【フェンリルVS怜】
フェン「ぶっ潰す」
レン「やってみれば」
廃ビルの一角で、二人は睨み合っていた。
いつかお預けになったバトルが、互いに保護者不在のため、今にも勃発しそうになのだ。
レン「お先にどうぞ?」
フェン「なら遠慮なく」
怜の挑発により、先に動いたのはフェンリル。拳を握り締めると、地を蹴って怜に殴りかかった。
レン「攻撃が単純」
怜は身をひねり、フェンリルの拳を躱す。しかしフェンリルは、拳を突き出す瞬間に腕に炎を纏い、拳は外したが炎がうねって怜のアーマーを焦した。
レン「!」
怜は大事をとって、フェンリルから数歩、距離を取る。
フェン「お前こそ、単純」
フェンリルは小馬鹿にしたように、鼻で笑う。
レン「カッチーン、あんたは三枚おろし決定」
怜は背から短刀を二振り抜くと、器用にくるくると回しながら首をコキコキ鳴らした。
フェン「「カッチーン」とか自分で言う辺り、古いぞ」
レン「うっさい」
怜は回していた短刀をパシッと掴み、今度は自分から仕掛ける。短刀を左は逆手に持ち、右は包丁を握るように持つと、フェンリルに一気に近付く。
怜は先に右手を袈裟懸けに振りおろし、左手の短刀は続けざまに切りつけようと肘を引いて構える。
フェンリルは袈裟懸けの攻撃は身を低くし避けるが、続けざまの攻撃を避けられる体勢では無さそうだ。
レン(チャンス…)
怜はそう思って、左手に持った短刀でフェンリルを殴るように、振り抜こうとした。だがその一瞬、フェンリルのニヤリと笑った顔が、怜の目に映る。
それと同時に、自分達の上に不可解な影がかかったのに怜は気がついた。
怜の左手の刀がフェンリルの肩口を切り裂こうとした瞬間、真上から左腕に「ガンッ!」と強い衝撃が走った。
真下に思いきり引っ張られるような衝撃に左肩が軋み、怜は顔をしかめる。
怜の左手の刀には狼の形をした炎が食らい付いていて、真上から落下するように噛みつかれた刀は、そのまま炎狼に奪い取られてしまった。
レン「チッ…!」
怜は右手に持った刀で炎狼の胴を真っ二つにしようとするが、刀は炎をすり抜け、全く手応えがない。
レン「なっ!?」
そうして虚しく右手を振り抜くと、怜の右脇腹は殴ってくださいと言わんばかりに、ガラ空きになっていた。
フェンリルは低く構えた状態で左拳を握り締め、それを怜のガラ空きの脇腹に叩き込む。
そして「ミシッ」という嫌な音がして、怜の喉から声にならない声が漏れた。
クリーンヒットだ、かなり重い。
続けてフェンリルは素早く右足を引き、体勢を崩した怜に蹴りを放つ。今度は拳を当てたのと反対側の脇腹を狙うつもりだ。
しかし、怜の脇腹を蹴り抜くつもりだったフェンリルの足は、怜の左掌で受け止められてしまった。怜はその蹴りの勢いを利用し、横に跳び退きフェンリルから距離を取る。
フェン「…ほう」
フェンリルは追撃をしない。見ると肩口が切られ、血が垂れていた。怜は今の飛び退く一瞬で、フェンリルに一太刀浴びせていたのだ。
レン(超痛いし、骨イッたかも…)
怜は敵にダメージを悟られないよう、脇腹を押さえたい気持ちを堪え、なるべく平気な顔をしてみせる。
フェン「…やるな」
レン「それはどーも」
フェンリルも平静を装ってはいるが、斬られた傷は以外と深い。腕を伝った血が、指先からポタポタと垂れる。
フェン「だが、お前の片牙は奪った。これからどう戦う?」
レン「教えると思ってんの?馬鹿じゃね?」
フェン「ふん、それもそうだな」
フェンリルの傍にいる炎狼の口には、怜の短刀がしっかりとくわえられている。それを見て怜は舌打ちをした。
レン(実際、一本でアイツに挑むのは難しいわね。火を纏った攻撃に加え、あの犬。あっちの攻撃は効くのに、こっちの攻撃はすり抜けるってどういうことだってばよ、マダラかっ!)
(てか、あれ?アイツさっきの蹴りといい拳といい、どうして火を纏ってないわけ?)
怜は少し気になり、フェンリルを眺める。
レン(…少し、試してみるか)
怜は右手に持った短刀をクルッと回し、逆手に持つ。
レン「あんたのその犬。躾が悪いわよ」
フェン「悪いな。俺にとっちゃあ忠犬なんだ」
レン「そ、じゃあチビ犬と一緒に、デカイ犬の方も躾けてあげるわ」
フェン「俺は犬じゃねぇ」
フェンリルはイラッとした表情をし、不機嫌全開の声で言う。
レン「来なさいよ、わんちゃん」
怜はパチパチと手を叩きながら、フェンリルを挑発する。フェンリルは無言だが、明らかにキレているのが分かった。
レン(さあ、どうでるか…)
挑発されたフェンリルは、今出している炎狼の他に、新たに三頭炎狼を作り出した。そして短刀を咥えた炎狼だけを残すと、新たに作り出した三頭を怜に向かわせる。
レン(きた…!)
狼達は動きを読ませないよう、ジグザグに走ってくる。怜は短刀を構え、狼達の動きを目で追いながら冷静に考えた。
レン「ククッ…これは」
怜は不敵に笑うと、炎狼達に背を向け一気に走り出した。
フェン「なっ!?何逃げてんだお前!」
怜の突然の逃亡に驚くフェンリル。
レン「逃げてねーし!」
怜はそう言いながら瓦礫の間を縫い、崩れかけたビルの壁に向かって走る。
レン(一度に三匹も相手にできるかってーの!)
飛び掛かろうとする炎狼がすぐ後ろに迫ったところで、怜はビルの壁に向かって飛び上がり、壁を蹴って更に高く跳ぶ。それから空中で身を捻り、追ってきた炎狼達を飛び越えると、空いた地面に着地した。
炎狼達は勢いよく走っていたためそのまま壁に激突し、形が崩れてただの炎となり瓦礫を焼いている。
怜にとっては今がチャンスだ。
が、しかし。
レン「いっっっ…!!!」
体を捻った時はなんとか我慢したが、着地した衝撃で、フェンリルに殴られた脇腹に激痛が走る。怜は直ぐには動けない。
レン(心頭滅却…!)
怜は歯を食い縛り、ちょっと涙を溢しながら無理矢理立ち上がる。そしてグローブで涙を拭うと、フェンリルの元へ走り出した。
作者:R