史上初のDNIゲーム登場

史上初のDNIゲーム登場

著者:リッチ•トレイシー 日付:2060年7月

DNIゲームを試す以前にも、仮想現実を体験したことはあるつもりだった。少し背景を説 明すると、自分はコアレッセンス社版ボイジャー計画の一環で市販用DNIインプラントを 受け、ここ6ヶ月間、日常生活を送ってきた。これについては、日々の記録を技術ブログ 「テッキー•イン•ザ•シェル」に記している。初期のベータ段階にあるこのDNIですら 、私の生活を根本的にがらりと変えた。

昨年、コーティカル•システムズがDNIとリンクする改良型のゲームシステムを発表した 。著者はDNIを持つ数少ない技術ジャーナリストの一人として彼らのスタジオに招かれ、 動作中のそれを「目にする」ことができた。

コーティカル•システムズの中に入っていく時には、何が待ち受けているか想像もつか なかった。次世代の仮想現実八ードウェアとは、どのようなものか?考えていたのは、 ゲイブリエル•ワーナーの「ニューロ •八ッカー」シリーズのような何か、+まり、奇 妙な液体の入った管が何列もの巨大なコンピューターにつながり、不気味な見た目のへ ルメットが用意されている光景だったのだが、実際に連れて行かれたのは普通のオフィ スで、標準的なオフィスチェアが置かれているだけだった。その部屋に立っていた技術者から、シミュレーションを実行するコンピューターと私のDNIが無線で接続されると教 えてもらった。

接続が認証されると、この新しい仮想世界を自由に探索することができた。

利用可能だったデモは、城塞攻撃、街の公園、ゾンビ襲撃の3種類。コーティカル*シス テムズの技術者は、最初のイマージョンに街の公園を勧めてくれた。それを選択すると 周囲の部屋が消え去り、いきなり小さな湖の近くにあるペンチに座っていた。そよ風を 感じ、水の匂いもした。その感覚はまるで別世界のようで、動く絵画の中に立っている ような気分だった。わずかな方向感覚の混乱が去った後、立ち上がって湖の岸辺に行っ てみた。自分の肉体がバージニア州にあるコーティカル•システムズのオフィスチェア に座ったままだということは分かっていたが、全ての点において、湖畔の公園を歩いて いる感覚そのものだった。

触覚、味覚、嗅覚、視覚、聴覚。彼らはこれをイマージョンと呼ぶが、私は魔法と呼び たい。以前に使ったことのあるVRヘッドセットは仮想現実に似た何かに過ぎず、あらゆ る方法で脳を欺いて魔法を信じるように仕向ける幻影だったが、この魔法は本物だ。デ モの最中、一瞬間を置いて、これが現実ではないことを自分に思い出させる必要を感じ ることさえあった。全感覚がその逆を訴えていたからだ。湖の周りをしばらく歩いた後 、私はシミュレーションを終了した。夢から覚めたようだったというのが、自分にでき る最善の描写だ。目を開けて最初にいたオフィスを目にすると、それまでにいた仮想世 界と目の前の現実の区別がほとんどつかないものであることを再認識して、驚がした。

「わずかな方向感覚の混乱は正常なもので、すぐに消える。最も近いのは体外離脱体験 だろうね」と、コーティカル•システムズの技術者が室内のコンピューターを操作しな がら言った。続けて仮想現実を支える技術を説明して、「シミュレーションをこれほど までリアルにできるのは、DNIによってユーザーの脳に複雑な仕事をしてもらえるからだ 。我々が湖と公園を再現するのではなく、ユーザーの脳にイメージを描くよう指示する にすぎない。これによって構築作業が著しく単純化されるだけでなく、エンドユーザー にとって常に最も信びょう性のある形になる」

ゲームプレイをどうしても体験したくなった私は、再び接続して城塞攻撃のデモをロードした。射手と馬に乗った騎士で埋め尽くされた傾斜のある戦場が目の前に現れ、遠くには堀に囲まれた城が見えた。何もかもが凍りついたその世界で、1人の司令官が戦場を 幽霊のように歩いて近づいてくると、城の攻擊について要点を伝えた後に攻擊計画の指示を求めてきた

私は攻擊計画をマップ上に展開し、射手と騎士と包囲用兵器の配置を司令官に指示した 。全てが急に息を吹き返すと、すさまじい戦いの音が響き渡った。騎士の一団を引き連 れて戦場へと駆けていった私は、敵の槍兵と一戦交えた。剣の重さ、鎧への衝擊、息切 れさえも感じた。何もかもが本当にリアルで、石弓で射られて地面に倒れ、肉体を離れ た時になってようやく戦闘の衝撃が徐々に消えていった。

オフィスと元の体に戻ると、この仮想世界の飛躍的進歩の重要性がようやく実感として 感じられた。DNIの使用によって我々は、今や現実世界と区別がつかないリアリティを構 築できる。この技術が利用できる可能性は、レクリェーションの範囲を遙かに超えてい る。コーティカル•システムズがウィンズロー•アコードのために戦争ゲームシミュレ ーションを作っているという話を聞き、そういったものがどれほど役立つか、想像に難 くないと私は思った。椅子から立ち上がろうとすると、残りの1つのイマージョンを経験 してみないかと技術者が聞いてきたのだが、ゾンビモードを試すのは後回しにして体験 の執筆を優先したいと私は答えた。DNIを初めて見た時、世界を変える革新技術を目撃し ているのかもしれないと感じた。実際に自分で手に入れた今、自信を持って言えるのは *世界は間違いなく一変するということだ。

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最終更新:2015年12月09日 19:21