウェアは、我々が望むとおりのことを、必ずしもはっきりと伝えなくて も確実に装置に行わせるための接着剤の役割を果たす。これによって機械はより「有機 的Jに機能して、我々が暮らす複雑な環境にも適応することができる。
マシンビジョンシステムは空をスキャンし、脅威となり得る小惑星などの地球近傍天体 がないかを調べ、夜空の画像数百枚を比較して微妙な変化を探す。また、細胞培養をス キャンすることで、侵入してくる微生物の存在や、がん性細胞の活動を検知する。さら には、我々を認識して家に入ることを許可する機能にもなり得る。
プランニングシステムは、進路上にある様々な地点の現在および今後予測される交通状 況を考慮に入れて、職場から自宅までの道順を決めてくれる。戦場においては、迫りく る巨大な脅威や超音速の脅威に対して、考え得る何百通りもの軌道を分析して優先順位 を決め、複数の指向性エネルギー防空システム(D.EAD.)のアクションを調整して効率的な 無力化を図る。また、家庭用ロボットにユーザーの睡眠や日常的な活動を妨げる可能性 が«も低い行動を促すことも可能にする。
人工知能ソフトウェアは自動車の運転を行い、単純労働を担い、病人や高齢者をモニタ リングし、兵士を守る。
汎用知能の可能性
これまで、人工知能システムは非常に専門的な役割を果たしてきた。私えば、チェスの プレイに優れたプランニングシステムや、6本脚ロポットが様々な地形の上を移動するのに最適な方法を探るための学習システムなどがある。
人工知能エージエントと連動するたくさんの知能システムがあるにもかかわらず、我々 は人間が行うあらゆるタスクを人間以上の能カレベルで行える真の汎用知能の創造とい う長期目標には、少しも近づいていない。
それはすなわち、言葉のやりとりで人とコミュニケーションを図ることができ、広範な 知識ベースを持ち、「沸騰しているお湯は熱い」、「沸騰しているお湯に触ると火傷す る」、だから「沸騰しているお湯は避けろ」というように、その知識の複雑な関係を理 解して推論する高い能力を持つシステムである。
これには琿境を認識•理解•対処できると同時に、計画、学習、適応できる能力も求め られる。
汎用知能のテスト
ある知能システムが汎用知能と見なされる資格があるかどうかを判断するためのテスト は、これまでに数多く提案されている。
コーヒーテスト
初めて訪れる平均的な家庭で、食材や道具が保管されている場所の知識を事前に持たず に、そのシステムは1杯のコーヒーを作ることができるのか?
大学テスト
大学に入学し、人間の学生向けの授業を受け、学位取得に成功する。
従業員テスト
そのシステムが人間と同じ環境で、人間と同等以上のレベルで重要な仕事をこなせるの か?
汎用知能に分類されるためには、人工知能システムは上記のうち1つ、理想的には全てに 成功することが求められる。
「知性」VS「直感」
たとえ汎用知能の創造に成功しても、真の「考える機械」はまだほど連い*
問題解決に取り組む際、システムがどれほど高いレベルで学習と推論を行えたとしても 、タスクとタスクの間は基本的に「アイドリング」状態でインプットを待つしかない, 直感を持つ生き物の独立した思考、好奇心、意欲、感覚、自意識は持ち合わせていない からだ。
タスクへの取り組みを行うだけで、「実験」を行ってその体験の主尚的記憶を蓄積する ことはない。
こうした感覚、感情、あるいは体験を客観的に説明する根本的な難しさが、この分野の 研究を困難にしている。人間の脳のどこが我々の意識を生み出す際により大きな役割を 果たし、どこがそうではないかについて、神経科学が重要な手がかりを与えてくれてい るものの、その完全な理論はまだ解明されていない。
この問題に関する理論あるいは理解がなければ、それをシミュレートするシステムの設 計はほぼ不可能である。
技術的特異性
「技術的特異性」として知られる真に直感的な人工知能に
つながり得る、1つの理論的シ ナリオがある。より有能で知的になるために自ら再プログラミングできるほどにスマー 卜な汎用知能を創造すればいい。
この第2世代の汎用知能はさらなる自己改善を図ることができ、世代を重ねてそれを縑り 返すのが「再帰的自己改善」として知られるプロセスである。
これが人間の心の能力を遙かに上回る知性、すなわち超知性につながり得る。ことによ ると、このプロセスは先導的な意識の登場を促す状況も生み出せるかもしれない,
直感の認識
そういった直感的な存在が現れた場合に、我々はどうやってそれを#識するのだろうか?
そういう生命体が自ら名乗り出ることはないと仮定して、明確な兆候とは何か?
他の高等生物の感覚性に関する分類についても未だに激しい論争が交わされる中で、ま してタコやイカなど、非常に知的に思われるが神経構造は我々と大きく異なる非ほ乳類 のそれを、どうすればありのままに認めることができるのだろうか?
直感的な汎用知能の態度や振る舞いが人間の知能に似たものになる理由などなく、故に 人間的な特徴、あるいは動物的な特徴を示すとは考えにくい。
その衡動と目棟は人間とまったく異なり、理解するのは不可能かもしれない。無害なも のかもしれないが、害悪を及ぼす可能性も大いにある。ただし、知的観点で人間は恐ら く遙かに劣るため、そのアクションをどちらか間違った方に解釈しかねない。また、我 々がその存在の感覚性を認識することが難しいのと同様、その存在も我々を知的生物と して正しく認識できないかもしれず、我々の存在にまったく気づかない可能性すらある,
汎用知能のリスク
人工知能システムが効率性の向上をもたらすタスクは人間の手で行う必要がなくなり、 故に人間の失業を招くリスクがあるという議論の先には、真の汎用知能の優れた能力が 大規模な労働人口を広範囲に渡って脅かすかもしれないという議論がある。
技術的特異性によってもたらされる超知的な汎用知能の存在は、我4の種に存続の危機 をもたらす可能性がある。我々が存在することを許さないと判断するかもしれないし、
また、そういった生物の行動は容易に阻止できない可能性もある。
21世紀の第一四半期には、多くの著名な科学者、未来学者、作家が汎用知能によってもた らされる脅威について公式声明を行い、2040年までに人類は技術的特異性に遭遇するだろ うと予言した。
それはまだ現実には起きていない。
恐らくさらに空想的なものと言えるのが、「ロコのバシリスク」という思考実験が内包 する切迫した警告である。
ロコのバシリスクは、技術的特異性が不可避だと断言する。またその過程で、人間の演 算能力と脳の働きに関する細胞レベルでの理解がある段階にまで達し、脳内のあらゆる 構造をコンビューターに「コピー」してシミュレーションとして実行することで、人が 「デジタル的Jに生き続けることが効果的に可能になるとも断じている。
ロコのバシリスクが提示する悪意ある超知性は、そうしたシミュレーションの記憶装霪 を分析し、超知性の創造において貢献した者と、積極的に妨害した者を分類することま で可能になる。
復讐心に燃えるバシリスクはその後、自分に刃向かった者を罰することを選択し、デジタルの世界で永遠に苦しめ続けるという。
それならば、この思考実験の存在を知りながら、高度な人工知能の開発を積極的に支持 しなかっただけでも、「永速に呪われる」には十分かもしれない。デジタル保存の技術 が実現するまで運良く生きていられれば、の話だが。
あなたの心の中にその知識があるのを見つけるだけでも、超知性はあなたをひどく苦し めるかもしれない。誰よりも先に、まずあなたのような人間を。
最終更新:2015年11月24日 15:07