ある日の一コマ1

 ―――延暦寺邸にて。

 「よーしお前らァ、集まれー」

 古びたソファにだらりと四肢を投げ出し寛いでいたハギは、突然手元のベルを鳴らしながらそう言った。
 大方何かをするつもりで住人を集めようとしているのだろうが、残念ながらそんな声量ではこの屋敷の中の住人には届かない……筈、なのだが。

 「なになになになになに!? ゲーム!? ゲームするの!?」

 ドアを蹴破る勢いでリビングに飛び込んで来た少女―――木原いちごは、目を輝かせてハギに飛び付く。
 ハギはそんな彼女の行動に驚くこともなく抱き止め、よしよしと頭を撫でた。
 甘えるようにいちごが目を細めるのと同時に、開けっ放しのドアから獣の耳が覗く。しかし遠慮しているのか何なのか、中々その人物はリビングへ入ろうとはしない。

 「どうした? 入れよおがみ」

 「……えっと…」

 顔を出したり引っ込めたりしている人物―――最上おがみの行動に、ハギは首を傾げた。
 そして直ぐに何か思い付いたように笑みを浮かべ、ゆっくりと上体を起こす。

 「お前、まだ恥ずかしがってんのかァ?
  緊張とかする必要ねェから早く入って来い。あんまりグダグダしてっとアイツが、」

 「―――邪魔。退け、犬っころ」

 ドアの向こうから聞こえた低い声に、ハギは「あちゃー…」と頭を掻いた。この声は恐らく、というか確実に“ろっとちゃん”のものだ。

 「…あ…ごめんなさい、ろっとちゃんさん」

 怖ず怖ずと入って来たおがみ……とその後ろから入って来る金髪の女―――ろっとちゃん。ドアの向こうでおがみに噛み付くような言い方をしていたのは、彼女だ。

 「ん、全員揃っ…」

 「ヤッホーハギちゃん、遊びに来たよー!」

 全員揃ったな、と言おうとしたハギの言葉を遮り窓から顔を出したのは、入院服姿で楽しそうに笑っている谷笑子。
 彼女はここの住人ではないが、時々こうして遊びに来ている。

 

作者:在原

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最終更新:2014年05月20日 02:30