早乙女エンマと
柊麗香を取りのがしたジル・ド・レェは、
彼女らを追いかけることはせず、反対側――もともと居た方向へと帰った。
いまはD-6の町の、一件の民家の前にいる。
少女を追いかけ、恐怖を与えたのち拷問することを至上の喜びとする彼女が、
どうして目の前の少女を諦めて反対方向へ進んだのか。
答えは簡単な話である。
ジル・ド・レェは柊麗香を追いかけるより前にすでに一人、拷問対象を捕まえていたのだ。
「まあ! 嬉しい。まだ気絶もしていないのね!」
「……ジル……ドレ……」
民家の扉を開けると、玄関先で彼女を迎えたのは、
可愛い少女めいた容姿のエルフの苦悶顔と、かすれた声だった。
おもわずジルは顔をほころばせる。
クリーム色の髪を振り乱し、蜂蜜色の目を憎悪に染めたそれは、ゆっくり呼吸をしながらジルの笑顔を睨む。
睨める程度にはまだまだ元気があるということだ。
これは楽しめそうだと、ジルは小さく舌なめずりをした。
「放置しちゃってごめんなさいね。ちょっと外の空気を吸いに行くだけだったのだけれど、
可愛い女の子を見つけてしまったから、追いかけっこをしていたの。
――ああ、あなたが可愛くないというわけではないわよ? すごくかわいいわ、あなた」
「……」
「いっぱい汗を流して……オンナノコみたいな、あまぁい匂いさせて。
苦しいのにまだ反抗できる隙をさがしてるその目。いい、いいわぁ。お姉さん欲情しちゃう」
いま、捕らわれた哀れなエルフは、
背中に回した両手首を頑丈な物干し用ロープで縛られ、天井から吊られている。
足は床に着くぎりぎりの高さ。
必然と身体をくの字に折れ曲がらせてつま先までぴんと伸ばした状態になる。
これだけでも非常に苦しい体勢――だがジルはここにさらにひとつスパイスを加えた。
エルフの足首を太めの尖った木の枝で貫き、それを床に刺しておいたのだ。
こうすると、エルフは身体バランスを取るために足を動かすたび、苦痛を上げる羽目になる。
事実上、何度も何度も傷口ををささくれだった木の棒で貫かれるようなもの。
足には痛みだけが残って、だんだんとつま先を立てるのも難しくなっていくが、
つま先に入れた力を緩めれば、今度は後ろ手の手首に全体重がかかり、肩までを痛みが貫く。
辛くても足に力を入れ続け、感覚を味わい続ける必要があるのだ。
痛みや苦しみに慣れるということを許さない、ジルの狡猾で残忍な拷問であった。
「器具がなかったから簡素なもので悪かったのだけれど、心地はどうかしら?」
ジルはエルフに気分を問う。
放置される前に大きな声で叫べないよう喉を破壊されたエルフはざらついた声で返す。
「さい……あく……だよ。
こんな簡単に、捕まっちゃってさ……。
ライリー、さまに、申し訳がたたないよ」
「そういうことを聞いてるんじゃないんだけれど?」
ぐり。
「あ、う゛えうぅ……ッ!!」
ジルがエルフの足を躊躇なく踏みつける。
じゅぐ、と腐った果実が汁をにじませるようにして足首の傷口から赤血が漏れる。
足首の痛みは、脳へ届くまでに身体を貫くように通り抜けていく。
痛みを全身に染み込ませるような感覚を味あわせられるので、ジルはこれが大好きだった。
「そういうことを聞いているんじゃないのよ」
「……は、ぁう」
「痛いかな、苦しいかな、辛いかなって聞いてるの。言わなきゃ分からない?」
「そ、そう……ざ、残念だったね。
あいにくボクはね、ずっと虐げられてきた、んだよ。この程度じゃ、辛いとは、ふふ、感じないな」
「まあ!」
エルフは挑発的な眼でジルに反抗の意思を訴える。
するとジルは、嬉しそうに弾んだ声を出すと手を叩いた。
「やっぱりね。あなた、“蜜色の眼の
アリシア”でしょう」
「……」
「人間に虐げられたエルフの中でさえ虐げられた、はぐれもののエルフ。
クリーム色の長髪に蜂蜜色の眼。小柄ながら魔力は高く、回復魔法や防御魔法が得意。
少女みたいな可憐な容姿で、魔勇者パーティーを名乗る暴徒集団の花の一つに見えるけど――」
ジルは足を踏んでいた足を上げ、大股開きになっているエルフの股間に膝を近づけていく。
膝にはすでにビリ、ビリと電気がまとわりついていて、
「性別は、男♪」
刺すような痛みを伴う鋸糸状の雷による容赦ない攻撃が、
可憐なエルフの少年の陰部へと加えられた。
「あ゛――――あぁあああああああッ!!」
「どうしてそんな細かい情報まで知ってるかって?
一応、領地内で起きた事件の首謀者グループについて調べさせるくらいはしてたのよ、私。
……本音を言うと、目に付く可愛い子の情報を片っ端から集めてただけとも言うけどね」
「あ゛、があぁああああああ、あゃあああッ!!」
「別に私、領地の民に愛情とかなかったからあなたたちがやってることはどうでもよかったけど、
首領のライリーって子とあなたは可愛いからいつか捕まえて楽しみたいと思ってたのよ。
なかなか捕まらなかったから残念だったし、
先に私のほうが処刑されちゃって本当に残念だったんだけど、
どういうわけか私は生き返っちゃった上に、狙ってた子とこうして遊べているのよね。
生前の行いがよかったのかしら?」
心にもないことを言いながらも、陰部の小さなふくらみに当てた膝をぐりぐりと押し込むようにする。
膝の雷撃は今だ継続されており、
アリシアは自分のそれが断続的に5mm直径の針串で貫かれるのと同等の激痛を感じ続けている。
「やめ、やめへっ、あ゛があああああああ!!」
「うふふ、どんな気分? 延々と×××をハンマーで叩かれ続けている感じじゃない?
さすがにこんな拷問をされたことはないんじゃないかしら。新感覚でしょう?」
「あ゛あああああああ!!」
「ねえ、泣いて?」
電気の威力を一瞬“弱”にしてジルは微笑みかけた。
「惨めに無様に涙を流して、やめてって私に懇願してごらんなさい。
そしたら一旦許してあげる。ふふふ、そうねえ、縄を外してあげてもいいわ」
「あ……あ゛あああ」
「ほら早く」
「……」
「泣いて」
「……」
「泣きなさい」
「……」
「ねえ早く」
「……」
「泣け」
「――泣かない」
エルフは楽しそうに攻めるジルに対して、唾を吐いた。
「泣かないよ。ボクは、もう弱虫のアリシアじゃない」
「……」
「ボクは、勇者だ。勇者が泣いていいのは……仲間を、守るものを失ったときだけだ」
「……あら、そう」
するとジル・ド・レェは、一気に不機嫌そうな顔になると、
アリシアの側面へ周り、雷撃の手刀で天井から伸びるロープを勢いよく焼き切った。
後ろ手に縛られたまま支えを失ったアリシアは前へと倒れ込む。
手を付かなければ――だが先に記述した通り手は縛られたままなので、
当然顔から床へ突っ込むことになる。
耳にしただけで嫌な気分になるごすっ、という音と、エルフの濁った悲鳴がハーモニーを奏でた。
ジルはお尻を突きだすような形で倒れ込んだエルフの顔を見ることもせず、
手のひらに強電気を蓄えさせながら冷酷に宣言した。
「勇者だから泣かないだなんて。そういう生意気を言ってるようじゃ、まだまだ勇者失格よ」
ワンピース風の服をめくりあげ、アリシアのつるつるした生尻が露出された。
そこへジルは雷掌打を叩き付けるつもりなのだ。
何度も何度も叩き付けるつもりなのだ。
泣くまで叩き付ける。
「おしおき。――今からあなたの魂に、敗北を刻んであげる」
――ばちん。
なんて、可愛い音じゃ済まされない、肉をえぐるような一撃が。
くりかえし、くりかえし。
叩き付けられる。
♪♪♪♪♪♪♪
あら、いい歌声ね。いいわ、もっと鳴きなさい。
♪♪♪♪♪♪♪
そう。その調子。どんどん行くわよ、鳴いて哭いて泣き叫んでね。
♪♪♪♪♪♪♪
かわいい。
♪♪♪♪♪♪♪
本当にかわいい。
♪♪♪♪♪♪♪
弱くて幼くて――なんにも分かってないからこうなるって、分かるかな。
分からないかな? いえ、エルフは寿命が長いから、これでも150年は生きてるんだっけ?
それでも全然、わかってないのね。勇者を名乗るなんて、本当に。
♪♪♪♪♪♪♪
分かってない。
♪♪♪♪♪♪♪
勇者って言うのはね、名乗るものじゃないのよ。
他人にできないことを、自分のために好き勝手やってるやつを、周りが勝手にそう呼んでるだけなの。
♪♪♪♪♪♪♪
私とか、泣き叫ぶ子供(魔族なら合法)が見たいってだけの理由で聖十字協会に加わってたんだけど、
周りに聖女だなんて祭り上げられちゃったときは本当に面白かったわ。
実際戦ってる姿なんて、血と泥にまみれてとても聖なるモノなんかじゃじゃないのにね。
ジャンヌだってそうだったのよ? あの子の行動理由は、百パーセント憎悪からだもの。
♪♪♪♪
ほら、元気なくなってきてるじゃない。もっと頑張れ♪
♪♪♪♪♪♪♪
ジャンヌはね、すっごかったわ。魔族への恨みと神への盲信だけで生きてるような人だった。
女っ気も笑顔も情もぜんぶ捨てて、敵を殺したり痛めつけることしか考えてないの。
私がプチデビルの女の子を拷問して楽しんでた時ね、
ジャンヌは私も思いつかないような悲惨なやり方を顔色一つ変えずに提案してくれてね。
その時の凍った炎みたいな瞳が私、忘れられないのよね。
はじめてだったわ、子供以外のひとをすきになったのは。
♪♪♪♪♪♪♪
世間じゃ、私はジャンヌが死んでから気が狂ったとか思われてたみたいだけど……。
はじめっから私はこういう人間で、
だからこそ唯一ジャンヌに付いていけてたってのが正解なのよね。
オルレアンの時なんか、普通に正義気取ってる奴がいたら吐いてたんじゃないかしら?
私はとっても楽しかったけどね。
血と臓物にまみれながらジャンヌが天を仰いで神様に感謝を述べる姿も、すっごい美しかったし。
♪♪♪♪♪♪♪
そうなのよね。あれだけのことをしながら、ジャンヌ、自分が正しいって信じて疑ってなかったのよ。
私もすごく勇気づけられたわ。やりたいことやっても別にいいんだって。
それで正しいんだって――ふふ、仲間を勇気づけられるんだから、彼女は正しく勇者よね。
結局異端認定されて殺されちゃったけど、最期まできっと、自分は正しかったって思い続けたんじゃないかなあ。
神様に殺されたわけでもないし。彼女をやったのは、あくまでも人間だもの。
♪ ♪♪
あ、もう限界?
♪♪
そう。根性が足りないわね。
♪
結局ね。あなたもその程度のことだったのよ。
勇者になったつもりで、正義を気取ったつもりでも――仲間がいなけりゃ弱いんじゃ二流。
仲間が全員殺されようと、守るべきものなんて何もなくなっても、それでも敵を斬って前に進めるのが本物よ。
優しければ優しいほど務まらない職業よ。
えい。
(ひめいは 止まった)
反応鈍いなあ。
ねえ、アリシアちゃん――あなたのご主人さまは、どうかな?
私が崇拝するジャンヌと同じくらい、苛烈で、まっすぐで、後ろを振り返らない子?
例え何を犠牲にしてでも、目的を遂げようとできる“勇者”?
(アリシア は ちいさく くびをふった)
――そう。なら、その子も、勇者失格ね。
(アリシア は うごかなく なった)
もちろん、“死”に逃げたあなたも、できそこないの落第点よ。
【アリシア@アースF 死亡確認】
「そういえば、アリシアちゃん、同じチームだったのね。
ま、どうでもいっか。殺し合いとか興味ないわ。お姉さんはやりたいことをやるだけ」
数分後、民家の中には、
見るも無残な状態になっているアリシアの死体と持ち物を検分しているジル・ド・レェの姿があった。
たいしたものは持っていなかった。
武器などもあるにはあったが、
ジルは魔法がメインだから最悪武器は物干しざおでも構わず、有用性は低い。
強いて言うならどこを開けるのに使うかもわからない銀色の鍵には少し興味をそそられたけれど、
それよりも気になったのは見ていなかった“参加者候補名簿”だ。
自分も何故か生き返って参加していることだし、
もしかしたら愛しのジャンヌも生き返って、また魔族狩りに精を出してるのかもしれない。
「もし参加してるなら、また一緒に楽しく戦って……拷問したいわあ。あら?」
とてもそんなことを考えている風には見えないのんきな顔で狂気めいた発言をしながら。
ずっと床に叩き付けられていたままのアリシアの顔を引き上げてみたジルは、
奇妙な違和感を覚えた。
「あら、あら?」
違和感の正体はすぐに分かった。
アリシアは、泣いていなかったのだ。
お尻がお尻じゃなくなるくらいの激しい拷問を受けながらも――死の瞬間まで。
涙を流して許しを請うことを、結局アリシアは行わなかった。
最期の最期まで、エルフの少年は勇者であり続けようとしたのだった。
「……んー。ちょっとだけ、前言撤回かしらね。
あなたはジャンヌほどではないけれど……ほんの少しだけ、勇者だったわ」
この小さくてか弱い子にここまで決意させるライリーって子は、もう少し凄いのかなあ、と。
そう思わされてしまうジル・ド・レェであった。
【D-6/町/1日目/黎明】
【ジル・ド・レェ@アースF(ファンタジー)】
[状態]:健康
[服装]:ファンタジーっぽい服装
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品0~2(武器アリ),宝箱の鍵@アースF
[思考]
基本:子供で遊ぶ。チーム戦?なにそれ
1:ジャンヌがいたら会いたい
2:さっきの子(エンマ、麗香)たちまだいるかしら近くに
3:“魔勇者”ライリーに興味アリ
【宝箱の鍵@アースF】
宝箱の鍵。
【物干しロープ@アースR】
物干し竿のロープ版。ジル・ド・レェの支給品。
焼き切って使い物にならない短さになったのでもう捨てた。
最終更新:2015年07月01日 20:39