変身VS変心

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変身VS変心」(2017/05/24 (水) 17:28:17) の最新版変更点

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―人間としての君は既に死んだ。今の君は人の皮を被ったただの兵器だ。兵器を強くすることの何が悪い? ―機械的な改造だけではない。ナノマシン投与に強化細胞の移植、動物の遺伝子の組み込み、挙句の果てに得体のしれない霊石の埋め込み…もはや改造技術に対する耐久実験だ。一人の人間にここまでの改造を行う必要がどこにあったというのだ…。 筋肉や臓器は愚か、脳細胞の一部までが変化してしまっている。…残念だが、君の身体の中に人間と呼べる部分はもう…。 ―すっげ…あれが改造人間って奴の威力なのかよ…! ―あれはバケモノだ。狂ってるから人間ではなく同じバケモノを襲う。 ―三度もメス入れられたんでしょ?案外一回ぐらい脳改造成功してるかもよ?え?三度どころじゃない? ―宇宙人だ!僕以外にも宇宙人はいたんだ! ―我々の組織に入って一度頭を割るだけで良い。三つの組織に身体を弄られた貴様がそれだけで悩み苦しみから解放されるんだ。随分得な話ではないかな? 僕は… 僕は人間だ…! ―姿形は中々恰好いいじゃない。せっかくだからヒーローっぽい名前の一つ二つあった方が通りがいいんじゃない? そうね、空を飛ぶ時の姿は―――――――――――――――――――――― ◆ H-3、泉の畔にて。 平常時であれば静かなる憩いの場になったであろうこの場所に、似つかわしくない爆音が轟いていた。 「死ぃねやあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!!」 逆立った髪にボロボロの学生服の出立で叫んだ男の名は道神朱雀。彼は何かに向かって手にしたものを投げつけていた。 「オイオイ、火の玉を投げつけてくる挨拶なんてMr.イヴィルの改造人間にだってされた事無いぞ!」 投げつけられている側の鳥を模したが如き姿の赤い怪人は巴竜人。またの名を、空の改造人間スカイザルバーという。 彼はこの場所に送られてすぐに朱雀の攻撃を受け、咄嗟に変身してこれを回避していた。 「はっはっは!避けるか!テレビに出てる奴は違うようだな!ただのコスプレ野郎ならガッカリしてたところだぜ!」 「テレビ?俺も随分と有名になったもん…だな!」 いつの間にか自分の戦う姿は報道陣のカメラに収められていたのか。だとしたら我が国の報道機関も馬鹿にしたものじゃないな。 そんなどうでもいい事を頭から振り払い、スカイザルバーは飛来する火球の回避に専念する。 (コイツ…改造人間には見えないな。だとすればミュータントの類か?) 眼前の男が放つ火球は掌から直接発生していた。無論普通の人間にそんな事が出来ようはずがない。 だが、彼の元いた世界アースHではそうした事が可能な人間はそこまで珍しいわけではない。 超能力を用いて悪事を働くヴィランも、同じく超能力を駆使して悪事を防ぐヒーロー達も一定数存在するのだ。 この男もそうした類の人種なのだろうと竜人は判断した。 「凄い力だな。どうせならターゲットは俺達にこんな馬鹿げた事をさせようとする主催者に変えてくれよ。鬱憤晴らしのつもりなら俺にやるよりもそっちの方が気が晴れるぜ?」 「馬鹿げてる?それは俺には理解出来ん考え方だなぁ。この有り余る力を振るえる戦場こそが我が居場所。バトルロワイアル大いに結構!!貴様が記念すべき第一ターゲットだ!!!」 「殺し合いに乗る気か…だったら、こっちだって容赦は出来ないぞ!」 「望む所だヒーローさんよぉ!」 この男に説得は無意味か。さして期待はしていなかったが。だが、殺し合いに乗るつもりだと言うのならヒーローとしては見逃すわけにはいかない。 そう判断したザルバーは大地を蹴って跳躍。連続で飛んでくる火球を飛び越えると朱雀に膝を叩き込んだ。 「この!ちぇりゃぁ!」 が、朱雀もこれを蹴りで受け、顔面目掛け拳を見舞う。 腕でガードしたザルバーだったが、朱雀は待ってましたとばかりにほくそ笑んだ。 「焼き鳥になりやがれ!でぇりゃあぁぁあぁぁ!!!」 「何!?」 拳から直接炎が撃ちこまれ、ザルバーの身体には炎が燃え移った。 更に追い打ちをかけるように朱雀は両の腕から連続で火球を見舞う。 数刻の後、硝煙が晴れた後には何も残ってはいなかった。 「ざまぁねぇや!跡形も無く燃え尽きやがった!灰すら残ってねえ!」 「そりゃあ凄い。廃品回収の仕事に就いたら大歓迎されるんじゃないか?」 「何だと!?うおっ!?」 声の主に振り向く前に、背後からの強い衝撃で朱雀は弾き飛ばされた。 立ち上って見てみれば、そこにいたのは獅子を模したイエローカラーの怪人。 「もう一体いたのか!?」 「テレビ見てたんなら分からない?俺だよ、俺」 その姿こそ改造人間・巴竜人のもう一つの姿、陸の戦闘形態・ガイアライナーと呼ばれるものだった。 「マシーンいらずのガイアのスピードを見せてやるよ!」 再度飛来した火球が到達するより早く、黄色の怪人は朱雀の視界から消えた。 背後からの攻撃を予測し後方へ振り返る彼だったが―。 「がわぁ!?」 「読みは正確だ。けど、速さならこちらに分があるみたいだな」 ライナーの拳は迎撃の炎よりも早かった。竜人の変身形態の中で最もスピードに長けたのがこのガイアライナーなのだ。 「この…どこ行っtべぇあ!?チョロチョロと逃げ回りやがっtなわぁ!クッソ…当たれぇぇーっ!!!」 再び姿を消し、攻撃。反撃が来る前に移動、攻撃。この繰り返しのヒット&アウェイ戦法で朱雀の体力は削られていった。 だが、朱雀とて黙ってやられているわけではない。どれだけ速く動き回ろうとも移動から攻撃に転じるまでにはタイムラグが生じる。 (その一瞬さえ付ければ奴の動きは止められる。そして俺は奴の動きを見切りつつある!) 「ライナァァァァァッ!パァンチッ!!」 「見切ったぁっ!!」 果たしてその言葉通り、振り下ろされたライナーの腕は朱雀の両手に捕まれていた。 (さっきはご自慢のスピードで炎もかき消したようだが今度こそ逃さん!消し炭になりやがれ!) そのまま両手から炎を流し込み、目の前の怪人は火に包まれる。両の手で掴んでいる以上もう奴に逃げ場はない。 …その筈だった。 「のわああああ!?」 ガイアライナーの右腕内部は杭打ち機のような構造になっており、生体火薬を内部爆発させる事で肘上をスライドさせ敵に叩き付ける事が出来る。 今しがた炸裂させたパンチはそうした仕組みで敵のガードを破る、ライナーの内部武装の一つであった。 「さっきの仕返しだ。割と熱かったんだぞ」 伸びた右腕を左で戻しながら皮肉を言うライナーに対し、朱雀の方は怒り心頭であった。 「クソ…………ッ!?血?血を吐いたのか…?吐かされたのか!?この俺がか!!?」 口元の血を拭いながら朱雀は肩を震わせる。 それは内蔵を傷つけられたなどという大層なものではなく、口元を切った為に吐き出されたレベルの物であったが、それでも傲慢な性格の彼の自尊心を傷つけるには充分すぎる物であった。 「この………ビックリドッキリ野郎がァァァァァァァッ!!!!!」 沸き立つ怒りがそのまま言葉となって口から飛び出したように朱雀は叫んだ。 「いくらなんでもその呼び方は勘弁願いたいね…それに、自分から仕掛けた喧嘩でキレてちゃ世話無いぜ?」 「一々減らず口を叩かんと気が済まんのか!どこまでもどこまでもこの俺を馬鹿にしくさる野郎だぜ!」 「あんたみたいなの相手にするの、そうでもしてなきゃ気が滅入るんだ。察してくれよ」 「お互い様だな。俺は貴様の相手をしている内に更に更に殺意が沸いてきたぞ!…だが、一つだけ良い事があった。貴様にも教えてやろう。」 突然落ち着いた調子で話し始めた朱雀に対して竜人はなにか嫌な予感がした。そして、その予感は的中する事になる。 「俺の炎の源は怒りの感情だ!!!!貴様の今までの一挙一動全てが俺の火力を強くした!!!!!燃えてなくなれバケモノ!!!!!!!」 その言葉通り、朱雀の両の腕から放たれた炎は今までの火球などとは比べ物にならないものであった。 泉の周りに生えた植物達を枯らし、波高を増しながら迫りくるそれはさながら炎の波。左右の動きで到底躱しきれるものではない。 (ザルバーで飛んでもこの波の高さでは間に合わないか…なら!) 回避は不可能と判断したライナーは反転して駆け出し、泉の中へと飛び込んだ。 「はーはっはっは!愚策だな!逃げ足が取り柄の貴様がそんな狭いところに逃げ込んでどうする!?言っておくが泉の水如き俺の炎の前ではあっという間に干上がるぞ!」 その言葉の通り、泉は数秒後には炎の波に飲みこまれ、中にいたライナーも蒸し殺されるか焼き殺されるか…どちらにしても生存不能な状況下に追い込まれるのは目に見えていた。 だが――― 「ふおお!?」 朱雀には一瞬何が起きたか理解できなかった。 炎の壁を何かが突き破り、彼自身もその何かに飲み込まれていった。 水だ。水が渦潮となって襲ってきたのだ。 (す、すごい圧力だ!まるで身動きがとれん!奴め、一体何をしやがった!?) 朱雀の身体の自由は水の竜巻によって完全に奪われていた。やがて竜巻は朱雀を上方へと押し上げる方向へと向きを変えていく。 極限状態の思考回路をフル回転させ、彼は一つの結論に達する。 (あいつ泉の水を巻き上げて竜巻を作りやがったのか!どこまでインチキ野郎なんだ!) そのインチキ野郎がいるはずの方角へと朱雀は唯一動かすことができる瞳を向ける。 だが既にそこに奴の姿はない。即ち、いるとするなら― (後ろか!うおっ!?) 瞬間、朱雀の視界は上下反転した。彼は青を貴重とした体色の怪人によって飯綱落としの体勢に捉えられていた。 自身で発生させた渦潮を、まるで滝登りの如く上ってきたのは巴竜人第三の戦闘形態、水中戦に長けたドラゴンの改造人間・アクアガイナーだ。 朱雀が考えた通り、泉の水を巻き上げ渦潮竜巻を作り上げたのもこの形態の内部武装だったのだ。 (悪いが、手から火を吹きます殺し合いには乗ります、なんて危険人物を見逃せるほどヒーローとして甘くは育てられてこなかったんでね。このまま沈んでもらうぜ) (やられるのか!?よりにもよって青い龍を相手に、この神の力を持った『青竜』様が負けるというのか!?) 竜巻の中を足裏に据え付けられたスクリューで逆流し、水底へと激突させる。 それで勝負は決まり、ヒーローが悪を討つ。アースHの世界では幾度となく見られた光景が再現される筈だった。 だが、この世界はアースHではない。まして道神朱雀がいたアースGでも、彼が本来住んでいたアースRでもない。 AKANEが用意した殺し合いの為のこの世界では、常に勝利をつかみ続ける絶対的な正義も、またいつかは必ず滅び去る悪も存在しえない。 ただ殺す側と殺される側が存在するだけだ。そこに元いた世界による貴賤や善悪は関係しない。 場合によっては、元の世界での強さすら関係が無い。故に、この世界の理を崩しかねない力には枷が嵌められる。 (!?体が変わっていく…勝手に!) 異変は起きた。竜人の身体は頭はガイナーのままに、体はライナー、脚部はザルバーとライナーが混じり合った多脚という偉業の姿へと変貌していた。 (こんな時に不調…いや、あまりにも早すぎる!身体の制御が効かない!) 巴竜人は不完全な改造人間である。 彼の身体に赤い血は流れていない。脈打つ心臓の音も人とは違う。脳までもが移植された強化細胞に侵され変質しているという。 しかし、ある一点だけは人間のままであった。 洗脳処置――戦闘兵器となるべく人格を消す最終調整が行われる直前に、彼はあるヒーロー―今はヴィランだが―によって助け出された。 いかなる方法で洗脳するつもりだったのかは竜人本人すら知らない。だが、ともあれ戦闘兵器になる事は回避した。 ならば…未だ目には見えない、非常に曖昧な定義をされる物ではあるが…「心」は人のままなのではないか。 (水圧に耐えられるガイナーの装甲ならばともかく、ライナーでは身動きが…!?) だが、人は完全な兵器にはなれない。技術体系が異なる改造を幾重にも施された体を完全に制御する為には、最終調整こそが必要不可欠とされるものであった。 最後に残った人間としての心が人ならざる体との間にノイズを生み出していき、いずれは身体に不調を…端的に言えば、バグる。 これは彼がこちらの世界に送られてくる前から抱いていた弱点だったがここまで酷くはなかったはずだ。 圧倒的な無敵の超人が望まれないこの世界ではこの弱点は強められるようだ。しかも、制御できなくなるのは変身機能だけではない。 アクアガイナーの頭に生えた角へと体内の電力が急速に集められていった。無論、竜人の意思とは無関係に。 (不味い…今こんな状態でサンダーホーンを撃ったら諸共吹っ飛んでしまう!止まれ!止まれーっ!) サンダーホーン…アクアガイナーに内蔵された武装の一つ、角から放つ電撃砲だ。この武器でアースHでは組織に属する幾多の改造人間を屠ってきた。 だが、今はその必殺兵器が竜人自身に牙を向こうとしている。水中で、しかも至近距離で、ましてや今はホーンの反動にも耐えるべく作られたガイナーの身体ではないのだ。 放たれた電撃は自身にも跳ね返り、確実に命を奪う。 (止まってくれぇーーーーーーっ!!!!!) 発射停止命令…何度も出した。それで止まるなら不調とは言わない。 ガイナーへの再変身…それも無理だ。さっきから試し続けているが下半身の脚が生えたり減ったり奇妙な変形を繰り返すだけだ。正確に指令が全身に届くころにはもう発射されている。 今捕まえている男を手放して浮上…自分で発生させた水圧に阻まれ動けない。 変身解除して無理矢理止めるか?…どちらにせよ変身命令だ。発射までに間に合わない。仮に成功したとしても変身前で水底に衝突すればお陀仏。 首を振って別方向に撃つ…何の意味がある。ここは水中だ。 全ての可能性は潰えた。 (自滅か…いや、違うな。俺は俺自身に…戦闘兵器巴竜人に殺されるんだ。人間巴竜人はここで死ぬんだ!ならばせめてヒーローらしくこいつだけは道連れにしてやる!) そして、目の前が真っ白になった―――。 ◇ 「つまり…多重人格?」 「ええ、僕と青竜以外にもあと二人。白虎と玄武が僕の心の中にはいるんです」 「一応聞いてみるけど、君はこのゲームに乗るつもりかい?」 「まさか」 竜人の目の前にいるのは道神朱雀―――つい先ほどまで拳を交えていた男だった。 電撃が放たれようとしたまさにあの瞬間、突然目に映る景色は荒れ狂った水の中ではなく、焼けた木々の生えた泉の畔へと変わった。 訳が分からないまま竜人は体勢を崩し、電撃はあらぬ方角へと飛んでいった。 なんとか変身を解除し、人間の姿へ戻った竜人に声をかけてきたのは他ならぬ朱雀であった。 再びやる気かと身構えたが、どうも様子がおかしい。話を聞いてみれば彼の身体には三体の『神獣』が宿っており、竜人を襲ったのは『青竜』に人格を支配された時の彼だったというのだ。 突拍子もない話だったが、竜人は不思議と信じられる気がした。人を超えた改造人間がいる世界に生まれ、先ほどまさに自身を制御できなかった自分には近しい話だと。 「…本当に申し訳ない事をしました。以前から傲慢な奴だとは思ってたけど、まさか殺し合いに乗るなんて…」 「君が謝る事無いよ。悪いのはその青竜って奴なんだろ?それに俺だって危うく君まで殺しかけたんだ。謝るならこっちさ」 目の前の青年は嘘を言っているようにも、演技で自分を騙そうとしているようにも見えなかった。 というか、火を投げつけて来た時とは完全に別人なのだ。口をきくだけでもハッキリと分かるレベルで表情から話し方から違う。 その後、2人は互いの持つ情報を交換した。ここに来るまでの事。自身の能力について。知人の事を。 「知り合いはいるのか?」 参加者候補リストを手に竜人は言うが、 「いえ、いないみたいですね」 「そうか」 ばっさりと、斬られてしまった。 「あ!でもこの九十九光一って人なら知ってますよ!」 「どういう人なんだ?」 「いえ、名前だけ…」 「そ、そうか」 これまたあっさりと。 ◆ (…そうだ、俺は、危うく彼まで殺してしまうところだったんだな…) 朱雀の話によれば、電撃が放たれる一瞬前に彼は青竜から人格の主導権を奪い返し、白虎の力を使って渦の中から外へと自身と竜人を瞬間的に移動させたのだという。 だとすれば、自分の命も彼によって助けられたことになるのだな、と竜人は思った。 (体の制御を失って死にかけただけじゃなく、善人の道神君は殺しかけ、挙句その殺そうとした相手に助けられるか。…なんて無様なんだ) 元いた世界で彼は幾多の改造人間やヴィランを討ってきた。無論、彼らには彼らなりの人生があっただろう。 それでも彼らは人としての道理を外れていた。幾多の人々の人生を奪ってきた。それらを討つのならヒーローの役目だ。 だが、そのヒーローの力が無関係の者に振るわれ殺めてしまったら?その時自分は本当に戦闘兵器になってしまうのではないか。 今まで討ってきた者達と何ら変わりない存在になってしまうんじゃないか。 (『先生』が今の僕を見たら笑うかな、いや、今は…) 竜人は一人の女性の姿を思い出す。彼女がいなければ今の自分はまるで違っていただろう。 それこそあの青竜のように戦いだけに生きる戦闘兵器になっていたかもしれない。 だが、彼にとって恩人であり、師でもあるあの人は――――――裏切りのクレアは今や討たれるべき側に回った。 それを聞いたとき、ヒーローとして生きてきた今までの自分を否定されたような気になった。だから、そんな思いを拭い去るべく彼は悪を討ち続けてきた。 しかし今彼が立っているのは明確な善と悪との境が無い、狂った殺し合いの舞台なのだ。 果たして自分はヒーローのままいられるのだろうか?竜人の頭にはそんな考えがこびりついて離れないのだ。 「巴さん。お願いがあります。もし青竜が―――青竜だけじゃない、もし白虎や玄武が僕の身体を乗っ取って誰かを傷つけるようなことがあれば――――――その手で、僕を止めて下さい」 その言葉に竜人は首を縦に振ると、こう返した。 代わりに自分が暴走するようなことがあったら、君が止めてくれ。と。 【H-3/泉/1日目/深夜】 【巴竜人@アースH】 [状態]:健康 [服装]:グレーのジャケット [装備]:なし [道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1~3 [思考] 基本:殺し合いを破綻させ、主催者を倒す。 1:朱雀とともに付近を捜索する。 2:自身の身体の異変をなんとかしたい。 3:クレアに出会った場合には― [備考] ※首輪の制限により、長時間変身すると体が制御不能になります。 【道神朱雀@アースG】 [状態]:健康、朱雀の人格 [服装]:学生服 [装備]:なし [道具]:基本支給品、ランダム支給品1~3 [思考] 基本:殺し合いを止めさせる。 1:竜人とともに付近を捜索する。 2:他人格に警戒、特に青竜。 (青竜) 基本:自分以外を皆殺しにし、殺し合いに優勝する [備考] ※人格が入れ替わるタイミング、他能力については後続の書き手さんにお任せします。
―人間としての君は既に死んだ。今の君は人の皮を被ったただの兵器だ。兵器を強くすることの何が悪い? ―機械的な改造だけではない。ナノマシン投与に強化細胞の移植、動物の遺伝子の組み込み、挙句の果てに得体のしれない霊石の埋め込み…もはや改造技術に対する耐久実験だ。一人の人間にここまでの改造を行う必要がどこにあったというのだ…。 筋肉や臓器は愚か、脳細胞の一部までが変化してしまっている。…残念だが、君の身体の中に人間と呼べる部分はもう…。 ―すっげ…あれが改造人間って奴の威力なのかよ…! ―あれはバケモノだ。狂ってるから人間ではなく同じバケモノを襲う。 ―三度もメス入れられたんでしょ?案外一回ぐらい脳改造成功してるかもよ?え?三度どころじゃない? ―宇宙人だ!僕以外にも宇宙人はいたんだ! ―我々の組織に入って一度頭を割るだけで良い。三つの組織に身体を弄られた貴様がそれだけで悩み苦しみから解放されるんだ。随分得な話ではないかな? 僕は… 僕は人間だ…! ―姿形は中々恰好いいじゃない。せっかくだからヒーローっぽい名前の一つ二つあった方が通りがいいんじゃない? そうね、空を飛ぶ時の姿は―――――――――――――――――――――― ◆ H-3、泉の畔にて。 平常時であれば静かなる憩いの場になったであろうこの場所に、似つかわしくない爆音が轟いていた。 「死ぃねやあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!!」 逆立った髪にボロボロの学生服の出立で叫んだ男の名は道神朱雀。彼は何かに向かって手にしたものを投げつけていた。 「オイオイ、火の玉を投げつけてくる挨拶なんてMr.イヴィルの改造人間にだってされた事無いぞ!」 投げつけられている側の鳥を模したが如き姿の赤い怪人は巴竜人。またの名を、空の改造人間スカイザルバーという。 彼はこの場所に送られてすぐに朱雀の攻撃を受け、咄嗟に変身してこれを回避していた。 「はっはっは!避けるか!テレビに出てる奴は違うようだな!ただのコスプレ野郎ならガッカリしてたところだぜ!」 「テレビ?俺も随分と有名になったもん…だな!」 いつの間にか自分の戦う姿は報道陣のカメラに収められていたのか。だとしたら我が国の報道機関も馬鹿にしたものじゃないな。 そんなどうでもいい事を頭から振り払い、スカイザルバーは飛来する火球の回避に専念する。 (コイツ…改造人間には見えないな。だとすればミュータントの類か?) 眼前の男が放つ火球は掌から直接発生していた。無論普通の人間にそんな事が出来ようはずがない。 だが、彼の元いた世界アースHではそうした事が可能な人間はそこまで珍しいわけではない。 超能力を用いて悪事を働くヴィランも、同じく超能力を駆使して悪事を防ぐヒーロー達も一定数存在するのだ。 この男もそうした類の人種なのだろうと竜人は判断した。 「凄い力だな。どうせならターゲットは俺達にこんな馬鹿げた事をさせようとする主催者に変えてくれよ。鬱憤晴らしのつもりなら俺にやるよりもそっちの方が気が晴れるぜ?」 「馬鹿げてる?それは俺には理解出来ん考え方だなぁ。この有り余る力を振るえる戦場こそが我が居場所。バトルロワイアル大いに結構!!貴様が記念すべき第一ターゲットだ!!!」 「殺し合いに乗る気か…だったら、こっちだって容赦は出来ないぞ!」 「望む所だヒーローさんよぉ!」 この男に説得は無意味か。さして期待はしていなかったが。だが、殺し合いに乗るつもりだと言うのならヒーローとしては見逃すわけにはいかない。 そう判断したザルバーは大地を蹴って跳躍。連続で飛んでくる火球を飛び越えると朱雀に膝を叩き込んだ。 「この!ちぇりゃぁ!」 が、朱雀もこれを蹴りで受け、顔面目掛け拳を見舞う。 腕でガードしたザルバーだったが、朱雀は待ってましたとばかりにほくそ笑んだ。 「焼き鳥になりやがれ!でぇりゃあぁぁあぁぁ!!!」 「何!?」 拳から直接炎が撃ちこまれ、ザルバーの身体には炎が燃え移った。 更に追い打ちをかけるように朱雀は両の腕から連続で火球を見舞う。 数刻の後、硝煙が晴れた後には何も残ってはいなかった。 「ざまぁねぇや!跡形も無く燃え尽きやがった!灰すら残ってねえ!」 「そりゃあ凄い。廃品回収の仕事に就いたら大歓迎されるんじゃないか?」 「何だと!?うおっ!?」 声の主に振り向く前に、背後からの強い衝撃で朱雀は弾き飛ばされた。 立ち上って見てみれば、そこにいたのは獅子を模したイエローカラーの怪人。 「もう一体いたのか!?」 「テレビ見てたんなら分からない?俺だよ、俺」 その姿こそ改造人間・巴竜人のもう一つの姿、陸の戦闘形態・ガイアライナーと呼ばれるものだった。 「マシーンいらずのガイアのスピードを見せてやるよ!」 再度飛来した火球が到達するより早く、黄色の怪人は朱雀の視界から消えた。 背後からの攻撃を予測し後方へ振り返る彼だったが―。 「がわぁ!?」 「読みは正確だ。けど、速さならこちらに分があるみたいだな」 ライナーの拳は迎撃の炎よりも早かった。竜人の変身形態の中で最もスピードに長けたのがこのガイアライナーなのだ。 「この…どこ行っtべぇあ!?チョロチョロと逃げ回りやがっtなわぁ!クッソ…当たれぇぇーっ!!!」 再び姿を消し、攻撃。反撃が来る前に移動、攻撃。この繰り返しのヒット&アウェイ戦法で朱雀の体力は削られていった。 だが、朱雀とて黙ってやられているわけではない。どれだけ速く動き回ろうとも移動から攻撃に転じるまでにはタイムラグが生じる。 (その一瞬さえ付ければ奴の動きは止められる。そして俺は奴の動きを見切りつつある!) 「ライナァァァァァッ!パァンチッ!!」 「見切ったぁっ!!」 果たしてその言葉通り、振り下ろされたライナーの腕は朱雀の両手に捕まれていた。 (さっきはご自慢のスピードで炎もかき消したようだが今度こそ逃さん!消し炭になりやがれ!) そのまま両手から炎を流し込み、目の前の怪人は火に包まれる。両の手で掴んでいる以上もう奴に逃げ場はない。 …その筈だった。 「のわああああ!?」 ガイアライナーの右腕内部は杭打ち機のような構造になっており、生体火薬を内部爆発させる事で肘上をスライドさせ敵に叩き付ける事が出来る。 今しがた炸裂させたパンチはそうした仕組みで敵のガードを破る、ライナーの内部武装の一つであった。 「さっきの仕返しだ。割と熱かったんだぞ」 伸びた右腕を左で戻しながら皮肉を言うライナーに対し、朱雀の方は怒り心頭であった。 「クソ…………ッ!?血?血を吐いたのか…?吐かされたのか!?この俺がか!!?」 口元の血を拭いながら朱雀は肩を震わせる。 それは内蔵を傷つけられたなどという大層なものではなく、口元を切った為に吐き出されたレベルの物であったが、それでも傲慢な性格の彼の自尊心を傷つけるには充分すぎる物であった。 「この………ビックリドッキリ野郎がァァァァァァァッ!!!!!」 沸き立つ怒りがそのまま言葉となって口から飛び出したように朱雀は叫んだ。 「いくらなんでもその呼び方は勘弁願いたいね…それに、自分から仕掛けた喧嘩でキレてちゃ世話無いぜ?」 「一々減らず口を叩かんと気が済まんのか!どこまでもどこまでもこの俺を馬鹿にしくさる野郎だぜ!」 「あんたみたいなの相手にするの、そうでもしてなきゃ気が滅入るんだ。察してくれよ」 「お互い様だな。俺は貴様の相手をしている内に更に更に殺意が沸いてきたぞ!…だが、一つだけ良い事があった。貴様にも教えてやろう。」 突然落ち着いた調子で話し始めた朱雀に対して竜人はなにか嫌な予感がした。そして、その予感は的中する事になる。 「俺の炎の源は怒りの感情だ!!!!貴様の今までの一挙一動全てが俺の火力を強くした!!!!!燃えてなくなれバケモノ!!!!!!!」 その言葉通り、朱雀の両の腕から放たれた炎は今までの火球などとは比べ物にならないものであった。 泉の周りに生えた植物達を枯らし、波高を増しながら迫りくるそれはさながら炎の波。左右の動きで到底躱しきれるものではない。 (ザルバーで飛んでもこの波の高さでは間に合わないか…なら!) 回避は不可能と判断したライナーは反転して駆け出し、泉の中へと飛び込んだ。 「はーはっはっは!愚策だな!逃げ足が取り柄の貴様がそんな狭いところに逃げ込んでどうする!?言っておくが泉の水如き俺の炎の前ではあっという間に干上がるぞ!」 その言葉の通り、泉は数秒後には炎の波に飲みこまれ、中にいたライナーも蒸し殺されるか焼き殺されるか…どちらにしても生存不能な状況下に追い込まれるのは目に見えていた。 だが――― 「ふおお!?」 朱雀には一瞬何が起きたか理解できなかった。 炎の壁を何かが突き破り、彼自身もその何かに飲み込まれていった。 水だ。水が渦潮となって襲ってきたのだ。 (す、すごい圧力だ!まるで身動きがとれん!奴め、一体何をしやがった!?) 朱雀の身体の自由は水の竜巻によって完全に奪われていた。やがて竜巻は朱雀を上方へと押し上げる方向へと向きを変えていく。 極限状態の思考回路をフル回転させ、彼は一つの結論に達する。 (あいつ泉の水を巻き上げて竜巻を作りやがったのか!どこまでインチキ野郎なんだ!) そのインチキ野郎がいるはずの方角へと朱雀は唯一動かすことができる瞳を向ける。 だが既にそこに奴の姿はない。即ち、いるとするなら― (後ろか!うおっ!?) 瞬間、朱雀の視界は上下反転した。彼は青を貴重とした体色の怪人によって飯綱落としの体勢に捉えられていた。 自身で発生させた渦潮を、まるで滝登りの如く上ってきたのは巴竜人第三の戦闘形態、水中戦に長けたドラゴンの改造人間・アクアガイナーだ。 朱雀が考えた通り、泉の水を巻き上げ渦潮竜巻を作り上げたのもこの形態の内部武装だったのだ。 (悪いが、手から火を吹きます殺し合いには乗ります、なんて危険人物を見逃せるほどヒーローとして甘くは育てられてこなかったんでね。このまま沈んでもらうぜ) (やられるのか!?よりにもよって青い龍を相手に、この神の力を持った『青竜』様が負けるというのか!?) 竜巻の中を足裏に据え付けられたスクリューで逆流し、水底へと激突させる。 それで勝負は決まり、ヒーローが悪を討つ。アースHの世界では幾度となく見られた光景が再現される筈だった。 だが、この世界はアースHではない。まして道神朱雀がいたアースGでも、彼が本来住んでいたアースRでもない。 AKANEが用意した殺し合いの為のこの世界では、常に勝利をつかみ続ける絶対的な正義も、またいつかは必ず滅び去る悪も存在しえない。 ただ殺す側と殺される側が存在するだけだ。そこに元いた世界による貴賤や善悪は関係しない。 場合によっては、元の世界での強さすら関係が無い。故に、この世界の理を崩しかねない力には枷が嵌められる。 (!?体が変わっていく…勝手に!) 異変は起きた。竜人の身体は頭はガイナーのままに、体はライナー、脚部はザルバーとライナーが混じり合った多脚という偉業の姿へと変貌していた。 (こんな時に不調…いや、あまりにも早すぎる!身体の制御が効かない!) 巴竜人は不完全な改造人間である。 彼の身体に赤い血は流れていない。脈打つ心臓の音も人とは違う。脳までもが移植された強化細胞に侵され変質しているという。 しかし、ある一点だけは人間のままであった。 洗脳処置――戦闘兵器となるべく人格を消す最終調整が行われる直前に、彼はあるヒーロー―今はヴィランだが―によって助け出された。 いかなる方法で洗脳するつもりだったのかは竜人本人すら知らない。だが、ともあれ戦闘兵器になる事は回避した。 ならば…未だ目には見えない、非常に曖昧な定義をされる物ではあるが…「心」は人のままなのではないか。 (水圧に耐えられるガイナーの装甲ならばともかく、ライナーでは身動きが…!?) だが、人は完全な兵器にはなれない。技術体系が異なる改造を幾重にも施された体を完全に制御する為には、最終調整こそが必要不可欠とされるものであった。 最後に残った人間としての心が人ならざる体との間にノイズを生み出していき、いずれは身体に不調を…端的に言えば、バグる。 これは彼がこちらの世界に送られてくる前から抱いていた弱点だったがここまで酷くはなかったはずだ。 圧倒的な無敵の超人が望まれないこの世界ではこの弱点は強められるようだ。しかも、制御できなくなるのは変身機能だけではない。 アクアガイナーの頭に生えた角へと体内の電力が急速に集められていった。無論、竜人の意思とは無関係に。 (不味い…今こんな状態でサンダーホーンを撃ったら諸共吹っ飛んでしまう!止まれ!止まれーっ!) サンダーホーン…アクアガイナーに内蔵された武装の一つ、角から放つ電撃砲だ。この武器でアースHでは組織に属する幾多の改造人間を屠ってきた。 だが、今はその必殺兵器が竜人自身に牙を向こうとしている。水中で、しかも至近距離で、ましてや今はホーンの反動にも耐えるべく作られたガイナーの身体ではないのだ。 放たれた電撃は自身にも跳ね返り、確実に命を奪う。 (止まってくれぇーーーーーーっ!!!!!) 発射停止命令…何度も出した。それで止まるなら不調とは言わない。 ガイナーへの再変身…それも無理だ。さっきから試し続けているが下半身の脚が生えたり減ったり奇妙な変形を繰り返すだけだ。正確に指令が全身に届くころにはもう発射されている。 今捕まえている男を手放して浮上…自分で発生させた水圧に阻まれ動けない。 変身解除して無理矢理止めるか?…どちらにせよ変身命令だ。発射までに間に合わない。仮に成功したとしても変身前で水底に衝突すればお陀仏。 首を振って別方向に撃つ…何の意味がある。ここは水中だ。 全ての可能性は潰えた。 (自滅か…いや、違うな。俺は俺自身に…戦闘兵器巴竜人に殺されるんだ。人間巴竜人はここで死ぬんだ!ならばせめてヒーローらしくこいつだけは道連れにしてやる!) そして、目の前が真っ白になった―――。 ◇ 「つまり…多重人格?」 「ええ、僕と青竜以外にもあと二人。白虎と玄武が僕の心の中にはいるんです」 「一応聞いてみるけど、君はこのゲームに乗るつもりかい?」 「まさか」 竜人の目の前にいるのは道神朱雀―――つい先ほどまで拳を交えていた男だった。 電撃が放たれようとしたまさにあの瞬間、突然目に映る景色は荒れ狂った水の中ではなく、焼けた木々の生えた泉の畔へと変わった。 訳が分からないまま竜人は体勢を崩し、電撃はあらぬ方角へと飛んでいった。 なんとか変身を解除し、人間の姿へ戻った竜人に声をかけてきたのは他ならぬ朱雀であった。 再びやる気かと身構えたが、どうも様子がおかしい。話を聞いてみれば彼の身体には三体の『神獣』が宿っており、竜人を襲ったのは『青竜』に人格を支配された時の彼だったというのだ。 突拍子もない話だったが、竜人は不思議と信じられる気がした。人を超えた改造人間がいる世界に生まれ、先ほどまさに自身を制御できなかった自分には近しい話だと。 「…本当に申し訳ない事をしました。以前から傲慢な奴だとは思ってたけど、まさか殺し合いに乗るなんて…」 「君が謝る事無いよ。悪いのはその青竜って奴なんだろ?それに俺だって危うく君まで殺しかけたんだ。謝るならこっちさ」 目の前の青年は嘘を言っているようにも、演技で自分を騙そうとしているようにも見えなかった。 というか、火を投げつけて来た時とは完全に別人なのだ。口をきくだけでもハッキリと分かるレベルで表情から話し方から違う。 その後、2人は互いの持つ情報を交換した。ここに来るまでの事。自身の能力について。知人の事を。 「知り合いはいるのか?」 参加者候補リストを手に竜人は言うが、 「いえ、いないみたいですね」 「そうか」 ばっさりと、斬られてしまった。 「あ!でもこの九十九光一って人なら知ってますよ!」 「どういう人なんだ?」 「いえ、名前だけ…」 「そ、そうか」 これまたあっさりと。 ◆ (…そうだ、俺は、危うく彼まで殺してしまうところだったんだな…) 朱雀の話によれば、電撃が放たれる一瞬前に彼は青竜から人格の主導権を奪い返し、白虎の力を使って渦の中から外へと自身と竜人を瞬間的に移動させたのだという。 だとすれば、自分の命も彼によって助けられたことになるのだな、と竜人は思った。 (体の制御を失って死にかけただけじゃなく、善人の道神君は殺しかけ、挙句その殺そうとした相手に助けられるか。…なんて無様なんだ) 元いた世界で彼は幾多の改造人間やヴィランを討ってきた。無論、彼らには彼らなりの人生があっただろう。 それでも彼らは人としての道理を外れていた。幾多の人々の人生を奪ってきた。それらを討つのならヒーローの役目だ。 だが、そのヒーローの力が無関係の者に振るわれ殺めてしまったら?その時自分は本当に戦闘兵器になってしまうのではないか。 今まで討ってきた者達と何ら変わりない存在になってしまうんじゃないか。 (『先生』が今の僕を見たら笑うかな、いや、今は…) 竜人は一人の女性の姿を思い出す。彼女がいなければ今の自分はまるで違っていただろう。 それこそあの青竜のように戦いだけに生きる戦闘兵器になっていたかもしれない。 だが、彼にとって恩人であり、師でもあるあの人は――――――裏切りのクレアは今や討たれるべき側に回った。 それを聞いたとき、ヒーローとして生きてきた今までの自分を否定されたような気になった。だから、そんな思いを拭い去るべく彼は悪を討ち続けてきた。 しかし今彼が立っているのは明確な善と悪との境が無い、狂った殺し合いの舞台なのだ。 果たして自分はヒーローのままいられるのだろうか?竜人の頭にはそんな考えがこびりついて離れないのだ。 「巴さん。お願いがあります。もし青竜が―――青竜だけじゃない、もし白虎や玄武が僕の身体を乗っ取って誰かを傷つけるようなことがあれば――――――その手で、僕を止めて下さい」 その言葉に竜人は首を縦に振ると、こう返した。 代わりに自分が暴走するようなことがあったら、君が止めてくれ。と。 【H-3/泉/1日目/深夜】 【巴竜人@アースH】 [状態]:健康 [服装]:グレーのジャケット [装備]:なし [道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1~3 [思考] 基本:殺し合いを破綻させ、主催者を倒す。 1:朱雀とともに付近を捜索する。 2:自身の身体の異変をなんとかしたい。 3:クレアに出会った場合には― [備考] ※首輪の制限により、長時間変身すると体が制御不能になります。 【道神朱雀@アースG】 [状態]:健康、朱雀の人格 [服装]:学生服 [装備]:なし [道具]:基本支給品、ランダム支給品1~3 [思考] 基本:殺し合いを止めさせる。 1:竜人とともに付近を捜索する。 2:他人格に警戒、特に青竜。 (青竜) 基本:自分以外を皆殺しにし、殺し合いに優勝する [備考] ※人格が入れ替わるタイミング、他能力については後続の書き手さんにお任せします。 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