偶然、平時は行動を共にしているラフェリアと離れ、散歩そしている日のこと。
前から同じように一人で歩いてくる少女がいた。
初めてみる顔だなあと少女を見ていると、少女と目が合う。
そのすぐあと、自分の身長ほどの大きさの火の玉がこちらに向かって飛んでくる。
「うわっ!?」
これはどこから来たのか、少女が放ったのか、そんなことを考える間もなく、左に跳んで間一髪で火の玉を避ける。
「あら、あれを避けるなんて、なかなかやるじゃない」
おそらく少女のものと思われる声が聞こえる。
「いきなり――」
何をするの、と言おうとしたとき、また火球が飛んできた。
再びそれを避け、少女に尋ねる。
「何が目的ですか?」
「空腹なのよ!それに、目が合ったらバトルをする、それが筋ってものでしょう?」
空腹だと人を襲うなんて、人を食べるのか?とか、通りすがりを食料として襲うとは、理由が理不尽すぎる、とか、言いたいことはたくさんあるけれど、何より――
「目が合ったらバトルするって、ポ○モントレーナーか!」
レイラの叫び声が、周囲に虚しく響いた。
目が合っただけで殺されちゃかなわない。
あのゲームじゃ戦闘不能、ひん死状態になったって簡単に回復できるけど、現実じゃすぐに回復なんかしないし、死に繋がる。
今までいくつもの死線を切り抜けてきたけれど、こういう風に喧嘩を売られるのは未だに慣れない。
向こうがどんな人かわからない以上、本気は出せないし、かといって向こうは本気で殺しに来てるから、そんな心づもりじゃやられてしまう。
大抵は逃げたり隠れたりして振り切ってしまうのだが――
「いつまで逃げてるのよ」
空腹感が増してきたのか、先ほどよりイラついた口調で、近くの建物をかたっぱしから破壊していっている。
自分が隠れているビルまではすぐだろう。
まいったなあ。
今までもストーカーの如く粘着されたこともあったし、仕方なく戦ったこともあるけれど、あっちは魔法を使う。
自分の得物と魔法との相性は最悪。
肉弾戦でいけるかもわからない。
困った。
困ってはいるが、焦ってはいない。今までの戦闘と比べても結構落ち着いている方だと思う。
『心の持ちようで勝負は大きく変わる。まず心を鍛えなさい』
師の言葉を思い出す。そう、心。精神の状態で勝敗が変わることだってあるのだ。
自分のいる物陰から少女を見る。
彼女はおそらく、短気なほうだろうと思う。
だとすると、挑発に乗る可能性が高い。
挑発すると、怒りで攻撃の手が強まるが、隙が出来る可能性がある。一か八かだ。
思い切って物陰から出て、少女の視界に入るように立つ。
そして、魔法が繰り出される前に口を開く。
「魔法使わないと勝てないの?」
「……なんですって?」
冷静を装う少女の声にかすかに怒気が混じる。これはいけるかもしれない。
「だから、剣一振りしか持ってない小娘相手に、さっきの火球みたいな大仰な魔法使わないと勝てないの?って聞いてるの」
「……」
「あれ?無言?もしかして図星なの?強そうだったから隠れてたけど、魔法に頼って強く見せてただけなんだ」
こういうのは苦手だけど、出来るだけ馬鹿にするような口調で畳みかけて頑張ってみた。
「……上等よ!あんたみたいな生意気な女、魔法なんか使うまでもない!直接私の手で引き裂いてミンチにしてあげるわ!」
すると案の定、怒りに満ちた表情でこちらを睨み、怒声を発する。
見事に挑発は成功した。あとは戦うだけだ。
剣を抜き、構える。いつもの戦闘態勢をとると、さらに落ち着く気がする。
もう腹は決めた。全力でいこう。
作者:銀