「銃を使う気は、なさそうですね」
光一の一挙一動を観察していた真白は、彼が殺し合いの場に向かない人物であることを瞬時に悟った。
軍人空手の型を取りながら、「君を無力化する」と言いのけた光一。それは殺意がないという何よりの証拠だ。
対して自分は生き残る為ならば容赦なく目の前の男を斬り伏せる覚悟がある。これは圧倒的なアドバンテージだと言っても差し支えないだろう。
一つ懸念があるとするならば、先程見せ付けられた不思議な力だ。クレアが連れ去った少女といい、超常的な能力を有する参加者が多いということになる。
しかし真白自体はアースEZの世界でこれまで生き延びてきた実力者とはいえ、ただの無能力者。まともにやり合うにはあまりにも分が悪い。
(ゾンビ能力以外にも何か隠している可能性も考慮するべきでしょうか……?)
再び真白ソードを大振り。
またしても光一はなんとか躱した。とはいえそれが精一杯なのか、それとも本当に無力化しようとしているのか、反撃はしてこない。
本来ならば実力行使で無力化するのが当然であるが、相手は幼い少女。それが原因で光一もイマイチ攻勢に出ることを躊躇して、防戦一方になっている。
2回の攻撃で光一のそういう心情を読み取った真白は、彼のことを甘いと思った。同時に、格好の獲物だとも。
ある程度の実力者なら避けられる前提の動作―――大振りの一筋を光一は見事に躱してのけた。しかしただそれだけ。
どれほどの実力があろうと、その心に他人を殺す覚悟が、殺意がなければ殺し合いでは何の意味もなさない。実力者が自分より弱く、されど殺意が充満している者に呆気なく殺されるなんて、よくあることだ。
「俺の目的は、君を殺すことじゃないからね」
「……甘いですね。ゾンビだからって慢心しているのでしょうか」
再度真白ソードの大振り。
いい加減慣れてきたのか、光一の動作が先までよりもスムーズになっている。
「無理しなくてい―――ぐはっ!?」
光一が言葉を言い終えるより先に、鳩尾に鋭い蹴りが放たれた。
真白はソードがなければ本領発揮出来ないが、だからといって真白ソードに完全依存した戦法は行わない。
時にはこうして肉体を使った攻撃も織り交ぜるし、泥臭い戦い方にも嫌悪感は一切ない。全ては、生き延びるために。
あまりもの激痛に体勢を崩した光一の上空へ華奢な身体が舞ったかと思えば、直後に彼の頭を鷲掴みにして地面へ叩きつける。
それと同時に真白ソードを振り下ろせば、それは寸分の狂いもなく彼の心臓を射止める―――予定ではあるが、あえてそこは外す。左肩を刺し、引き抜く。華麗に地面へ着地。
(ここですぐに殺しても良かったのですが……やっぱりクレアさんのことが懸念ですね)
今回ダシにされただけなら、それでも良い。
だが相手は
裏切りのクレア。警戒しておくに越したことはないし、何より自分が「クレアは裏切ったのではないか?」と疑問を感じた。そして真白の直感は割とよく当たる。
この幼い身で、裏切りや騙し討ちが当然の世界を生きてきたのだ。そういう本能には人一倍優れているという自負はある。
(今の私ではあの人に勝てません。きっとひとたまりもなく、殺されてしまうことでしょう)
彼我の戦力差は理解している。だからこそ今は頭を絞り、対抗策を練らなければならない。
予想以上に早い裏切りではあると思うが、それでも想定していなかったわけではない。いずれ裏切られるのは確実だとすら考えていた。
「そこで相談……いえ、交渉です。私と組みませんか?」
「こ、これだけの仕打ちをしてどういうことかな……」
「説明を求めるのはもっともですね。ただ私としてはあなたに殺し合いを実感してほしかったです」
「殺し合いを……?」
真白の言葉に驚愕を隠せない光一だが、彼女の瞳を見る限りそれが嘘だとも思えない。
「ここであなたを殺してすぐに逃げ出すことも考えました。ですが、万が一クレアさんと対峙する場面があった時、きっと私単独で対処することは出来ないじゃないですか。
残念なことに私にはあなたのような特別な力はありません。そしてクレアさんに勝てないことは、本能で察していました」
「なるほど。でも俺は殺し合いには賛同できない」
「それでも構いませんよ。ただし私を襲ってきた相手は容赦なく殺してくださいね、それが条件です」
「……呑めないな。さっきも言った通り、俺は君を無力化するつもりだった」
そこまで聞いても。真白の無表情は変わらない。普通何らかのリアクションをするべきなのだろうが、想定内の返答すぎて特にリアクションを取る必要性が感じられない。
「でもそうしなければ、私は殺されますよ。見た感じあなたは稀にいる正義感の強い方のようですが、それでもいいのでしょうか?幼い命が戦場で散らされることを、良しとするのでしょうか?」
「それは……っ!」
言葉に詰まる。
何か反論してやりたいところでもあるが、真白の言っていることは、この殺し合いにおいてはあまりにも筋が通っていた。
自分達を襲ってきた者を殺さなければ、逆に自分達が犠牲になる。当たり前の理論だ。
(光一よ、この少女の言う通りだ。怪獣から一人でも多くの人々を守るために、私達は生き延びなければならない)
(でも……っ!)
(その葛藤は私にも理解出来る。だがこうしている間にも、私達の世界は怪獣の危機に脅かされていることを忘れないことだ)
「……わかった。でも優勝狙いだけはさせないよ。それだけは認めるわけにはいかない」
「優勝狙いが一番合理的な脱出方法ですが……わかりました。あなたが生きている限り、優勝は狙いません」
真白としては、要は生きて脱出することが出来れば良いだけのことだ。
それにこの男はきっと長生きできない。殺し合いの場ではあまりにも脆すぎるタイプだ。……とはいえゾンビ能力がある以上、そうとも言い切れないかもしれないが。どちらにせよ、ラストまで生き残ったとしてもこの性格ならば自らの手で殺すのは容易いだろう。クレアと一騎打ちするよりはだいぶ気が楽である。
最終的に優勝して脱出するという方針は変えないが、今はひとまずこの男と同行してクレアから逃げるのが最も安全な策だと真白は踏んだ。
しかしこれだけではやはり心許ない。出来ればもっと戦力を増やしたい。そうしなければ、きっとクレアには勝てないし、生き残るのも困難だろうから。
ただし足手まといになるようならば容赦なく見捨てる。自分までこの光一のような正義に染まるつもりは、毛頭ない。
「私の名前は真白です。あなたはなんて呼べば良いのでしょうか」
「東光一。光一でいいよ」
よろしく――とは言いづらかった。
何故なら先程まで自分を殺しに掛かってきた相手だ。流石の光一もそう簡単に心を許せない。
しかし少女がこんな性格になってしまったのも、何らかの原因があるはずだ。性格を正す為にも、同行するのは悪くないかもしれない。
「わかりました。では今すぐここから逃げましょう、光一さん。きっともうすぐ、クレアさんが戻ってくるはずです」
「和花は……」
「多分もう殺されているか、最悪―――『裏切り』の犠牲になっています」
「裏切りの犠牲?どういうこ――――うぉ!?」
光一が疑問を口にし終える前に、そんなことを無視して真白は彼の裾を掴みながら強引に連れ去った。
裏切りの犠牲とは、ただの勘のようなものだが……裏切りのクレアなんて名乗る相手が、そう簡単に殺して終わり、とも考えづらい。
恐らく何らかの手を仕込んでいる。それが何かはわからないが、拷問とかならば良いが……例えば自分の支配下にならないか、だとか。アースEZにもその手の輩はよくいた。
だから今は潔く逃げる。同盟を破棄して、一目散に逃げる。あの魔法少女と組まれたら、自分達ではとてもではないが太刀打ちできないのだから。
【C-2/公園/1日目/早朝】
【真白@アースEZ】
[状態]:健康
[服装]:私服、汚れているが、それがそこはかとなくえろい
[装備]:真白ソード
[道具]:基本支給品一式、ランダムアイテム1~3
[思考]
基本:最終的には優勝する
1:クレアが戻ってくる前に逃げる
2:ひとまずは光一と組み、彼が死ぬまで優勝狙いはやめる。出来れば他にも戦力がほしい
3:ただし最終的にはやっぱり優勝狙い。もし他の脱出法が見つかれば……?
4:光一が足手まといになるようならば切り捨てる
5:クレアさんとは会いたくないですね……
※真白ソードによって戦闘力が上がっています。ソードには他にも効果があるかも
【東 光一@アースM】
[状態]:ダメージ(中)、左肩に刺し傷
[服装]:MHC隊員服
[装備]:十四年式拳銃(残り残弾数35/35)@アースA
[道具]:基本支給品一式、超刃セイバーZDVD一巻@アースR、
ディメンションセイバー予備エネルギータンク2個@アースセントラル
[思考]
基本:巻き込まれた参加者を助ける
1:和花ちゃんが心配。
2:真白と組む。出来れば更生してやりたい
3:何で十四年式拳銃なんか・・・?
[備考]
※コスモギャラクシアンへの変身に必要なコスモスティックを没収されています。
他の参加者に支給されているかもしれないし、会場内のどこかにあるかもしれません。
※十四年式拳銃のような古い銃が支給されていることに疑問を感じています。
最終更新:2019年12月16日 21:37